ぜぜ日記

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読んだ本 2015年4月

待ち望んでいた春もあっというまにすぎて、夜の道に栗の花の匂いが漂ってきたと思ったらいつのまにかに初夏の空気になりました。みなさまいかがおすごしでしょうか。

今月もまたちょいちょい読んだ本のメモを書いてみます。

疑獄と謀殺

疑獄と謀殺 (祥伝社文庫)

疑獄と謀殺 (祥伝社文庫)

なにかの本か記事でドミニカ糖事件という疑獄があったと聞いていたんだけれど、インターネットで調べてもあまり引っかからずに、本書にすこし載っていると知って読んでみた。

汚職や事件の追及の過程で重要な証人や渦中の人物が疑惑の死をとげるというケースをいくつか取り上げ、状況やどういった疑惑があったかを解説している。実話誌系によくある陰謀論かもしれないけれど、戦後の混乱をみるとさもありなんという感じ。

大戦中に接収されたり植民地から集められた莫大な金やダイヤモンドはどこに消えたか?混乱の中、GHQや旧軍関係者のなかに濡れ手に粟をしたものがいたという話。ほか、次期FX選定を巡るなかで怪死したもののあっさりと自殺とされ十分に捜査されなかった山口空将補。ダグラス・グラマン事件で自殺した日商岩井の常務・・・。

特に、ロッキード事件でも、関係者10数人が死んでいる・・・。ほかケネディ暗殺の調査などでもこういったことはあったようだけれど異常すぎる。いずれの事件も、不明な点が多いまま関係者の死をきっかけにうやむやになってしまう流れがある。真実はどうであったのか、わかる日はくるのだろうか・・・。 また、本書では疑惑を追うなかで、国会での疑惑の当人による証人証言や、株主総会の総会屋の活動などのうちキャッチーなものをいくつか収録していてなかなか興味深い。大金が動くビジネスは怖いです。 「謀略の昭和裏面史」ほど網羅性はなさそうであるけれど目次をなぞって興味のあるトピックを別途掘り下げるにはいいかもしれない。

はじめての家具づくりレシピ

丸林さんちのはじめての家具づくりレシピ

丸林さんちのはじめての家具づくりレシピ

読んでいて楽しい家具から建物!までを自分でDIYしている丸林さんによる、DIY入門講座。道具や用語の説明、箱作りからはじまっていろんなレシピがあっておもしろい。いろいろつくりたくなってくる。 特徴として、わりとアンティーク調が好きな人らしく、塗装に紙幅がさかれている。古民家や小道具屋で古い板をもらってきて、それをメインに据えるために、他の材料である新しい材を塗装するというのは素敵。 塗料としてはワトコオイル、木製食器用オイル、バターミルクペイント、オイルステイン、みつろうワックス、オールクラックアップなどなど・・・。木材の種類とサイズと価格表もついていてたいへん便利。

これを参考にひとつ本棚ベンチを作ってみた。見た目は華奢だけれどわりとしっかりしている(ように感じる)。

3時間くらいかけてベンチ本棚つくってみた -instagram

耐荷重はどれくらいだろう。表面をサンダーで磨くと手触りもよくなって便利。 材は桐の浮造の表面を焼いたもの?近所のホームセンターで180030017で2000円のものと、90030017で1300円くらいのもの。横着してカットはお店でしてもらった(ワンカット28円で9か所)。 製作時間は道具の調整とか試用とか含めて3時間くらい。 ドリルで下穴を開けておくとビスもまっすぐさせて便利。足に穴をあけた後、その穴の位置を天板と底板に印つけたけれど、ビスがわりとしっかりささってくれるのでこれは不要だったかも。ドリルドライバでビスを閉めるときに浮きがちなので手でおさえたけれどすこしずれたりした。どうするおがよかっただろうか。 ほんとは万力みたいなやつでしめてやるのがいいんだろうけれど30cm以上のを閉められるものはなさそう。 切り口とかにオイル塗りたいけれどこれはまたこんど。

ビジネスモデルYOU

ビジネスモデルYOU

ビジネスモデルYOU

変わった装丁の自己啓発書っぽい本。自分自身のビジネスモデル・ポジショニングを考えることで幸せに生きましょうよ、という趣旨。考えてみよう!書き出してみよう!みたいなコーナーが多く、まじめにやれば一人でセルフカウンセリングして内省できるかもしれない。いろんな人のサンプルが出ているけれどわりとアメリカンで興味深い。就活する人とか、働き方に悩む人が読んでもおもしろいと思うけれど、順風満帆な人が読むとどうなるかは気になる。。

創造都市ポートランドガイド

TRUE PORTLAND the unofficial guide for creative people 創造都市ポートランドガイド

TRUE PORTLAND the unofficial guide for creative people 創造都市ポートランドガイド

オレゴン州ポートランドを知っているだろうか。 友人が新婚旅行で行くということでこのガイドを買っていたものを読ませてもらったのだけれど装丁や表紙の調子、めちゃめちゃ雰囲気のいい素敵な写真が多くて、タイトルと相まって、最初は架空の理想都市のガイドかと思ってしまったくらい。

