ぜぜ日記

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5月・6月に読んだ本 :キャバクラの経済学、日本奥地紀行、世紀の空売り、ドロヘドロなど

今回も先月と先々月に読んで印象に残っている本の記録を書いてみた。

言葉でたたかう技術

1929年生まれで1952年から夫についてアメリカに留学した加藤恭子さんによる文化的差異と言葉についての本。
アメリカで長く生活していた経験や、アリストテレスから佐々淳行まで引用して文化的差異を越えるために言葉の必要性とその技術について書かれている。

まず、要素だけ持ってくるとこんな感じ。個人として、というだけでなく国家としてという視点もある。

  • 海外で「特定の宗教はもっていません」と言ってはいけない
  • きちんと主張する。相手の主張を聞く。相手に説明する
  • 相手にとって不愉快なことでも伝える勇気が必要
  • 反論しないと噂程度のものも真実としてとられてしまう


そして興味深かったのが日本人の美質も場を変えれば弱点に変わるということ。謙虚さはこちらの実力や価値が相手に伝わらないことに、正直さとは駆け引きに弱く、思いやりは自己主張が出来ず推されっぱなしになることにもなってしまう。そしてそれを決めるのは受け手側。こちらはそれを意識して行動・発言を合わせないといけない。

もうひとつ「誠実さ」についての一節がこれまでの自分が思っていた「誠実さ」と違っていてはっとさせられたので引用してみる。

欧米では雄弁が大切だが、ある実業家なり政治家なりが非常に雄弁だったとしても、もし不誠実だと見なされれば、彼は人気を失う。誠実な人間とは、自己の意見、思っていること、感じていることを心から語り、自分の正しさに自信を持っている人のことを言うのである。
アリストテレスの「証明または証明らしく見せる言論そのもの」の「らしくみせるもの」であったとしても、その”証明”の正当性を信じて語らなければならないのだ


そして本書はノウハウ本としてよりも自伝としての側面がとても読ませる。
アメリカ留学当初は厳しい授業と並行して住み込みのメイドや季節労働え授業料を稼ぎ、敗戦国への差別もあってその様子が読んでいてつらい。苦労は尊いものではないけれど、これを乗り越えている著者は強いなと思う。
アメリカでは正しいからと黙っていても伝わらず、声をあげて説得しなければ伝わらない。文化の違いもある。
「原爆を落としたことは日本のためだった」そう信じているアメリカ人にどう反応するか。

あと、苦労を超えて修士をとって、信頼を得て研究し博士号をとって職を得て、日本の研究所設立に請われて帰国、というアカデミックサクセスストーリーにも読めるかもしれない。
アメリカで古老から民話を採集して出版まで持っていったりご自身でも発信していたりと行動力が素敵。

言葉でたたかう技術

言葉でたたかう技術



キャバクラの経済学

成熟した社会では余暇産業が経済成長の鍵を握っている。そういう意味ではキャバクラはかなりすぐれた事例。もしかすると、繁盛しているキャバクラから低迷する日本経済の回復の糸口を見つけられるかもしれない。

まず、キャバクラというのは疑似恋愛。恋愛体験を売る。それを疑似というのはほとんどの客も分かっているけれど通ってしまう。性風俗とキャバクラをごっちゃにしている人も多いけれど求めているものが違うからか顧客層はあまりかぶっていないそうだ(コンセプトによっては性風俗よりのところもある)。
どう疑似恋愛を売るかというと暗黙知的なノウハウも多数あるしマニュアルもあるだろうけれど、サービス業としてサービスを磨くのではなくタレントを発掘・育成・管理することが経営の中心にあるということがおもしろい。また疑似恋愛なのは客とホステスだけでなくホステスとマネージャも疑似恋愛だというのが興味深い。人間のことをすごく分かっている気がする。ちなみに男子従業員は厳しい実力制で縦割り社会になっているらしい。


かといってサービスがないわけではない。ただマーケティングを重視して顧客におもねると性風俗に向かってしまう。一方で、セリング(selling)企業として持てる製品とサービスを出発点とし、どう売っていくか考えているのが継続して利益をあげるキャバクラなのではという。本来、サービス業はマーケティングを重視していると思っていたけれど、ヒトの本能的な欲望には限りが無いのでセリングの立場の方がうまくいくことも多いという示唆が気になった。


いろいろノウハウが載っていて男はだめだな・・・と思ってしまう。店ごとに採算独立で店長は売上の一定割合をもらえるというアメーバ経営ぶりが多くの手法を生み出しているみたいだしここらへんのマニュアルとか管理手法、その進化とかぜひ読んでみたい。99年の発刊なのでいまはいろいろ変わっているかもしれない。


