ぜぜ日記

ブログです

金魚とモラルと

辛気くさい話を書いてみる。

実家の父の書斎には、諸々の事情により50匹くらいの大きな金魚がいる。過密気味で、金魚にとっても、世話をする人間にとってもよくない。さらに子金魚もたくさん生まれてとんでもないことになっている。少し前に帰郷した折に、この金魚を見てなんだかなあ、と思うことはあったのですこし言葉にしてみる。

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(※比較用にプールの前にいるのは7歳男児)

話は、修士2年のころ、学祭で金魚すくいを出したときにさかのぼる。
修論直前になにを馬鹿なことをと思われていた気がするし自分でもどうかと思う。ただ、たいへんではあったけれど、お客さんにも喜んでもらえたし滅多にできない経験ができた。金魚も1000匹くらい仕入れて、9割くらい捌けたし、みんなでスキヤキを食べられるくらいの利益も出た。鴨川を眺めることのできる個室で仲居さんが綺麗な色のお肉を焼いてくれるという学生にはもったいない体験までしてしまった。

その金魚すくい出店の経緯と運営の苦労はさておき、余った100匹くらいの金魚が問題だった。それもあまり人気のない地味な小赤ばかり。大学の片隅で飼おうにも、半年後に修了*1する身であるので、責任も持てず、扱いに困っていた。希望する方に譲ったり、研究室で飼ったりなどしたけれどとても全部は捌けない。ご承知の方も多いだろうけれど、池や川に金魚を流すことは生態系を乱すことになるのでぜったいしてはいけない、為念。

業者さんは、一度外に出した金魚は衛生面・病原菌などの問題があるため引き取るということはなく、ペットショップなどで肉食魚の餌として引き取る、さもなければ殺処分かということだった。そこで、偽善だけれど、直接は手を下したくないと言うことで金魚すくいで使った120cm*60cm*20cmくらいのプールと一緒に実家に送った。

ただ、実家に送るときのパッキングが甘かったからか金魚すくいの疲労でか4割くらい死んでしまったらしい。
金魚を送るときは、厚手の丈夫なビニール袋にいれて酸素を注入、ゴム紐でしばって送るのだけど、酸素が甘かったのか、やんちゃな子どもや、冷酷な大学生のハンティングで消耗していたかもしれない。


その11月に実家に送った金魚はどうなったか。正月に帰省したときに、庭に面した父の書斎にプールが鎮座し、水草やポンプ、フィルターまで設置されていた。そして父だけでなく弟や祖母によっても世話されていた。特に、祖母が気をかけており、筆ペンで餌やりの管理簿までつくっているくらいだった。腐った餌や糞があるから水替えもたいへんそうで、こんなたくさんの金魚を押しつけて申し訳ない気持ちになったのを覚えている。

この、祖母の管理簿では、朝昼晩と人間と同じように餌をやるようになっていた。金魚は満腹中枢がないらしく、あるだけ餌を食べるけれど、1日1回、動きが活発でない冬場は2,3日に1回でいいので明らかにやりすぎ。金魚すくい時のほっそりとして素早い感じは鈍っていた。というわけで、餌の頻度は変えてもらった。

そして1年半。この夏に実家に帰ったときに、金魚はさらに巨大化していた。ぱっと見たところ、体長は2倍、体積は8倍くらいになっていたように思う。何匹か死んでしまったけれど、まだまだたくさん。金魚はタフだ。そして、・・・子どもまで産んでいた。一緒に入れておくと食べてしまうと言うことで隔離された水槽の中には、たしかに半透明の小魚が数え切れないほど泳いでいた・・。

卵を発見したときのことはわからないけれど、祖母も弟も喜んでいたようだ。ただ、卵があるのに気付くのが遅くて、何回かは大きな金魚に子金魚が食べられていたのでは、とも。

