経済事件というとなにを思い浮かべるだろう。
最近だと猪瀬元都知事が5000万円の献金を(返却したとはいえ)受け取ったかどうかという事件があったけれど、そういう贈収賄だけでなく粉飾などによる株価操縦、裏金による反社会的勢力との融通など多岐にわたる。そして、こういった事件は多くの場合で権力者か反社会的勢力が関わっていること、殺人などのように目に見える証拠があるわけでないことから摘発や真相解明は思いの外に難しい。脇の甘い猪瀬さんの問題も徳州会に押し入ってたまたま発覚したものだし単純そうな問題にも関わらず辞職の後は真相解明への道筋もあまり見えていない。
ぼくらのみんしゅ主義が選んだ代表が特定の利益を誘導するのにぼくらの血税を使ったり、市場をだめにするのは嫌なのでこの社会の闇である経済事件はとても気になっている。けれど、マスコミの報道では発覚直後にその時点での最新情報をまとめたものや評論家どものコメントは矢継ぎ早に出すけれど、真相が解明される頃には視聴者が飽きていてかあまり紙幅が割かれないような気がする。Wikipediaでは的を射ないし、ほかでは主観的な情報ばかりなので本に頼らざるを得ない。
というわけで近年の興味深い経済事件を簡単に整理している本書「平成経済事件の怪物たち(2013.12, 森功, 文春新書)」を読んだ。
バブルでの経済事件から最近の村上ファンド、小沢一郎の贈収賄の疑いまで案件というか人ごとに簡単にまとめられていて読みやすい。
- 作者: 森功
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 2013/12/18
- メディア: 新書
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何個か気になったトピックの感想のメモを共有する。
リクルート事件のDNA
情報産業で大成功をおさめているリクルートを創業し、戦後最大の贈収賄事件と言われるリクルート事件では有罪となった江副浩正。ベンチャーの革命児として見られていた彼はしかし、溢れるアイデアだけでなく、規制緩和されていた電気通信産業に入っていくためにNTTトップや政界に利益供与していくグレーなこともやっていく。これは逆にリクルートほどの会社であっても日本のエスタブリッシュメントへ入ることが難しいということと、政官へのパイプの少なさとから粗いやり方をとらざるを得ないという感じがある。あとは夫人への訴訟からも知れる厳しい金銭感覚やかなりグレーな地上げ会社を立ちあげるなど土地への執着が個性を感じさせて良い。
「リクルートのDNA」には描かれていないリクルートの原点のようなものが’わかる、かも。
リクルートのDNA 起業家精神とは何か (角川oneテーマ21)
- 作者: 江副浩正
- 出版社/メーカー: KADOKAWA / 角川書店
- 発売日: 2012/10/01
- メディア: Kindle版
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半沢直樹のいない銀行汚職
それ以外にも住友銀行のトップを13年間勤め住銀の天皇と呼ばれた磯田一郎たちとイトマン事件の話。
歴史の長い繊維商社伊藤萬は経営悪化を機にメインバンクの住銀から経営者を送り込まれる。そこで住銀が直接手を出しにくいダーティな仕事をするようになり、そこからのちに実刑判決を受ける経営コンサルタントの伊藤寿永光やフィクサー許永中が絡んでくる。磯田の娘の会社から美術品を法外な値段で買い取ったり、地上げ企業や経営再建の目処のない企業に出資したりと伊藤萬を通して3000億円が消えたとされるイトマン事件。これを住銀はなぜ許容してしまったのか、そして天皇と呼ばれた男はどう失脚したのか。そこに群がる反社会的勢力や銀行のどろどろとした人と人のやりとりが描かれていて半沢直樹好きな人は楽しめると思う(適当)
ほか個性的な人々
バブル時代の逸話いろいろ狂っていておもしろい。住銀の天皇:磯田一郎以外でも2つ名がなかなかおもしろいので簡単に紹介してみる。
- 長銀をつぶした男:高橋治則
- 総資産1兆円超の企業グループ、イ・アイ・イ・インターナショナルの総帥
- 地上げの帝王:早坂太一
- 都庁の移転先を買っており、土地転がしを編み出した
- バブルの女帝:アッコちゃん
- 林真理子の「アッコちゃんの時代」は名前以外はほぼノンフィクションらしい
- 作者: 林真理子
- 出版社/メーカー: 新潮社
- 発売日: 2007/12/21
- メディア: 文庫
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- 戦災孤児の億万長者:渡辺喜太郎
- インテリ不動産屋:佐佐木吉之助
- 慶応の医学部を出ているお医者さん先生で不動産業界に転身し、米紙フォーブスで1989年世界富豪13位にランクイン
- 浪速の借金王:末野謙一
- 北浜の天才相場師:尾上縫
- 借金総額2兆7千億円を個人で背負った料亭の女将とそれを崇める証券会社たち
- 証券界のドン、田淵節也
- 野村證券を急成長させて証券不祥事で絶頂を終える元特攻隊。
- サラ金の帝王:武井保雄
- ノーパンしゃぶしゃぶ大蔵官僚:田谷廣明、中島義雄
- 中島は次官候補と言われながらも退職し京セラや船井電機で幹部をしているのだとか・・・
イトマン事件や東京佐川急便事件など多くの疑獄で反社の顧問を多く勤めたヤメ検弁護士の田中森一や最後の大物フィクサー許永中たちとともに竹下登総理と金丸信の名前が出て来るのが興味深い。
どいつもこいつもなかなか太い精神を持っているしあまりに人間的でたいへん読ませる。ただ、数十億とか数百億とかいう単位が平気で出てきて金銭感覚がおかしくなりそうなので注意。猪瀬直樹?収賄5000万かゴミめ・・・。という感じがしなくもない。もちろん都職員では100万円くらいを業務委託先から無利子で借りて返したのに懲戒免職になったケースがあった気がするし冷静に考えれば大金です。はい。
ただ、ここに登場している人物は犯罪者ではあるのだけれど、例えば住専問題では国の対応が後手後手だったころが遠因なわけではっきりと悪人というわけではないんじゃないかと思う。小悪党的ではあるけれどそれは人間みんなその要素を持っているし。時代のもたらした権力と金が泥沼に嵌めてしまったのかと思うとどうやれば彼らの才能を活かして、ぼくらの雇用と彼らの納税を増やせたのかなあと思ったりします。お金怖いです。