ぜぜ日記

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読んだ本 2015年2月

今月は歴史系で大きな本2つを読んだ。

古代ローマカエサルの戦いと、中国の毛沢東共産党の支配の話。どちらも巨大組織で巨大事業を運営していったノンフィクション。それぞれ殺されたり、国民を大量に餓死させたりと失敗はしているんだけれど、大人物であったことは間違いない。組織の強力さと、恐ろしさが伝わるだろうし、現代日本の組織運営にも役立つかもしれない、しかし、ただエンターテイメントとして純粋におもしろい。

そんななか、ひさびさに読んだSF「火星の人」は巨大事業の先頭で意図せず孤独に戦うことになったエンジニアの話。組織の力の及ばない地で、科学と工学の強力さを思い知らされて示唆的。しかし、組織に対抗するにはどうしたらいいのだろうか・・・

ガリア戦記

ガリア戦記 (平凡社ライブラリー)

ガリア戦記 (平凡社ライブラリー)

世界史の教科書にも出てくる古典名著。古典と聞くと読むのつらいと思われるかもしれないけれど簡潔な文体で読みやすいし軍記物として展開がおもしろいしでエンタメとしても優れていると思う。

ガリア戦争自体は紀元前58年から51年までの8年間、カエサルがガリア地方(現在のフランス・ドイツ・イギリス南部あたり)を征服していった戦い。 そのなかで、執政官の任期を終えて属州総督となった40代のカエサルがいかに軍を指揮していったか、ガリア人たちがいかに戦っていったかがわかる。

毎年毎年各地で戦って、反乱を起こされたりしていて盛りだくさんなんだけれど一番の注目ポイントは、当時の戦争がかなり近代的な軍隊で、近代的な戦術で戦っていたこと。 各地にいる複数の軍団と連携をとる、平地戦では敵の油断を誘って包囲する戦術をとる、敵が逃げ出すと容赦なく追撃する、攻城戦では様々な土木工事と道具を使う。現地調達も含めて兵站を意識する。 敵であったガリア人も蛮族だったわけではなく、いかにローマ軍の補給を絶つかを工夫し、あえて自分たちの村や田畑を焼いたりもしていた。特に、ガリア戦争一番の激戦アレシアの戦いまでの連戦ではウィルキンゲトリクスがローマ軍支配下のなかで各民族をまとめあげてローマ軍とぶつかっていく様子は日本の戦国時代にもない規模。

日本と違って、文化も言葉も違うし、ガリア人は民族意識が強く、平民や婦女子も含めて総力戦になりがちなところは厳しい。

そういった戦争を、さまざまな別に命がかかっているわけではないサラリーマン兵士を率いて戦ったカエサルがすごい。 他民族も含めて、いかに部下の力を引き出すか、明示的には記述されていないけれど、勇気を出すものを賞賛する文化をつくっていたこと、武勲をあげたものを報償を与えていたことのほか、カエサルのトレードマークであった真紅の衣を見るだけで士気があがっていたことや、カエサルの不在の軍団で、軍団長がここにカエサルがいると思え、と言っていたなどカリスマ性が多分にある。

また、いかに支配した地域を安全に取り込むかでは、当時の慣習としてか人質をとるだけでなく、味方になるものを定期的に支援したり、助けてやったという恩を思い出させるよう念を押したり、会談の際に反乱しそうだと感じていても、カエサルが裏切ったととられないようにあえて見過ごして反乱をおこさせたりとかなり考えている。いったいどこで学んだんだろう。

当時のカエサルのおかれていたローマの状況を踏まえるとカエサルがただガリアを征服することに苦心していただけでなくローマでの元老院との政争にかなり影響されていたことがわかる。後顧に憂いをもったまま、ガリアで力を蓄えていると読むとカエサルの戦略性の高さが浮かんでくるし、あまりに成果を出しすぎて元老院に恐れられたのもわかる。

漢の韓信にしてもパルティアの戦いでローマ軍に勝ったスレナスにしても、ソ連のトゥハチェフスキーにしても、ナチスロンメルにしても、卓越した将軍、軍事指揮官が為政者の嫉妬の末に冷遇されたり粛清されるって歴史上よくあるよね。日本だと誰かいるだろうか。

繰り返すけれど、カエサルは指揮官としても政治家としても文筆家としてもきわめて優れていた前代未聞、不世出の天才だったとわかる。イタリアの歴史の教科書には「指導者に求められる資質は、次の五つである。知性。説得力。肉体上の耐久力。自己制御の能力。持続する意志。カエサルだけが、この全てを持っていた。」との記述があるほど。

