制度設計(メカニズムデザイン)という理論がある、制度を適切につくることができれば資源配分などの問題を効率よく解決できる、というものである。
メカニズムデザイン - Wikipedia
高度な理論らしく、ぼくは教科書を読んでは見たもののよく理解できず挫折したけれど、その単純なルールによって複雑な問題を解決するというアイデアの素敵さは印象に残っている。今回、復興についていくつか思いつきがあるので、制度設計というほど仰々しくはないけれども、いくつかのアイデアとして書いてみる。提案レベルにすら至っていないのでご笑覧いただければ幸いです。。
現状の問題
経済は素人なので、あまり正しさは保障できないけど現状の問題を簡単に言うと次の文のようになる(よね?)。
地震と津波によって人命や家屋やインフラが直接被害を受け、間接的に物流や工場もストップした。付随する問題としては電力不足や自粛ムードや風評被害などがある。復興には短期的にも長期的にもはお金と労力が必要である。そこでお金を集めて、回していかなくてはいけないが財政上も余裕がなく、経済の成長の見込みもないため難しい。
そこでどう被災地にお金を集めて、うまく使っていくか、どう節電して必要なところにまわすか考える必要がある。お金の問題と、節電の問題2つに分けて、まずお金について考えてみる。
お金について
安直に考えると復興に必要なお金を集めるために2つの道を思いつく*1。
これらは大事な手段だけど、それぞれ問題も抱えている。
国債発行や増税は、短期的にはお金を集めることができても、長期的には景気の悪化を招き、民間が生み出す利益とぼくらがもらう給料を少なくし、ひいては税収入も悪化する*2。
寄付や募金は、人々の善意の共有や相互扶助的な考え方で、とても重要だし心があつくなるけれど、とてもすべては賄えないし、長期的にはあてにできない。
必要なのは、被災地以外の地域の経済活動を阻害することなく、長期的に、被災地を復興していく仕組み。
税金について。
お金が必要なので増税する、ということはいまの政府を見ていると大いにありそう。今なら国民もしぶしぶ納得しそうな気がする。しかし、単なる増税は肝心の被災地にも負担をかけてしまう。そこで安直な発想ではあるが、被災地では消費税をカットし、その他の地域では一時的に増税する、というものを考えてみたい。これのメリットは2つ
−被災地に負担をかけずお金を集めることができる。
−安さ目的で被災地での買い物が増加し、経済的に支援できる。
特に後者は、県外から被災地へ買い物旅行が増えて復興に役立つのではないかと思っている。問題点としては、境界設定が恣意的になるということ。どこだって消費税無料にしたいし、近くなのになれなかったところはみんな被災地で買い物して地元の小売店がやばくなる。
増税や寄付もやりかたはある。例えば、ふるさと納税のように寄付の贈与税を免除する(現状は日赤などは免除されるみたい)。税収は多少減るかもしれないが、寄付のインセンティブをすこしは増やすことができる。そうすればいまより大口の寄付も増えるかもしれない。寄付することのインセンティブを増やすには、アメリカのように寄付が社会で賞賛される行為になることが考えられるが、文化の問題なため難しい。いいアイデア募集中。
その他。制度設計とは違うけれどこういう視点もあっておもしろい。
休眠口座とか休眠宝くじとか - Chikirinの日記
節電について
大停電を回避するために、地震直後はみんなで節電しよう、という意識や輪番停電もあったけれどこれは2つの問題がある。
- モラルに依存しているため、徐々に、自分だけは・・という意識がきっとでてくる
- 経済活動を不活性にしてしまう
節電は呼びかけるべきだが、モラルに依存することは危険。特にモラルのみに頼るようになると戦争中のように一億総動員な自粛ムード、相互に監視し合うことになりかねない*3。
解決するにはスマートグリッドの整備による電力需要の可視化、適切な配分が考えられるが、これもすぐには実現できない。業界による自主的な輪番営業は多少の効果はあるだろうけど、小口だが大量にある家庭の電気を減らすことはできない。
そこでアイデアとしては電気料金をあげることや、逆に非ピーク時の電気料金を安くすることが提案されている。ここらへんは電気料金設定の法制度もあるが、モラルに依拠したり節電を強制するよりはスマートなやり方だとは思う。*4
技術的法的な可能性はさておき、シンプルに考えると、ピーク時の電気料金をあげて、非ピーク時(特に夜間)の電気料金を下げることが最適化への道だろう。そうして各消費者が「自分のために」節電すようになる。
この「自分のために」というのは制度設計やその元となったゲーム理論では非常に重要な考え方である。
自分のためにした行動が結果として他人や社会のためになる、というのが制度設計のみそである。自分のために働いたら社会が改善してみんなハッピーになるというアダムスミス的で資本主義的な考え方の応用だ。*5
さて、自分の電気料金を下げるためにする努力の結果、自然とピーク時にどうでもいいことで電気の使用を避けるようになればよいのではないだろうか。本当に必要な人は高い料金を払えば使えるので、輪番停電よりは不自由ないはず。1日中に電気を使う人は、夜間がより安くなることで多少相殺される。
もちろんこれはこれまでも多少はやっているけど、もうすこしドラスティックに料金設計を見直すことを狙う。
制度設計理論では、実証系の研究がほとんどなく、あっても個別のケーススタディ、具体的な料金設計を検討しているところはなさそう。具体的なパラメータ設定はどうしたら良いかなあ。需要と供給がわかっても難しそうではある。
ネット見る限り値上げは評判悪い・・・。説明するの難しそう。
http://neetetsu.blog109.fc2.com/blog-entry-1076.html
こういう議論もある。
備忘録: 大事なのは電気料金の値上げではなく、傾きを変えることです
どこかに研究者による提案とかまとまっていないかな・・?
