ぜぜ日記

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おもしろノンフィクション2014年

いつのまにか終わりそうな2014年も思い返すといろんなことがあった。
イスラム国の樹立とアメリカによる空爆、ロシアのクリミア編入と世界地図にも影響を与えかねないものもあり、スコットランド独立の住民投票と香港のデモなど民主主義の新しい波もあった。一方でエボラ出血熱が猛威をふるったニュースは近代社会に恐怖を与えている。

国内では集団的自衛権の行使容認、衆院選での自公3分の2確保といった路線のなかで景気回復の兆しがありつつも、それが表面的なだけではないかという観測もある。そして、STAP細胞や佐村河内ゴーストライター、PC遠隔操作などの自己愛こじらせたような犯罪が目立ったのも特筆に値すべきだと思う。


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やっぱり現実はおもしろい。
小説もおもしろいけれど、現実はもっとおもしろい。

その現実のおもしろさの結晶たるノンフィクションはたいていのフィクションよりもよっぽどおもしろい、と思っている。


というわけで今年もいろんなノンフィクションを読んだので振り返ってみる。


※ノンフィクションと銘打っているけれど末尾にはノンフィクション以外のものも触れてみます。あと2014年とタイトルについているけれど2014年に読んだという意味です為念


去年の記事

2013年最高におもしろかったノンフィクション13冊 - うんこめも




マッカーサー大戦回顧録

エンタメ度:★★
登場人物の精神的質量:★★
自伝がノンフィクションかどうかはさておきマッカーサーの自伝はエンタメとしてもレベル高い。今年になって出た抄訳版では自伝特有の冗長さを省いて読めるのでたいへん便利。
彼は日本で一番有名なアメリカ軍人にして日本に最も影響を与えたアメリカ人だと思う。連合国軍司令官という役職によるものだけでなく、彼の人格や考え方が制度や人事となって後の日本に広範い影響を与えている。


本書ではフィリピンでの日本軍からの敗走と立て直し、飛び石戦略での連勝。そして日本統治までの間をまとめている。戦略や組織掌握、本国との交渉など軍記としてもおもしろいのだけれど、ヒロイズムに溢れた性格と実力を兼ね備えたマッカーサーの人物像が透けてみえるのが興味深い。


第二次大戦ものにはほかにもたくさん読ませる文章があるので興味があれば読んでみるといいと思う。ヨーロッパ戦線だと、マンシュタイン回想録とチャーチル第二次世界大戦(未読了)。太平洋戦争だと失敗の本質とか山岡荘八の小説太平洋戦争とかかな。エンタメとしては陸軍中野学校とか満州とか調べると楽しい。

戦争が科学工業を進歩させるというのはよく言われるけれど、それだけでなく傑物を世に出し、名文を残すという機能もありそう。これはもしかすると室町時代みたいな感じかもしれない。



山・動く 湾岸戦争に学ぶ経営戦略

山・動く―湾岸戦争に学ぶ経営戦略

山・動く―湾岸戦争に学ぶ経営戦略

ビジネスに役立つ度:★★
大企業病度:★
装丁のかっこよさ:★★★

例の女子高生も学んだという経営学者のピーター・ドラッカー先生がこんなことを書いていたという。

物流はコスト削減の最後の辺境だ。われわれは物流について、ナポレオンの同時代人がアフリカ大陸の内部について知っていた程度にしかわかっていない。そこに問題があって、大きな問題であることは知っているが、ただそれだけのことだ


いきなり米軍人の自伝が続いてあれだけど、湾岸戦争において軍の後方支援・ロジスティクスの責任者であったガス・パゴニス中将の自伝でもあり湾岸戦争の裏方解説本でもあるこの本を紹介する。サブタイトルは「湾岸戦争に学ぶ経営戦略」とついていてビジネス書っぽい感じもある。

100時間戦争と言われる湾岸戦争は、米軍が一気に戦力を投影して短期決戦で終わったという先入観があったけれど、かなり泥臭いものだった。なにせ40万人もの人間と700万トンもの物資を基地の近くにないサウジアラビアに配備するのだ。手前味噌感はあるけれど、そういった兵站/ロジスティクスの苦労を記述しており興味深い。



甘粕大尉

甘粕大尉 ――増補改訂 (ちくま文庫)

甘粕大尉 ――増補改訂 (ちくま文庫)

