ぜぜ日記

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ビジネスモデルとしてのプラットフォームの分類

1. プラットフォームを整理する目的

プラットフォームという言葉はあいまいです。同じ言葉を使っても、思い描くプラットフォームが違っていて会話が噛み合っていない場面を2,3回経験しました。

自分も、坂ノ途中にて、環境負荷の小さい農業に取り組む生産者さんと買い手をつなぐプラットフォーム、ファーモを開発する中でいろいろ悩んだり迷子になったりしてきました。プラットフォームの概念を整理して、建設的な議論するための土台とするために書いてみます*1。学術的ではありません。プラットフォームを成長させるための手段については別記事で整理する予定。

"platfome"のもともとの意味は「たいらな土地」。駅のプラットホームもこれで広い意味があります。「基盤」と訳されることもあってさまざまに使われています。 投資家やメディアに受けるバズワードとして流行ったことも原因。たしかにプラットフォームという言葉はかっこいいし、「基盤」も日本人が大好きな言葉。自分も好きです。

この記事では、ビジネスモデルとしてのプラットフォームについて扱います。ビジネスとつけてはいるけれど、ちょっとだけ行政主導のものも含みます。

また、この記事ではコンピュータのOSやハードウェアなコンピュータプラットフォームは扱いません。 wikipedia英語版の記事が事例も多いのでよければ参照してみてください。ただ、OSやゲームプラットフォームなどビジネスモデルとしてのプラットフォームと境界が曖昧なものもあります。

Computing platform (Wikipedia)

2.プラットフォームの定義

近年、AirbnbUberの急成長を受けて、そのようなマッチングをベースにしたサービスのことをとくにプラットフォームと呼ぶむきがでてきて、本も多数出版されています。3冊読んだので紹介します(まあまあ時間がかかった・・・)。

ひとつはアレックス・モザド、ニコラス・L・ジョンソンによる「プラットフォーム革命」*2

本書ではこう定義しています。

プラットフォームは消費者とプロデューサー(モノやサービスやコンテンツを作ったり提供したりする人) を結びつけて、モノやサービスや情報の交換を可能にするもの

その詳細として、こうも書いています。

プラットフォームとは何か。それは複数のユーザーグループや、消費者とプロデューサーの間での価値交換を円滑化するビジネスモデルだ。この交換を実現させるために、プラットフォームは、ユーザーとリソースからなり、好きなときにアクセスできるスケール化可能な大型ネットワークを作る。また、プラットフォームは、ユーザーが交流し、取引ができるコミュニティーと市場をつくる。

次いでジェフリー・G・パーカーらによる「プラットフォームレボリューション」という似た邦題の本も出ています。 原題はそのまま"Platform Revolution"なので前述の本が先にプラットフォーム革命という邦題で出版されたとき出版社は困ったのではないかと思います。サブタイトルは"How Networked Markets Are Transforming the Economy"。

本書での定義。

「プラットフォーム」とは、外部の生産者と消費者が相互にインタラクションを行うことにより、価値を新たに創造することを基本とする。プラットフォームは、相互に関係しあえるようなオープンな参加型のインフラを提供するとともに、そのインフラのガバナンス(統治) の条件を整える。プラットフォームの全体的な目的は、ユーザー間で完璧なマッチングを行い、製品やサービス、社会的通貨を交換しやすくして、全参加者にとって価値を創造しうるようにすること。

プラットフォーム革命と同じような内容です。ビジネス書としては、こちらのほうが洞察や事例が豊富な印象でどれか一冊読むならこれがおすすめです。

3冊目はセカンド・マシン・エイジの著者アンドリュー・マカフィーらによる「プラットフォームの経済学」。 原題は"Machine, Platform, Crowd :Harnessing our digital future"なので、直訳して機械(AI)、プラットフォーム、群衆と並んでいるものからまたもやプラットフォームがフォーカスされている。日本人はプラットフォームが好きだと出版社が判断したんでしょう・・・

