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うんこめも

自律分散うんこ製造システムについてのメモ

「戦術と指揮」から学ぶマネジメントの話

戦術と戦略の違いについては一般の高校生がぶち当たる問題だと思うので、わからない人は辞書で調べておいてください。


どうしても戦略という上位構造はかっこよく見えるし、そういうものを題材にしたコンサルタントや経営者によるビジネス書の類はちまたに溢れていて、よく売れているように見える。

たしかに戦略の失敗は戦術によって取り戻すことはできないほど大事なものなんだけれど、戦略の成功は下部構造たる戦術、ひいては一将校一兵卒によってなっている。それに自分のようなソルジャーサラリーマンの使命は戦術と遂行なので戦略を考えても仕方ないという側面もある。


み★ほ銀行の更改だってコンサルタントやストラテジストによってではなく現場の無数のSEによってなっているのだ(書いてから思ったけれどこれは適切な比喩ではない)。



というのは前置きで本書は元自衛隊陸将補による戦術読本。文庫でさっくり読めます。
副題は「命令の与え方・集団の動かし方」となっている。表紙のセガアドバンスド大戦略が目を引く。



戦術と指揮についての本だけれど、中身は戦術シミュレーションと解説がメイン。

原則の説明から灰って、前半は、特定の地形と状況でどういう戦術をとるべきかを2-4択から選ぶという、麻雀のどの牌を切るかみたいな頭の体操でわりとおもしろい。

中盤は、緊張関係のある某国に国連平和維持軍として派遣された部隊の分隊長(軍曹)として状況をこなしていく形式。これはけっこうきつい。まずはじめに、敵が来ないと思われていた海岸線を担当していたら敵が上陸してきて障害物をのけはじめた。小隊長には報告したが、応戦、発砲の命令が来ない。さあどうする?という問題からはじまるのだ。

選択肢はこんなの。
1. 独断で射撃を開始する
2. 敵が陣地に射撃するまで、射撃を待つ
3. 小隊長から射撃命令がくるまで待つ


解説では交戦規程がどう定まるかなどに触れるのだけれど、ストーリー上、発砲することになる。
そして、敵は地雷原を乗り越えて交戦し、部下1名が戦死する展開に・・・。


ほか、孤立した観測点へ夜間救援にいくためのルート選びや、捕虜の輸送車列のなかでどこに装甲車を配置するか、脱走者を発見した時にどうするか、対戦車地雷が少ない時、どこに設置するか*1など実戦/実践的すぎる。
途中で部下の伍長が闘争したことがさらりと触れられていたり。



後半は4000名の戦闘団の指揮官大佐としてのロールプレイングになる。
ここも多数の部隊をどう配置するか、急な事態にどう対処するかがテーマでなかなか興味深い。
複数の相手の指揮官がどう考えているかを読みながらのかけひきは若干のストーリー仕掛けになっているのもあって緊張する。


特に、敵の急襲など緊急事態の際し、自分の責任範囲以外の仕事を命じられた場合にどうするか。
とくにあとになって許可を得てからでは戦術的に不利な状況に陥り、部下将兵の生命を少しでも多く失うことは指揮官失格としている。動く権限はなくとも、どんな事態にも対応できる選択肢を広げておくことが重要だという。これはビジネスでも同じだよね。


ほか、参謀が戦死したり、本国のジャーナリストがだれが発砲許可もないのに撃ったのか、と探りをいれられたり官僚的な駐在武官からいやみをいわれたりと・・・。本国、いったい何国なんだ・・・。

最後は不完全情報で測れないものばかりの状況での選択は指揮官の人生観にもよる。としている。


ちなみに、これらはノルマンディ上陸作戦に際したドイツ、ナポレオンのワーテルロー会戦、モントゴメリーとアイゼンハワーにはさまれたチュニジアのドイツ戦、第4次中東戦争をまぜあわせてつくられたシチュエーションらしい。



たくさんあるコラムもけっこう読ませる。
いくつか引用・孫引きしてみる。

戦術の基本は「主力をもって敵主力の弱点を撃つ」

明確な対戦相手がいる状況ならではだけれどどこに力をかけるかは考える必要あるよね。

戦史における失敗の原因は、ほとんどすべての場合、ひとことでいえる。それは「遅すぎた」である。

プロジェクトマネジメントでも同じかも・・・。

指揮系統:軍隊では指揮官が1人で決心する。けっして合議しない。参謀には一切の指揮権は無く、指揮官を補佐することが使命。
参謀は一般参謀と事務参謀にわかれる。一般参謀は「監理・行政」、「人事」、「情報」、「作戦」、「兵站」に区分され担当となるが、これらすべての領域に発言権がある。また、特別参謀は専門的分野にわけられ、これらの分野について禅一般参謀に対しての調整権をもっている。こうしてマトリクス型の組織にすることで官僚化の弊害がおこらないようにしている。

理念はわかるけれど、個々の参謀の負担が高く結果として薄くしか把握できないような気もする。発言権、調整権の意味と参謀の割合がわからないとなんとも言えないけれど。実際にはどうなんでしょう。

軍隊の命令は、原則として、「後命は自動的に前命を取り消す」である。前命を取り消さない場合はかならず、前命が生きていることをつけくわえる

これは民間企業でも通用するようになってほしい。

命令をあたえる場合は、任務遂行に見あう「義務」「責任」「権限」をいっしょにあたえなければならないことは当然であるが、同時に任務を遂行するに見あう戦力も、あたえなければならない。さらに、命令者は部下が「もっとも自発的にその任務を達成しようと選択した」ように感じさせることが大切である。

