すごいSFを読んでしまった。
きっかけはひと月ほど前に日本で急速にブームが来て急速にしぼんでいったブラウザゲーム「クッキークリッカー」。
ゲーム性も注目に値するのだけれどそのSF的な小道具の使い方とインフレ具合がかなりおもしろく、興奮して翌日9時からお仕事なのに朝3時くらいに記事を書きあげた。
この中でインフレものSFでいいのがないか書いたところ、コメントやブクマで「ディアスポラ」や「フカシギの数え方」、「かもめのジョナサン」を紹介してもらえた。インターネッツは自分が思っていたより暖かくて嬉しい。
その中でもKitten overseersという使い捨てハンドルネーム*1で「プシスファイラ」というものを薦められた。
プシスファイラ/天野邊はどうでしょう。
クジラたちのコミュニケーションに焦点を当てた牧歌的で大自然な物語と思い読み始めたのですが
いつの間にかGrandmaにも劣らないインフレをしてました…やり過ぎ感なら満足出来ますねKitten overseers
はじめはAmazonで新品は売ってないしレビューもないしでそんなに期待もせずにマーケットプレイスで購入したのだけれど、これは最高のインフレSFだった。自分の狭い見識・読書歴の中でとはいえ知性・情報技術・宇宙を題材としたSFで最もおもしろいもののひとつだと思う。フィクションの例に漏れずアラはなくはないけれど、そんなことは気にならないほどの勢いと途方もない想像力、それをさも当然のように語る強烈な論理展開。
帯紙に書いてある内容をかいつまむと舞台は紀元前8269年。クジラ類は超音波通信と輻輳処理による発信制御によって、それぞれの個体をノードとする分散広域ルーティングによる独自のパケット交換網を築きコミュニケーションを確立。そして、脳を外部からアクセス可能な計算資源として、パーミッションを設定したうえで共有できるようにしていく。そこで発展していく技術により歴史は動いていく・・・。
前半は、ありそうでなかったこの発想に驚く。山本弘の「アイの物語」後半に近い感覚をもったけれどほかにもこういう作品はあるのだろうか。
用語もパケットキャプチャリング・SYNパケット・P2Pネットワーク・DMZとネットワーク用語がとりいれられており、(自分の見る限りは)うまく使われていて萌える。
そして後半、ベルグソンやジョン・C・リリーがつかの間に登場したのち、21世紀に人類とコミュニケーションに成功してからの怒濤のインフレはグレッグ・イーガンや「紫色のクオリア」、「天元突破グレンラガン」、冒頭にあげたクッキークリッカーを連想するけれどこれをも超えている。
編年体で淡泊な記述が内容のインフレーションを引き立てている。おれが読みたかったSFはここにあった。自分の貧弱な語彙では表現できないけれどこれだけの読書体験はそうそうできない。
ただ、知性や宇宙の存在・発生への好奇心と哲学的探求が中心にきており、作中の社会問題とその受け止められ方は省かれている。退廃マニアや泥臭い人間の足掻きが好きは物足りなく感じるかもしれない。
ちなみに二章 166pから1ページ半ほど描かれるセックスシーンは自分のエンタメ史上最高クラス。これに匹敵するのは筒井康隆の七瀬三部作の完結編「エディプスの恋人」での概念となりはてたもの*2とのセックスくらい*3。
最後にセックスの話で締めてしまってどうかと思うけれど自分の貧弱な語彙では表現できないけれどこれだけの読書体験はそうそうできないのでみんなぜひ読んでみてください。
作者27才という若さで出版された作品。これを超える作品はそう生み出されえないとは思うけれど今後に期待せざるを得ないし才能を恐ろしく思う。
さらにツイッターで以下のようなことを書いているのも付記しておきます。
意外と世に少ない、ネットワークエンジニアが読むに耐えるクオリティのネットワーク小説を書いていきたい
惜しむらくはAmazonにレビューもないし新品は購入できないということ。いい作品なのだけれどタイミングが悪かったのかマーケティングが悪かったのか。出版社もっと仕事しろ!書評家はもっと宣伝すべき!世界に通ずる作品だと思うので英訳されてほしい。
これまでの説明で読みたくなった方はお貸しします。そのあとは下記のページにてご対応いただければと思います。
http://www.tokuma.jp/info/contact01.html
コメントでこれを教えてくれたKitten overseersさんありがとうございます。ご飯奢りたいのでもしよければご連絡ください。インターネッツ最高。
以上、よろしくお願いいたします。