DIY文化と自由な空気がすごい楽しそう。スティーブ・ジョブズが大学に通ったという曰くもある(すぐ退学したが、タイポグラフィの授業だけはもぐりこんでいたとか)。都市の紹介でマリファナの値段とか書いてあってたいへん便利。

あんまり旅行は苦手だけれど行ってみたいなー、と思えたけれど、どうせ旅行をしても頭の中のイメージをなぞることしかできなさそうなのでやめておく。

いますぐ使える 山菜採りの教科書

いますぐ使える山菜採りの教科書 (012OUTDOOR)

いますぐ使える山菜採りの教科書 (012OUTDOOR)

山菜採りに誘われたので読んでみた。タンポポツユクサヨモギ、ハルジオンやカラスノエンドウあたりの身近なものもあれば聞いたことも見たこともないようなものもある。

旬の時期の一覧や、いくつかのアク抜き方法、種類別におすすめの調理法など掲載されていてたいへん便利。また、薬用の紹介もあって、薬事法的に大丈夫かは気になるけれどおもしろい。

たとえばアカメガシワは「葉と樹皮を天日乾燥し、胃潰瘍や胆石症に煎じて服用する。」とかイタドリは「根を天日乾燥し、利尿、淋病などに煎じて服用する。」ほか、催乳につかうというカラスウリなど

おもしろ薀蓄としては、アフリカ原産の帰化種であるベニバナボロギクは、ちぎると春菊に似た香りがすることから、第二次大戦時にアジア各地に出兵した兵士たちが昭和草や南洋春菊と呼んで、大戦時に持ち込まれたという話。 太い・細い、うまい・まずいにかかわらず、ほとんどのササやタケ類のタケノコは食用できると考えてさしつかえない。など。山菜、というより山と植物はやっぱり奥が深い。フィールドに行きたくなる。

小さいけれど写真も豊富。ただ、写真や文字だけではわかりにくいので実際にわかっている人に現地で教えてもらう必要はありそう。

人里・山地・海辺にわかれているけれど、もうちょっと細かい分布、この地域ではなにがとれるとかも知りたい。これはたぶん、地域別の山菜取り知見が必要なんだと思う。もちろん、そんなローカル知識を公開するメリットは少ないので実際に山菜採り体験とかに参加したりして直接話を聞いて目で見るしかないだろうけれど。

とりあえず、これをもとにワラビとりに行ってきてなかなか大量でおいしくいただくことができました。里山、めっちゃ楽しい。

わらび採りしてきました -instagram

図書館にあるものを見比べた限りでは情報量は一番あったけれど、ほかにいい本あれば知りたい。

計画と無計画のあいだ

ミシマ社という2006年創業の、「変な」出版社を起業した若者たちの物語。無計画さというよりは破天荒さがあっておもしろい。熱にあてられそうで、ややもすると自己啓発本に読めてしまうけれどエンターテイメントだと思う。出版業界の闇をみた気がするけれど、本は好きなので応援してます。結局、計画と無計画のあいだでどこでバランスするかは個人個人で考えるしかないのかな。

亡命ロシア料理

dai.hateblo.jp これはめちゃめちゃいい本で、何度も読み返したくなる。

映画

戦場のピアニスト

戦場のピアニスト [DVD]

戦場のピアニスト [DVD]

ナチスドイツ占領下のポーランドに実在したあるユダヤ人ピアニストの受難を描いた作品。侵略と抑圧の残酷さと過酷さが描かれていていろいろつらい・・・。いい映画なのだけれど、虚無に襲われそうになる。

ミルグラム実験スタンフォードの監獄実験、青い目と茶色い目の教室とかをみてもわかるけれど、役割と状況で自分も含めて多くの平凡な人間は、簡単に残酷になる。 これを防ぐには、やっぱり役割の設計に気を使うしかないのだろうか。倫理を保てる人間は、希少なうえに、影響力は狭い。

倫理を保てた数少ない人間に、ナチス軍人のヴィルム・ホーゼンフェルトがいる。劇中では主人公のピアノを聞いて情けをかけたように描かれているけれど、実際には多くのユダヤ人やポーランド人を救っていたそうだ。彼はなにが違っていたんだろう。異常なことが当たり前になったとき、彼のように現実に疑問を呈することはできるだろうか。すこし自問自答してみる。

