ぜぜ日記

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最悪男の科学的日常「家庭の科学」

なんの前提条件もなく本屋で手に取った本がおもしろかったので紹介する。
身の回りの出来事を科学的に説明するというのはブログや学研のマンガから新聞のコラムまで類書はたくさんあるんだけれどそのなかでも最高クラスだった。


家庭の科学 (新潮文庫)

家庭の科学 (新潮文庫)


ある男の一日の流の中で起こる災難を科学的に説明しているのだけれど、そのためにその主人公は数々の災難に見舞われるという構成がいい。


まず、目覚まし時計が鳴ったのに寝過ごす朝7:00からはじまる。男の夢の内容と起きて時計を見たときの悲嘆を導入として描いてから人の睡眠について詳細に説明される。それもレム睡眠とノンレム睡眠だけみたいな浅い話ではなく、断眠が11日以上続くと死ぬであったり明晰夢を見る方法であったり不眠症いついても10ページのあいだに触れられている。


その後、シャワーを浴びる際にはシャンプーで滑ってしまうところから始まって、石けんの歴史に軽く触れてシャンプーはなぜ汚れを落とすかということを親水性の部分と親油性の部分があり界面活性剤であると説明し、だからこそ滑りやすいと説く。


さらにカミソリで皮膚を傷つけてしまい人間の防衛機構について説明し、トースターでパンを焦がしてしまいなぜ電熱線が熱くなるか、燃焼とはなにかを解説する。電子レンジでお湯を沸かしたら突沸するし、腐った牛乳を飲んでは腐敗と発酵の違いについて学べMP3プレーヤーを洗濯してしまいバッテリーの仕組みについてもわかるという具合。

ちなみにこれだけのトラブルを経てまだ家を出ていない。


出社しようとすると鳥の糞にぶつけられて鳥の消化の仕組みを学び、鞄を忘れては記憶について学ぶ。車がスリップして、ゴムタイヤ、ABSディファレンシャル・ギアについてまで学べてたいへん便利。


そこからガスステーションでガソリン車に灯油をいれてしまって車が使えなくなり内燃機関の仕組みが解説され、バス停まで走ろうとして転ぶことで走るために脳と身体はどれだけ工夫しているかがわかる。バス停では髪にガムがくっついてしまって乗り過ごし、にわか雨には降られてハチにさされ、靴がやぶれたので接着剤でつけようとしたら指をくっつけてしまうしエア入りスニーカーを買って走ろうとするとパンクする。わけがわからないくらい厄日。


ちなみにここまできてもまだ出社できていません。
ようやく出社するとボールペンのインクが漏れてシャツを汚してその仕組みを学び、ワイシャツの袖をひっかけて破くことで組織の力を学べる。PCではスパムを開いてしまい社内にウイルスをまき散らし、HDDがクラッシュするという過程でIT的なものも学べる。そして、さらに布団に入るまでトラブルは続く・・・。


おもしろいのは鍵を溝に落とすところから重力の話になって星系誕生・ブラックホールの歴史まで触れられること。ニュートンのリンゴのロマンチックさとは大違いだけれど。

あと落雷でテレビが壊れた際に雷の仕組みが解説されるのだけれどこれがよかった。ほどんどのサイエンス読みものでは、雲が電荷分離して地面との間の電位差を解消するために絶縁が破壊される程度の説明だけれど、本書ではなぜ電荷分離が起きるのかがまだわかっていないことと代表的な仮説を説明している。また、そのなかでほとんどの雷は雲の下部の負に帯電した部分と地面の間で発生する負極性雷だけれど、上方の正に帯電した部分が風に流されてそこと地面の間で発生する正極性雷は負極性雷より5倍ほど強いということや、その際に発生する電磁パルスで電子機器が破壊されうること、さらに高高度核爆発による人為的な電磁パルスとその防御まで触れられている。これだけでご飯おかわりできそう。


ほかさまざまな災難とその科学的な解説がなされ主人公の一日は終わる。
ひどい一日であるが、われわれはたくさんのことを学べる。ありがたい。


著者は遺伝アルゴリズムの研究で博士号をとったコンピュータサイエンスの研究者らしい。これだけ多岐にわたることをわかりやすく解説していてサイエンスコミュニケーターとしても一流だ。市民が身近なものを科学する、覆面科学者になることを推奨していて自分も触発されそう。


科学の楽しさを改めて発見できた。理科の副読本として高校生が読むと触発されそう。目の前の現象から推論して調べることができると日常生活も楽しくなりそう。


この手の類書、昔は学研の大判の本でかなりわくわくしたけれどタイトル失念。ほかいいのあったら教えてください。
料理編だとマギー キッチンサイエンスがちら見した感じすばらしいんだけれど高くて読めていない。

マギー キッチンサイエンス -食材から食卓まで-

マギー キッチンサイエンス -食材から食卓まで-