11月半ばにブロードウェイ発のすごいらしいミュージカルを妻と観劇してきました。妻とその観劇友達たちで確保していたチケットが浮いたのがきっかけです。
あらすじとしては、イギリスの靴工場の社長の息子チャーリーが、現社長である父の急死によって経営を引き継ぐことになったものの経営トラブルにぶつかる。そんななかドラァグクイーン*1のローラと出会い、かれら向けの靴をつくろうと奮闘していく・・・というあらすじ。
性的マイノリティについても経営トラブルについても見ていてつらいものがあったけれどミュージカルの力でなんか前向きにやっていけるというエネルギーがあってよかった。
以下ネタバレありで感想。
- 靴工場の社長の息子だった主人公が父の急死により急遽経営を引き継いで、従業員向けに適当な挨拶をするくだりがもどかしくてつらい
- 最大の取引先からの急な受注停止と、それへの対応のため工場での従業員への解雇予告の面談をしていくのが経営者の立場でも従業員の立場でもとてもつらい
- ブルガリアで生産された靴がもっと安いなかでその靴を買う必要があるのか、と友人に言われるくだりもグローバル経済の前の無力さ感じてつらい
- 起死回生のために雇用したデザイナーと既存の従業員との軋轢がうまれるのもつらい。もっと丁寧にオンボーディングできなかっただろうか、と・・・
- 巻き返しのためのプロジェクトに忙殺されるなかで婚約者との溝が深まっていくこともつらい。なんかスタートアップ経営者の離婚事例をいくつか想起した
- よりよい製品を目指す主人公と、そのために、つくりなおしの残業を命じられる従業員との軋轢もつらい。ここで対立があるからこその解消の場面が生きるんだけれど・・・
- 常識外れのアイデアを提案するスタッフと、それを一顧だにしない主人公との軋轢もなかなかつらい。いやー、これは結果的に成功したけれど、世の中成功しない事例も多いし、、つらい
つらいばかりになってしまった。
ちなみに、このストーリーは実話がもとになっていたそうでBBCではこんな記事もある。
Kinky Boots inspiration comes out of the shadows - BBC News
この企業の再生の過程は、いわゆるターンアラウンド(真山仁さんのハゲタカの印象が強い)だし、そのためにニッチ戦略をとって、ひとりのユーザに着目してマーケティングしていくというのは西口一希さんの「顧客起点マーケティング」を思い出した。
後半の「他人のあるがままを受け入れろ」というフレーズは重要。これは個人の生き方の変容だし、これもまた個人のターンアラウンドだと感じた。この変容を、若い新人経営者チャーリーだけではなく、中年のドンも(多少)経験するのもよい。そのきっかけになるローラの苦悩も。
ドラァグクイーンがイギリスでどう受容されていったかはほぼ知らないけれど、たいへんだったはず。どこの国でも差別はあるけれど、特にイギリスでは、ナチスの暗号を解読して連合軍勝利に貢献し、計算機の理論の礎を築いたものの、1950年代に同性愛の罪で警察に逮捕され、転向療法としてホルモン治療も受けさせられた末に自殺したアラン・チューリングを連想する。 行動の結果、法律も変わって受容されてきているというのは素晴らしいこと。個人としての自分も先入観に振り回されないようにしたいしコンフォートゾーンを出ていかないと・・・(と、エンタメを消費して教訓を引き出すのも野暮ではあるけれど)。
ちなみに、パンフレット(妻は必ず買う)にも時代は書かれていなかったけれど、ブルガリア製の靴に価格競争で負けているくだりもみるに、サッチャリズムが吹き荒れて、ゆりかごから墓場まで、というイギリスの標語は過去のものになった時代以降だとは思うけれど、どうなんだろう。
大道具も演出もよかった。特に、ボクシングのシーンは印象的だし、ベルトコンベアもおもしろい。あれ人を運べる出力のものがバッテリーで動いているのかな。どこで買えるんだろう。オークラ輸送さんとかでもバッテリー式なさそうな気がするしご存知の方いたら教えてください。あと冒頭のドンの小芝居もよかった。
場所は大阪のオリックス劇場。このあたり、心斎橋駅あたりから御堂筋をはさんで西はなんだか落ち着いていて良い感じのお店や公園も多くていいエリア。 観劇後、妻の最高にエレガントな観劇友人とお茶できてよかったです。