ぜぜ日記

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イチズな男たち。 箱男・電波男・トリツカレ男

安部公房の「箱男」を読んだ。それをきっかけに「男」の本をいくつか連想したのでつないで紹介してみようかとおもう。バラバラなようでいて、なにかつながっている気がする。


箱男」は大学院時代、となりの研究室の伝説的な先輩が書いた活動記 【体験報告】箱男*1を読んで以来、読みたいなと思っていたのだけど、たまたま本屋で見かけて買って一気に読みきった。予想以上だった。いや予想の斜め上か。


ダンボールを被って生きることを選んだ男の手記という体裁をとりつつ、他者との溝、自分との距離を不可思議に描いた怪作*2。最初のほうはコミカルでにやにやしながら読んでいたのだけどどんどん引き込まれて最後は後ろめたいなにかを抑えつつ進めなければならなかった。前衛的な構成だけれどその工夫がすべて物語を築きあげる力になっている。


箱男になるということは、心を閉ざすということ。自分からは覗き窓から切り取ったように外を見ることができるのに、外からは箱の中身は見えない非対称な関係、一方的に覗くことができる。ついつい覗く快感と覗かれる快感が分かる気がしてしまう。

そこで閉じこもりながらも「覗く」という主体的な行動をしていた箱男は、ある契機で覗かれる側に立つことになる。その迷いの描写が事実と虚構を不思議な具合に混ぜあわせていて読んでる者の先入観を次々破壊していく。あまり自分の語彙と表現力がなくて伝えられないのだけれど、印象はドグラ・マグラ*3に近いかも知れない。


一途に引きこもった男は、どうなってしまうのか。この自分が自分であるのかわからないような感覚がじわじわ入ってくる混乱は、並の本では味わえない。きっと二度目に読むと印象も違うだろうし、読む人によっても感想が違う気がする。




・・・
この本を読んでいるとき、タイトルが似ているからか「電波男」を思い出した。
これは一途で敏感で社会に虐げられている(あるいはそう思い込んでいる)男の生き方を説いた本。なぜか自分の20歳の誕生日に同期からもらった本で、わりとその後の自分が虚無主義的な中二病を患う遠因ともなった魔導書。
細部は忘れたけれど、メッセージはこんな感じ(だった気がする)

  • イケメンがいい女をどんどんもっていくし、女はおれたち喪男なオタクを蔑む
  • さらに現実の女は裏切るし嘘をつくし最低だ
  • もうおれたちは自分で生きるしかない
  • 脳を鍛えて大好きな二次元のあの娘とともに生きよう
  • あなたの想像力次第であの娘は無限大にあなたとおもにある
  • 肉体的でお金の絡む低次な恋愛ではなく純粋に精神的な高次の恋愛
  • オタクを軽蔑する現代社会への最大の反抗にして自分たちが最も幸せになれる方法
  • 男女のしがらみ・恋愛資本主義に毒された俗世からより高次な生き方を
  • これが可能なのが最高のオタクであり電波男である

これも社会からはみ出したものの生き方にして社会から離脱したものの話。自分も人事ではないという感覚を持ってしまい、なかなか危険だ。なんで男とつく作品はこうなんだろう・・



もひとつ読んだことがある「*男」作品にいしいしんじの「トリツカレ男」がある。
これは読んでいて楽しく、女性も好きな作品。たしかビブリオバトルで紹介してもらって読んだ気がする。
これまた一途な男、通称トリツカレ男がいろんなものに執着していろんなものを極めていくのだけど、あるとき影のある少女に取り憑かれて・・・。という絵本のような気持の良い本。
上の不穏な2冊で不安な気持ちになったらぜひこの清涼剤を。



特に結論とかメッセージとかはないのだけど、男はみんな不器用で一途だということがわかるんじゃないでしょーか。もひとつ「地図を読めない女、話を聞けない男」を思い出したけど互換悪いのでパス。




どれもAmazonで異様に高評価・・・

*1:これを書いた人は超優秀な人でいま大学の先生やってる・・・。行動力も頭の良さもおそろしい人です

*2:メタルギアソリッドシリーズでの重要アイテム、ダンボールはこれのパロディ

*3:ドグラ・マグラ夢野久作の傑作で日本三大奇書の一角に数えられる。読むと発狂すると言われているがミステリとして非常におもしろい。