これだけ多いと、水質の悪化も早い。ネットで調べると、90cm水槽で、6cmクラスの大型金魚を5,6匹飼うのが適正らしい。それに比べると、密度が5倍以上ある。そのために水はすぐに濁るし、糞を流すのに手間もかかる。これは金魚にとっても飼う人にとってもよくない。


そして、物理的な問題から、たぶん、子どもの金魚まできちんと育てることはできない。貰い手もいないし、自然に帰すことは厳禁。つまり、どこかで、積極的にか、消極的にかはともかく死なせることになる。

金魚を殺さないでおこうという、安易な善意が、金魚の環境を悪化させ、さらには死に至る金魚の数も増やしてしまう。
金魚はねずみ算式に増えるし、去勢もできないしオスメスの分離なんてとてもできないし、どうするのが「モラル」にかなうのかわからない。

積極的に間引くか、放置して小金魚を親金魚に共食いさせるのに目をつぶるか、どちらも動物愛護なポリシーではどうなのだろうか。

最初に偽善でみんな生かせようとせずに涙をのんで(処分)しておいたほうが結局は死なせる金魚は少なかったと思う。
そういうことが頭に浮かんできて、なんとも言えない無力感に襲われる。




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だらだら書いてしまっているけれど、もうちょっと続けてみる。

この、金魚の話は、もしかすると人間でも同じようなことがあるかもしれない。
ちょっと、飛躍があるけれど、だれかのため、とやった行動がそのだれかのためにならないような。

  • アフリカの発展途上国は多産多死でかわいそうだから、先進国のわたしたちが医療支援しよう!→多産小死になって、大人まで生きる人は増えるけれど、飢えに苦しみ職がなく苦しむ人間は増える。
  • 祖父が老衰で食事をとれなくなったから胃ろう手術で長生きしてもらおう→介護疲れや医療費増加、本人の尊厳が・・

ほかにも、国益のためと領土問題に強気に出ることが、国益にならないとかもあるかも(昨今の件では、強い姿勢を見せて支持率稼ぎというのが主流だけれど)
なにが正しいのか、容易には判断できないけれど「なにかのため」の行動はすこし危うさもあるかもしれない。




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もうひとつ、金魚から考えたにんげんのこと。
金魚を快適にして、かつメンテナンスする人間も楽にするのに、一番いいやり方は金魚の数を減らすこと。
一匹あたりの空間を増やすことで金魚のストレスも減るし糞の量も減って水質は安定する。うまくすれば、糞もすべてバクテリアが分解できて持続的でメンテナンスフリーな状態にもなる。
これって、みんな思いながらもあえて誰も言わないのだろうけれど、人間でも同じなような。いたるところで聞かれる環境問題も、人間が減れば解決するものが多い。人間が減れば、使う電気も、そのために排出されるCO2も減るし、きっと原子力発電も必要ない。排出したゴミも減るしジャングルも切り倒す必要はなくなる。高齢化社会では、増え続ける社会保障費のほとんどを占める高齢者の医療費・年金があるけれど(以下自粛

でも、人間を人為的に減らすというのは、SF小説の中でしか許されていない。あっても、女性の権利が小さくて子だくさんの地域にリプロダクティブヘルスライツ*2みたいなものを啓発する程度の消極的な施策くらい。
そして人口爆発で翻弄される世界と、高齢化でゆるやかに動脈硬化していく日本。
うーん。

(追記)
ひとは、囚人のジレンマ的によくない方向に進んでいっているかもしれない。
それでもモラルどうこうに関わらず、人は生きているし、なんとかなるんじゃないでしょーか。
金魚の有効利用方法、または欲しい人がいらっしゃいましたら連絡ください。


※あんまりいいオチもないおもしろくない文章をだらだら書いてしまったけれど、真面目にこんな辛気くさいことを考えたわけではなくて、夏休みを終わらせたくない現実逃避です、と前言い訳しとく。
明るい話がしたいし、ごろごろしたいしたまには女の子とおはなししてみたい。

*1:大学院は卒業ではなく修了という、たまに退院と自嘲する者も

*2:女性の生殖と健康に関する権利