ぜぜ日記

ブログです

料理人のライフヒストリー『天才シェフの絶対温度「HAJIME」米田肇の物語』

天才シェフの絶対温度「HAJIME」米田肇の物語(2012, 石川拓治)を読みました。

単行本では「三ツ星レストランの作り方 嚆矢の天才シェフ・米田肇の物語」という魅力的なタイトルだったのが文庫で改題されているのは、出版後に一度二つ星になったからかな。
当時、日本人では2人目のフランス料理でミシュラン三ツ星をとったシェフ米田肇氏の半生をややおおげさに描いていて、山あり谷ありで一人の人間の成長と成功を描いた映画を観た後のような読後感。 脱サラして厳しいお店で修行するも2年間皿洗いだけでノイローゼになりそうなところ、フランスに渡って絶対無理と言われたビザの交渉、三ツ星店の支店で料理を任されて自信が出てきたところでの三ツ星シェフからのだめ出し。 求道者のような執念と、それによって逆境を乗り越えていくさまがおもしろい。料理人は、たいてい異様な安月給で(特に働きたい人の多い有名店ほど!)修行していろんなお店を経て己の腕を頼りに独立を目指すというのは昔の武芸者のよう。 その多くの苦労や努力があって物語としておもしろくなりやすいのかもしれない。こういう意味では、新規就農した農家さんや起業家も近い気がする。

シェフの人生という点ではミシマ社の「シェフを「つづける」ということ」(2015, 井川直子)を連想。これは15年前にイタリアで料理修行していた若者たちに取材していた著者がその後を聞いて回った本。個性と人生観があってよかったです。

シェフを「つづける」ということ

シェフを「つづける」ということ

  • 作者:井川直子
  • 発売日: 2015/02/27
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

本書「天才シェフの絶対温度」で印象に残ったセリフ

この歳で三つ星を取るということは、あなたがポール・ボキューズでありジョエル・ロブションになるということなのですよ

(ジャン = リュック・ナレ。ミシュランガイドの総責任者)

これで完璧だと思ったら、それはもう完璧ではない。この世に完璧というものはない。ただ完璧を追い求める姿勢だけがあるんだよ

(ミシェル・ブラス ミシェル・ブラス トーヤジャポンの厨房で、ミシェル・ブラスが米田肇にかけた言葉。ミシェル・ブラス トーヤジャポンは2020/4に契約満了のため閉店、軽井沢に支店をオープン予定がコロナで目途が立っていないそう)

ちなみに米田氏のお店「hajime」は税・サービス料別で1人42000円から・・・。食べログでは予算6-8万円。食べたら人生観変わるのかなあ。

www.hajime-artistes.com

架空の遊園地の繁栄と衰退を異様なスケールで描く大傑作「ゼウスガーデン衰亡史」(小林恭二)を読んだ

なぜか2014年11月に欲しいものリストにいれたまま放置して、最近kindle化されたことに気付いて読んだ「ゼウスガーデン衰亡史」(小林恭二)がめちゃくちゃおもしろかった。これまで読んできた中でも十指にはいるくらい好み。

ゼウスガーデン衰亡史

ゼウスガーデン衰亡史

あらすじを一行で書くと下高井戸オリンピック遊戯場という場末の遊園地が天才創業者の手によって繁栄して版図を拡大し国家に匹敵する組織となりつつも分派や対立やクーデターによって翻弄されて滅びていくという物語。その荒唐無稽さとスケールの大きさ、異様な人間たちの快楽追及の営為がいちいちおもしろい。なぜ遊園地?とはじめは思ったけれど、快楽を求める人間を描くにはこれ以上の場はないかもしれないと思えた。

よく考えると荒唐無稽だけれどありえそうで、実際に体験したいアトラクションの描画や、滅びゆくローマの中枢を描くような権謀術数なども楽しいのだけれど、そのなかでもある、2つの食事のシーンの描写が神がかっている。この衝撃を味わってほしいのでこれより詳しくは書けないけれど、どうしたらこんなの書けるんだろうというほどすごい。

笑えるシーンもたくさんあるし巻末の短編もよかった。 好きな登場人物は作中でも珍しく長生きしたアトラクションアーティストの真原合歓也(まはらねむや)です。こういう奇妙な名前の人間がたくさんでてきます。

コロンビアの辺境を舞台に、ある夫婦がはじめたガルシア=マルケスの「百年の孤独*1や、コンゴのまだ白人が到達していない地で育った少年が、白人の入植や戦争に翻弄されて現代化するまでを描くエマニュエル・ドンガラの「世界が生まれた朝に」(翻訳は辺境探検家の高野秀行さんの卒業論文!)のようなスケールと所業無常さを思わせる作品。

こういうスケールの大きい作品が好きで、本書とは違って人間はただの一人もでてこないけれど天野邊の「プシスファイラ」もインフレ的なスケールを描いていて好きでした。こういうの好きな自分におすすめの作品あれば教えてもらえると嬉しいです。

dai.hateblo.jp

読後にほかのひとの感想を調べてTwitterを検索するとSF作家の円城塔さんもすごいと書いているのを見つけました。

1987年に初版が発行されて、2019年に電子書籍化されているので今がタイミングです。 著者の小林恭二さんは俳句の本なども書いて大学で教えているそう、ほかの本も電子化されてほしい。

*1:ガルシア=マルケスはこれでノーベル文学賞をとった

子育て7か月目

f:id:daaaaaai:20210216123707j:plain

2月があっというまに終わりを迎えつつあることに驚いています。

成長

かなり表情がでてきた。よく笑う。いないいないばあで笑う・くすぐったら笑う・なにかの拍子にげらげら笑う。 子が笑うと周りも笑顔になる。すごい。

体の変化としては手足がむっちりしてきている。あと、後頭部のおハゲが直ってきつつある。 まだできていないのは寝返りからの復帰とずりばい。そろそろしそうではあるけれど。

離乳食は着実に進んでいる。最初は十倍がゆをおそるおそるやっていたのがだんだん量やバリエーションも増えている。 はじめて食べるものはオッという顔をして食べる。うどん、卵黄、ささみあたりにチャレンジ済み。離乳食を食べ出してから便がしっかりしてきた。 保育園の入園がきまって、食べたことがあるものチェックリストが届いたので頑張って実績を解除していかないといけない。

服は60サイズがかなりぱつぱつになってきているところ。 動き出す前の平穏を味わっています。

生活

よその状況を聞くとかなりたいへんなところはあるけれどうちはかなり育てやすい気がする。 3か月目くらいから7か月目まで夜泣きしたのは2-3回くらいでそれもちょっとあやしたら寝る。親と別室で寝かしているのが効いているのかもしれない。 なので夫婦ともに7時間は寝ることができている(自分はほんとは8時間寝ないとつらいけれど)。週に一度くらいは夕方に泣き止まなくてつらいこともあるけれど頻度は減っている気がする。 車やベビーカーに乗っていて泣くこともほぼない。どちらもすぐ寝て寝続けている。えらい。

ただ、それでも1日みるとつかれるしエネルギーを使う。もっとたいへんだったり、ワンオペの気苦労は想像を絶する。 妻の育休もあと1か月。保育園ちょっと遠いのでどう通園させるか病気のときにどうするか考えないといけない。早起きするようにしないと・・・

「土 地球最後のナゾ」を読んで考えた100億人をささえる食のこと

ここしばらくのあいだに人口100億人という言葉に2つの場所で遭遇した。1つは、土壌研究者、藤井一至さんによる新書「土 地球最後のナゾ ~100億人を養う土壌を求めて~」、もうひとつはAmazonプライムビデオでみたドキュメンタリー「100億人-私達は何を食べるのか?」(2015年)

どちらもおもしろかったので簡単に紹介してみる。

土 地球最後のナゾ ~100億人を養う土壌を求めて~

前著の「大地の五億年」も人間を支える土の知らないことがたくさん書かれてよかったけれど、こちらはさらに世界の土と食に踏み込んでいる*1。前著では植物が土壌を酸性化しているメカニズムを紹介し、これが農業にも影響を与えていることを紹介している。そして日本など湿潤地では植物生育に欠かせない水に恵まれる一方で土が酸性になってしまう問題を抱えており、いっぽう乾燥地の肥沃な土壌では水が少ないかわりに栄養分が多いため土壌酸性化の問題を緩和できるという。農業の抱える本質的な問題に対して、乾燥地を選ぶことで酸性土壌を回避したの灌漑農業であり、湿潤地で酸性土壌とうまく付き合うことを選んだ例が焼畑農業や水田農業であるという視点がおもしろかった。

東アジアの水田の伝統を裏打ちしている土のメカニズムは興味深く、豊富な降水量とそれが山林を経てもたらす無機栄養があって連作障害もなく持続可能で、日本では当然のように広がっているけれど人口密集地の東アジアの人口を支えるすごい農法。もう片方の乾燥地では過灌漑によってはナイル川の恵みのあった*2ナイル以外の古代文明は滅び、現代においてもアメリカのプレーリーなど塩害や土壌流出が進んでいる。土壌は100年に1mmから1cmとつくられるのに途方もない時間がかかる一方で耕作や過放牧に起因する土壌流出ははるかに早い。過去の文明崩壊のプロセスをなぞりそうではあるけれど現代社会と科学は乗り越えられるだろうか。全体的にはちょっと暗澹たる気持ちになった。欧米では不耕起農法など、土壌流出を防ぐための農法の実践もはじまっていてこれはすごい取り組みではあるけれどマクロに影響を与えられるだろうか*3

ただ、本書では前向きなはなしもある。たとえば、ブラジルのセラードでは、1970年代から日本を含む外国資本が中心となってサバンナを大規模に切り拓いた結果、セラードは広大な牧草地、ダイズ、トウモロコシ畑へと姿を変え、そこでウシを飼育し牛肉の大産地となったという。アメリカのステーキの生産システムとの違いは土壌が肥沃なチェルノーゼムではなく、貧栄養なオキシソルであること。貧栄養な土地を農地に変えられるのは、緑の革命でも本格的にはできなかったことだと思う。これについてはこう書かれている。

オキシソルには二つの問題があった。まず、オキシソルの赤さの原因である鉄さび粘土は、リン酸イオンを吸着する能力が強い。リン酸肥料を少しまいただけでは、植物に届く前に粘土に奪われてしまう。この問題をクリアするために、粘土の吸着力を上回る大量のリン酸肥料をまく。カネの力だ。もう一つの問題は、土壌が酸性なことだ。オキシソルはもともと酸性土壌だが、ダイズを栽培すればさらに酸性に傾く。大気中の窒素を固定してくれるダイズだが、余った窒素は硝酸に変化してしまうためだ。この問題を克服するために、石灰肥料をジャブジャブまいた。

資材を大量に投入したということでなかなかよそでは真似はしにくいうえに、一部、ブラジルの熱帯雨林を切り開いている点で懸念も多いけれど、世界で見ると農地の開拓の余地はまだあるのかもしれない。食についての資源や持続可能性についてはマクロな統計もさまざまな解釈があって難しいけれど引き続き気にしておきます。

前著もよいのでぜひ。 [asin:B0186YMUFO:detail]

100億人-私達は何を食べるのか?

