ぜぜ日記

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2014年1月-3月に読んだ本:ヤクザの文化人類学、世界が生まれた朝に、ITエンジニアのためのビジネスアナリシス

去年は2ヶ月ごとに書いた本をまとめていたけれど今年は4半期ごとに書こうと思う。*1

実用書

実践ソフトウェアエンジニアリング

ロジャーS.プレスマンによるソフトウェア工学の名著。日本の文献でもだいたい引用されていてちゃんとした教科書だと言うことで読んでみた。

初版は1980年で原著は第7版まで進んでいて日本語訳の最新は第6版。古い本だけれど改版により第三部としてWebエンジニアリングに大きく紙数を割いている。


全部は読めていないけれど、Webの章とプラクティスの章を読んでみたけれどソフトウェア工学によくあるように、若干抽象的な感じは否めない。体系的に手法を紹介しているので仕事で困ったときにめくるともしかするとヒントがみつかるかもしれない。くらい。


あと、日本語訳のAmazonレビューはたいへん高いけれどAmazon USでは酷評されている。じゃあ、ほかにいい本があるのかと調べてみたけれどよくわからず。

実践ソフトウェアエンジニアリング-ソフトウェアプロフェッショナルのための基本知識-

実践ソフトウェアエンジニアリング-ソフトウェアプロフェッショナルのための基本知識-


ITエンジニアのためのビジネスアナリシス

通勤途中の大きな本屋でみつけて表紙買い。
ビジネスルールという概念を中心にビジネスをどう分析して効率化するかという方法論が解説されている。
なにかたいへん有用なことが書いてあるけれどカタカナ語が多すぎてかよくわからない。もうちょっとそういった経験を積むと価値が分かるかも知れない。

要点

  • 意味を外部化せよ
  • ビジネスルールを一カ所で管理する

−構造化ビジネス用語(ファクトモデル)を定義する

気になった記述

  • 「how」を知る者はいつでも職を得ることが出来る。「why」を知る者はいつでもその上司になる。
  • ユーザとアナリストの関係。(ユーザ)達成すべきものはなにか(アナリスト)どうやってそれを達成する
  • ITシステムは手続き的であるが、ビジネスルールは宣言的になる。これにより再利用可能になりマネジメントしやすくなる。
  • ビジネスルールには一時点だけの決定に用いる決定ルールと、継続するビジネス活動に関わる行為を形成する行動ルール。後者はパターン化しにくい。
  • 行動ルールは違反を検知することが中心課題。違反自体ではなく違反を示すイベントに反応する。
  • ノウハウのモデリングをするのはノウハウのためではなく考え得る最高のビジネスソリューションを導入するため。(でもどうやって?)

−ビジネスルール決定時のモチベーションや経緯を記録すると良い


繰り返し出てくる「意味を外部化する」ということの重要さはわかる。それを記述するための厳密なルールを取り出すのが難しい。本書で何個もでてくるパターン質問は参考になるかもだけれど、こういった質問をするためにはよほど時間かける必要がありそう。

有償のセミナーやツールも多数あるようでそこへの導入ということもあるかもしれない。あとITエンジニアのため、というのは「プログラマのための線形代数」くらい釣りタイトルだと思う。

しんどくてさらっとしか読めなかったのでもっと軽めの本から読んでいきたい。

ITエンジニアのための ビジネスアナリシス

ITエンジニアのための ビジネスアナリシス



構造化分析とシステム仕様 トム・デマルコ

だれだよデマルコ先生をエッセイストだと思っていたやつは!
自分が生まれるまえの本ではあるけれど、アジャイル的な発想は随所にあるしアジャイルという手法はそれほど画期的というわけではないのかなとも思えた。もちろんアジャイル宣言のコンパクトさや広げる動きは賞賛されるべきもの。DOAのバイブルであるしDOAエンタープライズだと未だに中心的な基本。こういった設計の経験してみたいものです。

分析の最優先課題は成功を勝ち取ることではなく、失敗を回避することにある。

バレエの世界では振り付けを表現する表記法の開発が長い間の課題だった。Mere Cunninghamは過去の失敗例に着目してある考え方に至った。彼によると、体の動きを支配する頭脳中枢と読み書きなど思考を支配する中枢が分離しているため、人間相互のコミュニケーションが難しくなるというのだ。手続きは実際にやってみせる方がそれを記述するよりはるかにやさしい。

