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明るい選挙 メカニズム編


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衆院選が来週に迫っています。みなさま行きますか??
この選挙というものは支持する候補者か政党を書くだけの一見単純な仕組みに見えます。けれど、すこし調べるだけでもその仕組みはけっこう複雑です。われわれ国民がもつ参政権をうまく行使するためには選挙のことをちゃんと知っておく必要があるし、なにより、選挙の仕組みはゲームっぽくてすごくおもしろいので調べておもしろかったことを紹介してみます。


基本はこの本と、Wikipediaが情報源です。

日本の選挙―何を変えれば政治が変わるのか (中公新書)

日本の選挙―何を変えれば政治が変わるのか (中公新書)

日本の選挙の概略から各理論、世界との比較、またコラムとしてこれまでの日本の各総選挙を紹介していておもしろい。


(注意)この記事で書いていないこと

  • 中学校の社会の教科書に書いてあること
  • 法学部生が知らないこと(もし間違いがあればコメントください)
  • 今回(2014/12)の衆議院選の展望
  • 自分の政治信条
公正ってなんだよ(哲学)

小選挙区死票*1が多いから公平ではない。比例代表制にすれば(詳細なルールはあるけれど)公正だ!というのは、有権者数に比して議員を選択するということで公平でわかりやすい話ではあります。


ただ、比例代表制では小党も議席を得ることになり、小党乱立から連立政権が不可避となる懸念があります。小党がキャスティングボートを持つことから、妥協的な政治運営から政治責任も不可避になってしまいがち。


少数派に配慮して決定を下す時期が遅れたり、決定をくだせなければそれが公正か、という議論もあり簡単には判断できない問題です。(本当は議論と妥協のプロセスを円滑にできるとよいのだけれど今の人間では無理そう・・・)


ただ、小異をすてて重要な利益のために結合することが政治の根本でもありますよね。この結合を、議会のレベルで妥協がなすか、小選挙区などの多数代表制では有権者レベルで妥協がなすかの違いでしかないという指摘もあり公正がなにかは単純には決まらないのではないと思われます。



また、ここですこし比例代表のオプションについて簡単に触れます。
完全な比例代表制では小党が乱立して議会の運営に支障をきたすことから、足切りラインとして阻止条項を設けている国も多いそうです。たとえば5%ルール、こうして極左勢力と極右勢力を排除するのだとか。これは戦前のドイツでは少数の議席からナチスが台頭したきっかけをつくった選挙制の反省でもあるそうです。

ひとくちに比例代表制といっても議席配分方法は世界で運用されているだけで300以上もあるといわれています。大きく次の2つに分類できます。

  • 最大剰余法
  • ドント式
    • 各党の得票数を1,2,3と整数で割っていき、その商の大きい順に定数に達するまで議席を配分する

また、選挙区の規模、全国区かブロック制かでも影響が出ることが知られています、ブロック制ほど有力な党に有利になります。さらに比例代表制の大きな特徴として、非拘束名簿か拘束名簿かで大きな違いがあります。細かいパターンはほかにもありますが、非拘束にすると政党本位ではなく人本位で選べるメリット(?)はあるけれど全国にファンのいるタレントや芸能人、全国的な利権団体がバックについている候補者が強くなるという欠点もあり難しいところです。


あいつら二大政党制

日本もアメリカのような二大政党制にしようぜ!という動きがあります。
これは2つの政党が実力伯仲しているべきという言葉の印象があって自民が大勝した時にはもっと二大政党制にしないといけない、と言われたりもしています。

けれど、もし2つの大政党が議会で近い勢力をふるっていると議会は紛糾して運行はストップするでしょう。
二大政党制を考える上ではまず、政権交代制について考える必要があります。カール・ポパーの「開かれた社会とその敵」によれば、民主主義の基準とは「流血を見ることなく、投票を通じて政権を交代させる可能性」とのこと。
そして、小選挙区というのは、すこしの支持率の差で議席に大きな影響を与えるもので政権交代を容易にする仕組みなのです。
国民の投票とは、代表を選ぶというよりもむしろ、現在の政権を転落させる可能性をもつという機能が強い。政権から落とされることを恐れる政府は、国民目線となるでしょう。
もうひとつポパーを引用します。

追い出される可能性のある政権は、人々を満足させるべく行動(政治運営)する、強いインセンティブを有している。追い出される可能性がないとわかると、このインセンティブは働かなくなる。


