正月に弟からすすめられて読んだ米澤穂信の「黒牢城」がおもしろかった。 織田信長の配下であった荒木村重が謀叛し、1年ちょっと籠城した有岡城の戦いの折、説得に訪れていた黒田官兵衛が監禁されていた、という事実からふくらませた小説。
そういう事実があったことや村重がどうなるかも知らなかったからそれも驚いたんだけど、話もよかった。 籠城してピリピリしている城内で、士気を維持するためにもめごとを解決したい村重が土牢のなかにいる黒田官兵衛の知恵を頼るという、つくりでいうと安楽椅子探偵もののミステリーなのだけれど、それにもまして荒木村重というキャラクターと戦国時代の組織マネジメントもよく描かれていておもしろい。気を遣うことはたくさんある。スパイも入っているだろうし、寄せ集めからは裏切り者が出ることを前提に指揮をとらねばならない。さらに城主といえどなんでも直接コントロールできるわけではない(現代の会社で社長がなんでも好きにできるわけでもないのと同じですね)。
信長に虐殺された浄土真宗・一向一揆の宗教観・死生観も強いモチーフになっているのもよい。 名物が外交上も大きな価値をもつというエピソードではマンガ「へうげもの」を読み返したくなった。こちらでもさらっと村重はでてきましたね。
ぜひ、村重についてWikipediaを読まずに読んでほしい。
戦国時代、信長といった読者に共通の前提知識があると読みやすくてよいのかも。 これは、実在ではないけれど舞台設定や概念を共通化することで物語にフォーカスさせる異世界転生ものと近いんだろうか(ハードSFとかハイファンタジーだとそこらへんの設定共有で紙面をつかってしまう・・・)。
と、読んだあと戦国時代に関心がでてきて歴史学者の呉座勇一の「陰謀の日本中世史」も読んだ。
呉座先生は、「応仁の乱」などのヒット作を出しながらもTwitter(現X)の非公開アカウントとはいえ4000人ものフォロワーがいる状況、複数の研究者を侮辱するような投稿を繰り返していて、被害者から告発されて多数の研究者からオープンレターを出され、職を失いかけたりした歴史研究者。
オープンレターの趣旨はともかく、署名者の確認や呉座さんの実名を出したことなど問題があったけれど、 呉座さん集団になってなかなか陰湿ないじめ行為をしていたことは確かで人柄を軽蔑はしているんだけど、この事件のまえから読んでいた「一揆の原理」がおもしろかったり、井沢元彦の「逆説の日本史」の誤りをWebメディアで批判するなど*1は評価しています
※ 呉座界隈問題について複雑でよくわかりにくいけれどこの被害者のひとりのブログが情念こもっていてよかった
呉座界隈問題と私のTwitter夜逃げ(その1)|森 新之介
さて、本書では、源義経が陰謀で失脚したのか、足利尊氏が陰謀家だったか、本能寺の変に黒幕がいたのか、など世にはびこる風聞を資料をひもときながら解説していて、プロの歴史学者の資料読み解きプロセスを垣間見えてかなりおもしろかったし、陰謀論の発生プロセスもよかった。
義経が失脚したのは兄にうとまれたからとか信長が本能寺の変で殺されたのは、明智光秀を動かした誰かがいる、とか、石田三成を決起させたのは家康の陰謀、とかおもしろいけれど、そう単純ではなく、さまざまなトラブルがおきる複雑な世界で必死にやっていた結果ではないかというのを検討していきそれぞれの時代について知ることもできてよい。
さまざまな陰謀論をみていくと、特徴には(1)因果関係の単純明快すぎる説明、(2)結果から逆行して原因を引き出す、というものがあるという。 特に歴史解釈についての陰謀論だと後知恵的なものが多いというのもあるようには思えるけれど、特定のだれかが原因とするというのは昨今のディープステート陰謀論とかにも通ずる。
天才的な戦略家と評されがちな信長であっても、なんども裏切りにあって驚いているというのは「黒牢城」でも描かれていた。そして、真実を知っている優越感があることからインテリ・高学歴者もだまされるというのはSNSで党派を形成する現代の陰謀論とも通ずるところがある。
しかし、煽情的になるアルゴリズムに支配されるSNSのもと、コロナ・トランプ現象と世の中に陰謀論の波が来ているけれど、エプスタイン事件や高度な認知戦のように眉唾ではないものもあって判断が難しすぎる・・・

