野中郁次郎先生らによる名著
失敗の本質 ー日本軍の組織論的研究ー
を読んだ。
発刊27年で文庫版だけでも43刷を重ねている名著。
戦史と組織論を統合した分析で、読みやすくかつ学ぶところが多い。
内容
1章では個別の戦闘をケーススタディ的に分析。いずれも戦術的に大敗し、戦略的にもおおきな失敗となっている事例である。ただし、どれも戦力が圧倒的に劣っていたわけでなく、意思決定プロセスに問題があったことを示している。
2章では1章の内容や研究から帰納的に抽出されたものと演繹的に確かめたものから失敗の本質を整理している。
戦略的な失敗要因
- あいまいな戦略目的
- 短期決戦の戦略志向
- 主観的で「帰納的」な戦略策定
- 狭くて進化のない戦略オプション
- アンバランスな戦闘技術体系
組織上の失敗要因
- 人的ネットワーク偏重の組織構造
- 属人的な組織統合
- 学習を軽視した組織
- プロセスや動機を重視した評価
3章では日本軍の環境適応、過学習について指摘し、組織論から現代日本の組織に警鐘を鳴らしている。
要点をかいつまんで自分の言葉で整理すると
数々の失敗を重ねてきた日本軍の問題の原因は
- 情緒的で空気に支配される意思決定
- 冷静で慎重な意見を封殺する組織
- 人のつながりで問題を解決しようとしたり、理性より情緒を重んじる
- 逆に人のつながりのない組織間では対話がない
- 行き当たりばったりさと精神主義
- 計画がなく、問題の原因を意識不足に帰そうとしている
- 技術進歩の軽視と過去の踏襲
- 学習しない組織風土
- 組織間でのノウハウの不共有
- 失敗を封印しようとする
一言でいうと合理性の欠如、もしくは軽視。
なぜ合理性がなかったのか、これは人によっては日本人の特質という思い込みから、良くて農耕島国民族の特徴だと指摘するかもしれないが、それでは解決しないしなにより反例はいくらでもある。
それぞれに共通する深い原因を考えてみると、
ことなのではないかな。
これはその時代の流れの結果といえるかも知れないし、文化の積み重ねとも言えるかもしれない。
現代に対して
それぞれの問題と原因は、「失敗の本質」というだけあって太平洋戦争だけでなくて現代にも通じる。特に高度経済成長期で安定して、つまり自らの創意工夫と能力だけでなく成功した日本企業にも重なるところは多いのではないだろうか。もちろん日本だけでなく海外のGMをはじめとする企業に通じるところもあるけれど、まだまだ現代にも共通している。
この本の出版されたバブル期からは時間もたって、グローバル化や情報化といった環境の変化に対応しようとはしているがまだまだ組織内に「日本軍的な」なにかが残っているのではないか。
会社だけでなく小さな組織、部活や同窓会にも当てはまる点はある。
過去の教訓を生かしていきたい。
この本では、対策として
- グランドデザインの設計と共有
- 知識の淘汰と蓄積
- 異端・偶然との共存
- 自律性の確保
- 不均衡の創造
が挙げられている。自分の組織に足りない点はないだろうか・・