せやな。それがマネージャーの腕の見せ所なのか。

防御任務に防御すべき時間を設定しないことは世界の常識である

これは現場の意識と、敵にすきを与えないために必要なんだと思う。


命令のコツ(要約)

  • 命令をするときには背景を説明せよ。
    • たとえばスターリングラードに包囲されたパウルス元帥の第六軍の救出を命ぜられたマインシュタイン大将は、命令をだすときは、時間の許すかぎり、自分の状況認識を、現状と予測を加えて説明していたそうだ。そして、この予測と異なる情勢になれば、部下の独断を期待すると述べている。こうして服従と独断について発令者と受令者の取引条件を明示するという。
  • 命令に当たって与える時間・空間・戦力を示し、過不足がないかを部下に確認する。そして交渉する。
    • 実施者が見積するべきなのはビジネスでも同じかな

「軍事指揮官は、首相や国防大臣のために、軍事に関して筋を曲げたり、自分の失敗を逃れる権利はない。なぜなら、首相や国防大臣は、戦場から離れている。だから、首相や大臣の規則・計画・命令が戦場の実態とかけ離れているときは、その実行を引き受けるな。規則・計画・命令の変更を執拗に要求せよ。端的に言うならば、将軍が、軍の破壊の道具になるよりは首を切られた方がましである。戦いの指揮官は、勝利に自信の無い命令を受けることは、勝利に自信のない命令を発することと同様、罪悪である(ナポレオン)」

営業は勝手に仕事を受けないでください。

「戦闘において敵情の4分の3は霧の中(クラウゼヴィッツ)」

考えの正しさを検証できないのに部下僚友の命を危険にさらすしでほんと孤独で難しい仕事だと思う。

プロシャ建国功労者のフレドリック・ウィリアム皇太子の逸話
皇太子「なぜお前は作戦に失敗したのか」
少佐「私は皇太子からの直命のとおり作戦しました。間違っておりません。」
皇太子「階級はなんのためにあたえてあるのか?命令違反をするときを判断できる者にあたえられているのだ。規則どおり、命令どおりするだけなら、貴様は将校ではなく兵士でよい。」

コーポレートガバナンスによって意志決定コストが重くなるのってけっこう足かせだよね・・・



わりと抽象的だけれど、第二次大戦時に米軍が開発したというアマチュア将校でも戦術策案を考え出せる思考順序を引用する。たぶん孫引きだけれど、原本はなんなんだろう。

アマチュアをすぐに実戦に送り出すテクニック

  1. 命題
    • 通常、上級部隊指揮官から与えられる任務
    • これを子細に任務分析し、達成する事項の優先順位を決める
  2. 前提
    • 作戦刷る地域を規定する。地域の特性を明らかにして認識し、戦術的に分析する
    • 現在までの敵情を解明し、将来の敵の可能行動を列挙して。採用公算と弱点を見積もる
    • 自分の部隊の状況を掌握し、敵戦力と相対比較して、勝ち目と問題点を明らかに認識する
  3. 分析
    • すべての敵の可能行動と、すべての味方の行動方針を総合的に組み合わせて戦闘シミュレーションを実施し、行動方針の選択のためのカギとなる要因を見出す
  4. 総合
    • 比較のための要因に重要度の順位を定める
    • 行動方針を比較する
    • ついで、時間と空間の要因について考える(英国式。理論的ではないが、経験的に誤りをすくなくするために繰り返す)
  5. 結論
    • 選択の腹構えを定め、最良案を選択し、その問題点と対策をあきらかにする

「戦闘においては、いかなる場合においても”大胆な案”を採用せよ。大胆な案は一か八かの案とは異なる。大胆な案は、最悪の事態における代替案をもち、それに転換できる予備を保有していることである(ロンメル元帥)」

適切な大胆な案を出せるようにしたいものです。受託開発では必要な状況なさそうだけれど。

名将の格言によれば、兵力が不足したときは、主要な部隊を動かさず、各部隊から適切に小部隊を抽出したほうがよい。経験則であり、説明のしようがない。

ひとりずつではなく、小部隊ずつ抜き出すということ。知的産業では難しそう(システム開発は知的産業かつ労働集約)。

鉄則:現場指揮官がもっとも現場を知っている

部長は黙ってろってことです。

毛沢東「特殊性の原則は一般性の原則に優先する」

はい。毛主席はあたりまえのことをかっこよく言うこと多い気がする。



なんだか一部でグチが交じったかもしれないけれど気のせい。


基本は軍事関係なんだけれど、これを読んでおくと大河ドラマでも架空戦史でも三国志とかもマンガでも戦記物でももっと楽しめるようになるかもしれない。


補足

戦争の話をいろいろしてみたけれど自分は戦争反対。平和が一番です。
だけれど、これは歌を歌えば解決する者でも軍隊をもたなければすむものではないと思う。抑止も宥和も不完全ということは世界史をならった高校生ならみんな知っていること。
本当に戦争をなくすためには人類を滅ぼすかマトリクスのように完全管理された家畜化するしかないと思っている。

なので、この社会では狂信的な武装集団から自国の被害を減らすためには訓練して備える人たちが一定数必要だし、ある程度の尊敬されないといけないとは思う(クーデターをおこされないためにという意味もある)。
そして適切に運用できるようにシビリアンコントロールと有事に適切に対応できる法整備は必要。曖昧な指示と雰囲気とで現場の指揮官に全責任をおっかぶせるのは最悪だ。

「戦死」もしくは「戦場での殺人」、「原発事故」、「倒産」、「デフォルト」をありえないもの、考えるだけで不謹慎なものとして議論を避けるのはなんだかなあと思うのです。


以上。FFTやりたくなってきた。

*1:国際条約では組織的地雷原はすべて記録し、その記録を保管する義務がある