もちろん短期的な目先の利益を誘導するようになり、長期的な展望を考えることがなくなるという指摘もあるけれど、政権交代の可能性がなかったら長期的なことを考えるかというとそうでもないし、哲人政治は絵に描いた餅のうえに独裁にもつながるのでそら無難なほう選ぶよねという感じではあります。



ガラパゴス選挙

じつは日本は「選挙制度のデパート」と言われるくらい種類が多く、かつ理念に欠けています。いまも衆院選では並立制をやっているけれど、なんでそれをしているのか理念がよくわからない。いや、かつての中選挙区(3人とか5人区での単一投票制)なんてもっと意味がわからない。
世界的に見て、3人区ならひとり3人まで書ける連記制が一般的です。それを3人区でも1人しか書けないから与党が何人も出して争い出すしお金を使わざるを得なくなって派閥の温床になって腐敗する。
日本は長いあいだ自民党の単一政権だったけれど、55年体制ではひとつの政党というよりも複数の派閥の集合体といった常態で、これが中選挙区が原因のひとつと言われています。


参議院、こいつ強いぞ・・・

衆議院の優越というのは中学生の教科書にも載っています。しかし、ふつうに一般の二院制の国に比べて参議院の権力は実際強い。衆院の優越は、首相指名や予算、条約の承認くらい。法議案の議決は、参議院が拒否しても衆議院が3分の2の賛成で再可決できるけれどそんなの通常ではできないので実質的に参議院が拒否すれば立法機能は正常には動かなくなります。「ねじれ国会」というやつです。


参議院衆議院に対するチェック機能という名目もあるからと、別の選挙体系にしようという声もあるけれど、全く別にすると衆議院とのねじれが常態化することにもなります。そもそも参議院の理念が曖昧だけれど、全国比例オンリーなど選挙方法を変えてチェック機能とするなら衆院の再可決を過半数程度にするなど必要ではないか、というの考えもあります。もちろんこれには憲法改正が必要になるけれど。

政治システムの中での役割と権力を検討せずに選挙制を変えようとするのは表層しか見ていないように思えます。


あれは装甲ではなく党議拘束

党議拘束とか意味わかんない。国会で議員の良心に従って議決できなくて党という私的な組織がものごとを決めるっておかしいでしょ、と思っていました。けれど、それは単純すぎる見方でした。アメリカでは党議拘束はなくて法案ごとに党を越えて賛成か反対かで分かれることになるけれど、それは大統領制で大統領の権力が強いから。また、デメリットとしてロビー活動が活発になることが挙げられます。議院内閣制のもとでは内閣の基盤は議会にあるため、政権を運営するためには党議拘束が必要になるのです。


まとめ

ほかの選挙の話題として、地方は大統領制に近く、一方で政府は議院内閣制で統一されていない問題や、議員が議員がどう選ばれるかという選挙のルールを決める自己言及的な話もあったりまだまだ選挙は深みがあるんだけれど、ひとまずわかりやすい話題だけ軽く触れてみましたがいかがでしょうか。


選挙っていうのは民主主義そのものでもあります。みんな大好きオルテガさんだってこう言っていますしもうちょっと気を遣ってもいいかも。
>>民主主義は一つのとるに足りない技術的細目にその健全さを左右される。・・・選挙制度が適切なら何もかもうまくいく。そうでなければ何もかもダメになる。<<


ただ、選挙というのはすこしでも興味がある人なら自分の考えがあって、専門家の知見を軽視して思いつきを語ってしまう問題もあると思うのです。自分もそこそこ知っているつもりだったけれど、この本を読んでいろいろ調べてみて自分が何も知らなかったと分かりました。

さらによくないのが、自分みたいな素人だけでなく、ジャーナリストや政治家までもが(意図的か無意識かはさておき)そうしているようにのは問題でしょう。これは選挙のほか、教育とかも同じで専門家の意見やデータを無視して思いつきレベルの思い込みで語ってしまっているように思えます。



あと、選挙というのは仕組み・アルゴリズムとしてけっこうおもしろいことがわかりました。あるルールから多様な戦略や問題が生まれていくさまはけっこう燃えます。意志決定論との絡みの話もあるみたいで調べてみたい。


ひとまず、法学部生の方々には常識かもですが自分がはじめて知った選挙の話を紹介してみました。
衆院選、みんな行きましょう。

*1:落選した候補者の票や、その選挙区で圧倒的に票を集めても1人だけというオークションでいう勝者の呪いみたいなもの