ぜぜ日記

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「美食地質学」入門~和食と日本列島の素敵な関係~ (2011, 巽好幸) 、日本列島の成り立ちと食。

マグマ学者でグルメ野郎でもある巽好幸先生の書いた本。大陸運動という大きな力と、それによって日本列島がどう成り立ったか、そしてこれが日本の食文化にどう影響しているか書かれている。知らないことも多くおもしろかった。ただ、瀬戸内海の海苔の色落ちイカナゴの不漁の要因を貧栄養価と言い切っていてこのあたりは少し不安ではあるけれど・・・。

特に、この2024年元旦に大地震が発生した能登半島がどう形成されたかも書かれていて驚いた。なんでも、能登半島周辺に存在していた断層が、大陸と本州に挟まれ逆断層として活動するようになり断裂帯に挟まれていた能登半島が隆起し始めたという。地震のメカニズムと、これまでの日本がぞう構成されたかからつながっていることを感じる。

また、海溝型巨大地震によって、沈降域と隆起域がある仕組みについてもしることができた(図なしでうまく説明できるほど咀嚼はできていないが・・・)

気になったところメモ

いくつかおもしろかった話を抜き書きする。

まずは、300万年前にフィリピン海プレートの進行方向が変わり中央構造線が動いたことで西日本の地盤に大きなしわをつくり、瀬戸内海は、狭い瀬戸と広い灘が規則的に続くようになって、これによって潮流が速くなり砂地に酸素がいきわたり甲殻類が育ち、それを食べる鯛も育ったという。瀬戸内海のアナゴの漁獲高減少などは河川の環境悪化や藻場など成長過程の環境などもっと論点はあるとは思うけれど、その基礎として興味深い。

また、ブイヨンをつくるときはカルシウムを多く含む水を使った方がより清浄になるということ。いっぽうで肉料理には不向きな軟水は和食出汁の基本の一つである昆布の旨味成分グルタミン酸を効果的に抽出できるという。ヨーロッパの水の多くがカルシウム豊富な硬水だけれど、欧米のレシピを日本で再現しても同じではないし、ラーメン屋の海外進出もいろいろ工夫があるんだろう。

そして、これら水の違いの原因は、日本列島には石灰質の地盤が少なく、そして何より山国で急峻な地形が多い島国であるために、流れ下る水にカルシウムやマグネシウムが溶け込む暇がなかったからという。

日本列島で火山活動を起こすマグマは、地下数十 ㎞ の深さで発生するのだが、このマグマが地表に達して火山となるのはほんの一部、おおよそ1~2割でしかない。ほとんどのマグマは火山の下で固まってしまうのだ。その結果、マグマ活動が続くと地殻は厚くなってゆく。地殻はその下にある流動性に富む「マントル」に比べると軽い物質からなっているので、あたかも水に浮いた木片のような状態にある。(中略)変動帯・日本列島では、海溝からプレートが沈み込むことによってマグマが発生して火山が密集している。マグマが地下で固まることで地盤が厚くなり、これにプレートからの強い圧縮が相まって、日本列島は山国となっている。そのために河川は急流となり、地盤中のカルシウムやマグネシウムを溶かし込む時間がないために軟水の国となった。

と、日本列島形成までさかのぼる。これによって、ほかにも豆腐発祥の地である中国と日本では豆腐の製造方法が違うことにもつながるそう。

まず大豆を水につけて柔らかくした上で細かく砕いて「 呉」を作る。日本ではこの呉を煮て豆乳を搾る「煮搾り」が一般的であるが、中国や沖縄(島豆腐)、それに日本の各地に残る堅豆腐の一部では、呉を煮ずに豆乳とおからを搾り分ける「生搾り」が主流

