ぜぜ日記

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6時間もある大作ドキュメンタリー映画、「水俣曼荼羅」を観て行政の冷酷さを痛感

石牟礼道子さんの苦海浄土を読んだあと、ちょうど近所で水俣曼荼羅という映画の上映会があると知って観てきた。

6時間もあるし、参加費3,600円となかなかするので身構えて行ったけれど、映画もよかったし、監督のトークもあっておもしろかった。会場の大津公会堂はほぼ満席で老若男女7-80人ほどいて関心の高さもうかがえた。

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これは2004年の水俣病関西訴訟最高裁判決の日から撮影を開始し20年かけてつくられているという作品で、「水俣はもう終わった」と言われたりもする現代でもまだまだ問題となっている水俣病とその患者、そして行政にフォーカスしている。これまで水俣病と認められてこなかった患者が水俣病に認定されるかどうかという法廷闘争がひとつの主軸として描かれ、これによって、国や県といった巨大な行政システムの、強力なことなかれ主義と責任の希薄化によって患者が放置される構造が伝わってきた。

たとえば、最高裁で原告を患者と認定するよう義務付けられたものの、そのほかの患者については認定申請を棄却し続けたり、病身を押して裁判しても患者に謝罪できない環境省や、高裁で県が負けた後、上告しないよう懇願されても事務的に上告する熊本県(その後最高裁で県が敗訴するが上告したプロセスについては反省がない)などなど・・・。水俣病と認定することによって救済策の見舞金が増えて行政の出費が増えることを最小限にしたいのだろうと思うのだけれど、そのために裁判で膨大なリソースを割いて、患者たちにも負担を強いているのは残念過ぎる。

認定基準について、蒲島郁夫知事は法定受託事務執行者で国が基準をつくり判断を仰がないといけないとか、一貫性が必要だと言って、国は(現場である)県が判断することと言って責任をお互いによせてあいまいにしてしまっている。比較的しがらみの少ないだろう、住民に選ばれた知事がこの残酷な判断を機械的に進めてしまうのはなんなんだろう。どういう圧力があるのかは気になった。(役人だと、先輩たちの判断の誤りを認めることは部族の風習として難しいから控訴する、と愚かな判断をしてしまうことはわからなくはないけれど)

また、冒頭の小池百合子都知事環境大臣だったときに、裁判で国が負けた結果を受けて原告たちから謝罪を求められてなじられるシーンや、熊本県潮谷義子知事や、蒲島郁夫知事が県の敗訴を受けて曖昧な対応をして原告から詰められるシーンが激情と行政のその場しのぎさ感がつらい。チッソがやらかしたことをすぐに認めなかった当時の担当者とは世代が違うなかで謝罪に追い込まれる役人もかわいそうではあるんだけれど、国や県は零細な住民には本当に冷たいと感じた。

その他のシーンでは、豊かだった海で小さい巻貝(コゼやビク)をとっていたことを回想するインタビューや、患者の脳を新幹線で輸送する場面、胎児性水俣病患者の坂本しのぶさんが作詞し、音楽祭で優秀作品賞をとってシンガーソングライターの柏木敏治が歌にした「これが、わたしの人生」が印象的。すごいのでみんな聞いてください。

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描かれなかったものとしては、水俣病当事者や関係者ではない市民の思いとかチッソのいまがある。お金欲しさのニセ患者だ、と騒いでいた人たちがどう思っているかは気になった。主題ではなかったのかな。

重く厳しい大作でした。ありがとうございました。






(以下、映画から離れて考えたこと) これはあまり調べられていないんだけれど、医療が組織立って動けていないように感じた。裁判で水俣病認定の訴えを起こし、認められたというのは、認定審査会が誤った判断をしていたとなると思うんだけれど、なぜだったのだろう。

この映画でも浴野成生医師が従来の学説を曲げるためがんばっていたけれど、学会とかは働けていたのだろうか。

昨今の新型コロナではさまざまな学会や医者が奮闘していたけれど(ちょっと先走っていたり、変な人もいたけど)、それと比べると存在感がなかったように思う。最初に明らかにした、細川一医師や、細川医師から依頼を受けて、動員をかけて足を動かして患者のいる漁村の全住民リストを調査した熊本大医学部は偉かったけれど、その後の補償対応をするかどうかの判断が消極的に過ぎるような・・・。

支出を減らしたい行政におもねったようにもみえてしまうし、これが行政不信や、ワクチン不信につながって"国益"を損ねてしまっているかも、と思ったのでした。原告たちが訴訟せざるを得なかった国のことなかれ主義は、まわりまわってHPVワクチンを巡る集団訴訟を起こすことになったのではないか、と・・・

HPVワクチンの訴訟についてはこの8/7の鈴木エイトさんのTweetは本当に迫力があるのでみんな読んでください。

dai.hateblo.jp