構造化分析とシステム仕様<新装版>

構造化分析とシステム仕様<新装版>



ソフトを他人に作らせる日本、自分で作る米国

内製化に興味があって、かつAmazonでの評価が高くて手に取ってみたけれどおもってたのと違った。やっぱAmazonの評価はあてにならない。楽天のレビューの10倍くらいは信用できるけれど。
なぜ米国ではシステム内製が主流で日本ではそうではないか、システム内製化をすべきかどうか、するならどうやってするかが書いてあるかと思ったけれど、経営者・CIO向けの読み物っぽい感じがした、とはいえこれを読んでうんうん言っているような経営者のもとでは働きたくない感じはする。

ベテラン記者っぽさを意識しすぎな感はあるけれど古典やエピソードの引用が多くシステム開発に苦慮しているIT音痴な?経営者には賢く見えそうな立ち居振る舞いで参考になる。

以下考えてみたこと。
クラウド(などの流行の技術)を導入する前にビジネスをどう改革するか考えよ」と書いてある。手段と目的の近藤を避けるのが正しいのはわかるけれど手段を知らなければ発想はおのずと狭くなる気がする。ここらへんは売り込むベンダーばかりだし適切な判断は難しそう。コストメリットを知りたいだろうけれど、それは簡単に求まらない。

日本でのシステム構築がうまくいかない問題への処方箋としてこういったことがあげられていた。

大問題に対し、ささやかな対策を提示しておく。ソフトを実際に使う企業(発注者)の内部ないし近くに、様々な経験や技術を持った人たちが集まる場を設けてはどうだろう」


技術に対し主導権を発揮するために、経営トップがやっておくべきことは2つある。
1.しかるべき人物を技術のリーダーに任命し、利用する全ての技術について掌握できるチームを作らせる。
2.技術リーダーとそのチームをしっかり支える

ここで重要なのはすでに述べたとおり、社内の技術チームに当該技術に関して全てを内製できるくらいの力を持たせる事である。

これは大学生が面接で言いそうな正論ではあるんだけれど、実際にはプロを確保するのは難しいし使う側との知識のギャップもあって信頼できる諮問機関はなかなかつくれない。文化的・制度的・選抜方法の問題で技術者を雇うのは難しいし多段階発注でノウハウを組織に蓄積できずに社内にプロがいない。

泥臭くて地道なやり方しかないけれど、今のやり方が局所最適で抜け出すの難しいんだろうな・・・。

著者と関係ないけれど同じ日経系だとこのコラムが切り口新鮮でおもしろかった。
http://itpro.nikkeibp.co.jp/bn/mokuji.jsp?OFFSET=0&MAXCNT=20&TOP_ID=463805


内製化については「開発・改良の切り札 システム内製を極める (2011/7, 日経コンピュータ編)」がいろいろ事例を取り上げていて参考になるかも。
システム開発の切り札?内製化ってどーよ - うんこめも

ソフトを他人に作らせる日本、自分で作る米国

ソフトを他人に作らせる日本、自分で作る米国



よくわかるこれからの流通

メーカー・生産地から消費者を結ぶまでの複雑な流通をわかりやすく解説している。

  • その流通における各アクターの紹介とその戦術、歴史と変遷。
  • まちづくり三法や独占禁止法といった関連法。
  • 国内独自の商慣習

などなど。全然知らない人が概観するにはわかりやすいけれど流通はたいへん複雑だしこういった本にはかききれないような独自の文化やノウハウがあるんだろうな・・・。

EOS(電子受発注システム)やEDI(電子データ交換)といったIT部分についてはさらっとだけとりあげられているけれど、ここの部分をもっと知りたい。

ここらへんが参考になるのだろうか。
流通BMS.com

最近の研究成果 | 調査研究レポート│ 一般財団法人流通システム開発センター

図解よくわかるこれからの流通―なるほど!これでわかった (DO BOOKS)

