うんこめも

自律分散うんこ製造システムについてのメモ

ヒューマニズムの限界と「アーロン収容所」

アーロン収容所 (中公文庫)

アーロン収容所 (中公文庫)

太平洋戦争後の、厳しい環境で強制労働があって30万人以上の日本人が死んだとされるシベリア抑留を知っている人は多いと思う。 けれど、戦後、ビルマ(現ミャンマー)にてイギリス軍に抑留されて強制労働させられていたことを、自分は恥ずかしながらあまり知らなかった。 それが日本で広く知られるようになり、戦後、さまざまな日本人論がうまれるきっかけとなったという、会田雄次氏によるアーロン収容所のことはどこかで読んで気になっていたのを、ようやく手にすることができた。

27歳で日本軍に徴用された歴史学者であった会田氏はビルマ終戦を迎え、イギリス軍の捕虜として2年間強制労働させられていた。 終戦までを描いた部分では、マラリアの蔓延するジャングルで乏しい補給のもと何か月も行軍する、戦友があっけなく死んでいくさまなど紋切型な表現だけれど戦争の悲惨さが伝わってくる。

どれも悲惨で、その大きな原因である、日本軍上層部の、官僚主義、前例主義、メンツ重視の希望的観測と精神論と補給の軽視が、この現場の記述から透けてみえる。 このあたりについては、「失敗の本質」に簡潔にまとめられていて、現代社会でも通用する知見を整理しているのでみなさまぜひ読んでください。

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

失敗の本質―日本軍の組織論的研究 (中公文庫)

本書は、ようやく命からがら終戦を迎えた後、あまり知られていなかったイギリス軍の収容所の残酷さに焦点を当てている。 そして、この収容所というきわめて異常な状況を通してイギリス人やインド人、ビルマ人、そして日本人の価値観の違いをえぐりとっている。

イギリス人の、合理主義的であり、かつ黄色人種を平然と家畜と同様に扱って差別するさまはけっこう衝撃。 し尿拾いなどの屈辱的な仕事をさせたり、食料をほぼ与えなかったり、収容所をあえて虫や悪臭のひどいゴミ集積所のそばにつくるなど、拷問や虐殺とはまた違うやりかた。 ヒューマニズムというものが蜃気楼のようなものでしかないと感じる。

本書では、そういった抑圧の残酷さだけでなく、収容所での苦しい生活の中で、捕虜たちが、イギリス軍から泥棒したり文化をつくりだすさまも見えて興味深い。 飛行機のジュラルミンの部品をとって精妙な仕掛けのあるシガレットケースをつくって、インド人士官に売ったり、竹からマージャン牌をつくったり、イギリス軍兵舎の天幕を盗んでそれを緞帳に仕立てて演劇をしたりなどの話や、インドタバコが貨幣として流通していたというはなしもたくさんあって、そのしたたかさに笑えてしまう。そのなかで、戦場での、階級とは違う組織の上下関係と、捕虜生活での上下関係がかわってくるさまもおもしろい。

著者は、これを一般的に拡大するのはあぶない点があるとしながらもこう書いている。

人間には種々の型があり、万能の型というものはない。異なった歴史的条件が異なった才能を要求し、その方の人物で、傑出し、しかも運命に恵まれた人物だけが活躍した。古代の偉大な政治家も、現在では村会議員にもなれないかもしれない。現在のやくざの親分はあるいは戦国大名になれたかもしれない。芸術家や学者でもそうであろう。

これは、初代内閣安全保障室長の佐々淳行の平時のリーダーと、危機時のリーダーに求められる資質は違うというものを連想した。 たぶんこの本に書いてあった。危機管理の本はおもしろいのでぜひ読みましょう*1

完本 危機管理のノウハウ

完本 危機管理のノウハウ

ビルマでの日本軍収容所について詳しくは本書を読んでほしいけれどまずはWikipediaをさらっと見てほしい(ちょっと順番が変な気はする)

ビルマでの降伏日本軍人の抑留 - Wikipedia

過酷さを比べるのは不適切だけれど、希望がない中で毎日人が死んでいくナチス強制収容所で、どういう人が生き残るかというのは、V.E.フランクルの夜と霧がめちゃめちゃ刺さる。本文はそんなに長くないし(文体は)読みやすいので多くの人に読んでほしい、けれど、本文のすばらしさと比べて付録の解説が一面的で感情的で最悪だった気がするのでご注意ください。

夜と霧 新版

夜と霧 新版

ミャンマースー・チーさんくらいのイメージないかもだけれど、急速に経済発展しながらも少数民族問題を抱えていてたいへん。 いろんなミャンマーの山岳地方での少数民族の暮らし向きや雰囲気については、高野秀行さんの「アヘン王国潜入記」がめっちゃ笑えて楽しいながら、ミャンマーのかかえる問題の現場を知れてよかったけれど、戦中や戦後にも日本軍とさまざまなかかわり方をしていたのは知らなかった。

アヘン王国潜入記 (集英社文庫)

アヘン王国潜入記 (集英社文庫)

あとがき

このブログはこのところ放置でしたが、最近は#つくりおきブログに寄稿したり、会社のブログを書いたりしていてブログを書いていないわけではありません。 今回は最後に関連書籍を羅列してしまったけれど、今後もなにか伝えたい・記録に残したい本や思いがあったときに書くだろうのでよろしくおねがいいたします。

tsukurioki.hatenablog.com

今日紹介したアーロン収容所は1/7に尾道の古本屋さん弐拾dBで購入し、18きっぷでの帰りの車中や通勤中に笑ったり泣いたりしながら読んで、本文章のたいはんは今出川大宮上るのカフェ、逃現郷(とうげんきょう)さんで書きました。どちらも人の思いがこもった感じのとてもよい場所です。

*1:佐々さん、おもしろいけれど同じエピソードがいろんな本で触れられているのでどれがどれか思い出しにくい(どれも印象深いエピソードではあるけれど)