ぜぜ日記

ブログです

読書メモ 世界を変える偉大なNPOの条件

読んだのは2015年だけれど、書いてあったことを参照したく当時のメモを引っ張り出してきたのでメモを共有します。


NPO」と題していますがそこに限らず、なにか社会の問題を解決するためにはどうしていったらいいかというのが主題です。
そもそも原題はForces for GoodでNPO限定というわけではありませんが、社会に影響を与えたNPOのいくつかのケースを挙げてうまくやる方法を抽出しようとしています。 民間でも大学でも個人でも、なにか世の中の問題を解決したい人は読んでみると参考になるかもしれません。


概要(というか抜き書き)

本書でとりあげるNPOは予算規模や組織の大きさではなく社会に大きな影響(社会的インパクト)を与えているかどうかで選んでいる。


調査の結果、社会に影響を与えているNPOには6つの原則があることがわかった(それぞれについては後述)。

  1. サービスを提供するだけでなく、政府と協力して政策転換を促す。
  2. 市場の力を活用し、企業を敵視したり無視せず、強力なパートナーとみなす。
  3. 活動を支援してくれる個人が有意義な体験を行えるように工夫し、彼らを大義のために動いてくれる熱烈な支持者に変えていく。
  4. NPOのネットワークを築き、ほかのNPO組織を、希少な資源を競い合うライバルではなく仲間として扱う。
  5. 変化する環境に適応し、戦略的であると同時に革新的かつ機敏に動く。
  6. 社会変革の強力な推進者となるために、リーダーの権限を分担する。

調査の中で、これまで俗説として有用だと信じられていたものが間違っていたとわかったものもわかった。

  • 1.完璧な運営 2.ブランドに対する関心とマスマーケティング 3. 革新的な新しいアイデア 4.模範的なミッションステートメント 5.従来の組織評価の高評価(例:予算に占める諸経費の割合) 6.大規模な予算

これらは必ずしも必要ではない。

補足

  • 組織の成長は影響力を高めるための一つの戦略ではあるが、成功するための唯一の方法ではない。
  • 偉大さとは、NPOが組織の内部の運営をどうするかよりも、組織の外の世界に対していかに働きかけるかという部分に関係が深い。
  • 組織の外を動かすことが必然的に内部環境にも影響を与える特別な実践を伴う。


いくつか引用を孫引きしてみる。

社会起業家は、人に魚を与えるだけでは満足しない。魚の釣り方を教えるだけでも満足しない。彼らは漁業全体に革命を起こすまでは止めないだろう(ビル・ドレイトン アショカ財団 創設者)

革命をゴールとするこの言葉は歴史にたびたび混乱をもたらしてきた純粋な進歩主義者っぽさを感じた。

正しいかどうかにこだわるよりも、社会を動かすことが大事だ(マーティン・イークス セルフヘルプ創設者)

これは、理念先行とか理念バトルになりがちな組織への警句だと受け取った。

6つの原則

1.サービスを提供するだけでなく、政府と協力して政策転換を促す。

影響力のある組織は、地域サービスと政策提言(アドボカシー)の両方を行い、この2つの活動を結び付けている。この2つは必要なスキルも時間軸も異なるがそれぞれ好循環をもたらす。

アドボカシー活動はほかの組織と連携しなければならない場合が多く、成功が何によっても荒らされたのか明らかにすることは難しく定量的に評価しにくい。

政策転換を成功させる5つの原則

  1. 実利主義と理想主義のバランス (グリーンピースなどのような)過激なアプローチは社会変革につながらないわけではない、メディアの注目をあつめ大衆の関心を集める効果はあるが、長期的な有効性が損なわれることが多い。
  2. 超党派を原則とする 「ほかの環境団体との大きな違いを挙げるなら、彼らは環境を守る最善の方法は政権交代だと考えている点だ。」(エンバイロンメンタル・ディフェンス 提携担当部長) 「永遠の友なし、永遠の敵なし、永遠の利益あるのみ」(黒人議員連盟のモットー)
  3. 信頼と高潔を維持する
  4. 政策通を雇う
  5. アドボカシー活動のための財源をみつける

2.市場の力を活用し、企業を敵視したり無視せず、強力なパートナーとみなす

市場の力を利用する3つの方法

  1. 彼らは企業が従来の手法を変えて社会的責任をもっと果たせるように力を貸している
  2. 自分たちの社会目的のために、寄付、ボランティア、社会貢献型マーケティングなどの形で企業と提携して、資源を彼らから獲得する。
  3. 事業収益を生むために自ら事業を運営する

補足

  • 企業を利用するだけでなく、NPOも多くのものを企業に与えなければならない
  • 企業によって利用されたり、仲間や一般市民からは身売りと受け取られたりするリスクはあるが、ここに多くの機会もある。
  • 必ずしも収益につながる事業モデルがない場合もある。

3.熱烈な支持者を育てる。活動を支援してくれる個人が有意義な体験を行えるように工夫し、彼らを大義のために動いてくれる熱烈な支持者に変えていく。

社会に大きな影響力を与えるNPOは。多くの人が活動に参加できる方法を生み出す。そして人々に”適切な”体験を提供することができたとき、そうした参加者を組織の大義への熱烈な支援者に変えることができる。

優れた組織では、個人の参加だけでなく、支持者たちのもっと大きなコミュニティをつくり出している。コミュニティ自体が目的とされ、これを動かして、より大きな社会変革を実現する。

参加意識を高める法則

  • 組織の使命や目標、価値を伝える・・・心に訴える仕掛けを準備することからはじめる
  • 意義深い体験の機会をつくる・・単に無償奉仕させたり、寄付をさせたりすることよりも、深いかかわりに招き入れ、組織の事業を直接体験させる
  • エヴァンジェリストを育てる・・・ボランティアをエヴァンジェリストに変身させる
  • 愛されるコミュニティを築く・・・メンバーたちがつながる方法を提供し時間をかけて育てる