図解よくわかるこれからの流通―なるほど!これでわかった (DO BOOKS)




小説

世界が生まれた朝に

これは、すごい本。神話といってもいい。今年ナンバーワン小説。

アフリカに生まれたひとりの男の一生が語られている本書。すさまじいのはその一生がアフリカの歴史・悲劇とリンクしていること。文字も年代という概念もなく祖先の霊や呪術、自然が支配する伝統社会に生まれ育つ青年期。そして白人たちの到来と征服を受け、彼らの力に驚く植民地時代。都市で仕事を得、世界大戦での退廃を経験。独立闘争と急激な近代化を見ていく老年期までを描いている。

一生にこれだけの激変を経験した国はコンゴ以外にあるのだろうか。創世記をなぞるようなスケールだ。


もうひとつの魅力は、知と力の追求。主人公は伝統社会での知を身につけつつも自然を観察し伝統社会での祖先の力や呪術を疑い世界の裏にある知を追求する。そして白人の力に圧倒されつつもそれをさぐっていく。終盤、彼らの近代科学の到達した遠く宇宙の事象や科学にとてつもなさを感じる一方で機械主義的な考え方は意味を与えないことに気付き、アフリカの全体的で物事の意味を問う考え方の価値が示唆される流れははっとさせられる。


著者のエマニュエル・ドンガラ氏はコンゴ生まれでアメリカに留学し、いまもマサチューセッツの大学で化学の教授をしている。彼の弟が東大に留学していたり、本書の一部は浅草のホテルで書かれたりなどなにかと日本に縁があるようだ。

訳もたいへん読みやすく緩急のある幻想的な空気をよく伝えていると思う。アフリカ版「百年の孤独」と評され、著者もその影響を語っているけれど「百年の孤独」と比べてメリハリがついていて読むのに使うエネルギーは5分の1くらいな気がする。登場人物の数が10分の1くらいなのもあるかもしれない・・・。
訳者の高野さんのうまさもある。ドンガラさんに絡む話は、高野さんの「異国トーキョー滞在記」という本で触れられておりたいへんおもしろいのでぜひ。文庫化して欲しい作品。

世界が生まれた朝に

世界が生まれた朝に



ノンフィクション

カニは横に歩く 自立障害者たちの半世紀

たいへんおもしろかったので個別に記事を書いている。
障害者による過激な組織「カニは横に歩く」 - うんこめも

ヤクザの文化人類学

タイトルに惹かれてAmazon欲しい物リストに入れて2年、買って1年放置して読み始める。
イスラエル人の著者がヤクザ組織にはいっていって見聞きしたことをまとめた本。

これまで読んできた民俗学読み物は、ほとんどの場合、個別のケース、人物、エピソード主体で書かれていた。
これは、別に木を見て森を見ずというわけではなく、エピソードの集合から読者に「森」を感じてもらうというスタンスなように思える。自分も、ここでヤクザという日本人には近すぎて入っていけないところに外国人だからこそ入って行けて裏話を知ることが出来るのではという、実話誌的な助平根性があったけれどこの本はそういったものとは一線を画していると思う。ただの個別事象の羅列ではなく抽象化・概念化できている。
多くの社会学・心理学の文献をもとに逸脱者たるヤクザについてその社会の中での位置を検討していて、その内容もおもしろいのだけれど分析していくプロセスが興味深い。これが訓練された文化人類学者か、と思った。

「逸脱とは人が行う行為の特質ではなく、「違反者」に対して他者がルールを適用したり許可を与えたりした結果生じるものである。逸脱者とはレッテルが首尾よく貼られた人物であり
人々にレッテルを貼られる行為が「逸脱」である」(Becker, アウトサイダーズ)

ヤクザの文化人類学―ウラから見た日本 (岩波現代文庫)

ヤクザの文化人類学―ウラから見た日本 (岩波現代文庫)


宇宙誌

やや古い本なんだけれど色あせていない。各惑星ことや宇宙探索のことから著者の専門分野でもある地球の成り立ちの歴史、宇宙の成り立ちを発見してきた天文学者や物理学者の系譜まで。科学的な面だけでなく哲学、人類学、文学なども絡めていてよくこんなことが書けるなと思う。