こちらは子をあやしながらAmazonプライムで観た映画*4。 欧米の食にまつわるドキュメンタリーは視点や映像はおもしろくとも危機や安全性を煽るものが少なくないので斜めにみていたけれど抑制的だし映像の力も感じられる。

人口100億人になったときに地球の食はどうなるか考えるために各地のさまざまな取り組みを紹介するドキュメンタリー。

肥料のためのカリウム鉱山の近くに積まれた高さ200mの白い残土や、毎年数10%も成長するインドの養鶏工場の様子など食の需要増に対する供給体制の危うさは知らないことも多かった。 供給増に対する取り組みとしては、昆虫職や京都の植物工場、モザンビークでの飼料用大豆農園、カナダのサーモン養殖場(養鱒場)、実験室での培養肉などが取り上げられていたけれど、どれもコスト面などで現時点では期待は薄そう。

そんななか興味深いのは3つ。 1つは市場の力。 シカゴにある世界最大の商品先物取引所にて超大物投資家、ジム・ロジャースへのインタビューで彼はこう発言していた

過去30年農業はひどいビジネスだった。高齢化・高い自殺率(インドで100万人)。これは価格向上が解決する。

これに対して、監督はギャンブルが食糧危機を招いたのではという説も紹介している。2008年・2011年に穀物価格が3倍になったけれどこれで主食を買えなくなった農民もいるという。商品価格の上昇で小農が稼げるようになるわけではなく投機筋を呼び込むだけで実際には大農家にしか分け前はあたらないのではないかと監督は市場依存を批判的にとりあげていた。

市場は価格を起点に需要と供給に影響を及ぼす強力な仕組みではあるけれど、昨今の電力価格の高騰で電力市場が高騰しているように*5依存すると手ひどい仕打ちも受ける。

ただ、市場は誰かが定めた制度ではなく現象でしかないので、これを活かして悪い部分を政府が規制するような姿勢しかないようには思う(マルクスは資本が悪いと言ってたけれど)。

自分は今の農作物の価格はかかるコストのわりに安すぎると思ってはいて農作物の市場価格があがって消費者も受け入れることができたら生産者の利益にはなるとは考えているけれど、買い手優位なマーケットでは生活必需品はなかなか値段が変わらない。 でも、農業者の高齢化や、産地の人口増、農地の減少、気候変動による不作でまた価格は上がってこざるを得ないのでは、とは思っています。そして価格が上がって稼げるようになるとまた参入者も増えるのでは、と。もちろんそのプロセスでも失われるものは多いし楽観すぎだとは思うけれど。

あとあと、ジム・ロジャース、日本の経済紙などのインタビューではポジショントークっぽいことばかり書いているけれど、かれが前世紀に世界一周したことを書いた本はめちゃめちゃおもしろいのでおすすめです。まだ誰も投資していないけれど可能性があるところをみつけて投資するというフィールドワーク的な投資スタンスで成功した投資家の視点がよい。

2つ目は有機農業。 マラウイの農村では、これまでトウモロコシだけを育てて同じものしか食べていなかったけれど干ばつに脆弱ですぐ飢饉になっていた。現地の白人の菜園をまねて、間作でいろいろ育てたら自給の安定性も増したし商品として売れるもののバリエーションも増えたという。 監督もこう書いている。

小さな有機農業の圃場は環境保護主義の遊び場にみえたけれど、途上国のほとんどの小農は同じような環境なことに気付いた。労働集約な分、単位面積当たりの収穫量は大農家よりも大きい

(土壌・労働者に対して)収奪的なプランテーション農法よりは低インプットでリスクを分散できる多品目の有機農業は頑健なのかもしれない。ここで書いている有機農業は、農薬を使わないというよりも、気軽に農薬を買えない環境で現地にあるもの(畜糞とか)や生態系をつかってリスク下げるくらいの意味合いです。

3つ目は都市農園 紹介されたのはアメリカ、ミルウォーキーにある元NBA選手ウィル・アレンが運営するグローイングパワー農園。140人雇用していて規模でかい! 魚の養殖と組み合わせるアクアポニックスは本で読んでいた限りではおもちゃにみえていたけれど映像でみるとなかなかおもしろそうに見えた。いろんな地域がこの取り組みを参考にして広がっているそう。土地都合で日本ではしにくいかもしれないけれど、キューバのように化学肥料など輸入ができなくなったときにはこういうの増えるんだろうなとは思った。

まとめ

2020年で77億人いる人口は2055年ごろに100億人を超える*6。それだけ食料の需要も増えるけれど農地や単位面積当たりの収量は簡単にはあがらない。需要が増えて価格もあがっていくと世界はどうなるでしょうか。

日本は、人口も減っているし、水田という素晴らしい農法があるけれど、担い手の高齢化や減少もあるうえに、1993年のコメ危機では一年の冷夏で供給が大きく崩れるなど薄氷だと思う。

マヤ文明が気候変動をきっかけに滅びたという説があることは去年ブログに書いていたけれど、人口が増えるとドミノ倒しに混乱するリスクはあると思う。

dai.hateblo.jp

そんなこんなで土をきっかけに現実逃避して先のことを考えてみました。おちなし。

*1:ヤマケイ新書さんが本書を出したのすごい

*2:過去形なのはアスワンハイダムによる

*3:日本では土壌や農地のサイズが違うから簡単には採用できないけれど、こういう映画がある。 kiss the ground https://kissthegroundmovie.com/

*4:最近ミルクをやったり、ぐずっているのをあやすときに映画をながらみしがち

*5:市場連動型の電気料金は想像を絶する金額に、いま新電力がやるべきこと:日経ビジネス電子版

*6:世界人口統計

戦慄しつつゲラゲラ笑える稀有な小説「ゲームの王国」

小川哲さんの「ゲームの王国」を読んだ。 基本読書さんの紹介でkindleで買って10か月ほど寝かせてから読み始めたんだけれど、これがおもしろい。

huyukiitoichi.hatenadiary.jp *1

1970年代からはじまるカンボジアを舞台にした、つまり、クメール・ルージュによる現代史でも屈指の虐殺があった時代を描いている。 シアヌーク政権下での秘密警察による共産党の抑圧やらポルポトによるクーデターとクメール・ルージュの粛清の嵐も出てきてぞっとする場面も多いんだけれど、奇妙な登場人物たちの行動などなぜか異様にゲラゲラ笑えてしまうところもある。

ポルポトは、最近読んだ「20世紀の独裁者列伝」のなかでも目立たない・腐敗しなかったという点で異彩を放っていた独裁者だけれど物語を通して改めて戦慄した。 dai.hateblo.jp

タイトルの「ゲームの王国」は腐敗の跋扈するカンボジアにて政治をゲームに例えていることから。ゲームに勝つにはゲームをつくる側にまわることと、この政治に翻弄されつつも挑戦していく人間を描いている。 ネタバレになるのであらすじは説明しにくいけれど上巻最後も下巻の始まりも驚いたし、後半の展開や仕掛けもおもしろい。日本SF大賞もとっているSFだけれど、SF的なギミックは控えめなのでSFに忌避感あっても取り組みやすいはず。間違いなく傑作。読んだ人としゃべりたい。輪ゴム・泥・鉄板・長江文明帰納法・牛あたりがツボでした。

いろいろちりばめられている寓話もよい。 たとえば冒頭のこれ。サロト・サルはのちのポルポトです。

闇の中からは、光がよく見える。チョムラウン・ビチア高校の歴史科教師サロト・サルは、子どものころからその諺を気に入っていた。暗闇から明るいものはよく見えるが、明るい場所から暗闇はほとんど何も見えない。この諺から「輝いているときこそ、足元の落とし穴に気をつけなければならない」という教訓を引きだした国語教師は残念ながら二流だった。正しい解釈は「足元の穴に落ちたくなければ、そもそも輝いてはいけない」ということだ。輝けばかならず闇から撃たれる。それが世の摂理だ。

セリフ回しのセンスもすごい。序盤で好きなシーン。

シヴァ・ソムの父は、この世のあらゆる人間は三種類にわけられると考えていた。農家、ベトナム人、女。この三つだ。そういうわけで、ソムが「警官になる」と報告をすると、父は「俺はベトナム人を育てた覚えはない」と怒った。父のオリジナル論理学によれば、警官は農家でも女でもないので、ベトナム人に該当するようだった。

ゲームの王国 上 (ハヤカワ文庫JA)

ゲームの王国 上 (ハヤカワ文庫JA)

ただ、やっぱり人は選ぶとは思う。村上龍「愛と幻想のファシズム」とか好きだとおもしろいと思う。まじない師がいた時代を扱っていて呪術的でもあるのですがこの点では高野秀行さんが翻訳したコンゴ文学「世界が生まれる朝に」と通ずるところあるかも。現実の大事件を背景とした人間を描く小説という点では、ノルマンディー上陸作戦下のミステリ深野緑分「戦場のコックたち」も連想しました。どれも傑作なのであわせてどうぞ。

*1:こういうセール、嬉しくてすぐ読まない本も買ってしまうけれど、一回セールがあると知ると通常に買うハードルがあがってつらい

子育て6か月目

あけましておめでとうございます。なんとかやっています。

成長

寝返りした。172日目。まあ遅い早いに一喜一憂しても意味はないけれど記録。 まわりでも早熟で早くなんでもできるようになったけれど、その後に伸び悩んだり、幼少期に病弱だったけれど大成したりもしている人もいるしで気にしない。大きくなったらほぼ全員が寝返りもできるし立って歩ける。とはいえ、成長マイルストーンのひとつではある。とは思うのです。

ちょっと顔つきもしっかりしてきたかな。手足はむちむちになってきた。しかし、一緒にいるとわかりにくい。久々に生まれたときの写真を「みてね」で振り返って気付いた。

おもちゃをとるてもまだぎこちないけれど掴んだり引っ張ったりできる。 そして口に入るあらゆるものをよだれまみれにしていくのでどこまで清潔にしておくか悩む。

生活

離乳食がはじまりました。 1日目は米粥をちょっとずつあげてべーっと出すのを繰り返してすこしつらかったけれど2日目以降はちゃんと食べている。勤め先である坂ノ途中の野菜セットで届いた甘いほうれんそうやにんじんはもりもり食べる。いっぽうで生協で買ったちょっと古いブロッコリーはいやそう。大人が食べてもあまり美味しくない。 ここらへんの離乳食は昼にあげることが多いので段取りを妻にまかせきりになっている。

離乳食

バンボを導入して座り始めたので離乳食もちょっとは楽になった気がする。

コロナの影響もあって年末年始も帰省をせずにゆっくり過ごしました。 そこで考えてみると赤子を連れて混雑する時期に帰省すること、それもなじみの薄くて気を遣う配偶者の実家にいくとかなかなかたいへんだよな、とは思う。自分の実家だと親類みんな福井にいたので義実家も実家もお互いに近くてめったに長居はしなかったから気にしたことなかった。

そんな感じです。

前回

dai.hateblo.jp

あとこんな本を読んだ感想文も書いていた dai.hateblo.jp

ありそうでなかった「20世紀の独裁者列伝」

「20世紀の独裁者列伝」を読んだ。

20世紀の独裁者列伝

20世紀の独裁者列伝

著者は桂令夫、瀬戸利春、司史生、中西正紀、福田誠、松代守弘ら戦史系?のライターさんで原案は鳥山仁。

なにかの記事がきっかけで独裁者のことを知りたくなってネットで「独裁者 列伝」と検索したらヒットして見つけた本。 意外と最近の2020年9月に出版されているわりにAmazonでも(当時は)レビューがなくSNSでも書評どころか販促も見当たらなく謎だったけれど購入した。

各地の独裁者67人が2-4ページずつ経歴と功罪が紹介されていています。
まず、独裁者、何人思い浮かびますか?自分もWikipediaサーフィンで夜を明かしたり、いろいろ読んでそれなりに知っているつもりだったけれどヨーロッパ15人のうち7人は知らないしアフリカに至っては22人中名前を知っているのが3-4人くらい。その3-4人もどういう人かはちゃんと知らなかった。