硬水を用いて製造した呉には、すでにタンパク質を凝固させるこれらの成分が含まれている。煮絞りは、大豆に含まれる成分をさらに抽出するために加熱する。だが、硬水呉を加熱するとタンパク質の凝固が進みすぎるため、搾りカスであるおからと同時にタンパク質も取り除かれてしまうのだ。(中略)だから、硬水呉では生搾りを行う方が大豆タンパクの多い豆乳を作ることができるのだ。とはいえ、煮搾りの豆乳に比べるとやはりタンパク質の量は少なく、収量も悪くなる。だから、凝固物に含まれる多量の液体成分を絞り出すために強い圧搾が必要となる。その結果、生搾りで作られた豆腐は堅くずっしりとしている。

沖縄も急峻だけれど、サンゴ礁の地盤が多く硬水優位なのだそう。

一方で沖縄以外にも「堅豆腐」は残っている。例えば、九州では熊本県・五木や宮崎県・椎葉、四国では土佐豆腐、中部地方では石川・岐阜・富山県境付近の白山、五箇山、利賀など、そして関東では神奈川県の大山豆腐などである。なぜこれらの地方では堅豆腐文化が継承されてきたのだろうか?(中略)日本列島に点在する石灰岩の元となった火山島のサンゴ礁は、一体いつどこでできたものだろうか? このことを明らかにしようと、私たちは石灰岩と一緒に産出する玄武岩化学分析を行った。その結果、これらの石灰岩玄武岩の大部分は、現在の南太平洋で数億年にわたって続く火山活動で誕生した火山島起源であることが分かった。(中略)その年代はおよそ1億年前と3億年前。このころに南太平洋で起きた火山活動によって火山島が誕生し、それらはサンゴ礁を乗せながらプレートに運ばれて、現在は太平洋の周囲の陸域に付加されたのだ。

1億年以上前というとんでもない長さの地学的現象によってローカル食文化も生まれていたというのおもしろすぎる。

島豆腐の沖縄には、そのほかにも素晴らしい硬水食文化がある。その一つが沖縄そば。この麺はもちろんソバではなく小麦が用いられるのだが、出汁にも大きな特徴がある。出汁の旨味の重要な担い手が、昆布ではなく豚であること

沖縄は琉球時代から本州北方や北海道産の昆布を中国へ運ぶ拠点であったために、昆布文化が広がった。しかし、それは出汁文化ではなく、むしろクーブイリチーやウサンミなど、食べる昆布文化であった。もちろんその原因は、硬水であるために昆布の旨味成分を抽出することが難しかったからだろう。一方で、この硬水の特性を生かして、豚を丁寧に灰汁をとりながら煮ることで、ブイヨンと同様に旨味たっぷりのスープができあがったのだ。  

これ、もしかして、中華料理の茹で豚とかも同じようにはできていないのか・・・

世界各地では様々な発酵食品が発達したが、大雑把に分けると、西洋ではパンやビール、ワインのような酵母による発酵や、チーズにヨーグルトなど乳酸菌を利用したものが多い。一方で、東アジアではカビを用いた発酵食品、例えば 紹興酒 やテンペ、それに醤油や味噌などが特徴的

たしかに。 その他、水の鉄分やカリウムが日本酒や醤油文化にも影響を与えているという。どこでもやれるものではないんだな(これまで各地でやろうとして失敗した人も多数いるんだろう・・・)

利根川水系の水は関西と比べると、カルシウムやマグネシウムの多い中硬水。(中略)この関東硬水は関西で行われるように昆布で出汁をとるには向いていない。その代わりに、鰹節や 味醂 と「関東濃口醤油」を使った江戸前寿司に必須の「ツメ(煮詰め)」、鰻蒲焼の「タレ」、そして蕎麦の「ツユ」など、関西とは一線を画した関東特有の食文化を生み出した

そうなの?和食料理人のコメント聞いてみたい。

綱吉が鷹狩で訪れた小松村(現在の江戸川区小松川)の青菜の美味しさに感嘆し、地名をとって「小松菜」と命名したという。この小松川地区は、荒川の氾濫原が広がる「東京低地」にあり、関東ロームとは異なる土壌が広く分布する

