ぜぜ日記

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架空の遊園地の繁栄と衰退を異様なスケールで描く大傑作「ゼウスガーデン衰亡史」(小林恭二)を読んだ

なぜか2014年11月に欲しいものリストにいれたまま放置して、最近kindle化されたことに気付いて読んだ「ゼウスガーデン衰亡史」(小林恭二)がめちゃくちゃおもしろかった。これまで読んできた中でも十指にはいるくらい好み。

ゼウスガーデン衰亡史

ゼウスガーデン衰亡史

あらすじを一行で書くと下高井戸オリンピック遊戯場という場末の遊園地が天才創業者の手によって繁栄して版図を拡大し国家に匹敵する組織となりつつも分派や対立やクーデターによって翻弄されて滅びていくという物語。その荒唐無稽さとスケールの大きさ、異様な人間たちの快楽追及の営為がいちいちおもしろい。なぜ遊園地?とはじめは思ったけれど、快楽を求める人間を描くにはこれ以上の場はないかもしれないと思えた。

よく考えると荒唐無稽だけれどありえそうで、実際に体験したいアトラクションの描画や、滅びゆくローマの中枢を描くような権謀術数なども楽しいのだけれど、そのなかでもある、2つの食事のシーンの描写が神がかっている。この衝撃を味わってほしいのでこれより詳しくは書けないけれど、どうしたらこんなの書けるんだろうというほどすごい。

笑えるシーンもたくさんあるし巻末の短編もよかった。 好きな登場人物は作中でも珍しく長生きしたアトラクションアーティストの真原合歓也(まはらねむや)です。こういう奇妙な名前の人間がたくさんでてきます。

コロンビアの辺境を舞台に、ある夫婦がはじめたガルシア=マルケスの「百年の孤独*1や、コンゴのまだ白人が到達していない地で育った少年が、白人の入植や戦争に翻弄されて現代化するまでを描くエマニュエル・ドンガラの「世界が生まれた朝に」(翻訳は辺境探検家の高野秀行さんの卒業論文!)のようなスケールと所業無常さを思わせる作品。

こういうスケールの大きい作品が好きで、本書とは違って人間はただの一人もでてこないけれど天野邊の「プシスファイラ」もインフレ的なスケールを描いていて好きでした。こういうの好きな自分におすすめの作品あれば教えてもらえると嬉しいです。

dai.hateblo.jp

読後にほかのひとの感想を調べてTwitterを検索するとSF作家の円城塔さんもすごいと書いているのを見つけました。

1987年に初版が発行されて、2019年に電子書籍化されているので今がタイミングです。 著者の小林恭二さんは俳句の本なども書いて大学で教えているそう、ほかの本も電子化されてほしい。

*1:ガルシア=マルケスはこれでノーベル文学賞をとった