ちなみにいくつかの翻訳が出ているけれど自分が選んだのは平凡社版。 ラテン語勉強のメーリングリストですこしずつ翻訳していって7年かけて完了したものを整形・修正したものとのこと。解説では当時のカエサルの置かれていた三頭政治の成立と瓦解、ローマでの元老院との政争などわかりやすく書かれていてよかった(本文を読む前に読んでおくべきであった)。また、要所要所に地図が載っているので助かる。

内乱記あたりも読んでみたい。

中華人民共和国史 十五講

中華人民共和国史十五講 (ちくま学芸文庫)

中華人民共和国史十五講 (ちくま学芸文庫)

700ページ近い大著なんだけれどおもしろくて一気に読めてしまう。 いい本だったので記事を書いてみました。

支配と抑圧の中華人民共和国史

火星の人

火星の人 (ハヤカワ文庫SF)

火星の人 (ハヤカワ文庫SF)

ひさびさにフィクション読んだら2日で600ページ一気読みしてしまった。

簡単にあらすじを言うと、火星への3度目の有人ミッションの際、主人公は事故により死亡したと思われ1人火星に取り残されてしまう。植物学者兼メカニカルエンジニアの主人公は限られた資材を工夫して生き延びていく。作業日誌文体のなか、ロビンソン・クルーソー的な創意工夫とユーモアがあってハラハラがあってよい。エンジニアかっこいい系ハリウッド感もあって、今年末には映画化されるのだとか。

ジャンル的にはライト・ハードSFで、設定も小道具もとっぴなところないので普段SF読まない人もグレッグ・イーガンとか谷甲州とか重いハードSFでつらい思いをした人も気軽に読めると思う。

計算して計画を立てて実験してフィードバックを受けて実行するという工学的なプロセスは、工学部に入った新入生とか読むともしかすると勉強の励みになるかも。自分も物理・化学勉強したくなった。こういう系のSF、ほかにどんなのがあるんだろう。

ちなみに著者のAndy Weirは15歳でプログラマーになって、いろんな仕事をしてきたけれどBlizzard社でWarcraft 2つくったりとかしていたらしい。

筒井康隆 創作の極意と掟

創作の極意と掟

創作の極意と掟

筒井康隆の創作についてのエッセイ。自分は別に創作しているわけではないんだけれど、巨匠筒井康隆がどう考えて、なにを参考にして、どう試行錯誤してきたかがわかっておもしろい。本を読むときに、文章や構成の背景が見えておもしろいかも。

気になったこと - 作家は自身が色気を持つべき。誰かに恋し続ければ文句ないし、その背後に死が感じられるならなおよし。 - 創作において迫力を生む題材は、対立。最大の迫力を生むのは、「死」。

あと涼宮ハルヒを絶賛してた。ビアンカ・オーバースタディも読んでみようかな。

ちなみにそんなに読んでいるわけではないけれど、筒井康隆では七瀬三部作と旅のラゴスは間違いない。あとパロディ系もまあおもしろかった気がする。あと3,4冊読んだ気がするけれど忘れたな・・・。読みかけ放置もままある。

イベント

尊敬する先生の最終講義

この先生は研究活動も尊敬に値するのだけれど、該博な知識と人間観を応用してペンネームでSF小説を書いていることで注目していた。 きっかけはその先生の研究室の学生に薦められて数年前に著作を読んだことなのだけれど、その先生がいよいよ退官するということで誘われていってきた。 最終講義はなかなか難解だったけれどユーモアと示唆に満ちていておもしろい。いい質問を思いついたけれどしそこねる。また、なぜか誘われて懇親会に行くと、いろんな方とお話しできてたいへん有意義であった。 話題は、カンボジア、メディア、農村、ドルイドUMAコンサルタント笠井潔現象学などなど・・・。 ちなみに、そのSFはあまり世間的に評価されていなくて残念。こんど、もっと評価されるべきSFとして記事書いてみるかも。

また、最終講義前に先生がよく利用していたという安いカフェにいってみると、はたして先生も奥様といらっしゃったのでサインしてもらえましたので自慢しておきます

3月の抱負

2月は節目ではあったのだけれど思っていたほどには生産的に動けていない。 書きたいブログもあったけれどすこし書いて放置している。28日しかなかったし寒かったから仕方ない、としたいところだけれどそういうわけにもいかない。。

3月は春。春は書をもって外に出よう。

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