ユーザエクスペリエンスとかおもてなし経営とか考えるんだったら良いヒントになるんじゃないかな(無責任)。ひさびさにビジネス書っぽい本を読んだ。


おもしろかった言葉
「店側が用意した貸し衣装をいつまでも着用しているホステスは成長しない」

「キャバクラ」の経済学―「お客の心を捉えてはなさない」疑似恋愛マーケティングの考察

「キャバクラ」の経済学―「お客の心を捉えてはなさない」疑似恋愛マーケティングの考察



日本残酷物語I

これまで読んだどのホラーよりも暗澹たる気持ちになる。
豊かだった江戸や東京から離れた貧村のことが書かれている。多くの人々が死んだ飢饉。人々を静かに殺していく風土病、炎のように広がる疫病。慢性的な貧困と、常習化する堕胎・間引き。事実があったことは知っていたけれど、当時の文献をもとに取り上げられたその実態は想像をはるかに越えていた。飢饉の際には死体は片付けられず、人肉の味を覚えた野犬が人を襲い、食人も珍しくなくなる。人々は村の外に対しては冷酷で自分が生きるのに精一杯。あらゆるものを拘束されて炭鉱で奴隷のように働く女たちが日本にいたとは思いもしなかった。

この中の一章があまりに衝撃的だったので別の記事を書いてます。
日本でたぶん最初のグローバル起業家が鬼畜すぎる件について -日本残酷物語I - うんこめも

日本残酷物語〈1〉貧しき人々のむれ (平凡社ライブラリー)

日本残酷物語〈1〉貧しき人々のむれ (平凡社ライブラリー)



日本奥地紀行

維新後すぐの1878年の春から秋にかけて日本人従者1人を連れて東京から日光、新潟、青森、北海道まで旅したすごい英国人女性の旅行記。いまいる国の過去を外からの視点で見る体験はなかなか新鮮。外国人をひとりも見たことがない山間の貧村を克明に描いている。東京などの都会は文明開化と言って華やいでいても貧困と抑圧は日本中に蔓延っていた。一方で日本の安全さと、親から子への愛は褒められている。

そしてアイヌ人の貧しいが高潔な姿を描き、言葉や慣習を採集している民俗学者ぶりにも注目すべきと思う。高潔なアイヌ人がだらしのない日本人に文化的に政治的に征服されていくさまは、すこしガリヴァー旅行記の最後、馬の国を連想した。こういう外国人をほとんど見ないようなところを旅行してみたいな。

日本奥地紀行 (平凡社ライブラリー)

日本奥地紀行 (平凡社ライブラリー)



物語工学論

キャラクターの原型(プロトタイプ)が神話から共通していて、これが決まればストーリーの方向も自ずと決まってくる、という仮定のもと典型的なキャラクター原型を7つあげている。それぞれの来歴や応用例など豊富にあげていておもしろい、のだけれど思いつきがきっかけという感じが拭えないのでキャラクターからストーリーが生み出されるということについてもうちょっと詳しく書いて欲しかった。小説を書くときはわからないけれど読むときに参考になるかもしれない。それと、この人の評論は読みたくなったけれど小説はあまり読みたくなくなってしまった・・・。巻末の賀東招二との対談はわりとおもしろいのでフルメタ好きな人はぜひ一読を。

物語工学論 キャラクターのつくり方 (角川ソフィア文庫)

物語工学論 キャラクターのつくり方 (角川ソフィア文庫)



ウェブオペレーション

構成管理とデプロイ・リリースのプロセスを考える機会があったのだけれど考えはじめてみると自分は何も分かっていない。そこで教科書的なものがないかなとオライリーによる本書を買ってみた。実際には思っていたのと違ってエッセイ集のようだったのであまり読む気が起きなかったけれど読んでみるとかなり示唆に富んでいる。
もしかすると、こういうシステム開発でのハウツーやレシピは、プロジェクトの規模やターゲットや時期によって大きく異なって一般化は難しいのでこういうエッセイ的な形式こそモダンな手法を学ぶのにふさわしいのかもしれない。監視やメトリクスは自分の経験があまりないからか、こういうのもあるのか程度だったけれど、5章 コードとしてのインフラは自分たちのところではなかなかできないけれどそのコンセプトにとても惹かれる。13章 障害を活用する:ふりかえりの技芸と科学。など。アジャイルインフラストラクチャ。そしてhmsk先生による18章はインフラエンジニアのかっこよさが伝わってきて良い。
とはいっても本書はミッションクリティカルなものは扱っていない。ストレージの章のサンプルではRTO(目標復旧時間)は15分、RPO(目標復旧時点)は10分。これがもっともっと小さいレベルまで要求するものだと、どういいたオペレーションが必要になるのだろうか。ここらへんのハウツーとか経験知を知りたいけれどそういうのは企業内にしかなさそうな気がする。良い資料がないだろうか。開発チームと運用チームをどう組織してどう関連づけるかは難しい。すこし考えてみたい。