夏場にいかに経済活動を維持したまま、首都の電気使用を下げるか考えると、まず家庭でお昼からクーラーかけてテレビを見ているところを減らしたい。そのためには疎開を促進したりする必要があるかもしれない。
制度設計とは離れるけれどミクロなアイデアとしてはこんなの考えたりしてる。
- 国会を北海道で開催する。付随する諸機関も
- 時間をずらす
- サマータイム
- 深夜も電車走らせて学校は夜、とか
- 甲子園高校野球を関東ではラヂオ放送のみにする
- 晴れている日に、太陽光発電を備えた家でしか受信させないとか
- 管外移転に引越補助
- 中学生を地方にホームステイ
- 発電アイデアに報奨金
税金とか節電以外の制度設計のアイデアとしては、
ボランティア募集
ボランティア募集。現在もボランティアに単位を出すよう文科省が要請している。これはわりとおもしろいと思う。恒常的にボランティアを確保でき、また教育的な効果もありうる。
http://www.asahi.com/national/update/0331/TKY201103310249.html
善意のボランティアを強要して意味あるのか、という反論も多いけど、善意かどうかなんて判断できないし重要ではない。学生が「自分のために」ボランティアをして、その結果として被災者が助かれば良いのではないだろうか。管理は難しいけど、アイデアとしてはいいと思う。
もちろん初期対応の現場が混乱しているときのボランティアは絶対ダメ。
競争的寄付
現在、いろんな団体が寄付を集めているけど、これを適切に使うのは難しい。国に預けたお金がろくなことに使われないように、日本赤十字などでさえ、必要なところに適切にお金を投下するのは非常に時間がかかるしむずかしい。そこで、もう小さくは始まっているが、いろんな団体が独自に被災地で復興活動をし、それに対してぼくら大衆が寄付をするやりかたを考えてみる。
現場で、直接にお金を使うことができる機動力のある組織が、復興に貢献し、それに必要な資金を提供するというやりかた。
可能性は2つあって、どこか大きいところがまとめてお金を集めて、支持を得た組織にお金を分配していく委託型と、事前にこんな復興支援がやりたいとプレゼンして、よいところに寄付する方法。持ち逃げや悪用されないような手段は必要だけど、まあ例として。
このやりかたは必ずしもいいやり方ではないけれど、みんなの募金や寄付を、どうすれば適切に使えるか、もっと練らなければいけない。
まとめ
復興や寄付にも制度設計の考え方は使えうるんじゃないだろうか。今回のは素人論議でいい加減なので専門家諸氏がどんどん提案していってほしいし、行政はトップダウンに計画停電したり増税するのでなくもっと考えてほしい。
感想
思ったより散漫な文章になった。。
メカニズムデザインを理論から応用に用いた事例を寡聞にして知らない。この拙い記事から、えらい人が、メカニズムデザインはこんなものじゃないんだぜ、もっとすごいんだよ、と対抗してなにか書いてくれること期待。
制度設計・メカニズムデザインは、とてもおもしろい考え方だけど、一見、計画主義的で大衆操作的な印象を受けるからか、あるいは資本主義への嫌悪感からか多くの人に評判がよろしくない。それはなんとかしたいなーと勝手に思ってる。
なにかコメントや補足や提案、叱責、おすすめのサイト・本・論文などあれば気軽に連絡くださいー。
さんざ偉い人が頭をひねっていて、なるべく経済を活性化しつつ増税するやりかたを模索しているのに、ぼく程度がいいアイデアを出せようもないか・・。
@daaaaaai
参考書籍
市場を創る―バザールからネット取引まで
ジョン マクミラン
様々な事例をもとに、丁寧に分かりやすく書いている。高いけれど、教科書的ではない。市場のルールが社会を変えていくさまがよくわかる読み物。
メカニズムデザイン―資源配分制度の設計とインセンティブ
坂井 豊貴 , 藤中 裕二, 若山 琢磨
教科書。ぼくには難解すぎて最後まで読めなかった。この手の本としては異常なくらいAmazonでの評価が高く、すこし謎。