登場人物の精神的質量:★★
大陸浪人度:★★
また軍人で恐縮だけれどこれもなかなかの人物。本書で紹介されている甘粕正彦は日本軍関係の特務機関のうち、もっとも引きつけるものがある人物だと思う。
まず、アナーキストの首魁大杉栄を虐殺したとされ禁固10年の判決を受けたところから表舞台に名前が出てくる。しかし、これは陸軍の上層部の命令の泥を被ったという説もありいまだによくわかっていない。2年後に出獄し軍のお金で2年間フランスに留学し、その後に軍を離れて満州に渡り調査・謀略にかかわり偽装テロ事件や皇帝溥儀を極秘裏に移送し満州国樹立に関係する。建国後は民間人ながら警務司長や満州の唯一の政党である協和会の総務部長などを経て大陸での映画の配給や制作を担当する満洲映画協会の理事長になる。

謀略に関わっていながら本気で満州の文化を振興しようとし、現地民からも信頼され、ときに軍と対立しても筋を通す硬骨漢ぶりはおもしろくもあり、キワモノ揃いの日本軍関係者の中でも異様に浮いている。

特務機関、謀略関係では、謀略の昭和裏面史が幅広い話題を紹介していて導入としてはよいと思う。



謎の独立国家 ソマリランド

謎の独立国家ソマリランド

謎の独立国家ソマリランド

未知の世界度:★★★
エンタメ度:★★★
高野秀行による探検録。内戦の続くソマリアの一角に、一地域だけずっと平和を保っている民主国家、ソマリランドがあるらしい。国連にも認められずほとんど情報のないこの国を、現地での取材を重ねて現状や歴史がたいへんわかりやすく描かれている。

ソマリアはいま、首都モガディシュを中心に筆者の言うリアル北斗の拳状態となっている南部ソマリア(ここの首都、モガディシュは米兵が19名戦死したブラックホークダウンの舞台だ)と、ソマリアの海賊の拠点になっているプントランド、そしてソマリランド、その他細かい勢力に別れている。

このソマリランドでは、選挙による民主的な手続きで政権交代も起きているというアフリカでも珍しいほどの民主主義国家。複数政党による民主主義が成立しているというだけでもすごい。その秘密や成り立ちにも触れられていて社会の成り立ちについて考えることもできそうで、ガリバー旅行記くらい現代社会への風刺を感じた。エンタメとしてふつうにおもしろい。



山谷ブルース

山谷ブルース (新潮OH!文庫)

山谷ブルース (新潮OH!文庫)

未知の世界度:★★
暗澹たる気持ち度:★★
他人事じゃない度:★★
東京に来るまで日雇い労働者の街、山谷のことはなにも知らなかった。
アメリカ人の文化人類学者が山谷へ入っていって日雇いの仕事もやりながら山谷のことを観察・記録しているこの本は数ある山谷本のなかでも異色。

山谷の労働者、そこに住む人、支援する人たちへのインタビューは現実の重さを突きつけられる。戦災で家族と住む場所を失って以来山谷にいる人、事故で仕事が続けられなくなった人、裕福な家庭を持っていたけれど不義で出て行かざるを得なかった人などなど・・・。人情的なところと無慈悲さが同居する街という印象もありまだまだ興味は尽きない。政治家・官僚の方にはこの問題は知っていて欲しい感じはある。

詳しくはほかの山谷本と合わせてエントリを書いている。

ドヤ街、山谷についてのメモ - うんこめも



カニは横に歩く 自立障害者たちの半世紀

カニは横に歩く 自立障害者たちの半世紀

カニは横に歩く 自立障害者たちの半世紀

文庫本にして欲しい度:★★
暗澹たる気持ち度:★★
他人事じゃない度:★★

日本でもっとも戦闘的なポリシーを掲げる集団がある。

一、我らは、自らが脳性マヒ者であることを自覚する。
一、我らは、強烈な自己主張を行なう。
一、我らは、愛と正義を否定する。
一、我らは、健全者文明を否定する。
一、我らは、問題解決の路を選ばない。

全国青い芝の会 新行動綱領説明文

この読むだけで鳥肌が立つポリシーを書いたのは脳性マヒ(CP)者たちによる青い芝の会だ。CP者たちの権利獲得までの闘いの歴史は異世界すぎて暗澹たる気持ちになる部分もあるのだけれど非常に読ませる。病気や介護といった話題に興味はなくとも読むべき。また、組織形成とコミュニティ形成に興味があれば読んで得るところは大いにもあると思う。60年代に流行った新左翼系組織よりも切実さが桁違い(これらでは実際に人が殺されたけれど、それは切実さが足りなくて現実感がなかったからだと思う)。