宇宙兄弟とかを見て宇宙のことに興味が出てきた高校生が読むにはいいと思う(適当)

宇宙誌 (岩波現代文庫)

宇宙誌 (岩波現代文庫)


山谷について

興味があって何冊か読んだ。
ドヤ街、山谷についてのメモ - うんこめも


戒厳令下チリ潜入記

近所の小さい古本屋で見つけて作者買い

百年の孤独」のガルシア・マルケス御大によるインタビュー聞き書き。優れた作家はノンフィクションも書けるのは村上春樹の「約束された場所へ」みたいなものかもしれない。

話は亡命中の映画監督が変装してピノチェト軍事独裁政権下の祖国チリに潜入し映画を撮るというもの。スパイもののようなスリルと、変わり果てた母国を見る懐かしさと切なさの交じる複雑な思いがある。

反政府組織の内情がわかるとおもしろいかとおもったけれど、ほとんどは主人公ミゲルの主観によるもの。それ自体が映画のような感じだった。

この時代のチリは、歴史上初めて民主主義的な投票で選ばれた社会主義の大統領が殺されて軍事独裁に入っている不穏な時期。そこでは経済はかつてないほど自由主義がとられあらゆるものが民営化されたということもあまり知らなかった。ソ連の影に隠れてあまり知られていないけれど、フリードマン的な新自由主義もだめだったとわかった世紀の実験でもあるようなのでこれも調べてみたいな。

幻想的で寓話的な叙事詩百年の孤独」はたいへんおもしろいのだけれど読むの辛かったけれどこれは読みやすくて含みもある。

戒厳令下チリ潜入記―ある映画監督の冒険 (岩波新書 黄版 359)

戒厳令下チリ潜入記―ある映画監督の冒険 (岩波新書 黄版 359)


その他

日本ボロ宿紀行

年季と風格のあるボロ宿、そういったものをひとつずつ特集している。なかには朽ちそうなところもあるけれどほとんどは清潔感がある。モダンで綺麗な現代的な宿もいいんだけれど、そうした新しく無機質ところと違いぞくぞくするなにかがある。けっして懐古趣味とか郷愁感ではないなにか。一度行ってみたいけれど、1人旅行の趣味はあまりないし一緒に行く人も選ぶので読んで楽しむくらいかもしれない。

絶版本なんだけれどあっさり地元の図書館にあって図書館すごい。北陸方面があまりないので今後に期待。

日本ボロ宿紀行

日本ボロ宿紀行

日本ボロ宿紀行


原色 日本島図鑑―日本の島433有人島全収録

全島を一冊に載せていると言うことでひとつの島あたりのページは4分の1から2ページと少ないけれどたいへんおもしろい。周防大島がないかと思ったけれど正式名では屋代島というのをはじめて知った。

いま特に行きたい島

観光で行くなら淡路島、伊豆大島かな。沖縄の離島はどこもおもしろそう。石垣島西表島にはまた行きたい。図書館で手に取ったけれど、手もとに欲しい

原色 日本島図鑑―日本の島433有人島全収録

原色 日本島図鑑―日本の島433有人島全収録


すし図鑑

おれは寿司のことをなんにもわかっちゃいなかった。これは海の宝石図鑑と言っても差し支えないと思う。

わりと築地近くに住んでいてたまに友人を案内するんだけどちゃんと勉強したい。旬と食べ方を知って、もっと寿司の魅惑の世界に入ってみたい。

すし図鑑

すし図鑑


この時期のまとめ

この時期は月3ケタ近い残業、休出、夜勤とでなかなか忙しかった。その割には生産的だったり頭を使う仕事が少なくてよくない。今後は専門書っぽいのも増やして手を動かしたい。


世間では消費税も増えたり、クリミア情勢は危ういし2014年に入ってしまったりSTAP細胞騒動があったり、Immutable Infrastructureが流行ったりしているけれど蚊帳の外感がある。友人もどんどん結婚したり仕事では重責を担ったり新しいことを始めたりしていて自分は行き詰まりを感じる。


*1:2月から3月が忙しくて書き忘れてただけ説も