特に印象に残ったのは、ポルトガルで36年も独裁をつづけた経済学者、アントニオ・サラザール。まず、経済学者としてはじまったのも珍しい。そして蔵相として国家財政を立て直した勢いで権力を集中させて独裁するようになり第二次世界大戦を乗り越えてからは古き良き時代にこだわり近代化に遅れるも、晩年、事故で意識を失った間に政権を失ってしまう。しかし、後継者はそれに気付かれぬようかれが死ぬまで偽の新聞を届け続けていたというのも創作。これ、映画「グッバイ、レーニン」の元ネタなのかも。

dai.hateblo.jp

ほか、孤児から独裁者までのぼりつめたトルクメニスタンのサパルムラト・ニヤゾフ。出世とバランス感覚の果ての独裁以降は奇行に走って、自分の好物のメロン記念日をつくったりしている(これは本書で数少ないほっこりエピソードです)。

国ごと、ひとりひとりに物語と歴史があるのだけれどそれぞれが傑物というか精神的質量が大きいとでもいう魅力がある。

そして、読んでいくと、独裁者になるのにもパターンがあることがわかる。 だいたいは元々しいたげられていた側が不満を起こしてクーデターを起こして簒奪する、特に、軍のクーデターが目立つ。 ヒトラーのように、民主主義を利用して独裁に至るのはほかジンバブエムガベや少数、スターリンのように権力者から禅譲を受けてさらに独裁を深めるものも少ない。目立つのはアメリカの暗躍。中南米では共産主義に対抗させるために援助されたりお目こぼしを受けた独裁者がたくさんいる。そして、権力を維持するために圧政に走っていき、クーデターで失脚していく・・・。

著者は6人のライターさん。なかには実話系雑誌のような書きっぷりの人もいるけれどおおむね淡々と書いていて好感。 欲をいえば編集がいけていないのか余白が多いのと、代表的な伝記や参考文献を書いてほしいこと。それぞれの独裁者の思想をもうちょっと知りたいけれどこれは1人2-4ページの紙幅で事実ベースで書くのは難しいだろうから仕方ない。

本書は20世紀の独裁者が対象だけれど、まだまだ世界には独裁者もいて苦しめられている人は多い。 その国の独裁ゆえに安価に産出できた資源などを輸入できているものもあると思うと日本も無縁ではないし、いちど権力を独占する独裁に陥った国は独裁者が退場しても腐敗で中長期的にだめになっているという歴史は先進各国も他人事ではない。とはいえ、21世紀は20世紀よりは前進していることも確認できる。いい本でした。

あなたの推し独裁者は誰ですか?

「AIに負けない子どもを育てる」はただの教育本ではない

topisyuさんがブログで紹介していて手にとった本 topisyu.hatenablog.com

タイトルはそこらへんに転がっている教育論のようではあるけれど、本書の著者、国立情報学研究所の新井教授は「ロボットは東大に入れるかプロジェクト」というキャッチーなプロジェクトに取り組んでいる研究者で一味違う。このプロジェクトについてはネットで記事を読んだくらいの知識しかなかったけれど、本書を読んではじめてその深い意義と成果を知って驚いて、大げさだけれど感動した。

AIに負けない子どもを育てる

AIに負けない子どもを育てる

  • 作者:紀子, 新井
  • 発売日: 2019/09/06
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)

このプロジェクトは東大入試*1を通して人工知能にできないことを世に明らかにしようとするというものからはじまっている。これだけでも、社会への啓発という点で価値がある。けれど、そこで終わらずに、人工知能の不得意な、意味を理解しないと解けない問題は大人を含む多くの人間にも難しいということを明らかにし、これを計測する方法、リーディングスキルテスト(RST)をつくりだしたという展開が語られる。

意味を理解するリーディングスキルを計測するための、本書に掲載されている7カテゴリ28題ある例題はおもしろい。そして、そのリーディングスキルが育たない教育の問題や計測方法について仮説を提示している。これはまさにエビデンスに基づく教育(Evidence Based Education)のための強力なツールだと思う。そして最近流行のEdTechへのするどい批判も納得がいく。

このリーディングスキルの不足から、人工知能と同じようにパターン認識によってテストを解くしかない学生も、文章が読めないゆえにSNSで誤読してクソリプをしてしまう人も、イメージ・党派性によってのみ動くポピュリズムも同根ではないかと感じる。

ただ、本書では解決策も提案されているし、これに加え、2020年の学習指導要領の改訂で高校の国語が論理国語と文学国語になるのはよいニュースだと思う。

こういった、人工知能と教育の学際的な領域でこれだけ意義があることをやって、RSTとして社会実装もして、国語の学習指導要領にも影響を与えているのはすごい。まさに情報学(≠情報科学)。ただ、現代教育への批判については教育学を専門にしている方々のコメントも読んでみたい。

終盤の著者の、主観から導き出したというリーディングスキルを向上させるための方法論も興味深い。だいたい、それはそうだろうな、と思うものばかりで子をもつ親が読むと参考になるかもしれない。そして大人でも読解力をあげられるというのは希望でもある。

以下、ちょっとネガティブなコメント

とても興味深く、かつ意義があることをしているし、知見もほんと参考になるのだけれど、いくつか気になるところもあった。

  • kindleで読んだけれど各見出しを表示するだけで目次に戻る異常な構成。これ、ちゃんと確認しているんだろうか・・・ 。ほかにそんな本の経験はない
  • 「ロボットは東大に入れるかプロジェクト」(東ロボ)というキャッチーなプロジェクトでPR力はすごいけれど、表層的だと批判されやすそうなプロジェクト名で意義が伝わっていなかったことで一部で叩かれていた気がする(これはSNSで本書のいうリーディングスキルの低い人間に見つかった、というだけではなく、説明も不足していたように思う)
  • 哲学者の野矢先生にほめられたことや、OECDの国家間での読解力や数理的能力を計測するPISA調査を主導したシュイヒャー博士に取り組みを説明した後に、文科省の人からから「シュライヒャーがあんなにムキになるのを見たことがない」と言われたと書くなどの他者との相対による権威付けがちょっと鼻についた
  • 読解力が低下しているのは穴埋め式のプリントやパワーポイントの普及で板書が減ったからでは、という仮説でもって後半進めているけれど、ほんとうに低下したのかは著者の主観としか書かれていなく気になる。当時の人にリーディングスキルテストを受けさせることはできないから検証しようがないけれど強引すぎるように思う。阿部謹也先生が「一橋大学の学生の知的レベル が劇的に下がったと感じたのは、生協にコピー機が導入されたときだった」と言っていたと本書で触れているように納得度はあるけれど、年配の政治家やジャーナリストなどTwitterでみていても昔の人もたいがい日本語読めてなかったんじゃないかとは感じる
  • 自分も北陸の田舎の公立高出身なので著者のように地方の公立校に期待するのはわかるけれど、都会の私立進学校出身の社会の上澄みしかみないエリートにこの国の複雑な問題が解決できる気がしないというくだりでの、マリー・アントワネットを例えに出すのはちょっと下品すぎる気がした
  • せっかくRSTを開発したけれど、解決策の提案が思い付きによっているように感じた。まだテストを開発して間がないから検証は難しいのだとは思うけれど検証への道筋を一言くらい触れていると安心できるのだけれど
  • あとがきにある、この次に取り組むこととして、幼稚園・保育園・学校向けのホームページを無償で提供するという宣言、これ意義があるのは間違いないけれど、この本でのテストと教育の方法論について論じた後にはつながりがわからなさすぎてがくっときた。著者の知性と経験と直感を活かすためにも、Evidence-basedな教育の方法論を発見するプロセスの開発とかのが有意義で著者ならではなのでは、という気がしている・・・。これをやるために、情報の整備が必要で、まずホームページが必要なんだというロジックがあるならいいんですが

と、批判を並べてしまったけれど、これは編集者の方がんばってくれ、という意味で、本書やこのプロジェクトの価値がすごいのは変わらない。教育に関心のある方みんな読みましょう。

海外での事例としては読解力の前段階の非認知能力に着目した研究や事例を紹介するこの本がちょっと近いかな。

*1:自分は前期で理科2類に落ちた

子育て5か月目

晦日で2020年も終わりますね。 この連載もコロナが広がっている中でもなんとか続いています。

5か月児の手

最近の成長

  • そろそろ寝返りしそう、とおもってひやひやするのを3週間続けています
  • いちど荒れた肌も保湿をちゃんとするようになってからきれいになってきている
  • 夜は、23時か24時くらいに布団に寝かせて暗くすると、目をあけつつもおとなしく寝る。たまにスヌーザヒーローという呼吸の動きを検知するセンサーがずれてピピピと大きな音で鳴るけれど起きない
  • 朝、7-8時くらいに見に行くと、たいていは目をぱっちりあけておとなしくしていて、覗き込むと笑ってくる。かわいい
  • 便が出る前がぐずりやすい気がする。オムツがぐっしょりでも泣かない
  • だんだんげっぷが下手になってきている気がする
  • そろそろ離乳食
  • 後頭部は相変わらずハゲている

育児

妻が泊りがけで観劇にいってきた(どうせ当たらないだろうとたくさん応募したら、土日に3公演分当たったらしい)。
そのあいだ2日続けて朝から晩まで子をみたけれど、おとなしく一人で遊ぶか寝るかしていてまあまあ平和だった。
1時間くらいの作業/読書が6回くらいできる。以前、まる一日、これも妻の観劇のため一人でみたときは、寝かせると泣いてつらかったのでたまたまだとは思う。とりあえず、なにもできなくて当たり前で1時間作業が4回出来たら御の字だと思うようにしてるつもり。1回目が辛かったのはいろいろやるぞ、と思っていた分できなかったからだと思う。ふだん、自分が出勤してるときは終日見ている妻はなかなかたいへん・・・。2人家にいるとやや気楽。

やっぱり2人でいると楽なのはお風呂。だいたい自分が仕事後にいれているんだけれどスイマーバのホックを止めるのは2人いるとすぐできて楽。スイマーバを使うのは安全に湯船につけるのにこれが今のところ一番手軽だから。とはいえ、2人でお風呂につけているのを待ち続けるのはちょっと時間がもったいない気もして、妻がお風呂にはいって湯船につかっているときに子をいれるやり方を試し始めている。まあまあ悪くないと思っている。

もうひとつ2人でやると楽なのは爪切り。普段はくねくねしてしまって爪切りが危ないので片方がミルクを飲ませているときに爪を切っています。また、これもどうかと思うのだけれど、妻の強い意向で子の爪をお菓子のケースにためています。吉良吉影なんだろうか・・・。

やっぱり週に1-3回くらい午後-夕方とぐずり続ける。抱いていると落ち着くけれど、抱いているとTwitterをみるかpodcastを聞くくらいしかやることがない。スタンディングデスクを導入できると、抱いたままPC作業ができそうな気がするけれど場所がない。

あと、BCG接種に同行してきた。これまで育休中の妻まかせだったけれどどんな場所なのか興味があったので4回目にしてはじめての同行。 小児科の先生があやすのも手慣れていてすごい。子は、打たれて20秒くらい泣いたけれどそのあとケロッとしている。えらい。ほかの3-4歳の子が泣きまくっていた・・・。

今回、ほかの予防接種と思しき親子の3-4組は母親連れだったけれど、前回、妻が行ったときは3組くらい父母ともにきている子がいたそう。コロナもあって病院も妙な緊張感があった。

動き回るまえのいまが一番手がかからないと思い、できるうちに勉強などしないと、と思いつつも腰が重い・・・。

最近

2020年は1月頭に出生前診断をしてはじまって、コロナ、妊娠中期~後期、出産、育児ときている。 これからどうなるでしょうか。不安と楽しみだと不安のほうが大きいかもしれないけれど楽しんでいこうとは思う。

