ぜぜ日記

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人生に疲れたら地学系の本を読むといいと思う

帰省したところ百田尚樹氏の「海賊と呼ばれた男」が置いてあった。出光興産の創業者をモデルにしたベストセラーでなかなか評判らしい。あんまり本を読まなさそうな知人もおもしろかったと言っていたのと「永遠のゼロ」がうまく書かれていたことを思い出して読んでみた。


中身を簡単に言うと立派な人が立派な会社をつくったという立志伝。出てくる登場人物は魅力的な人間ばかりだ。たとえば、大戦後の苦境に際しても社員をひとりもクビにしないと宣言しGHQなどと粘り強く交渉して事業を復活させたり、旧宗主国のイギリスが購入を禁じていたイラン原油を輸入するためにリスクをとって信念を貫き通したりしている。能力と経験と自信を兼ね備えている人が主人公でたいへんかっこいい。*1


でも、こういう立志伝やその要素を持つことが多い歴史読み物やビジネス書を読むと、この人間的魅力に溢れた、きわめて優秀な主人公や登場人物に比べて自分はなんて無力なんだろうと思える。*2


そういう気分になったときは地質や宇宙に関する本を読むと良い。自分はちっぽけだけれど人類自体もちっぽけに思える。


宇宙の歴史から見れば人類の歴史など瞬きほどのもの。宇宙の中の芥子粒のような惑星の、薄皮のような表面がたまたま安定しているときに発達したに過ぎない人類はいつ絶滅してもおかしくない。ひとりの人間がなにをなそうと、なにを残そうと風のまえの塵に同じ。


と、ここまでは前置きで最近読んでちょっとおもしろかった地学系の本を紹介してみる。

スノーボールアース

はじめはそんなことを信じられなかったけれど、この緑溢れる水の惑星がかつて全面的に凍結していた可能性が高い。約7億年ほどまえ、温室効果ガスの減少により地球は数千万年にわたって全球凍結していたのではないかということを地球の各所にある証拠から推理していく。この過程もスリリングだけれど、このスノーボールアース仮説による生命の進化についての示唆がわくわくする。

地球の表面はほぼ凍結していたけれど深海底や火山際など局所的には凍結を免れたところがあり、わずかな生き物はここで生き延び、それぞれ独自の進化を遂げていた。解凍後、これらが地球上に拡散されこれこそがのちのカンブリア爆発と呼ばれる多様性ある生物の群れをもたらしたのではないかという話だ。


ただスノーボールアースからカンブリア爆発まで3000万年ほどあり因果関係については異論もある。けれど、このつながりがあるとしたら、交流なき閉鎖性こそが多様性をもたらすことになる。これってよく考えたら当たり前だけれどけっこうおもしろい。

ボーダレスでグローバルな現代社会では遺伝子的多様性はどうなるのかな、と考えたり、人材の多様性を掲げるグローバル企業の実態はどうなんだろと思ったりできる。もちろん、多様性という言葉はいろんなところで使われるので言葉遊びだけれど。


スノーボール・アース: 生命大進化をもたらした全地球凍結 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

スノーボール・アース: 生命大進化をもたらした全地球凍結 (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)



テラフォーミング 「異星地球化計画」の夢

流行っているらしいマンガ、テラフォーマーズの1巻をチラ読みしてなにか違うなあと思って行きついた本。1996年刊行。
テラフォーミング。つまり異星地球化について内外の研究成果をコンパクトにまとめていて読みやすい。論文や写真を多数引用している。SFの元ネタとしても楽しめるのだけれど逆にSFがきっかけとなって学会で議論されるアイデアもうまれていてたいへん夢のある分野。直径1万600kmのソレッタで火星を暖めるとか、木星に量子ブラックホールを打ち込んで太陽化するとか。50億年後に赤色巨星化する太陽*3にそなえて10億年かけて地球を木星の軌道まで移動するとかちょっとぼくらの悩みが芥子粒のように感じられるくらいスケールがでかくて良い。それの実現性や費用を大まじめに議論するのちょっとかっこいい。


テラフォーミング―「異星地球化計画」の夢

テラフォーミング―「異星地球化計画」の夢




こういう本を読むと身近な悩みなどほんとうに小さいことだと分かるので鬱っぽくなったときは良いと思う。夏休みの終わりとかどうでもいいですよ。本当。

*1:分厚いけれど非常に読みやすく書かれていて参考になるのも良い

*2:感情移入しやすいように描かれているのもポイント

*3:ちなみに50億年後は弥勒の下生と同じタイミングだ。因縁を感じる・・・