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技術オタクのビル・ゲイツの「地球の未来のため僕が決断したこと」はポジティブな気候変動対策本

「地球の未来のため僕が決断したこと 気候大災害は防げる」(2021, ビル・ゲイツ)を読みました。

みなさま知っての通り、ビル・ゲイツMicrosoft の創業者で世界的お金持ちでいろいろ投資とか慈善事業もやっているんですが、その根っこはとびきり賢い技術オタクです。その稀有な人物だからこその本でなかなか前向きでおもしろい。

これまでの自分の理解では、この百数十年の間で地球温暖化は進行しているし、その多くは人類の活動による温室効果ガスによるものではある。けれど、人々が生活している以上、これを大きく減らすのは難しいのでは、と大きな問題から目をそらしていました。そして、なんとなくプラ製品の使用を減らしたり肉食の頻度を減らすくらいだったんだけれど、本書ではものごとを整理して解決のために取り組むべき問題を分解している。

本書の大きな特徴は、考える枠として、現在の510億トン/年の二酸化炭素輩出を実質ゼロにすることを大目標として掲げていること*1。そして、現在は各分野がその内訳のどれくらいを占めているのかと分解し、ある技術や施策はこれをどれくらい削減できうるかで(人類が)投資する価値を考えているという点。

本書では温室効果ガスの排出源を大きく5つに分類している。

  • ものをつくる(セメント・鋼鉄・プラスティック) 31%
  • 電気を使う 27%
  • ものを育てる 19%
  • 移動する 16%
  • 冷やしたり温めたりする 7%

自分が知らず驚いたものもいくつかあるけれど、たとえば、自動車は移動するのなかの半分にすぎず、鋼鉄とセメントの製造は、それだけで全排出量の約10パーセントを占めるというのは、B2B の大きさをみえていなかった。 こうして、目立つところだけではなく、分解してそれぞれ考えるのはソフトウェア工学での、分割統治法的な考え方なように思う。

さらに、イノベーション観には他の領域でも通用する学びがある。

現在僕たちが気候変動に対処するために必要なのは、さまざまな 学問分野 に正しい道へと導いてもらえるようにする方法である。  エネルギーでもソフトウェアでも、その他ほぼどんな仕事でも、厳密に技術だけの問題としてイノベーションを考えるのはまちがっている。イノベーションは、新しい機械や工程を考えることだけではない。新しい発明に命を吹きこんで世界規模で展開するのを手助けするビジネス・モデル、サプライ・チェーン、市場、政策の新手法を考えることでもある。イノベーションは新しい発明品のことであるのと同時に、物事の新しいやり方のことでもある。

また、ビル・ゲイツはもともと貧困国の慈善活動をしていた流れで地球温暖化に触れたということもあって、温暖化対策をしつつも貧困国の生活を気にしているというのがよいし、この気候変動対策はビジネス機会でもあるという視点もおもしろい。壮大なソーシャルエコノミー。

ものごとは単純ではないけれど特に印象深いことをいくつかとりあげてみる。まず、

化石燃料があらゆるところで使われているのには、もっともな理由がある。とても安いのだ。〝石油はソフトドリンクよりも安い〟といわれる。

これによって化石燃料は発電や動力としてさまざまなところで使われ続けている。 発電について、自然エネルギーもさまざま検討されているけれど、有力なものはすくない。 たとえば、風力や太陽光やバッテリーでは不十分。風はいつも吹いているわけではなく、太陽はいつも照っているわけではなくて、都市で必要とされる量のエネルギーを蓄えておける安価なバッテリーが開発される見込みもない。

同じ重さで比べると、いま手にはいる最高性能のリチウムイオン電池に詰めこめるエネルギーは、ガソリンの三五分の一 運がよければ、バッテリーのエネルギー密度はいまの三倍まで上がる可能性がある。しかしその場合でも、ガソリンやジェット燃料の一二分の一の密度にしかならない。

地熱についてはすなわち一平方メートルあたりで得られるエネルギーの量がかなり低いとしているし、水素はまず電気を使って水素をつくり、のちにその水素を使って電気をつくるためバッテリーに直接電気を蓄えるより効率が落ちるとしている。

自分としては気候変動だけではなく、人類存続のためにも有限の化石燃料は残しておきたいけれど難しい。 原子力発電については、核融合が本命だけれどまだできることがあるとはしている。

重要なのは、どこか特定の企業が核分裂核融合に必要な他に類を見ないブレークスルーを起こすことではない。最も重要なのは、世界がふたたび原子力エネルギー分野の進歩に真剣に取り組むことだ。無視するにはあまりにも有望な分野だから。