本書での定義はこう。

プラットフォームとは、アクセス、複製、配布の限界費用がほとんどゼロのデジタル環境

それってデジタルコンテンツそのものでは?ただ、特徴としてはこうも書いています。

ハイペースで成長すること、そしてプラットフォームの所有者と参加者の両方に価値を提供できること、としています。そのほか、1 早い時期に地位を確立する。 2 可能な限り、補完財の優位性を活かす。3 プラットフォームをオープン化し、幅広く多様な供給を募る。 4 参加者に一貫性のある心地よいエクスペリエンスを提供するために、供給サイドに対して一定の基準を示し、審査をする、という特徴を備えている

定義では広すぎますが、供給サイド、参加者、という言い方からマッチングを想定しているようではあります。

前2冊の定義は、ヤフオクやメルカリなどのオークションのほか、クラウドワークスなどのクラウドソーシングがわかりやすいですね。

流行語にもなっているGAFAだと、広告主とWeb閲覧者を結びつけるGoogleアプリ開発者とユーザを結びつけるAppleGoogleandroidも)、出品者と購入者を結びつけるAmazonAWSについてはこの定義には沿わない?)、コンテンツ作者と読者を結びつけるFacebook(記事を作成しない最大のメディアでもある)はプラットフォーム。

これらの定義に従うとeBayなど、2000年以前からあったサービスも多いですが、近年、プラットフォームというカテゴリがつくられて盛り上がっているのは、AirbnbUberが社会問題になるほど世界に影響を及ぼしてきたからではないかと思われ実際に3冊とも、この二社の事例にかなり紙幅をさいています。ビジネスモデルとしては手放しに称賛していますが、コロナの直撃したAirbnbやgig workerの労働問題が社会問題になっているUberなど一筋縄ではありません。

ただ、2冊ともプラットフォームとしては営利企業が運営するWebサービスを念頭においているようで例としてもITスタートアップについてしか触れていないのは狭いと感じます。例えば、日本では公設でも民営でも卸売市場は消費者とプロデューサーを結び付けているし、ハローワークも近い。もちろんどちらも物理的な場所の制限があり、各書でプラットフォームに期待している資産を持たないことでの青天井のスケーラビリティはないという違いはあります。

補足:プラットフォームではないもの

ちなみに、前2冊は、プラットフォーム"ではないもの"に名前をつけています。プラットフォーム革命では「直線的なビジネスモデル」、プラットフォームレボリューションでは「パイプラインビジネス」。どちらも、ものやサービスを生産者から仕入れて、それを加工するか仕分けるか調整して付加価値をつくって消費者に販売するビジネス。トヨタラーメン二郎も農家も同じです。そしてプラットフォームはそうではない。

そして、誤解されやすいのですが現代のソフトウェア企業の多くとSaaSのほとんども、商品はデジタルだけれど、その価値は企業から顧客へと一方向に流れていく直線的ビジネスです。大きな違いは、ソフトウェア企業は、ITによる限界費用の安さから恩恵を得ている点。と、プラットフォーム革命では書いています。

プラットフォームかアプリか、と表現することもありますが、FacebookGoogleAmazonの例にあるように、アプリとして覇権をとることがプラットフォームにつながる道でもあるので二者択一ではないと思っています。

もうひとつ違うのは、プロダクト・プラットフォーム。これは、複数の商品の基礎となる共通の製法や部品です。たとえば、トヨタのTNGA(Toyota Next Global Architecture)*3。プラットフォームレボリューションではこれらをプラットフォームと呼ぶのは誤用とまで書いていますが、もともと定義もなく広い意味の言葉なので誤用は言い過ぎかとは思います。

重要な要素:拡張性について

拡張性、第三者による開発のしやすさはプラットフォームの重要な要素であって、一番プラットフォームについてのイメージがわかれる原因だと思います。

これの有無がプラットフォームかどうかを分けるわけではないけれど、質を変えうるもの。 たとえば、初期のTwitterではAPIを公開することでサードパーティTwitterを利用するさまざまなアプリを開発できてエコシステムができてユーザを増やすことができた。

また、SalesforceFacebookではプラットフォーム上でサードパーティアプリをプラグインすることで機能を拡充してサービスとしての魅力を高めました。 日本だとfreeeも取り組んでいて多数アプリがそろってさまざまな外部サービスと連携できます。ソニーのカメラもアプリストアがあります。