火山灰などの風塵由来の不毛の関東ローム層とは違う。

千葉県が日本一の産地である落花生は、豆類に特有の根粒菌の働きで痩せた土地でも育つ

へー

下仁田ネギは下仁田の中でも馬山地区が栽培の中心だ。下仁田町内のみならず、あちこちで栽培が試みられたのだが、どこもうまくいかなかった。(中略)盆地である下仁田地域はからっ風が上空を通過するために、関東ローム層が堆積していないのだ。このような特有の地質と地形が、ほかの地域と違う

そうなんだ。ほんとに馬山地区だけなのかはちょっと謎(ほんものの下仁田ネギはそんなにユニークなんだろうか

讃岐平野には大河川がない。そのために水不足は深刻であった。弘法大師が造ったといわれる満濃池をはじめとして、1万以上、全国の約8%ものため池が密集するのはそのせいだ。このような状況では多量の水を必要とする稲作は困難を極める。一方で小麦は、稲に比べると乾燥には強い

うどん県にはそういう背景もあった。ただ、現在は小麦の作付けが往年よりは下がってきているのは市場の影響かな。なにに置き換わっているんだろう(調べていない)。

約300万年前には四国山地に源を発する川が讃岐平野に流れ込んでいた。つまり讃岐山脈は存在せず、この辺り一帯が平坦であったことになる。しかしその後、山脈が隆起したために、この川は流路を変えざるをえなくなり、山脈に沿って東へと下り、現在の吉野川になった

関東平野の地下には巨大なお椀状の凹地が存在している(中略)関東山地から房総半島南部の 嶺 岡山系、そして銚子の犬吠埼茨城県ひたちなか市、さらには八溝山地足尾山地と、関東平野を取りまく地域には基盤岩が露出している。この縁から東京湾の真下に向かって基盤岩の深度は4000m以上も深くなっている(中略)。フィリピン海プレートは、相模トラフから関東地方へも沈み込んでおり、1923年の大正関東地震関東大震災)、1703年の元禄関東地震などの海溝型巨大地震が繰り返し発生してきた。これらの相模トラフ沿いの海溝型巨大地震でも、プレートの跳ね返りによって海溝の陸側に隆起域が形成されたとすれば、房総半島周辺の隆起現象をうまく説明することができる。実際に大正関東地震ではこの辺りの海岸で隆起が認められた。そうであるならば、東京湾直下に存在するお椀状の地下沈降盆地は、相模トラフ沿いで起きてきた海溝型巨大地震によって、逆L字型の隆起帯の陸側にペアで造られた沈降域と考えることができよう

関東平野の地下、かなり興味深い。次の首都直下でもいまの能登半島に近いような隆起もありえるのだろうか・・・

ウェザーニュース発表の2021年雨・雪なし日数ランキングによると、山梨県は202日と堂々の国内第1位である。年間の6割にあたる日で傘が要らない

なんとなく瀬戸内かと思っていた。これによって山梨はブドウの産地としてうまくいっている様子。

コアユは他地域のアユに比べて縄張り意識が強く、友釣りを行うには好都合であるそうだ。そのこともあってコアユは全国各地の河川で放流されて、太公望を魅了している。しかし海水耐性を持たないコアユが両側回遊のアユと交配して誕生した稚アユは海に降っても翌年遡上しない。だから太公望の欲望を満たすためだけにコアユの放流を続けると、天然海産アユの資源減少を招くことになる。古事記万葉集にも登場するアユは、日本の食文化を支えてきたといっても過言ではない。私たちがこれからもアユとともに文化を育んでいくためにも、アユの資源保護は必要不可欠であろう。

知らなかった。やはり放流は生態系上もよくない・・・

その他、紀伊半島富山湾、日本酒の水など多数の話題があっておもしろい本でした。