ノンフィクション作家だけれど深夜特急の印象が強すぎる沢木耕太郎の「凍」を読んだ。
山野井泰史という極めて優れたクライマーと、その伴侶にしてこれまた世界クラスのクライマーの山野井妙子がギャチュンカン北壁という難関に挑み、頂にはたったものの下山時に事故にあい高高度の極限状態から生還した話。
山登りについては、これまでは大学の山岳部やワンゲルの友だちから話を聞くくらいであったけれど、これほどストイックなものとは思わなかった。なんというか、禅に近い。
山野井はクライマーの中でもお金と人手をかけて大多数で行き、キャンプをどんどん進めていく極地法ではなく、少人数軽装備で一気に登るアルパインスタイルを得意としている。
幼い時から山登りに魅入られ、高校を卒業するとアメリカ・ヨーロッパに渡り、現地で稼いでは登るという生活をするほどの登山家で、スポンサーをつけずに奥多摩で質素な生活をして山に行くような生き方をしている。
その生き方・クライマーの考え方もすごいのだけれど、なによりギャチュンカンでの凄まじい生還が素晴らしい。
非常に何度の高い壁で体力を消耗し、雪崩にあい凍傷をおして夫婦で生き帰る。言葉では語れないことを沢木耕太郎が丁寧に描いており、引き込まれる。強靭な精神に触れることができるだろう。
生還して指を何本も無くしてもなお立ち直り山に登る姿も眩しい。
この極限状況から生還するというもので1つ思い当たるのは「エンデュランス号漂流」
>>1914年12月、英国人探検家シャクルトンは、アムンゼンらによる南極点到達に続いて、南極大陸横断に挑戦した。しかし、船は途中で沈没。彼らは氷の海に取り残されてしまう。寒さ、食料不足、疲労そして病気…絶え間なく押し寄せる、さまざまな危機。救援も期待できない状況で、史上最悪の漂流は17ヶ月に及んだ。そして遂に、乗組員28名は奇跡的な生還を果たす―。その旅の全貌。<<
これはより大人数で長期だけれど同じ生還もので、ノンフィクションの傑作。
印象としては、「凍」が個人の肉体と極限状態を克服した精神だとすれば、こちらは大人数での極限状態の狂気を克服したリーダーシップ。
自分の置かれている平和な状況に安堵しつつ、このような極限状況に置かれたら自分はどう行動することができるか考えると自分の未熟さがいつになくはっきり浮かんでくる。
もっと良質なノンフィクション読みたいな。