これ自体がプラットフォームの目玉となっているものにAndroidGoogle PlayiPhoneapp storeがあってマーケットとして成功していますが、app storeはフォートナイトともめています。いち民間企業のマーケットがデファクトスタンダードになりつつあっての社会的責任をどれくらい持つべきか議論になっています。

プラットフォームレボリューションでは、これを、インテグラル型ではない、モジュール型のプラットフォームと表現しています。 自分は、ソフトウェア開発の、伽藍とバザールでいう、バザールモデルに近いのでは、と思っています。

伽藍とバザール(The Cathedral and the Bazaar) 山形浩生訳

特に、初期の、APIを開放したTwitterや、SNSとしては後発ながらプラグインで機能を拡充して覇権をとったFacebook。 ただ、プラットフォーマーは胴元としてベンダーの生殺与奪権を握るという意味では、みな中央集権で、TwitterAPIを閉じたりしてサードパーティを切り捨てたり、FacebookAPIを急に変えて参加企業を閉鎖に追いやったりして、真の意味でのバザールモデルではありません。

本当のバザールモデルでやっているプラットフォームがあるかどうかは気になっているのでよい事例あれば教えてください。GitLabは近いけれどちょっと違うかな。

余談ですが、このあたりはネットスケープ創業者のマーク・アンドリーセンがプラットフォームには3つのレベルがあるとしている2007年の記事とつながっています。彼はプラットフォームを「プログラミングできるもの」として定義しているので今回対象とするプラットフォームとは違いますが着眼点は鋭い。*4

www.atmarkit.co.jp

3. プラットフォームの分類

さて、ようやく定義がでそろいました。各書でも微妙に違ったり、ちょっと不満なところもあるので自分なりにまとめていきます。漏れもあるし重複もあります。

プラットフォームレボリューションでの、交流型・交換型・交差型という分類と近いですが具体例がなく交差型がなんなのかはわかりにくいので名前も含めて分類しなおしています。

3.1 交流型プラットフォーム

  • 情報を書くひとと消費するひとをつなげるサービス。大多数のSNS。自分と多数という意味で1対多。
  • だれかと交流できるから、プラットフォームの価値が向上していく。
  • 生産者と消費者の区別がない。ただ、instagramcookpadのように、カリスマ生産者については後述のコンテンツ型とも近くなっていく。
  • 世界の例)FacebookTwitterInstagramなど
  • 日本の例)LINE、みてね、マチマチやsansan、爆サイはてなブックマークも?

3.2 マッチングプラットフォーム

  • 生産者と消費者を1対1でつなぐ。生産者にとっては、顧客を、消費者にとっては必要なものやサービスをすばやくマッチングできるからプラットフォームの価値が上がっていく。ツーサイドマーケットプレイスともいうらしいです。
  • 世界の例)ドライバーと乗客をつなげるUber、使っていない部屋と旅行者をつなぐAirbnbなどのシェアリングエコノミーをなすプラットフォームや、オンラインデーティングアプリなどのマッチング
  • 日本の例)メルカリ、ジモティー、クラウドワークス、ポケットマルシェなど。ハローワークもこの一種。
  • デジタルなサービスの場合、たとえばクレジットカードやモバイル決済もこの一種。

3.3 コンテンツプラットフォーム

  • 任天堂Netflixのような、コンテンツを作る側と、利用者が分かれているようなプラットフォーム
  • また、AndroidiPhoneのようなアプリのマーケットもこひとつ
  • 期待のコンテンツやアプリがあるから消費者は参加するし、コンテンツ提供者もそれでますます参入してくる
  • ゲーム、配信、また、交流型でもあるinstagramでもインフルエンサーのような、読者と読み手が分かれているものはこちら。
  • 映像コンテンツなどコンテンツのコピーが容易な場合、コンテンツ提供者は複数のプラットフォームに参加できるため、プラットフォームで覇権をとるのが難しいように思う。