友人の id:minemuracoffee さんにも子が生まれて日記を書いている。けっこうおもしろい。 kakuyomu.jp

関連記事

前回 dai.hateblo.jp

ちょっと前に書いたコロナについての雑感 dai.hateblo.jp

今年書いたつくりおきブログの記事。インターネットで知り合った人たちとやっている独身男性の料理ブログです。 tsukurioki.hatenablog.com

tsukurioki.hatenablog.com

tsukurioki.hatenablog.com

tsukurioki.hatenablog.com

今年観てよかった映画とその感想

これまではあまり映画を観る習慣がなかったけれど、産休・育休中の妻がAmazonプライムで終了間際の映画を観ていくのに一緒にいたことでこれまでになく映画をみている気がする。

やっぱり、映像と音楽と物語の力はすごい。楽しい気持ちになったり、人の気持ちをなぞったりできる。というわけでよかった作品とコメントを書いていきます。あと、宝塚もよくみた年でこれについても書いています。

なんとなくおすすめ順。

真夜中のパリでヒャッハー(2014)

ひょんなことから自分の誕生日パーティの日に社長宅で社長の息子の子守をすることになった主人公だったけれど、翌朝、誰もいない荒らされた家に戻った社長夫妻が落ちていたビデオカメラを再生するととんでもない様子が映っていて・・・というあらすじ。 小さいころホームアローンをみてゲラゲラ笑ったのを思い出した。 構成も演出もよいし、伏線がすごい。フランス人のブラックユーモアがよすぎるのでぜひ観てください。パーティの描写が最高で、ウルフオブウォールストリートで笑った人は楽しめると思う。トラブルだらけのなかで主人公が思い人と関係をすこし深めるところもよい。これだけ壮絶な一日を描いた映画もなかなかない。

原題は「BABY SITTING」なのでこの邦題にするのはちょっとどうかと思うけれど、あまりよいのは思いつかない。おすすめです。エンドロールで流れる映像でこれだけ笑えるのは初めて。

真夜中のパリでヒャッハー!(字幕版)

真夜中のパリでヒャッハー!(字幕版)

  • 発売日: 2017/04/05
  • メディア: Prime Video

世界の果てまでヒャッハー(2015)

「真夜中のパリでヒャッハー」の続編。原題は「BABYSITTING 2 ALL GONE SOUTH」だぇれdp。Babyは出てこない。 恋人の両親が経営するブラジルのリゾートホテルを訪れた主人公は恋人の気難しい祖母の相手を1日することになるが自然観察ツアーの途中で遭難してしまう。翌日、発見されたビデオカメラを再生するととんでもない様子が・・・。 ということで前作の二番煎じなところもあるんですが、より破天荒にはなっている。現地民の描き方大丈夫か、というところはあるんですが笑えます。 前作から1年後にこれをつくれるの勢いすごすぎる。

はじまりのうた(2013)

よい・・・。音楽のよしあしは分からずついていけないところもあったけれど主人公たちの挫折と挑戦のわくわくがいい。 さわやかでした。時系列がいったりきたりはしたけれど、それが効果的になっているのかもしれない。回想シーンに頼るべきではないという風潮?のなかでこの構成はすごい。夏のニューヨークの街並みもよいし主人公のグレタ(キーラ・ナイトレイ)のちょっと重なった歯並びもよすぎる。 このはみ出しものが集まって大きなことをやるというのはいいですね。こういうパターンなにがあったけと思い返すと、アルマゲドンしか出なかった・・・。よい映画あれば教えてください。

異端児たちの成功だけでなく、その後の虚無?を描いたかウルフオブウォールストリートとソーシャルネットワークも大好きです。


Keira Knightley | "Lost Stars" (Begin Again Soundtrack) (2015 Oscar Nominee) | Interscope

この曲がとてもよかった。

グッバイ、レーニン(2003)

1989年、東ドイツベルリンの壁が崩壊する前に心臓発作を起こし、8か月眠り続けた主人公の母。医者にショックを避けるよう言われ、熱心に共産党を支援していた母を驚かさないように東西ドイツの統一を隠す主人公たち。その活動を続けるなかで・・・というあらすじ。

東ドイツの様子や統一での急激な変化がみてとれることもおもしろいんだけれど、東ドイツで暮らしていた人がこの映画をみたらめちゃめちゃ受けるんだろうな、というシーンがあって笑える。でも最後は・・・。東西ドイツ統一、いいことだと安直に思っていたけれど、これだけ生活と文化が激変して翻弄された人々がいたというのはたいへんだったと思う。母を守るために奔走する主人公がよい。いい映画だった。最後の解釈はちょっと気になるところがあって観た人と語ってみたい。 ヒロインのロシア人看護師ララがかわいい。

僕の名前はズッキーニ(2016)

クレイアニメ。ややダークな雰囲気を感じて構えながら観てしまったけれど、気楽に観たらいいと思う。ちょっと泣ける。かわいい。ネグレクトされていた少年が保護施設に入ることになって、絶望していたけれど、みななにかを抱えている入居者たちと出会って・・・というはなし。やっぱり、力を合わせて困難を乗り越える物語はわかりやすくてよい。みんな幸せになってほしい。

エスタデイ(2019)

最近はガジェットとゲームの話ばかりのポッドキャスト、rebuild.fmで触れられていて知った。 売れないシンガーソングライターの主人公が、交通事故にあった病院で目を覚ますとなぜかビートルズを知っている人が自分以外誰もいなくなって、そこで記憶を頼りにビートルズの歌を世に出して音楽業界でサクセスしていくけれど、自分のものではないという悩みが離れないなかで・・・というはなし。 やっぱ、ビートルズ、よい・・・。うしろめたいサクセスストーリーというのは新鮮だったけれど、ビートルズからしかたない感はあってさわやか。

そして、本人役で出演しているエド・シーランがよすぎる。ファンになった。印象的なセリフ「お前はモーツァルト。おれはサリエリだ」。ヒロインと主人公の関係もよい。けっこう笑えて楽しめます。ロッキーがいいキャラしている。

若草物語(1949)

父が南北戦争に従軍牧師として出征したあと母と女性だけ暮らす4姉妹の物語。主人公である二女のジョーは家庭に入るなんてまっぴらと小説家になることを目指しているが、仲の良い姉妹も成長する中で変わっていき、ジョーの生活や考え方も変わっていく・・・というあらすじ。

これは本当すごい作品だと思う。物語としてもこの女性の自立にも触れた原作が1868年に出版されたの信じがたいし、映画としてもテンポやキャラクターの描き方がすごい。最初の数分で4姉妹の性格の違いが明確にわかる。19世紀末のアメリカの生活もみてとれておもしろい。いろんな登場人物の感情、恥ずかしさ、怒り、悲しさどれもわかって動かされる・・・。親目線で観てしまって泣けるけれど、子ども目線でみてもおもしろそう。いまの子どもがみてもおもしろいんじゃないかな。 ただ、落ちぶれた中産階級、という設定の割には恵まれすぎかも。明るい家庭感はちょっと今の日本からはまぶしすぎる気もする。

若草物語 1&2

若草物語 1&2

帰ってきたヒトラー(2012)

死ぬ直前のヒトラーが現代にタイムスリップして、そこで生活しつつも徐々にプレゼンスを獲得していく・・・。 これは、すごい映画だと思う。笑いながら観てしまいそうな風刺でありつつも、はらはらするおもしろさもあって、ひやりとするところもある。独裁者の恐ろしさというよりも、それを受けて信奉と言っていいほどのめり込んでしまう人々がいることの恐ろしさを描いていると思う。地域や学校で観て議論するといろんな視点がでてきそうな気がする。

ヴィンセントが教えてくれたこと(2014)

気難しい老人と引っ越してきたばかりの少年が出会って育まれる友情・・・というと、ほのぼのっぽいんだけれど、けっこう破天荒でよい。

上記の「僕の名前はズッキーニ」でもあったんだけれど、いじめっ子にいじられて、でも気弱に見えていた主人公が暴力によって打倒してその後、いじめっ子と仲良くなるという展開があった。やはり暴力がものごとを解決する・・・。少年の成長と冒険はよい。笑えもするし、アメリカのシングルマザーの苦労もわかる。

子どもを一人で家においていくことができない環境でのシングルマザー、たいへんだよなあ・・・。あとアメリカの描写はレトロすぎる気もする。

Re:LIFE(2014)

同名のラノベの影響で検索するのが難しい映画。過去に一回大きな賞をとったけれどその後鳴かず飛ばずの脚本家が大学で脚本を教えることになって最初は手抜きでやっていこうとするけれど学生と触れていく中で徐々に・・・。というあらすじ。諦観していたおっさんがしっかり生きていく話しもよい。

いろんな映画ネタが出ているので映画好きは楽しめるかも。自分はあまり映画を観ないのでわからないものが多かったけれど自分が好きな、いまを生きる(Dead Poet Society)、がでてきてよかった。高校のときの三郎先生が授業で紹介してくれた映画でこれもおすすめです。

劇中、スターウォーズオタクの生徒だけ救いがなかった気がして、ナードはつらいとなった。かれのその後だけ気になる。

ブリジット・ジョーンズの日記(2001)

主人公、体張りすぎでは、と思った。ちょっと共感性羞恥でみてられない場面も多かったけれど幸せになってほしい・・・。あと、登場人物の名前から、これ高慢と偏見では?と思ったらそうだった(もちろん原作を読んではいなくて、「高慢と偏見とゾンビ」を観て知っていたのでした)。名作をなぞるというのは背景知識があるとより楽しめるはずなんですが、知らなくても楽しめます。

メイジーの瞳(2014)

人気バンドのボーカルの母親と美術賞の父のもとにいる少女メイジー。不仲な両親に翻弄される生活のなかで・・・というストーリー。誰に肩入れしようかと観てしまうけれど、先入観が覆されるのはおもしろい。楽しい場面もありつつ、薄氷を踏むような気持ちになる。子を自分の所有物と思ってはいけない。

あと、内装や調度がこれまでで一番洗練された映画であった。観葉植物の配置、バルコニーからコーヒーカップまで。夫婦の険悪さによって引き立つのか素敵な空間ですこし憧れてしまった。こんな部屋に住もうと思ったら日本だとどれくらいかかるんだろう?おもちゃでたくさんの子ども部屋は、両親の愛情表現の拙さを思わせはするけれど・・・。

最強のふたり(2011)

フランス映画。全身麻痺で頭より上しか動かせなくなった大富豪と、ひょんな気まぐれで介護人になることになっ貧しい黒人の主人公。そのちぐはぐな生活の中でなにがおきるか・・・。という映画。 社会階層の極端に違うもの同士の友情、というのがわざとらしすぎるところもあるけれど、空気を読まない主人公がまわりを感化していくというのおもしろい。フランスの移民コミュニティの貧困さも描かれていた。実話をもとにしているというのもすごいけれど、文化の違いを理解しえないものとして描きすぎかも?お金持ち描写としては、現実感がなさすぎるほど。

ニューシネマパラダイス(1988)

なぜかラストアクションヒーロー的なメタ映画かと思っていたけれど、そうではなく、シチリアの娯楽は映画しかない村に住む少年の、映画館を軸として半生を描いた作品。 映像も音楽もつよいし昔のイタリアの生活がなかなか過酷でおもしろいんだけれど、なによりヒロインのエレナがかわいい。しかし最後は・・・。トレードオフを感じる。従軍後の主人公はなにができたんだろう。 切ない話しだなあ、と思ってWikipediaを見ると完全版というものがあるらしくあらすじをみると結末が全然違って驚く。そっちはわりとひどいと思うんだけれどどうなんだろう。

ローマの休日(1953)

名作と言われている作品。 ヨーロッパの小国の王女様が外遊先のローマでお城のような宿?から抜け出して・・・。というあらすじ。アン王女の危なっかしさにひやひやはしましたが、いい映画。ローマの街並みや当時のおおらかな文化がおもしろかった。下宿がよすぎるし床屋がいいキャラしていました。