機会があれば、東京ではたまに上映会やっている映画、「山谷 ー やられたらやりかえせ」を見るとよいと思う。これは撮影中と撮影後に監督2人が殺されたという血なまぐさい映画。

この本も詳細は記事を書いている。

障害者による過激な組織「カニは横に歩く」 - うんこめも



世界屠畜紀行

世界屠畜紀行

世界屠畜紀行

未知の世界度:★★
エンタメ度:★
食欲度:★★

本書は韓国、エジプト、バリ島、インド、チェコ、沖縄、東京、アメリカと世界各地の屠畜場を取材して回って屠畜について考えてきた記録。

屠畜を残酷だと思う人がいるのはなぜか、日本ではなぜ屠畜に従事する人が差別されるのか、世界ではどうか?といったことをインタビューをもとに考えている様子が良い。イスラム圏での肉屋は稼いでいるから偉いという合理主義、生きるに必死なモンゴルでの羊と命を共有するように屠畜する文化、社会主義時代のチェコでは肉屋が偉い人にいい肉を流して稼いでいたと文化がさまざま。
肉が好きな人ほど。



聞き書き ニッポンの漁師

聞き書き にっぽんの漁師 (ちくま文庫)

聞き書き にっぽんの漁師 (ちくま文庫)

登場人物の精神的質量:★★
エンタメ度:★★
沖縄から北海道までの日本各地のベテラン漁師13人からの聞き取りを書き起こした本。それぞれ捕る魚も規模も違うけれどみなプロフェッショナルでその考え方は何十年もの経験からのみ得られる重みを感じる。やっぱ、漁というのは自然を相手にした博打という性格をもつものもあってわくわくしてしまう。名インタビューだと思う。

プロフェッショナルの話ってなんでこうおもしろいんだろう。
ホットな話から漁業への後ろ向きな話もあって魚好きならぜひ読むべきだと思う。市場とか寿司職人のプロの話も読んでみたい。






おまけ

あとはノンフィクションじゃないけれどみんなに読んで欲しいよかった本を挙げてみる。

世界が生まれた朝に

世界が生まれた朝に

世界が生まれた朝に

文庫化して欲しい度:★★★
神話度:★★
すごい本。神話といってもいい。今年ナンバーワン小説。

アフリカに生まれたひとりの男の一生が語られている本書。すさまじいのはその一生がアフリカの歴史・悲劇とリンクしていること。文字も年代という概念もなく祖先の霊や呪術、自然が支配する伝統社会に生まれ育つ青年期。そして白人たちの到来と征服を受け、彼らの力に驚く植民地時代。都市で仕事を得、世界大戦での退廃を経験。独立闘争と急激な近代化を見ていく老年期までを描いている。

一生にこれだけの激変を経験した国はコンゴ以外にあるのだろうか。創世記をなぞるようなスケールだ。


もうひとつの魅力は、知と力の追求。主人公は伝統社会での知を身につけつつも自然を観察し伝統社会での祖先の力や呪術を疑い世界の裏にある知を追求する。そして白人の力に圧倒されつつもそれをさぐっていく。終盤、彼らの近代科学の到達した遠く宇宙の事象や科学にとてつもなさを感じる一方で機械主義的な考え方は意味を与えないことに気付き、アフリカの全体的で物事の意味を問う考え方の価値が示唆される流れははっとさせられる。


著者のエマニュエル・ドンガラ氏はコンゴ生まれでアメリカに留学し、いまもマサチューセッツの大学で化学の教授をしている。彼の弟が東大に留学していたり、本書の一部は浅草のホテルで書かれたりなどなにかと日本に縁があるようだ。

訳もたいへん読みやすく緩急のある幻想的な空気をよく伝えていると思う。アフリカ版「百年の孤独」と評され、著者もその影響を語っている。けれど「百年の孤独」と比べてメリハリがついていて読むのに使うエネルギーは5分の1くらいな気がする。登場人物の数が10分の1くらいなのもあるかもしれない・・・。
訳者の高野さんのうまさもある。ドンガラさんに絡む話は、高野さんの「異国トーキョー滞在記」という本で触れられておりたいへんおもしろいのでぜひ。文庫化して欲しい作品。



