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「ヒトラーとナチ・ドイツ」(石田勇治)を読んだ

石田勇治先生の「ヒトラーとナチ・ドイツ」読んだ。民主的なワイマール憲法下でなぜヒトラーが権力を握るに至ったか、ホロコーストを実行する組織はどうつくられたかが書かれていて恐ろしくも学びがあった。

第一次世界大戦後、多数派政党が形成できず議会が機能不全をおこしていたなかで保守派が首相の権力を強化しようと考えていたところに支持を伸ばしつつあったヒトラーを傀儡にしようと首相にしたところが返りうちにあった、そして権力を握ったことでメディアと治安組織に影響力をもって左派勢力を弾圧し権力を強化したという。この構図はトランプ現象を思い起こす・・・。

驚いたのはヒトラーは国際的なユダヤ人ネットワークがドイツを苦しめていたと信じていたらしく、ユダヤ人追放にかなりリソースをさいていたということ。これは現在の陰謀論にも通じそう。ユダヤ人追放で住居、財産や役職を得たドイツ人が多かったこと、ロシア侵略が失敗し追放先が白紙になったことで殺戮に切り替わったこと、そこでは障害者の安楽死に従事していた人員とノウハウが活かされたのは怖すぎる。

おもしろかったのは反乱を恐れるヒトラーのもと組織間の連携をとらないようにしたり省庁間を競わせるようなところがあったということ。ヒトラーの単独支配というよりは、最近の研究では多頭支配だとみられているのも興味深い。ほかの共産主義独裁国家は単独支配に近そうかな。国家運営が複雑になっていたということや各ナチス高官は公職のほか職業や地域コミュニティの役職も兼務するなど猟官に盛んだったというのも戦乱期の中国を思い起こす。

そんなドイツで電撃作戦を成功させてパリ占領を達成するなど軍事的には強力だったけれど、これを裏付けるだけの統制されたロジスティクスがどうなりたったかとか、大衆はどうしていたかとかは気になるところ。

ナチスの経済政策はよかったのでは」というさかしらな質問をたまに目にするけれど、これについても回答されている。パーペンら前政権の財政出動の成果がではじめていたり、景気回復の準備ができていたこともあるし、若年層の勤労奉仕制度で労働力供給を減らしたり、女性就労者を家庭に戻すことなどで失業率を回復させたことは事実。アウトバーンについてはもともと着手されていたし、ナチスの宣伝によって成果として記録されたこともあるそうだ。

ちなみにこの質問がたびたび出てくるのはナチスを絶対悪とみなすことへの反感だとは思う。もちろんナチスのしでかしたホロコーストや侵略という行為は許されざる人類悪なんだけれど、ヒトラー政権はワイマール憲法下でまがりなりにも合法的になりたっていたものだし現在の自分たちの営みとも地続き。これを絶対悪としてみなして距離をおくことは学びの機会を失ってしまうと思うので質問自体を愚かだと判断するべきではないとは思う。