トップガン(1986)

スタイリッシュ戦闘機映画。手に汗を握る感がすごい。映像がよいし話が分かりやすい娯楽映画。なんか演出というか空気感は機動戦士ガンダム0083を連想した。やっぱり才能ある主人公の挫折と克服は物語として強い。ヒロインで航空物理の教官のチャーリーがかっこいいかわいい。ってかこれニナ・パープルトンでは?やっぱり0083じゃないか。

カメラを止めるな(2017)

急に邦画です。めちゃめちゃ流行りましたね。なんとかネタバレを直接受けるまで3年耐えてようやく観ました。おもしろいのでネタバレを受けるまえに観ましょう。観た人と語り合いたくなる映画。

鍵泥棒のメソッド(2012)

半沢直樹のコンビの映画。ある殺し屋が銭湯で盛大にコケて記憶を失ってしまう。かれのぎっしり入ったサイフをみていた売れない役者をしていた主人公が銭湯のロッカーの鍵を交換して、そのまま人生を入れ替えていくが・・・というあらすじ。主人公の無計画・散らかりっぷりと殺し屋の几帳面な正確の対比が笑える。 いろいろ無理があるんだけれど。最後がよいのでいい映画です。

カノン(2016)

若草物語と同じく女姉妹とはいえこちらはテーマが複雑。アルコール中毒毒親モラハラ。とくにモラハラの描写は怖い。ぞっとする。いい意味でやきもきさせる演出面はすごかったし、それぞれ過去を克服するというはなしもよい(ちょっとわかりにくいけれど)。 姉妹・葬式からはじまるはなしとして、海街diaryも連想。これは映画の鎌倉感も好きです。

八日目の蟬(2011)

ある誘拐犯の裁判と、ある悩める若い女性のはなしから語られる過去にあった事件。 どんな気持ちで見せたい作品なのかわからないけれど同じ行動をとってしまうのがつらいし実の母かわいそう。 あと、ヤマギシ会をモデルにしたと思しきエンジェルホームの描写がよかった。ヤマギシズムの迫力よ。

詳しくは「洗脳の楽園」を読みましょう。

ムトゥ踊るマハラジャ(1995)

インド映画ブームの火付け役。ストーリーはいろいろ謎なんですが勢いがある。、おもしろい気がする。主人公がudonchanに似ている。あと、タオルをシュッシュとしたくなります。日本とは全然違うタミルなインドの文化とか自然が垣間見えておもしろい。

バーフバリ 伝説誕生(2015)

勢いすごい。ストーリーはさておきパワーがある。いわゆる貴種流離譚で英雄譚です。神話。

最高の人生のつくりかた(2014)

凄腕の不動産営業をやっている引退間際の偏屈な主人公が、音信不通の息子が刑務所に入ることになってその幼い娘を預かってほしいとやってきて仕方なく預かることになって・・・というあらすじ。 はなしは、偏屈な主人公がすこしずつ心をひらいていくというもの。よいはなし。なんだけれど、それより、舞台の湖畔の情景がよすぎる。コネティカット州らしいです。車も服装も古き良きアメリカとして描きすぎなような気もする。ヒロインのリアがかわいい(撮影時67歳!?!?)

手紙は憶えている(2015)

老人ホームで妻をなくした高齢で痴呆症の男性が、記憶があるうちの約束で外に抜け出す。その目的は・・・。というミステリ。観ていてはらはらする。ある仕掛けについてオっとなったけれど、そうはならんやろ感はあった。緊張感のある映画。

ヒトラーの忘れ物(2015)

第二次世界大戦でのドイツ降伏後、デンマークではドイツ軍の少年兵の捕虜たちに地雷除去させようとしていた。その過酷な様子を描く・・・。こんなことがあったのは知らなかった。シベリア抑留に匹敵するような過酷さ。映画によって、凄惨な歴史を伝えるというのは、どうしても悲劇として描くことになって事実を脚色してはしまうけれど、伝えるメディアとしては強いんだろうなあ、と思った。

演劇

映画だけじゃなくて演劇(宝塚)もよくみた。 コロナの影響で、妻が家でも楽天でライブビューイングでみているのに付き合ったり、妻が友達から借りてきたDVDをみるのにつきあったのだった。

ピガール協奏曲(2020月組)

女性が男装する宝塚のなかでもさらにトリッキーな配役。 ヒロインの女流作家のキャラクターがかっこいい。おもしろかったし、複雑な配役の演出の妙が意表を突かれた。 ただ、はなしとしてはちょっと無理がありすぎ感は否めないけれど、こんなものか・・・。

NOW ZONE ME(2020)

雪組トップスターの望海風斗さんのライブ。3パターンあって2パターン観た(妻は3パターン観た)。 なんというか、セルフパロディがすごい。うっすらとはいえ意外と元ネタがわかっておもしろい、 仮面ライダーオーズの主題歌が歌われていて嬉しい。

食聖(2019星組)

星組トップスター紅ゆずるさんの退団公演。 阪急の駅でポスターをみたときは、料理人のはなしか?くらいにしか思っていなかったけれど、少年漫画的・グルメバトル漫画なわかりやすいストーリーでおもしろかった。派手でしょうもないジョークも多くて楽しめた。わりと好き。宝塚のイメージとはけっこう違った。

ポーの一族(2018花組)

人間社会に潜む不死者の一族の生き残りもの物語。原作は萩尾望都先生のマンガです。 花組トップスター明日海りおさんの妖艶な美少年の演技はすごい。ただ、物語としては、不死者ならではの時間を経た部分がうまく描かれていなくてちょっとよくわからない気もする。

春の雪(2012月組)

三島由紀夫原作。やっぱり明日海りおさんが妖艶な美少年を演じている。 才気走って破滅的な少年と従姉(?)の愛憎。物語も演出も迫力があってすごい作品だと思った。 この、恋焦がれる狂気に共感・追体験してしまいそうになるのはすごい・・・。原作も読んでみたくなりました(たぶん読まない)。

春の雪 (新潮文庫)

春の雪 (新潮文庫)

オーシャンズ11(2019宙組)

ハリウッドを宝塚化。仲間を集めて大きな盗みをするクライムアクション。 とにかくスタイリッシュで派手で楽しい。ただ、悪役が行儀の悪いことをしているとはいえ憎めない感じだったし最後のまっすぐさも狂気を感じて、物語としてはどうなんだ、と思った。

壬生義士伝(2019雪組

はじめてみる和物。妻は2019年に劇場でもみていたけれどDVDで自分も見る。そのとき、妻が「おもさげながんす」ばかり言ってた理由が分かった。途中までのビジネスライクなところと、土方歳三のしゅっとした感じはおもしろかったけれど、結末はえ、なんでその行動するの?と理解に苦しんだ。と同時にこの感情は、学生時代に読んだ百田尚樹の永遠のゼロでもあったな、と思ってググったら百田がこれを参考にしていたとのことではあった。どちらも大ヒット作だけれど、結論は露骨なお涙頂戴で自分は好きではない・・・しかし、この結末以外に物語を締める方法は思いつかない・・・。

宝塚まとめ

同僚の表現によると「ゆめゆめしさ」が宝塚の魅力とのことだけれど自分はよくわからなかった。感受性が違うのだとは思う。同じ演目を(アドリブがあって違うとはいえ)何度も観る妻ほどには嵌れていない状況です・・・。

まとめ

というわけでさまざまな作品をみました。もともとSFが好きだけれどこのところSF的な映画はとんと観ていません。評判のテネットをみるまえに、インセプションインターステラーとかを観ないと、と思いつつ腰が重い。

感想を書いていて気付いたけれど自分は前向きな気分になれるような映画が好きなのかもしれない。それは、逆境にめげない主人公であったり、人の変化が描かれているものなのかも。これは冒険できていない自分の人生の代償行為なのかどうかはわかりませんが・・・。

あと、映画をみたあとに(うすっぺらくとも)感想を言い合ったり、評論家のレビューを読んだりしたくなります。でもこれは、いま流行っている作品でないと難しいしやっぱりリアルタイムに劇場で観るべきなのかもしれない。

せっかく紹介したけれど、Amazonプライムではもう終わってしまったものも多くすみません。 おすすめ映画あれば教えてください。

コロナ禍についての雑感 2020年12月20日版

※このブログ記事は素人が感じていることを2020/12/20時点に書いた文章です。鵜呑みにしないでください。事実誤認があれば訂正しますのでお知らせいただけますと幸いです。

緊急事態宣言が出てから9か月、日本でも第3波が広がりつづけてGOTOトラベルを止めるという報道があった。 長期化して収まる目途がたたないなかで日々数字が流れていくニュースに感覚が麻痺したり、身の回りでは発生していないことからリスクを過小評価してしまいそうになる。事実、すでに第1波のときに感じていたことをちゃんと振り返れない気がする。そんなときに立ち止まれるようにいまの理解といま思っていることを書いておく。

1.COVID-19について

一部に新型コロナウイルスがたいしたことないし経済への影響が大きいから経済を再開させよう、という人もいるけれどアメリカでは死者数が累計30万人、1日に3000人が死ぬようになって、スウェーデンも100万人当たりの死者数が700人を突破し、イギリスやオランダでは再びロックダウンされるようになるなど、各先進国は存在しているものとして対応している。 これを無視してCOVID-19がたいしたことないとするのはかなり危ないと思う。

第3波の様子をみるに、一時期に山中伸弥教授が言っていた日本人が重症化しにくいのは未知の原因「ファクターX」があるのではという説もなさそうにも思う。一部で流行ったBCG接種が効いているのではという仮説も、パラメータが多いわりに結果のデータが少ない場面に陥りがちな罠、データ分析でいうところの次元の呪いの類ではないだろうか*1

第1波、第2波が収まったのも緊急事態宣言と国民の行動変容によるところが大きいように思う。そのため、周りでは発生していないという状況に麻痺したり我慢も限界にきて油断してしまいがちな長丁場では行動変容で流行を抑え続けるのは難しい。毎年猛威を奮うインフルエンザがほぼ広がっていないほどの対策をしているにもかかわらずじわじわと伸び続ける新型コロナウイルスはやばすぎる。

短期的にロックダウンしても一時的にしか止められないし、欧米の様子をみるに長期的にはますます被害が出るしでどうするといいんでしょう・・・。

2.政府の対応・GoToトラベルについて

感染リスクが高いことから利用者が減ってダメージを受けている観光・飲食やそのまわりの膨大な関連産業を救うためのGoToトラベルは、その見切り発車などプロセスに不透明なところがあって批判がある。

とはいえ、大きな産業で雇用や文化を守るためには有用だと思う。直接給付よりも裨益するひとも多い。もちろん、家にいるよりは感染リスクはあるけれど、これまでの運用と状況をみるに、すくなくとも非拡大時期/地域には感染拡大にはそうつながっていないのではないか、とも思う。そういう意味でそう悪い政策ではないと思うし、これ以上の政策は思いつかない(細部の運用面ではいろいろ問題もあるけれど)。リスクがあるからやめよう、というのは、放射能の危険があるから福島のもの食べないでおこう、というくらいゼロリスク信仰でよくないと思うのです。ほかの合唱コンクールやカラオケや居酒屋のほうがリスクは高そうだし。

ただ、GOTOトラベルを継続しているということは外に出ていい、というメッセージに受け取られる節もあるので、政府がちゃんと少人数で安全にやってね、とメッセージを出し続けてほしい。