靴ずれ戦線

靴ずれ戦線 1 (リュウコミックス)

靴ずれ戦線 1 (リュウコミックス)

赤軍度:★
ユーモア:★★
萌え度:★
これもフィクションなんだけれど今年ベストマンガのひとつ。
凄惨な独ソ戦スターリンのいうところの大祖国戦争をコミカルなタッチで描いていてたいへんおもしろい。魔女という共産主義的にはありえないもの(むしろナチスの領分だ)を赤軍が雇って対独戦線にあてるというメルヘンでミリタリーなストーリー。とはいえ最近流行の萌え×ミリタリーではなく戦争の過酷さや死からも目をそらしていない。

話は、NKVD(内務人民委員部)の少尉ナディア(ナージャ)とベルリンを目指す関西弁ばりばりの魔女の娘ワーシェンカとがベルリンを目指して行軍するというもの。そして行く先々の戦線でスラブの伝承や民話に出てくる妖怪みたいなものと遭遇してなんとかするという流れ。それぞれのエピソードは切ないものから笑えるものまでよくできている。

あと、ナチ側魔女(親衛隊の高級中隊指揮官少佐)がたいへんかわいらしくてよい。出てくるたびにワーシェンカにやられて、眼帯になったり左手を鉤爪義手になっていたりと・・・
著者の速水螺旋人さんがいま連載中の大砲とスタンプも要チェック。これは兵站をあつかった紙の兵隊さんのどたばたコメディ。舞台と思しき場所が現在きな臭くなっている・・・。(12月のサイン会行きたかった)


サルでも描けるまんが教室

ユーモア:★★★
神話度:★
装丁凝っている度:★★

実用書の仮面を被ったドフィクションなんだけれど今年ベストマンガのひとつ。
まず表紙をめくってすぐの、マンガができるまでカラーコラムが異常。
インドネシアの木材業者のインタビューからはじまってパルプや紙の加工を学研マンガかってくらい解説してから、険しい顔をした漫画家が真剣にエロ漫画を描いて、これまた真剣な編集者から「もっと食い込みを強調して!」と鋭い指摘を受ける。そして写植屋さんがインタビューを受けながら、ひわいなセリフを打ち込む写真。それが製版され、ふたたび編集部で校了し、厳しい顔をした印刷会社の職人さんのまえをエロ漫画が流れていく様の写真とインタビューがある。そして、それを読む若者。それは読み終わった後、断裁されパルプになり、再生紙へ。そしてトイレットペーパーとしてさらにエロ漫画を読む若者の右手に置かれる。死と再生の雄大な仏教的景観・・・。
ひどすぎる。


はじめは漫画の書き方を項目ごとに4-8ページずつ書いて、ジャンルごとに攻略法がのっていてるんだけれどパロディ・諷刺だらけでいちいちおもしろい。
枠線の項では「陰毛」をつかって枠線をつくってみたり(なに言っているかわからないと思うが本当だ)、ポーズの項では竹熊センセのあられもない姿が描かれていたりいろいろひどいんだけれど、少年漫画で大事なのはメガネくんだと喝破したり、少女漫画と相撲の関連性について洞察していたりとするどい。

後半、彼ら自身が持ち込みして連載がはじまる部分のマンガがおもしろすぎる。苦心と努力?の末に大人気漫画となってアニメ化・グッズ化して絶頂をむかえ、そして人気低迷からどん底まで落ちてホームレスになるところまでを漫画家視点で描かれている、まるで創世と終末を描いた神話のようでもある。
間違いなく傑作。



その他の本

ポピュラーサイエンスでは、錯覚の科学、良心を持たない人々あたりがおもしろかったかな。サイエンスエッセイではカオスの紡ぐ夢の中で。これは後半に収められている小説 進物史観がだいぶよい。SFではすばらしい新世界が古いながらも楽しめた。マンガでは子供はわかってあげない、マスターキートンReマスターがよかったかな。ビジネス書ではリエンジニアリング革命。これはもっと考えたい話題。

映画ではウルフオブウォールストリートが最高すぎてほかはあまり覚えていない。
あとはぼちぼち。


読んで記録に残した本の数

マンガは除いています。
1-3月:16冊
4-6月:17冊
7-9月:14冊
10-12月:23冊
計70冊


2015年に読みたい本も山積みだけれど、もっと専門書を読もう


過去記事

タイトルの統一感のなさといったら・・・