4.NPOのネットワークを築き、ほかのNPO組織を、希少な資源を競い合うライバルではなく仲間として扱う

大きな影響力を発揮するNPOはネットワーク重視の考え方を採用する。

  • 全体のパイを大きくする・・・資金の総額を増やしネットワークあるいはその分野へ資源を配分する
  • 知識を共有する・・・情報をオープンにし、ほかのNPOが能力を高めるための訓練を提供する
  • リーダーを育てる・・・活動する分野全体のためにリーダー育成に投資し、同じような価値観を持つ仲間と人材を分かち合う
  • 連携する・・・連携して先頭に立つか後方支援に回るべきかを判断する

5.変化する環境に適応し、戦略的であると同時に革新的かつ機敏に動く

  • 堅苦しい官僚主義と自由奔放な創造性の均衡点を見つける
  • 外部環境や組織内で生まれるアイデアに耳を澄ます
  • 実験し、新しいものを取り入れる・・・プロダクトイノベーションとプロセスイノベーション
  • 評価し、学ぶ・・・なにがうまく機能し、なにが機能しないのかを厳密に評価し、その情報をネットワーク全体で共有する
  • 修正する・・・評価結果をふまえて将来の結果を変更する。

自由なやり方で適応していく組織もあるし、体制を重視し厳密な計画や制度を用いて革新を遂げようとする組織もある。こういった組織は実践と同じ程度、評価や計画から学ぶ。

組織が変化するのに伴い、追加する新しい計画の数と同じ程度に既存の事業を廃止する。

6.社会変革の強力な推進者となるために、リーダーの権限を分担する

  • 外部向けリーダーとしての役割と組織管理の役割をわける
  • 形式上だけでなく実際に権限と説明責任を与える。権限を与えることで優れた人材は組織に長くとどまる。
  • 優れたリーダーは在職期間が長い
  • 後継計画をつくる・・・組織内外にかかわらず
  • 戦略的で規模の大きな理事会をつくる・・・(これは成果を出したことの結果なのかも?)

影響力を持続させるために

野心的な目標を達成することと組織の能力を培うことは相互補完的

最初に人を選び、その後に目標を選ぶ(ジム・コリンズ、ビジョナリーカンパニー2)

はい

技能は重要。でも情熱ほどじゃない。後から学べるから(セシリア・ムニョーズ、ラ・ラザ全米協議会)

そうだね

集中力と姿勢は後から学ぶことはできないし、これらは組織のよき支援者となるために必要だ(セシリア・ムニョーズ、ラ・ラザ全米協議会)

使命とお金の両方が、この順序で重要である。
本書で取り上げた成功している組織12のうち10の組織では、同じ規模、同じ分野、同じ地域で活動するほかの団体と比較してNPOとしては最高水準の報酬を支払うことを目標にしている。大半の運営幹部への報酬は10万ドルを超えている(2005年)

非管理職(専門職)のキャリアパスを設ける

私たちは、解雇する責任を負うべきだと考えている。人を解雇しない管理者がいたり、そういう部門があったりすれば、その担当者と会う。いまここでは280人が働いているが、私たちは世界を変えつつあると思っている。もし。可能な限り優秀な人材を雇っていないなら、そして自分たちを甘やかしているのなら、この組織はおしまいだ(エンバイロンメンタル・ディフェンス、フレッド・クルップ

これらの組織はいずれも人材管理面で好循環を生み出しているが、リーダーの育て方や最高の人材を確保・維持する方法を知ったから成功したのか、それとも、活動が成功して、ある程度の規模と安定性を得たためにこういった人材を保持できているのかその因果関係を解きほぐすのは難しい。おそらく両方あると考えられる。

成功した組織は資金獲得先を政府か、民間企業か個人から獲得するか選んでいる。そういった主体は収入源として優れているだけではなく、問題を解決するのを助けてくれる。

継続性のある市民による大きな寄付基盤は強力だが、それを得るためには相当な資源を投入しなければならない。

原則を実践に移す

偉大さとは、言葉から受ける印象とは異なり、他者と協力し、他者を通じてなされることに関係する。社会のすべてのセクターを活用して、社会的価値を生み出す力と結びついている。

感想

アメリカン巨大NPOの成功事例からいろいろ知見を集めているのが本書。NPOで社会を変えられるんだ!というのは日本の小規模ローカルNPOしか見えていなかった自分としては驚きでした。 気になるのは、この知見が日本でも活かせるかどうか。たとえば解雇規制やロビイングの習慣とかは違いそう。

思い付き

  • アメリカとの違いとしては、よく言われるのが寄付文化。寄付以外に政府や企業からの支援ということも書かれているが日本でやれるのだろうか。CSR活動を受注するなどはしているが使い道は厳しく制限されているように思うし継続性に難ありな印象
    • 寄付文化が根付くにはどうしたらよいだろか?
  • 政策提言はできうる?ロビイング。どういう法律が新規就農や農家の継続性を阻んでいるか考えるとおもしろいかも
    • 最近、耕作放棄地にかかる税金は増えたけれど・・・
    • GHQの農地解放で得た農地が、商業地や高速道路に転用されて大きな利益を出すのを待つために保持し続けているのいびつなのでなんとかしてほしい(例:売却益の何割かは地域に分担とか)

本書で書かれていなくて気になっていること

  • NPOが収益事業をつくりだすことの難しさと工夫や知見
  • NPOのライフサイクル。解決したら解散する?規模が大きくなると官僚化が進み組織のための組織になるような・・・

国内NPOについての愚痴は機会があれば口頭で。