あと、過酷な勤務のなか、病院から旅行を禁じられたり、世間から穢れ扱いされるなど過度なストレスのもと働いている医療者が安易に旅行して感染した人の対応をするなかでなんでいまGoToするのと恨みごとをいって反対する気持ちも少しはわかる・・・。 経済かコロナ対策かというのはナンセンスな二項対立だけれど、ここまで広がったCOVID-19をなんとかするのを待っているといろんな産業が不可逆に死んでしまうので、短期的にも感染拡大させずに経済を動かすにはどうしたらいいんでしょう。ほんとは、ニュージーランド・台湾のように第1波での緊急事態宣言・ロックダウンをもうすこしこらえていたら・・と思うけれど、そのときの見える情報では仕方ないしたらればなのでやめておきます。

また、このあたりは党派性(安部のやったことは全部悪いことだ、とか、政府の取り組みに反対する人間は足を引っ張る愚かものだ、とか)があって、ネット上での議論は難しい。 少なくとも、政府としての姿勢を示して、専門家を重視して、失敗したときに備えてプランBを用意して、(関係者の納得度をあげるためにも)意思決定のプロセスをなるべく透明化してほしい、とは思う。これは自民党を支持している人も、そうじゃない人も合意できるとは思うんですがどうでしょうか(インターネット党派性バトルにならないように自分の支持は書かないようにしておきます)。

ここらへんは危機管理のノウハウの基本だと思うのです。かつて自民党政権下で内閣安全保障室長を歴任した佐々敦行の危機管理本を政府の中の人には読んでいてほしい・・・。

3.専門家について

未知の事象でデータも足りない問題でたくさん学説や提案が出るのは当然。だけれど、立派な肩書を持ちつつも論理的に議論できなかったり、社会的な影響を軽視する学者や医師もSNSでよくみられた。

具体的な例をあげると、K値というたまたまデータにあった予測曲線を提示して無責任な予測をする専門家がいたこと。メディアや一部の自治体がとりあげたのは暗澹たる気持ちになったし、それを自分も尊敬する経済学者がとりあげてそのあと、予想が外れたことが明らかになったあとに何も発現しないでいるのはちょっと残念だった(これは5月時点に得られる情報で、仮説として提示するのはあってもよいけれど、国民の行動変容による効果を無視しているのでなにかの意思決定に利用されるべきではない*2)。

とはいえ、その人なりに見つけた仮説、それも政府の専門家が気付いていないと思ったものを社会全体のためにと提示するのはいいことだとは思う。だれでも意見交換できるインターネットでそれを提示して議論され補強されたり穴を指摘されることは、昔夢見ていたインターネットの理想ではある。けれど、実際には、意見ではなく人格を批判してしまったり、またそれによって頑なになってしまったりでオープンで自由なコミュニケーションは学のある方たちでも難しいという現実を再確認できた。

4.検査について

Twitterを眺めていると、検査についても広げるべきか広げないべきかという議論が何度も繰り返されて、何度もかみあっていなかった。 これも問いの立て方で変な対立になってしまっていたのかな、とあとあとになっては思う。 医師が必要と判断したときにすぐ公費で検査できるような体制にされるべき、というのはだれも反論はないと思う。 クラスターを抑えるための一定のエリアでの一斉検査もできるようするかどうかや、陽性と出てもなにもアクション出来なかったり、陰性と出ても一時的な免罪符にしかならないというのが伝わりにくい民間の検査をどうするかは個別に議論されるべき。

検査能力がいま十分かどうかはわからないけれどその拡充がいまの保健所・医療現場の逼迫具合のもとの無数にやるべきことがある中でどれくらい優先度があるかの判断難しい。都道府県が調整していそうだけれど、予算規模からなかなか思い切ったことはできていないように見える。

5.医療について

医療現場や行政の方はかなりストレスもあるし支援も少ないし、ほかの市民からも穢れのようにみられてしまっているし過酷。 まだまだ終わりの見えないCOVID-19のなかで根性と自己犠牲だけでは収奪的にすぎて短期的には現場が回っても長期的に医療のレベルを大きく下げることになりかねないのでは・・・と思う。

コロナ禍のまえから日勤後に当直して当直明けにまた一日働くという医師の異常な働き方に触れてちょくちょく書いているけれど、スタッフが持続的に働けるレベルまで医療のサービスレベルを落とさざるを得ないと思う・・・。医療のサービスレベルを落とすというのは、休日や夜間に事故があったら緊急手術が手配されにくくて死亡率が上がるとか、予約がとりにくくなるとか、自己負担があがるとか、町の病院では分娩はできないとか、そんなことで市民としてはつらいけれど仕方ないと思うのです。これは医療者からはなかなか言えないと思うので外野から言っておきます。

6.メディア

もともと期待していなかったけれど、データの読み取り方・出し方が雑だったり、謎のデマをしゃべる疑似専門家を登場させたりで、これが世論をつくっていってそれをベンチマークに政策が決まるのか・・・と思うと暗澹たる気持ちになった。とりあえずワクチンについてはHPVワクチンを誤報した新聞会社は撤回・謝罪して、その轍を踏まずに報道してほしいと思っています。

いまの安全とされているワクチンでも一定確率で発熱やけいれんの副反応はあるので、その一部のケースの悲惨さをとりあげて全体のよしあしに印象付けるのは危険。 承認プロセスに問題ないかとかを調査して、データのみかたとかをわかりやすく報道してほしい。

でも、市場経済下で視聴率/購読率をKPIにしている民間企業にこういうのを求めても仕方ない気もするけれど。

予防接種後の有害事象2019年3月23日 予防接種基礎講座

7.社会

急に箇条書きにしてみる。

  • 学生や新社会人はいろいろ制限されてたいへんそう。人生を翻弄されている
  • 男女の出会いも大きく制約されて、婚姻率や出生率もかなり下がりそう。自分も妻と出会う前にコロナ禍があったら出会えなかったし、いまも孤独に無聊を慰めていた気もする
  • オフラインでのコミュニケーションの価値の大きさを知った。社会参加できないことでネット以外で社会の広がりを持ちにくくなっている・・・
  • オンラインコミュニケーションで関係構築し知的生産するスキルをもった人は強い(これからのデジタルネイティブはそういう人が多くなる?)

いっぽうで、ニュートンがペストを避けて故郷に戻っていたことで微分積分万有引力の着想を得たように、なにか新しいものが生まれる時期でもあるかもしれない。 *3

8.自分

7月に子が生まれて妻も育休・産休でずっと家にいるのが自然な生活で保育園もはじまっていないこと、コロナで仕事がマイナスになる業界でもないことから世の中的にはもっとも影響を受けなかった層のひとつだとは思う。 妻は、出産前後の入院にだれも見舞いにこれないことを悲しんでいたけれど、これと実家に子の顔を見せに行きにくいくらい。恵まれているほうだとは思って居心地の悪さもある。

若い人が重症化しにくいとはいえ、母が間質性肺炎在宅酸素療法のすえ数年前に亡くなったのをみているからか呼吸器系の苦しみはわりと死の恐怖としてはあって不安は続いている(とはいえ、3-4月と比べたら慣れでか薄まっている気もする・・・)。

9.その他

  • 株高すぎ。世の中にお金余っているのもあるし、日銀が株を持ちまくっているのもある?健全ではないようにも思うけれど、どうなるんだろう・・・。なんらかの破局があるのか、意外とないのか。
  • 中国、あれだけ人口がいて、大都市が多いのにコロナが広がっていないように見える。なんでだろう?と思ったら物量の動員力が違うのもありそう。

news.yahoo.co.jp

  • mRNAワクチンすごい。このスレッドみんな読んでください。

  • 基礎研究はなにがどう役立つかわからないしで選択と集中は危険・・・ということで研究にちゃんと社会でお金を出すようになってほしい。

終わりに

100年前のスペイン風邪は集団免疫によって数年で鎮静したけれど、今回はそれが微妙だとするとワクチンの普及を待つしかない。日々流れる数字に麻痺してこれからどうなることかはわからないけれど、地域にお金を落としつつ自分は自分の仕事をするしかない。

仕事じゃないけれど最近 #つくりおき という料理ブログに投稿した記事を紹介しておきます。みんな料理しましょう。 tsukurioki.hatenablog.com

あと、先週末に近所を散歩してみつけた先の見えない紅葉の階段を貼っておきます。 紅葉の階段

*1:参考)忽那先生のBCGについての記事 news.yahoo.co.jp

*2:この記事が詳しかった www.covid19-jma-medical-expert-meeting.jp

*3:アイザック・ニュートン - Wikipedia

育児4か月目の雑感

コロナがニュースにのりはじめて10か月。第三波が広がってきました。経済はまた冷え込むだろうし苦労している会社と人間もかなり増えていそう・・・。財政出動で何とかしてほしいとも思いつつ、見通しがない。アメリカ大統領選も決着が着いて世界はどうなるでしょうか。 そんななかでも子は育ってきていているので最近の様子を書いておきます。

成長

  • 月並みだけれど日々できることが増えたり変化があって成長を感じる
  • 首の力も蹴る力も強くなってきて、ベッドに寝かせていると上方向に移動したりしている
  • 4か月検診で腹ばいにしたほうがいいと言われたのでちょっとはらばいにすると、首は力強く持ち上げるけれど手は動かせないし2分くらいで泣き出す
  • おもちゃを意図的につかむようになってきた(これまではたまたま指がひっかかったようにみえていた)
  • お風呂、スイマーバをつけて浮かしていると3日連続でぐずることがあった。調子がいいとすいすい動いて楽しそうではあるけれどなんだろう
  • 服も最初に買った60サイズは早くもぱつぱつになってきている
  • 遊び飲みというか、ミルクを飲みながら遊ぶようにもなって飲みきるまで時間がかかることも
  • 歌うように声を出すことがあるけれど、なにかに反応してというわけではない
  • 後頭部がハゲてきたけれど、義母・義祖母に聞くとそういうものとのこと。そういうもの?
  • ちょっとお腹の肌がざらついて湿疹が出てきた。アトピーの前兆とも言われているのでベビーローションを塗って保湿している。夏の間、保湿を油断していたかも・・・。
  • あと、最初、新生児向けの石鹸をつかっていたけれど、これは皮脂が多い新生児向けにアルカリ性で強いそうで、弱酸性のものに替えてみた。すこし改善してきているけれどまだ残っている
  • お食い初めをしました。この記事に書いています。これは、「つくりおき」といういろんな人が共同で筆いているブログです。みんな読んでください

tsukurioki.hatenablog.com

  • そろそろ離乳食!
  • あと、最近流行のハーフバースデーという6か月目にお祝いするイベント、また謎文化がつくられて・・・と斜に構えてみていたけれど、SIDSの頻発時期を越えたというマイルストーンではあるのかもしれない。と思えてきた

生活

  • 最近は22時すぎにお風呂に入れて遊んで23-24時に寝かせて8時ごろに起きるのでミルクをやる生活を送っている
  • ここしばらくは夜も泣かないので楽。だいぶん苦労されている方もいるのでありがたい、と思うことにしている
  • しかし、よく読まれている名著らしい「子どもへのまなざし」によれば、夜、泣いてもほったらかすのを2-3日か2週間たつと誰でも夜泣きしなくなるけれど、それは我慢強さとは逆に、すぐあきらめるようになってしまう。泣いてもかまっていくことが信頼感と我慢強さをもたらす、とも書いてあったので良し悪しなのかも。まあこの本は小児科医の経験をもとにしているとしてもやや主観的な部分も多いですが

子どもへのまなざし (福音館の単行本)

子どもへのまなざし (福音館の単行本)

  • とはいえ、たまに抱っこしていないとぐずりつづけることがある。義母に預けて、出産後はじめて妻と2人で飲みに行ったときはたいへんだったらしい(結婚記念日鮨)。妻が観劇にいくため丸一日見ていた時もわりと頻繁に泣いてなかなか物事を進められなかった。