このあたりは「エネルギーをめぐる旅」でも触れられていたけれていた。 dai.hateblo.jp

本書からなるほどと思えたことは、現行の手段と、温室効果ガス排出のない手段を価格差で比べることで技術の市場化をする方法。

化石燃料の価格には環境破壊のコストが反映されていないため、ほかの手段よりも安く感じられる。追加でかかるこのような費用を、〝グリーン・プレミアム〟と呼んでいる

たとえば、車を所有するすべてのコストについては、走行距離一マイルあたり電気自動車のボルトはガソリンを燃やす自動車のマリブよりも10セント高くつくそうで、年間12,000マイル運転するのなら、1年あたり1200ドルのプレミアム、とする。

そしてこの概念によって、いくつかの選択肢がある場合はグリーン・プレミアムが低いかまったくないものを展開するべきとする。こうしたソリューションがすでにあるのに用いられていないのならコストが障壁となっているわけではないということで、時代遅れの公共政策や認識不足など、ほかの理由によって普及が阻まれているとしている。そして、研究開発資金、初期投資家、優秀な発明家はグリーン・プレミアムが高すぎるところに集中するべきだという。その領域こそが、環境にやさしい選択肢にコストがかかって脱炭素を推進できていないところであり、それを手頃な価格で提供できるようにする新しい技術、企業、製品がはいりこむ余地がある。

あとおもしろかったところ

僕は、気候変動についての理想的なメッセンジャーとはいえない。世界には、壮大な考えを抱いてほかの人にやるべきことを指図したり、どんな問題でも技術で解決できると思いこんでいたりする金持ちがすでにたくさんいる。それに僕は大きな家を何軒ももっていて、自家用飛行機で移動しているし、実のところ気候変動会議に出席するときも自家用機でパリに飛んだ。こんな僕が環境について人に講釈を垂れることなどできるのだろうか。

自己批判よい。排出権を購入したり、バイオジェット燃料を使うなどしててゲイツ家ではネットゼロにしているらしい。

ほか、さまざまな論点について触れられているけれど、特に自分の関心のある農業についていくつかだけ拾ってみる。

世界中でおよそ一〇億頭の牛が牛肉と乳製品のために育てられている。その牛たちが一年間にげっぷやおならで出すメタンには、二酸化炭素二〇億トンと同じ温暖化効果があり、これは地球上の全排出量の約四パーセントにあたる。

かといって、食文化もあり食肉を減らすのは難しい。代替肉などの普及も意味がある。

窒素をつくる微生物は、その過程で多くのエネルギーを使う。あまりにもたくさん使うので、微生物は進化して、絶対に必要なときしか窒素をつくらなくなった。つまり周囲の土壌に窒素がないときだ。窒素がじゅうぶんあるのを感知したらつくるのをやめ、エネルギーをほかに使えるようにする。したがって合成肥料を加えると、土のなかの天然生物は窒素を感じとり、自分でそれをつくるのをやめてしまうのだ。  合成肥料には、ほかにもマイナス面がある。それを製造するにはアンモニアをつくらなければならず、その工程で必要になる熱は天然ガスを燃やしてつくるので、温室効果ガスが出るのだ。それに、合成肥料を工場から保管用の倉庫(僕がタンザニアで訪れたような場所)に運び、最終的に使用される農場に輸送するトラックはガソリンで動く。最後に、肥料を土に入れたあと、肥料に含まれる窒素の多くは植物に吸収されない。世界全体で作物に吸収されるのは、畑にまかれた窒素の半分未満である。残りは地下水や地表水に流出して汚染を引き起こすか、亜酸化窒素として空気中に漏れ出る。

合成肥料の難しさ。いっぽうで堆肥も温室効果ガスを輩出はするのでその比較は気になる。 ほかの技術についても比較されているので、これからニュースをみたり、政党のマニフェストを判断するうえでも参考になると思う。

いっぽうで、各事実から、温室効果ガス排出を減らすある方向性については、まったく触れられていなかった。 いろいろ陰謀論のタネになりがちなビル・ゲイツからはとても言えないことで、自分も表現する方法をもっていないけれど、どうするべきなんだろうか・・・

本記事を書いてから、ゲイツはいま何してるかなと調べたらなんと日本にいて、目黒寄生虫館にいてびっくりした。

関連記事) 農作物の価格もなー、なんとかならないかなー、と思って書いた記事 dai.hateblo.jp

*1:輩出をゼロにするのではなく、回収する分と合わせて実質ゼロにするということ