ぜぜ日記

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「食と建築土木」でみるDIY精神

書店でタイトルに惹かれてぱらっとめくって、すぐにこれは傑作だとわかって買った本。 農村漁村にある人の手による工作物をいろいろ紹介しているたたいへんいい本でした。

干しダイコンをつくるための大掛かりな(下をトラックが通れるような)木造の櫓(ろ)とか、ウドの軟化栽培のための小屋、凍み豆腐を干す台とか、芋切干の穴とか、木造ビニールハウスでのみかん栽培、宇治の覆下茶園とか。それぞれ歴史もあったり、特定の風を活かすためなど土地特有の背景やおいしいものをつくるための工夫・知恵がおもしろい。

必ずしも、伝統のあるものというわけではないし、生活のための商品生産が主眼にあるんだけれど、その実用第一からなるミニマリズムというか無骨さがかっこいい。 DIY精神を感じるし、室戸では、戦前から和紙と竹で温室をつくっていて、強風ですぐ壊れるけれど野菜をいち早くつくって大阪に持って行って相当儲けていたというエピソードもあってハッカー精神を感じる。

農作業のための小屋などを多数とりあげている「マイクロ・アーキテクチャー 小屋の力」とも通じるわくわくさがある。

食味をよくしていくための工夫もあって、こういうプロセスに注目されることでブランド化になって商品も残ってほしい。 宮崎の大根やぐらの沢庵漬け、宇治田原の古老柿、福井のつるし柿(燻した干し柿)、長崎の茹で干し大根とか、長崎の茹で干しダイコンとか福島の凍み豆腐、静岡の芋切干し、淡路の灰干しワカメは食べてみたい。

ほか、建築家の藤森照信さんと著者の対談もあってめちゃめちゃおもしろい。

  • バーナード・ルドルフスキーの「建築家なしの建築」をひいている。レヴィ=ストロースのブリコラージュとは、組み合わせて新しい体系をつくることそのもので茶室がもっともよい標本という指摘も。
  • 今和次郎さ(1888-1973)の民家研究
  • 「自然破壊の原罪は農業にある」というのもほんとそう。農地が森林を潰して、その農地を住宅と工場が潰している
  • 大規模農業の末路・・・勝ち組はどんどん大きくなるけれど人口は増えない。例:オーストラリアなどの農家が1県に1つみたいな状況でコミュニティが維持できない。 とか

藤森さんの仕事はほぼ知らないけれど、(晩節を汚しつつある)猪瀬直樹の名著「土地の神話」の解説がよかったのを思い出した。

dai.hateblo.jp

「スローな未来へ」などの著者、島村菜津さんとの対談も、イタリアとの景観についてのスタンスの違いや変遷や、昔ながらの加工品に関連する制度を紹介していてよかった(後藤さんのイザベラ・バードの引き方は疑問だけれど)。

  • その地域で真面目にやっている人ほど、こうした町並み保存に最初は反対するというのも重い(そしてそういう人がのちに保存運動を主導することもしばしば)
  • 世界の傾向では車をシャットアウトした地域のほうが成功している(これは事例と不満は気になる・・・)
  • 衛生に対する過剰な意識は難しい。イタリアでは90年代に140ほどのレアなチーズが衛生法の影響で消えた。
  • 複合的なものを、日本の行政では文化的景観とひとまとめにして扱おうとしてうまくいっていないところもある
  • 農村だけではなく、日本の都市景観も大切。イタリアでは、大都市の住まい方を見直す→小都市→地方の農村と進んだからスムーズだった
  • 触れられていた 「九州のムラへ行こう」という雑誌も気になる(近畿版ないかな)

著者は「それでも『木密』に住み続けたい!路地裏で安全に暮らすための防災ばちづくりの極意」という本も書いているそうでタイトルだけでよすぎてポチりました。

ちなみに本書は基盤Cの成果らしいです。