  • 一度、ベビーカーで電車に乗って外食に行ってきた。移動中はおとなしいので意外と楽だったけれど世の中のバリアがいろいろみえる。エレベータがかなり遠回りしないといけなかったり、段差があったり。車いすのひとのたいへんさ、全然気付けていなかった・・・。

  • 新しい施設は便利で、今年5月にリニューアルした烏丸御池新風館は授乳室に調乳用のお湯もあったり、ハイテクなオムツゴミ箱がありました。
  • 新風館内のOyOyという本と野菜のお店が美味しいのでみんな行きましょう。じつは勤め先が運営しているお店です(ダイレクトマーケティング

oyoy.kyoto

これまでの取り組み

dai.hateblo.jp

dai.hateblo.jp

dai.hateblo.jp

育児3か月目の雑感

今のところ順調に育っています。 日々、新しい声やしぐさをして見ていて面白い。首もほぼ座ってきて夜の睡眠時間も増えて手がかからなくなってきています。ただこれは動き出す前の束の間の休息なような気もしています。 今日は子が生まれて初めて妻が友人たちと宝塚まで観劇に行っているので、初めて自分だけで一日見ているんだけれど(抱いたままこの文を書いています)、いつも以上に泣いている気がしてやっぱりたいへん。育休で一日子どもと一緒にいつづけるの過酷だと思う・・。

f:id:daaaaaai:20201025112909j:plain
3か月目

成長

  • 笑ったりするようになってきた
  • 人の顔をじっと見る。妻と覗き込んでいると交互に見たりもする
  • 手でつかむことができるようになってきた。シーツもひっぱるしベッドから持ち上げるとタオルもついてくる
  • 太ももが太くなってきた
  • よだれが出る量が増えてきてようやくスタイの必要性がようやくわかってきた
  • ミルク飲む量が増えてきて、乳首をSサイズからMサイズにあげた

生活

  • 夜は8-9時間寝る
  • 23時ごろに寝かせて朝7時まで寝てる。ここ2-3週間は夜泣きもしない。偉い。朝はオムツがどぼっと重い
  • 朝起きたら3-4時間ごとにミルクを求めて泣く
  • 眠くなることにもなぜか泣く
  • 夕方ぐずりつづけるときがある(黄昏泣き?)
  • お風呂、スイマーバをつけるとすいすい動く
    • スイスイ泳いでて見ててあきない。あとでも触れます
    • ほっておくと死亡事故もあるので注意。でも基本大人がずっとみていると大丈夫だと思う
  • 保育園の申請した。結果は2月
  • 週2回の燃えるゴミの日にオムツがちょうどいっぱいになっている
  • 季節の変わり目だし体も大きくなるしで服が難しい。どんどんサイズアウトしていく
  • 家事はたいへん。帰宅してからミルクをやってご飯作ってたべてお風呂に入れてミルクをやって寝かせて洗濯して、で時間が溶ける。妻の職場復帰したら保育園送り迎えもあるしどうしよ、と恐々としている。みんなどうしているんでしょうか
  • 仕事や学習に割ける時間が減ってきてる
  • 週に1-2回リモートワークしているけれど、合間に育児手伝いできて、通勤時間レスでよい(ただ、総合的なパフォーマンスはまだ出社したほうがよい・・・)

乳幼児突然死症候群SIDS

SIDSが怖い。2か月から6か月までの子どもが原因不明で突然死する病気。 4,000人に1人くらいの頻度で発生しているとのこと*1。 喫煙や添い寝やうつぶせ寝や粉ミルクがハイリスクとのことだけれど原因不明。 シアーズ博士夫妻のベビーブックにも10ページくらい紙幅が割かれている。

うちは粉ミルクに頼っているので心配しすぎな気もするけれど、安心料としてスヌーザヒーローというセンサー使っている。おなかの(呼吸の)動きを検知して、15秒止まったら振動してさらに反応がなければアラームが鳴る10000円くらいのデバイス。最初はうまくつかなくて普通にいる時にもアラートがなって使い物にならないのでは、とも思ったけれど、オムツの縁を二重折にしてつけたら問題なさそう。

実家にいった

コロナで往来が途絶えていたけれど、やや感染も静まっている時期で、首も座って旅行に出やすいと踏んで行ってきました。父からはうちに泊まれば、と言われたけれど、お互いに気を遣いそうなので、前泊して部屋食・部屋に露天風呂がある地元の温泉に泊まる。GoToトラベルや地域共通クーポンでかなり割安。だけれど、お客さん少なくてたいへんそう・・・。

翌日に実家や祖母宅を訪れて、父と2人の祖母に抱いてもらえて目的達成。みんないい顔してた。 母が生きていたらどんなリアクションをとったか気になるところ。年末年始は行けない気もする・・・

温泉がよかったとか2005年生まれの弟がでかくなってたとかいろいろあるんですが、20年ぶりにいった麵房つるつるのかつ丼がうますぎたのでみんな福井にいって食べてください。

こういう、子連れで行きやすいお店が近所に欲しい。

お風呂グッズ(スイマーバや前回触れたお風呂マット)、電気ポットやベビーカーなども積んで大荷物。やっぱ車は便利・・・。

最近の便利グッズ

・電気ポット。これまでも便利だなー、と思っていたけれど車で出かけるときにどこでもお湯をだせて超便利。缶ミルクでいい説もあるけれど。3リットル入るやつを使っています。

・スイマーバ。kumagiくんのブログで触れられていた。便利。楽しい。

kumagi.hatenablog.com

ユニコーンデザインです。

・hoppetaの着るガーゼタオルみたいなやつ。 最近寒くなってきて朝、手足が冷たくなっている。でもバスタオルをかけても蹴り飛ばすし、布団をかけると窒息が怖い。というわけでこれ。窒息の危険がないし着せやすいし蹴り飛ばされない。朝の手足の温度が明らかに変わった。出産祝いでいただきました。

ビジネスモデルとしてのプラットフォームの分類

1. プラットフォームを整理する目的

プラットフォームという言葉はあいまいです。同じ言葉を使っても、思い描くプラットフォームが違っていて会話が噛み合っていない場面を2,3回経験しました。

自分も、坂ノ途中にて、環境負荷の小さい農業に取り組む生産者さんと買い手をつなぐプラットフォーム、ファーモを開発する中でいろいろ悩んだり迷子になったりしてきました。プラットフォームの概念を整理して、建設的な議論するための土台とするために書いてみます*1。学術的ではありません。プラットフォームを成長させるための手段については別記事で整理する予定。

"platfome"のもともとの意味は「たいらな土地」。駅のプラットホームもこれで広い意味があります。「基盤」と訳されることもあってさまざまに使われています。 投資家やメディアに受けるバズワードとして流行ったことも原因。たしかにプラットフォームという言葉はかっこいいし、「基盤」も日本人が大好きな言葉。自分も好きです。

この記事では、ビジネスモデルとしてのプラットフォームについて扱います。ビジネスとつけてはいるけれど、ちょっとだけ行政主導のものも含みます。

また、この記事ではコンピュータのOSやハードウェアなコンピュータプラットフォームは扱いません。 wikipedia英語版の記事が事例も多いのでよければ参照してみてください。ただ、OSやゲームプラットフォームなどビジネスモデルとしてのプラットフォームと境界が曖昧なものもあります。

Computing platform (Wikipedia)

2.プラットフォームの定義

近年、AirbnbUberの急成長を受けて、そのようなマッチングをベースにしたサービスのことをとくにプラットフォームと呼ぶむきがでてきて、本も多数出版されています。3冊読んだので紹介します(まあまあ時間がかかった・・・)。

ひとつはアレックス・モザド、ニコラス・L・ジョンソンによる「プラットフォーム革命」*2

本書ではこう定義しています。

プラットフォームは消費者とプロデューサー(モノやサービスやコンテンツを作ったり提供したりする人) を結びつけて、モノやサービスや情報の交換を可能にするもの

その詳細として、こうも書いています。

プラットフォームとは何か。それは複数のユーザーグループや、消費者とプロデューサーの間での価値交換を円滑化するビジネスモデルだ。この交換を実現させるために、プラットフォームは、ユーザーとリソースからなり、好きなときにアクセスできるスケール化可能な大型ネットワークを作る。また、プラットフォームは、ユーザーが交流し、取引ができるコミュニティーと市場をつくる。

次いでジェフリー・G・パーカーらによる「プラットフォームレボリューション」という似た邦題の本も出ています。 原題はそのまま"Platform Revolution"なので前述の本が先にプラットフォーム革命という邦題で出版されたとき出版社は困ったのではないかと思います。サブタイトルは"How Networked Markets Are Transforming the Economy"。

本書での定義。

「プラットフォーム」とは、外部の生産者と消費者が相互にインタラクションを行うことにより、価値を新たに創造することを基本とする。プラットフォームは、相互に関係しあえるようなオープンな参加型のインフラを提供するとともに、そのインフラのガバナンス(統治) の条件を整える。プラットフォームの全体的な目的は、ユーザー間で完璧なマッチングを行い、製品やサービス、社会的通貨を交換しやすくして、全参加者にとって価値を創造しうるようにすること。

プラットフォーム革命と同じような内容です。ビジネス書としては、こちらのほうが洞察や事例が豊富な印象でどれか一冊読むならこれがおすすめです。

3冊目はセカンド・マシン・エイジの著者アンドリュー・マカフィーらによる「プラットフォームの経済学」。 原題は"Machine, Platform, Crowd :Harnessing our digital future"なので、直訳して機械(AI)、プラットフォーム、群衆と並んでいるものからまたもやプラットフォームがフォーカスされている。日本人はプラットフォームが好きだと出版社が判断したんでしょう・・・

本書での定義はこう。

プラットフォームとは、アクセス、複製、配布の限界費用がほとんどゼロのデジタル環境

それってデジタルコンテンツそのものでは?ただ、特徴としてはこうも書いています。

ハイペースで成長すること、そしてプラットフォームの所有者と参加者の両方に価値を提供できること、としています。そのほか、1 早い時期に地位を確立する。 2 可能な限り、補完財の優位性を活かす。3 プラットフォームをオープン化し、幅広く多様な供給を募る。 4 参加者に一貫性のある心地よいエクスペリエンスを提供するために、供給サイドに対して一定の基準を示し、審査をする、という特徴を備えている

定義では広すぎますが、供給サイド、参加者、という言い方からマッチングを想定しているようではあります。

前2冊の定義は、ヤフオクやメルカリなどのオークションのほか、クラウドワークスなどのクラウドソーシングがわかりやすいですね。

流行語にもなっているGAFAだと、広告主とWeb閲覧者を結びつけるGoogleアプリ開発者とユーザを結びつけるAppleGoogleandroidも)、出品者と購入者を結びつけるAmazonAWSについてはこの定義には沿わない?)、コンテンツ作者と読者を結びつけるFacebook(記事を作成しない最大のメディアでもある)はプラットフォーム。

これらの定義に従うとeBayなど、2000年以前からあったサービスも多いですが、近年、プラットフォームというカテゴリがつくられて盛り上がっているのは、AirbnbUberが社会問題になるほど世界に影響を及ぼしてきたからではないかと思われ実際に3冊とも、この二社の事例にかなり紙幅をさいています。ビジネスモデルとしては手放しに称賛していますが、コロナの直撃したAirbnbやgig workerの労働問題が社会問題になっているUberなど一筋縄ではありません。

ただ、2冊ともプラットフォームとしては営利企業が運営するWebサービスを念頭においているようで例としてもITスタートアップについてしか触れていないのは狭いと感じます。例えば、日本では公設でも民営でも卸売市場は消費者とプロデューサーを結び付けているし、ハローワークも近い。もちろんどちらも物理的な場所の制限があり、各書でプラットフォームに期待している資産を持たないことでの青天井のスケーラビリティはないという違いはあります。