ウェブオペレーション ―サイト運用管理の実践テクニック (THEORY/IN/PRACTICE)

ウェブオペレーション ―サイト運用管理の実践テクニック (THEORY/IN/PRACTICE)



ソフトウェアアーキテクトが知るべき97のこと

アーキテクト的なことを知ることができるかなという軽い考えとオライリーのカレンダーに釣られて買ってしまった。欧米でアーキテクト的な役割を果たしている著名な人々のエッセイ集でおもしろいものもある。のだけれど、自分の経験不足からかふわっとしたように感じるものが多かった。原理原則的な訓話が多いのでもうちょっと経験を積めば分かるようになるかもしれない。ただ、せっかくすごい人をたくさん集めたんだからもっといい記事の依頼の仕方はなかったのかと思う。もうちょっとお酒の席で聞けそうな愚痴や失敗談、秘訣みたいなのも聞いてみたい。
これを肴に業界の先輩方と話をすると盛り上がりそう。

ソフトウェアアーキテクトが知るべき97のこと

ソフトウェアアーキテクトが知るべき97のこと



世紀の空売り

俗に言うリーマンショックことサブプライムローン問題の際、ベアースターンズやリーマンブラザーズが潰れたり世界中の機関投資家が大損ぶっこいた。そんな中でも逆張りして大金を手にしていた少数の投資家がいる。その投資家たちがチャンスを見つけたサクセスストーリー的な側面もあってわくわくする。けれど、それよりもこのサブプライムローン問題がいかに発生したか、つまり、事件の中心にあった複雑怪奇で低質なモーゲージ債がいかに生み出され広まっていったかということが本書のキモだと思う。ウォール街の優秀なエリートたちがなぜ自社が潰れるほどのリスクを見過ごしたかということと大金をもらっているCEOはいかに自社のことを知らないか。都合の悪いことを過小評価する人間の無力さを感じられる本でした。

ところで社長はなにも知らないということについてはこの記事がかなりうへぇ、となった。
平井社長が語る、ソニーの今とこれから | インタビュー | 東洋経済オンライン | 新世代リーダーのためのビジネスサイト

こういう金融系のノンフィクションは難しいけれどおもしろい。流行のアルゴリズムトレードやHFTあたりを作り上げたエンジニアたちの話が読みたいけれどいい本ないかなあ。

世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち (文春文庫)

世紀の空売り 世界経済の破綻に賭けた男たち (文春文庫)



ゲイルズバーグの春を愛す

Good old days Americaなミステリ短編集。SFっぽい要素が多少あるけれど暴力も劇的な恋愛もないしのんびりと気楽に読める。気球の話がエンジニア的で詩的でとても好き。



ドロヘドロ

魔法をかけられた青年とそのパートナーの女の子がある魔法使いを探していくファンタジーコミック。魔法使いが住む世界と人の世界とのちょっぴり不思議な交流を藝大卒の女性作家が情熱的にかつユーモラスに描いています。 #嘘はついていない

好き嫌いの分かれる濃い絵柄だし残酷だし色使いはダークだしで嫌悪感をもつ人もいると思うけれど、これはかなり傑作。狂気とユーモアが入り交じっている。メロディはデスメタルだけれど歌詞はポップな感じと作者がどこかで言っていたのだけれどそんな感じ。いま連載中でクライマックスなので続きがたいへん気になっている。
詳細は書きにくいけれどキャラがとても良い。つねにどくろマスクで死んだりゾンビになったりする恵比寿ちゃんや魅力的なヒールの煙さん。だめだめな藤田。デザインもいい感じに狂っている。とてもおもしろいので布教したい。全巻うちにあるので読みに来たら餃子焼きます。

ドロヘドロ 1 BIC COMICS IKKI

ドロヘドロ 1 BIC COMICS IKKI



その他

5月と6月は映画やアニメはそんなにだけれど文化的なことを何個か経験できた。部屋に籠もっているよりはよいと思う。でも女の子と語らいながら行くともっと良いと思うので努力していきたい。

ファイナルファンタジーVIIIのオーケストラを聴いて - うんこめも

梅佳代展にいってきた - うんこめも

文化と感性の話と東京江戸博物館のファインバーグコレクションに行ってきた話 - うんこめも


7月・8月について

コンテンツを消費するだけではないようにしたい。書を持って街へ出よう。
だんだん夏になってきているし冷房の効いたオフィスに籠もっていないで夏の暑さに汗をかいて噛みしめるように夏を過ごしたい。




これまでに読んできた本。

3月・4月に読んだ本 - うんこめも

1月・2月に読んだ本 - うんこめも