webサービスの性能改善や大企業に伝わるQC活動の文脈でよく使われる「計測なくして改善なし」*1、“if you can’t measure it, you can’t manage it.”という箴言について、某所で引用しようと思って調べてみたところ、これがしばしば誤引用されていることがわかった。
この言葉はマッカーサー元帥の部下であり、日本の産業界に統計学的手法をもたらし大きな影響を与えたというデミング博士による、と紹介されていることが多いけれど、デミング博士による言葉は、まるっきり逆である。
It is wrong to suppose that if you can’t measure it, you can’t manage it – a costly myth.
W. Edwards Deming, The New Economics, page 35.
孫引きで恐縮だけれど参照元はこちら。
Myth: If You Can't Measure It, You Can't Manage It - The W. Edwards Deming Institute
意訳すると「計測できなければ管理できないという考えは間違いだ」。
とはいえ、計測やデータが重要というのは前提なうえであって計測しなくてもよいということではないので注意。この言葉だけを切り取ると、計測しなくても(おれの人間力or直感or知性で)管理すればいいんだぜ!と、さらなる誤引用が引き起こされそうではある。
そもそも、まったく違った意味で引用されているにもかかわらず、だいたい納得して通じてしまっているけれど、これは、計測できる対象であるにもかかわらず、計測しようともせずに推測で改善しようとする動きがまだまだはびこっているからかもしれない。いちエンジニアとしてそういう状況を看過していて反省である。
この言葉については、定性的であったり、(すべてを)計測できないようなものにたいしても統計的手法をもちいたりデータの取り方を工夫して計測して改善していこうというのがデミング博士の趣旨であると自分は読み取りました。
そもそもプログラムの速度など計測可能なものについては、"Measure Don't Guess." 「推測するな、計測せよ」という情報工学界隈にて誰が言い出したかわからない*2格言で殴ったほうが誤解は少なそうである。
とはいえ、デミング博士がご健在であった時代と違って、ビッグデータという流行語に代表されるように計測機器(センサー)も進歩して取得できるデータの量も格段に変わっている現在ではまた違う教訓が必要かもしれない。
たとえば、「改善するために計測せよ」。どんな仮説を検証するのか、なにをコントロールしたいのか目的をもってデータとりましょう(自戒)