3.4 メガプラットフォーム

  • GAFAM: GoogleAmazonAppleFacebookMicrosoft
  • BAT: Baidu, Alibaba, Tencent
  • 巨大すぎてうまく分類できないし、上触れてきた3冊の本でも意外なほど触れられていないんだけれど、これらの企業がプラットフォームだということに異論はないと思う。
  • 先にも触れているけれど、広告主とWeb閲覧者を結びつけるGoogleアプリ開発者とユーザを結びつけるAppleGoogleandroidも)、出品者と購入者を結びつけるECと、kindleで本の作者と買い手をつなぐAmazonAWSについてはこの定義には沿わない?)、コンテンツ作者と読者を結びつけるFacebook(記事を作成しない最大のメディアでもある)はプラットフォーム。MicrosoftはOS、Officeでつなげている。
  • そして、それらのデファクトスタンダードに近いサービスから、データとキャッシュを集め、関連サービスをつくってスタートアップを買収して多角化してさらにデータを集め強力になっています。
  • ただし、AppleiPhoneでは最初はappstoreをやるつもりがなかったことや、AmazonもEC、Facebookもアプリとしてはじまっていて、Google検索エンジンというアプリからはじまったことを思うと、どれも最初からプラットフォームになろうとは思っていなかったことは、メガプラットフォームに限らず、プラットフォームになるための重要な示唆があるように思えます。
  • これらの企業がある中で、これらの規模のサービスになる方法は、わからなさすぎますが、いわゆるスーパーアプリが近いかもしれません。

komugi.jp

まとめ

というわけで4つに分類してみました。それぞれマーケットごとに工夫があったり、エコシステムがあります。

では、プラットフォームをどうつくって、伸ばしていくか。成功したプラットフォームや失敗したものの振る舞いから成功するための方法論や知見が取り出せるはず。 次回、特にマッチングプラットフォームの伸ばし方について、各書や、自分が考えたことをまたまとめてみようと思います。 ポイントは、生産者と買い手をつなぐ一番重要な取引、いわゆるコアインタラクションに集中するか、だと思っています。

余談:行政のプラットフォーム

あとあと、上記の分類でうまく振り分けられなかったけれど行政もプラットフォームを冠する事業をいろいろやっています。 例えばこんな感じ。会議体からソフトウェアまでさまざまでこの文章で扱ってきたプラットフォームとは違うけれど。

近い領域でデータ提供者とデータ利用者をつなぐようなサービスは、存在すればプラットフォームだけれど、このデータのハブとでもいえるものは提供者やプラットフォーム事業者にとってお金になりにくく、どうすれば実現するかは悩ましく思っています。別サービスで成功してデータを収集したところが一機能として公開するのがわかりやすい道ですが、データの種類によっては行政ならでは仕事かもしれません。その場合、使われるものをつくるにはどんな座組が必要だろう・・・。

きわめて例外だと思うのですが、これくらい強いRFPが必要なのかもしれません。

togetter.com

*1:あと、3年前の自分に向けて・・・

*2:原題は"Modern Monopolies"で サブタイトルは"What It Takes to Dominate the 21st-Century Economy"

*3:いつもテンガと読んでしまう

*4:レベル1は、APIを公開しているサービス。例えば、APIを公開したことでサードパーティがアプリや関連サービスをつくることができたTwitterなど。レベル2では、プラグインが可能なもの。これはFacebookSalesforceなどサードパーティの開発者がそのプラットフォーム内でアプリをつくるもの。そして、レベル3では、開発者が書いたコードがすぐ動作できるものだとしてAWSに言及しています。この記事では名前はつけられていないけれど、このレベル3のプラットフォームは、後になってPaaS (Platform as a Service) と呼ばれ、GoogleAppEngineやHerokuのことを指すものです。これまでWebサービスを運用するためにサーバや環境を自前で調達していた時代から、アプリケーションのコードだけを用意すればわりあい手軽にWebサービスを運用できるようになるサービスでエンドユーザからはそのPaaSを意識することはないですむもの。自分も便利に使っています。このレベル1やレベル2は以下で述べるプラットフォームの武器のひとつでもあります。