補足:プラットフォームではないもの

ちなみに、前2冊は、プラットフォーム"ではないもの"に名前をつけています。プラットフォーム革命では「直線的なビジネスモデル」、プラットフォームレボリューションでは「パイプラインビジネス」。どちらも、ものやサービスを生産者から仕入れて、それを加工するか仕分けるか調整して付加価値をつくって消費者に販売するビジネス。トヨタラーメン二郎も農家も同じです。そしてプラットフォームはそうではない。

そして、誤解されやすいのですが現代のソフトウェア企業の多くとSaaSのほとんども、商品はデジタルだけれど、その価値は企業から顧客へと一方向に流れていく直線的ビジネスです。大きな違いは、ソフトウェア企業は、ITによる限界費用の安さから恩恵を得ている点。と、プラットフォーム革命では書いています。

プラットフォームかアプリか、と表現することもありますが、FacebookGoogleAmazonの例にあるように、アプリとして覇権をとることがプラットフォームにつながる道でもあるので二者択一ではないと思っています。

もうひとつ違うのは、プロダクト・プラットフォーム。これは、複数の商品の基礎となる共通の製法や部品です。たとえば、トヨタのTNGA(Toyota Next Global Architecture)*3。プラットフォームレボリューションではこれらをプラットフォームと呼ぶのは誤用とまで書いていますが、もともと定義もなく広い意味の言葉なので誤用は言い過ぎかとは思います。

重要な要素:拡張性について

拡張性、第三者による開発のしやすさはプラットフォームの重要な要素であって、一番プラットフォームについてのイメージがわかれる原因だと思います。

これの有無がプラットフォームかどうかを分けるわけではないけれど、質を変えうるもの。 たとえば、初期のTwitterではAPIを公開することでサードパーティTwitterを利用するさまざまなアプリを開発できてエコシステムができてユーザを増やすことができた。

また、SalesforceFacebookではプラットフォーム上でサードパーティアプリをプラグインすることで機能を拡充してサービスとしての魅力を高めました。 日本だとfreeeも取り組んでいて多数アプリがそろってさまざまな外部サービスと連携できます。ソニーのカメラもアプリストアがあります。

これ自体がプラットフォームの目玉となっているものにAndroidGoogle PlayiPhoneapp storeがあってマーケットとして成功していますが、app storeはフォートナイトともめています。いち民間企業のマーケットがデファクトスタンダードになりつつあっての社会的責任をどれくらい持つべきか議論になっています。

プラットフォームレボリューションでは、これを、インテグラル型ではない、モジュール型のプラットフォームと表現しています。 自分は、ソフトウェア開発の、伽藍とバザールでいう、バザールモデルに近いのでは、と思っています。

伽藍とバザール(The Cathedral and the Bazaar) 山形浩生訳

特に、初期の、APIを開放したTwitterや、SNSとしては後発ながらプラグインで機能を拡充して覇権をとったFacebook。 ただ、プラットフォーマーは胴元としてベンダーの生殺与奪権を握るという意味では、みな中央集権で、TwitterAPIを閉じたりしてサードパーティを切り捨てたり、FacebookAPIを急に変えて参加企業を閉鎖に追いやったりして、真の意味でのバザールモデルではありません。

本当のバザールモデルでやっているプラットフォームがあるかどうかは気になっているのでよい事例あれば教えてください。GitLabは近いけれどちょっと違うかな。

余談ですが、このあたりはネットスケープ創業者のマーク・アンドリーセンがプラットフォームには3つのレベルがあるとしている2007年の記事とつながっています。彼はプラットフォームを「プログラミングできるもの」として定義しているので今回対象とするプラットフォームとは違いますが着眼点は鋭い。*4

www.atmarkit.co.jp

3. プラットフォームの分類

さて、ようやく定義がでそろいました。各書でも微妙に違ったり、ちょっと不満なところもあるので自分なりにまとめていきます。漏れもあるし重複もあります。

プラットフォームレボリューションでの、交流型・交換型・交差型という分類と近いですが具体例がなく交差型がなんなのかはわかりにくいので名前も含めて分類しなおしています。

3.1 交流型プラットフォーム

  • 情報を書くひとと消費するひとをつなげるサービス。大多数のSNS。自分と多数という意味で1対多。
  • だれかと交流できるから、プラットフォームの価値が向上していく。
  • 生産者と消費者の区別がない。ただ、instagramcookpadのように、カリスマ生産者については後述のコンテンツ型とも近くなっていく。
  • 世界の例)FacebookTwitterInstagramなど
  • 日本の例)LINE、みてね、マチマチやsansan、爆サイはてなブックマークも?

3.2 マッチングプラットフォーム

  • 生産者と消費者を1対1でつなぐ。生産者にとっては、顧客を、消費者にとっては必要なものやサービスをすばやくマッチングできるからプラットフォームの価値が上がっていく。ツーサイドマーケットプレイスともいうらしいです。
  • 世界の例)ドライバーと乗客をつなげるUber、使っていない部屋と旅行者をつなぐAirbnbなどのシェアリングエコノミーをなすプラットフォームや、オンラインデーティングアプリなどのマッチング
  • 日本の例)メルカリ、ジモティー、クラウドワークス、ポケットマルシェなど。ハローワークもこの一種。
  • デジタルなサービスの場合、たとえばクレジットカードやモバイル決済もこの一種。

3.3 コンテンツプラットフォーム

  • 任天堂Netflixのような、コンテンツを作る側と、利用者が分かれているようなプラットフォーム
  • また、AndroidiPhoneのようなアプリのマーケットもこひとつ
  • 期待のコンテンツやアプリがあるから消費者は参加するし、コンテンツ提供者もそれでますます参入してくる
  • ゲーム、配信、また、交流型でもあるinstagramでもインフルエンサーのような、読者と読み手が分かれているものはこちら。
  • 映像コンテンツなどコンテンツのコピーが容易な場合、コンテンツ提供者は複数のプラットフォームに参加できるため、プラットフォームで覇権をとるのが難しいように思う。

3.4 メガプラットフォーム

  • GAFAM: GoogleAmazonAppleFacebookMicrosoft
  • BAT: Baidu, Alibaba, Tencent
  • 巨大すぎてうまく分類できないし、上触れてきた3冊の本でも意外なほど触れられていないんだけれど、これらの企業がプラットフォームだということに異論はないと思う。
  • 先にも触れているけれど、広告主とWeb閲覧者を結びつけるGoogleアプリ開発者とユーザを結びつけるAppleGoogleandroidも)、出品者と購入者を結びつけるECと、kindleで本の作者と買い手をつなぐAmazonAWSについてはこの定義には沿わない?)、コンテンツ作者と読者を結びつけるFacebook(記事を作成しない最大のメディアでもある)はプラットフォーム。MicrosoftはOS、Officeでつなげている。
  • そして、それらのデファクトスタンダードに近いサービスから、データとキャッシュを集め、関連サービスをつくってスタートアップを買収して多角化してさらにデータを集め強力になっています。
  • ただし、AppleiPhoneでは最初はappstoreをやるつもりがなかったことや、AmazonもEC、Facebookもアプリとしてはじまっていて、Google検索エンジンというアプリからはじまったことを思うと、どれも最初からプラットフォームになろうとは思っていなかったことは、メガプラットフォームに限らず、プラットフォームになるための重要な示唆があるように思えます。
  • これらの企業がある中で、これらの規模のサービスになる方法は、わからなさすぎますが、いわゆるスーパーアプリが近いかもしれません。

komugi.jp

まとめ

というわけで4つに分類してみました。それぞれマーケットごとに工夫があったり、エコシステムがあります。

では、プラットフォームをどうつくって、伸ばしていくか。成功したプラットフォームや失敗したものの振る舞いから成功するための方法論や知見が取り出せるはず。 次回、特にマッチングプラットフォームの伸ばし方について、各書や、自分が考えたことをまたまとめてみようと思います。 ポイントは、生産者と買い手をつなぐ一番重要な取引、いわゆるコアインタラクションに集中するか、だと思っています。

余談:行政のプラットフォーム

あとあと、上記の分類でうまく振り分けられなかったけれど行政もプラットフォームを冠する事業をいろいろやっています。 例えばこんな感じ。会議体からソフトウェアまでさまざまでこの文章で扱ってきたプラットフォームとは違うけれど。

近い領域でデータ提供者とデータ利用者をつなぐようなサービスは、存在すればプラットフォームだけれど、このデータのハブとでもいえるものは提供者やプラットフォーム事業者にとってお金になりにくく、どうすれば実現するかは悩ましく思っています。別サービスで成功してデータを収集したところが一機能として公開するのがわかりやすい道ですが、データの種類によっては行政ならでは仕事かもしれません。その場合、使われるものをつくるにはどんな座組が必要だろう・・・。

きわめて例外だと思うのですが、これくらい強いRFPが必要なのかもしれません。

togetter.com

*1:あと、3年前の自分に向けて・・・

*2:原題は"Modern Monopolies"で サブタイトルは"What It Takes to Dominate the 21st-Century Economy"

*3:いつもテンガと読んでしまう

*4:レベル1は、APIを公開しているサービス。例えば、APIを公開したことでサードパーティがアプリや関連サービスをつくることができたTwitterなど。レベル2では、プラグインが可能なもの。これはFacebookSalesforceなどサードパーティの開発者がそのプラットフォーム内でアプリをつくるもの。そして、レベル3では、開発者が書いたコードがすぐ動作できるものだとしてAWSに言及しています。この記事では名前はつけられていないけれど、このレベル3のプラットフォームは、後になってPaaS (Platform as a Service) と呼ばれ、GoogleAppEngineやHerokuのことを指すものです。これまでWebサービスを運用するためにサーバや環境を自前で調達していた時代から、アプリケーションのコードだけを用意すればわりあい手軽にWebサービスを運用できるようになるサービスでエンドユーザからはそのPaaSを意識することはないですむもの。自分も便利に使っています。このレベル1やレベル2は以下で述べるプラットフォームの武器のひとつでもあります。

パナソニックのベビーモニタ KX-HC705-W は便利だけれど難あり

子が2か月くらいになってきた。そろそろ、夜のまだ大人が起きている間は別の部屋で寝かせつつも様子をみておきたくなってきた。

yulily100.hatenablog.jp

そういうわけでこのゆりりーさんブログに影響されてベビーモニタを導入しました。 この記事で紹介されているベビーモニタがよさそうだけれど、Amazonで取り扱いされていなかったのでちょっと高いpanasonicのやつです。

暗くても映るし便利なんだけれど、いろいろ難があるので書いてみます。

よいところ

  • 暗くてもうつる
  • 子の声がモニターを通して聞こえるので別室で泣きだしてもすぐ気付ける
  • モニターにバッテリーがあってポータブルで便利。2-3時間は持つ。
  • モニターについているリモコンでカメラの向きを動かせるので子が動いても便利
  • スマフォとかでみる機能がないのは製品自体をシンプルにセキュアにしていてよい気がする

暗いとこんなふうに映ります。目をあけていると、白目も真っ黒にみえてグレイのように見える。 f:id:daaaaaai:20200927000252j:plain

直してほしい

  • 映っているものが動くと動作センサーが反応するけれど、手を動かしたりあくびしたりでも反応する。感度は1-7まで段階があって選べるなかで一番弱くしていてもよく反応するので動作センサーは切れるようにしたい
  • 内蔵されている温度計が室温より+3-4度高い。これは本体が発熱しているからではないかと思う。実際にけっこう熱くなっている。排熱がんばってほしい
  • モニターを近くにもっていくとハウリングしてしまう。自分の音はフィルタしてほしい。

ほかの育児の話題

dai.hateblo.jp