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「スローフード宣言」(アリス・ウォータース)読書メモ

アリス・ウォータースはカリフォルニア州バークレーで「シェ・パニーズ」という、アメリカでもっとも予約の取れないといわれるお店(出典不詳)を立ち上げた方として知られてる伝説的な人物です。NHKの番組にもなっていたらしく、日本でも知られていそう。

当時、ファストフードや食の工業化が世の中に広がり、また前向きに受け取られていた中で、その地域の、旬の食材を使ったシンプルな料理が多くの人の心をつかんだらしい。ミーハーなので行ってみたい気持ちはある。

シェパニーズ - Wikipedia

公式HPもシンプルでかっこいい。

Chez Panisse

彼女を知った経緯は本屋さんで「アート オブ シンプルフード」という立派で魅力的な本をみかけたから。自分はソフトウェアエンジニアとして日銭を稼いでいるんだけれど、業界で最も有名な出版社オライリーは「アート・オブ・プロジェクトマネジメント」などアート・オブから始まる名前の本もいくつか出していて同じように惹かれたのかもしれないし、この業界ではシンプルさと、シンプルを保つことが重要だとはさまざまなところで語られ、自分も仕事をするなかで痛感しているというのもある。

この「スローフード宣言」は、著者の考えてきたことのエッセンスを短いエッセイとして多数まとめている構成になっている。まず、スローフードというとゆとりのあるお金持ちの趣味ではと思われたり、オーガニックというと(一部の行儀が悪い業者やインフルエンサーの誤った言説のせいで)疑似科学な印象をもつ人もいるかもしれないけれど、本書はそうではなく、人間性を大切にすることを中心にしていて多くの人に受け止めやすいように思える。

そうだよな~、と思うところは多かったけれど、特に印象に残ったのは「いつでもあるのがあたりまえ」の章。あらゆる野菜がいつでもあることによって、本当の旬がわからなくなってそれによって喜ぶも減るという指摘はたしかに自分にもあてはまってる。これは栽培技術や輸送技術の発達もあって、素晴らしいことでもあるんだけれど、感覚をにぶくさせているようにも思う。

ひとつだけ注意しておくと、本書ではエディブルスクールヤードという、学校での食育が大事だと説かれているけれど、料理人視点での取り組みなので、生産者の経営や物流、また食料供給についてはあまり気にされてはいない。かなり抑制的に記述されているので間違いではないけれど、本書を読んでこういう農業やろう!と就農するとかなり厳しいだろうし、生産者に給食向けに出してよ、と気軽に言うと想像以上の負荷をかけることになる。でも消費者として地域の、いい生産者のものを選んだり、食の現場に触れたりするのはコミュニティのためにもなるし、なにより楽しい。こういう飲食店が近くにあってほしい。

ちなみにオーガニック給食に関心がある人はAgriFactのこれらのシリーズは必読です

agrifact.jp

おもしろかったところいくつか抜き書き(引用じゃない項目は要約です)

自分の食べ物を育てることは、お金をするようなものだ

ロン・フィリー(ゲリラ・ガーデン)の言葉の引用。いい。

鶏一羽で6種類の料理が出来る

ホセ・アンドレスの言葉。「ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室」でもこれに近い記述があったけれど丸鶏を調理する文化はちょっとうらやましい。日本では丸鶏はあまり売られていないし日本語でのさばき方ほとんど見ない。

スローフード文化を伝えるための言葉選びにはいつも苦戦します。この文化を定義する言葉(コミュニティ、寛容さ、協力など)は使い古され、マーケティングにも利用されてきたため、それだけを聞いても人の心が動かなくなってしまったのです

これはある・・・。サステナブル/持続可能とかも近いよな~。グリーンウォッシングともいうけれど、コピーは簡単にコピーされてしまい力を失ってしまう。

  • 劣化している現状では、維持するだけのサステナビリティでは足りずリジェネレーション(環境再生)が必要(ロン・フィリー)

この視点は大事だけれど、アメリカの環境再生型農業はちょっと日本の土壌・気候とは違うし受け止め方が難しい。

いちばん好きなトマトは、八月の暑い盛り、カリフォルニアのポープ・バレーの東にあるグリーンアンドレッド農園が乾地農法で育てたアーリーガールトマト

気になる。自分の押しトマト、ちょっといえないな~。ナスはあるけど。ちなみにこのあと、イタリアのサンマルツァーノをカリフォルニアで育てることを批判している・・・。

知らなかった

手は心の器官である。縫い物も、材料を混ぜることも、リンゴを収穫することも、すべての手仕事は瞑想的なのだ

モンテッソーリの言葉。身体性が大切だとは思う。

  • イラクにあったシードバンク、2003年の侵攻寸前にシリアに移されさらにレバノンに移送された。近年カンザス旱魃がつづいて乾燥に強い種をもとめてこのシードバンクにあった種が役立った(「抵抗の種」マーク・シャピーロ)

おもしろい。

  • 米国で35歳以下の農家の数が増えたのはこの100年で2度目、というワシントンポストの記事があった

へー。

  • (単調作業がちな)キューバの葉巻製作者、毎日の繰り返し作業の中で、話が得意な同僚を工場の中央に立たせ、全員に向けて読み聞かせをする仕事をつくって賃金を払うことをみんなで決めた。何を聴きたいかは労働者みんなで決める。

おもしろい。

  • セールスフォースでの講演での質問「企業として明日から始められる人間的な一歩で、ビジネスにも変化をもたらすものは何かありますか?」には 「ランチを一緒に食べること」 と答えた

わかる

毎日の料理に欠かせないベースの食材は、両手で数え切れるほどしかありません。オリーブオイル、ニンニク、酢、塩、レタスとハーブ、アンチョビ、スパイス、小麦粉、卵、レモン。私の場合は、これだけあれば何でも作ることができます

どうつくるんだろ・・・。洋風お好み焼きが想起された。アンチョビは常時使いたいが高い・・・

本書で紹介されていた未邦訳だけれどきになる本。本書がヒットしてついでにこれらも訳されてほしい。

  • 「小さな土地と少ない水で想像より遥かにたくさんの野菜を育てる方法」ジョン・ジェポンズ
  • 「小さく考えよう」(ウェンデル・ベリー)
  • 「山々に語らせよ 川を走らせよ」(デイビッド・ブラウワー)
  • 「抵抗の種」(マーク・シャピーロ)
  • あとエリザベス・デイヴィッドとかジュリア・チャイルドのレシピ本