ぜぜ日記

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「最後の竜殺し(ジャスパー・フォード)」 資本主義世界の魔法使いたち

読みました。かなりおもしろかったのでハリーポッターファンとか異世界転生ものにちょっと飽きてきた人、銀河ヒッチハイクガイド好きな人は楽しく読める気がする。

20世紀末期のイギリスのような、不連合王国(Ununited Kingdom)には魔法使いたちがいるけれど、かれら彼女らは、魔法行使のたびに役所に書類を提出せねばならないよう管理されているうえに、年々魔法の力は衰えていて魔法使いに敬意を持つものも減ってきている。 魔法使いたちは、魔法管理会社に所属し、家の配管工事をしたり、もぐらを追い払ったり空飛ぶじゅうたんのりは移植用臓器を運搬したりといった仕事でなんとか糊口をしのいでいる・・・。

そんな傾きかけている魔法管理会社で代表が疾走し、代理社長となった16歳の孤児が主人公なんだけれど、このジェニファーがまっすぐで気持ちいい。

ドラゴンスレイヤーの車(装甲ロールス・ロイス)に広告を載せたり、不可侵なドラゴンの領域に不動産会社が触手を伸ばしたりと資本主義的な魔法の世界でおもしろい。

文章もライトで小気味いい。

魔術師たちと仕事をするのはゆでたスパゲティで編み物をするのに似ていて、何かができあがりそうだと思った瞬間に手のなかでバラバラにほどけてしまう。でも、ほんとうのところ、わたしはあまり気にしていなかった。

このアナロジーは好き。

魔法というのは、手っ取り早く呪文を唱えて力を解きはなてばききめがあらわれるというものではない。まず最初に問題をきちんと見きわめて、どの魔術を使えばいちばん効果的かをあらかじめ値踏みし、そのうえで呪文を唱えて力を解きはなつのだ。三人はまだ「問題を見きわめる」段階にいた。「見きわめ」の具体的な作業は、たいていの場合、上から下までじろじろ見まわして、お茶を飲み、話しあって、意見がぶつかって、また話しあって、お茶して、またじろじろ見まわす……というようなことだ。

この魔法観もなかなかいい。

魔法を説明しようとするのは、千年前の人が虹や稲妻を説明しようと試みるようなものだな。説明がつかなくて、ふしぎで、一見不可能に思えるものなんだから。今じゃ、虹も稲妻も科学の教科書の数式でほとんど説明できるけどね。魔法は、強い力、弱い力、電磁力、重力につづく第五の基本的な力だと考えられているけど、重力よりさらに謎が多い。

魔法は第5の力

「まったく人間ってやつは」モルトカッシオンがあきれたようにいった。「なんでもかんでも知りたがる。今持っているもので満足するということがない。それは身の破滅にもつながるんだが、おかしなことにそれがまた人間の愛すべき性質のひとつでもある」 「愛すべきところなんて、ほかにもあるんですか?」 「ああ。たくさんあるとも」 「たとえば?」モルトカッシオンは少し考えてからいった。 「たとえば十進法を使うところなんざ、かなりいかれている。十二進法のほうがずっとすぐれているのに。それから人間は技術力がすぐれている。ユーモアのセンスが鋭い。親指がある。体の構造が裏返しだ──」 「待って! 裏返しって?」 「だってそうだろう。ロブスターから見れば、哺乳動物ってやつはアルマジロ以外みな裏返しに見えるだろうよ。」

竜の超常的な知性もおもしろい

オクスフォードではバス一台に乗りこんでやってきたデンマーク人が拘留された。トランクいっぱいに瓶詰めのニシンを積んでいたので、デンマーク人だとばれたらしい。

謎のヨーロッパジョークがちりばめられている。

バーサーカーたちは煉瓦でなぐりあうのをやめて、気持ちを落ちつけるためにヨーヨーをしている。

自分もヨーヨーしてみようかな。

4巻あるうちのまだ2巻までしか邦訳されていないけれど、映像映えしそうだしヒットして邦訳も続かないかなあ。