先月に発売された号のクーリエを読んでいたとき奥尻島のことを知った。
1993年の地震と津波で甚大な被害と悲惨な出来事を受けた、北海道西部の島。
奥尻島 - Wikipedia
その震災と復興の光と影は、東日本大震災の復興を考える上で参考になるかなと思うので、記事を紹介してみる。
といってもクーリエのオリジナルの記事ではなく、NewYorkTimesの記事の翻訳。英語を勉強している人は読んでみてください。
In Japan, a Rebuilt Island Serves as a Cautionary Tale(The New York Times)
簡単にまとめるとこんな感じ。
- 4600人ほどの島民のうち200人近くが犠牲になった
- 10億ドル規模(レートは不明)の復興プロジェクト
- 高さ10mの防潮堤や巨大な避難施設をつくった
- ただし、これはかえって再生を妨げたのではないか?
- 地震後、現在は3分の2にまで人口が減っている
- 立派な漁港はあるけど肝心の漁師がいない
- 村民「産業育成にお金を遣うべきだったかも。」
- 復興工事の高給になれた若者が外に出た
- 6000万ドル以上借入があり、返済は2027年まで続く
- 復興契機の終焉で、自分たちでなんとかしないといけなくなっている
- (Tohhokuと、northeastが混在してる・・)
この記事の位置づけは、ある震災復興の失敗例の紹介、といったところだろうか。
実際のところはどうなのか興味を持っていろいろ調べてみたけれど、あまりネットには記事は上がっていない。(ものぐさなのでネットオンリー)
気になったのは次の記事。
1.【被災地は今-大津波の島・奥尻(上)】“奇跡”は起こった 力あわせ5年後に「復興宣言」+(1/2ページ) - MSN産経ニュース
2011.4.2の産経新聞。
盛り土で約6メートルかさ上げされた住宅造成地や、沿岸42カ所から高台に続く緊急避難路。(中略)海外にも「世界で最も津波への備えが進んだ島」と紹介され、国内外の自治体が視察に訪れる。
NYTの記事とは逆に、けっこう好意的な記事。3.11の直後ということもあって前向きなのかもしれない。
2. 奥尻島の今と、安心ゆえの危険 [科学に佇む心と身体]
2007年の記事。
1993年の地震と津波で甚大な被害を出した奥尻島。そこに行政主導でたくさんのハコモノができたけれど、うまく維持できていない。さらに住民の安心感の醸成という危うさにつながっているだけではという話。ハードな防災がソフトな防災を阻害しているという指摘。リスクコミュニケーションむずかしい・・・
3.北海道南西沖地震、津波、奥尻島、青苗、津波被害
震災後の写真や、地震5分後に到達した津波の苛烈さ。
東日本大震災の写真で麻痺してるかもしれないけど、凄惨。
4.復興への軌跡 | 奥尻島観光協会
奥尻島観光協会
人を集める必要がある以上、前向き。巨大で悪趣味な人工地盤や防潮堤の写真がある。
Google scholarで軽く調べたところ、出てくるのは地質系の論文ばかりで、社会学的なものはあまりなさそう。あまり分析はされていないのかも知れない。
記事にあったような公共工事でインフラ整えるだけでは防災は十分でない気がする。ソフトな防災がいい加減になるし、投資に見合うのか気になる。同じ場所で地震が来るだろう数十年後までのメンテナンスコストを計算してるのだろうか。被災者の復興につながるかについても、NYTの記事にあるように疑問。その要塞化された町で人は住めるのだろうか。
住民の幸せがなんなのかはわからないけれど、ひねくれた見方をすると、震災という好機に、土建屋とそれと結びついた政治、ポストを増やしたい官が、地元の意向を無視してハコモノを作りまくったような気もする。もちろん、人材もノウハウもない地元自治体の意向を聞いてもなかなかうまくは行かないとは思うけれど。
そして、復興の成功例という国内の報道と、住民の悲痛な声を集めたNYTの報道のギャップがとても気になる。国内の新聞社の目が節穴なのか(忙しい中、毎日紙面を埋めるためには深い報道なんてできないだろうしそれを求める読者も少なくなって久しいのだろうけれど・・)、あるいはNYTが計画的復興に対する嫌悪を先入観に持って書いたのか。ただタイミングの問題か。
そこを考えていくにも、紙面からでなく実情を知ることが必要だと思うので、NYTで示唆されていた、過疎化について調べてみた。
奥尻町|行政|奥尻町の概要・奥尻町の人口・世帯についてより作成
・・・
あえて地震の日付を入れていないけれど、このグラフから、いつ地震があったかわかるだろうか。自分にはわからない。。
年齢構成はわからないから予断かもしれないけれど、もともとかなりの人口減少ペースであったし、震災はきっかけでしかなかったのかもしれない。あとあと過疎化・高齢化が顕在化してきた時に、その原因をわかりやすい震災に帰しているような・・。
どちらの記事が正しいかと調べてみようとしたけれど、それとは別の明らかな過疎化が浮かび上がってきた。それと比べると震災の影響は微々たるものに見える。この比較はとても不謹慎だけれど、ポル・ポトの大虐殺のあとにもカンボジアの人口はすぐに増加したという話の逆な気がする。
ハコモノをつくったから過疎化して復興が妨げられたのではなく、ハコモノをつくろうがつくらまいが、過疎化で苦しんでいただろうことは想像に難くない。
奥尻島の復興と過疎化の話は、もしかすると、不幸なことに地震の被害にあって、その結果として莫大な資金を得たにもかかわらずそのチャンスを活かせなかった地方自治体。という話なのかもしれない。
どうすればよかったのだろうか。
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さて、突然ですがここでクイズです。過疎化する町で、10億円自由に使ってなんとかしてくださいと言われたらなにをしますか?
100字程度で書いてください。
東のエデン的ではあるけれど、これを考えていくことは東北の復興にも、地元の過疎化を食い止めるためにも、大事だと思う。
最後に、中学生まで奥尻に住んでいた人が結婚後にご家族と奥尻を旅行した話。
【旅行】奥尻島へ その1:札幌市東区の税理士受験生ブログ
6つの記事にわかれています。写真も豊富でいい感じ。過疎について触れているけど、自然豊かで景色も食べ物も美味しそう。奥尻の海の透明度は沖縄に次ぐレベルだとか。遠いけど一度行ってみたい!