ヴィルム・ホーゼンフェルト - Wikipedia

あと、人と映画を観て感じたところを言いあえるのいいな。と思った。相手がkawaiiガールだとなおさら。

イベント

花見

これまででもっとも楽しい花見ができた気がする。誘っていただきありがとうございました。

披露宴

お手製感あふれる友人夫妻の結婚式。みんなで準備することで一体感が生まれ、コミュニティができあがっていくさまがあったように思う。

東寺 弘法市

毎月21日に京都の東寺でやっている、よくわからない市。 東寺の広い境内やその周辺に300を超えるお店が出店している。 手製の食器やカバン、アクセサリーのほか、お祭りの屋台、ガラクタみたいな古道具もあれば、野菜や苗も売っていて平日にもかかわらずたくさんの人が参加している。ほんといろんなものがあって、いろんな人がいておもしろい場所。 2時間ほどかけて駆け足でまわって結果、古本を3冊ほど買った。Amazonマーケットプレイス最安値の半分くらいで買えたのでうれしい。 ほか、資産家のお屋敷においていそうな巨大な壺や飾りなどが目立ったけれど、もしかすると見る人が見ればお宝的なものもあるのかもしれない。ものだけでなく、手作りのものを売っているところでは作り手との出会いの場であるのかもしれないと感じた。京都だと、毎月25日に開催の北野天満宮の天神市や、毎月15日の百万遍知恩院の手作り市などが有名かな。

これまで

dai.hateblo.jp

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これから

もっと感性を磨きたい

料理と人生の亡命ロシア料理

すごい本を読んでしまった。

亡命ロシア料理

亡命ロシア料理

何かの折に評判を聞いて、ずっと読んでみたいと思っていた本なんだけれど、Amazonマーケットプレイスで20,000円超だったので気が引けていたところで新版が出ていたので手に取ってみた。出版から18年たって新版が出るってすごいと思う。

内容はソ連からアメリカに亡命した著者が現地でロシア料理を説明する流れ。 ただの料理本と違って、その過程で西と東で手に入る食材の違いや、文化と文明、料理と生きることについても触れている。食欲をかきたてられながらも、共産主義ジョークのようなキレのあるレトリックのユーモアに笑わされ、祖国を離れざるを得なかった筆者の文化を見る鋭い目からは切なさも感じる。料理本の姿をした優れた文明批評なんじゃないだろうか。

もちろん料理本としてもきっちりつくられている。ただ、ロシア料理につかえるような、マジョラムやサワークリームといった香辛料のほか、ヤマドリタケやビーツなどの食材、壺や大きなオーブンのような調理道具が手に入りにくくまだ試せてはいない。

気になったフレーズのいくつかを引用してみる。

まず、本文の一行目からやばい。

p7 愛を打ち明けるとき、日本人は手のひらを胸にではなく、胃のあたりに当てるという。日本人は魂が腹に宿っていると信じているのだ。だからこそ、ハラキリをして魂を外に解き放ってやるのだろう。自分の形而上的な本質を確かめるための、なんと苦しくも痛ましい方法だろうか。

切腹にそんな意図があるなんて知らないしニンジャスレイヤー感もある。

p15 お茶はウォッカじゃない。たくさんは飲めない。

アッハイ

p23 およそ文明が考え出したもののなかで、人間の尊厳にとってダイエットより屈辱的なものは何もない。禁酒にだって何らかの意味がある。例えば経済的な意味だ。

この仰々しい言い回しの小気味よさはなんだろう。ダイエットとか糖質制限とかやめよう。

p45 料理人は、たとえ素人であっても、しっかりした倫理的基盤をもたない意気地なしになる権利はない。誰でも好きなように食べればいいじゃないか。などという道徳的相対主義は、料理の道とは相いれないものだ。

この厳しい倫理をもって料理するアマチュアみたことない・・・。

p46 いい料理とは、不定形の自然力に対する体系(システム)の闘いである。おたま(必ず木製のでなければならない!)を持って鍋の前に立つとき、自分が世界の無秩序と闘う兵士の一人だという考えに熱くなれ。料理はある意味では最前線なのだ・・・。

たしかに料理は複雑系をコントロールする戦いなのかも・・・。自分ももっと気合いれていこう。

p47国際主義の理想が我らの祖国で実現したのは、料理の分野だけだった。

共産主義ジョーク・・・

p51 けっして誰もが白状するわけではないけれど、誰でも甘いものは大好きだ。とりわけ、大男とウォッカを飲む女は、この欠点を恥ずかしがる。

胸を張って甘いもの好きと宣言しよう

p53 (引用者注:シャルロートカという、甘くて脂っこくてとってもおいしそうな食べ物のつくりかたを紹介した後に)もちろん、シャルロートカを食べて痩せることはない。そのうえ、パンをたくさん食べるのは体に悪そうだ。しかし、人生とはそもそも有害なものなのだ——なにしろ、人生はいつでも死に通じているのだから。でも、シャルロートカを食べたら、この避けがたい前途ももうそんなに恐い気はしない。

これ、ほんと甘そうで美味しそうなので食べてみたい・・・つくるしかないかな。

p59 単純な人たちに言わせると、アメリカ国民の魂はベースボールに宿っているということになる。しかし、誰の目にも明らかだと思うのだが、合衆国の国民的スポーツはなんと言ってもバーベキューではないだろうか。天気のよい日曜日には無数の焼き網からの煙が、昔の開拓時代のように空に立ちこめる。アメリカ料理はステーキを崇拝しており、グリルはそのステーキの預言者だ。

たしかに連中のBBQ愛は熱狂的・・・。

p98 料理のできばえは準備に手間をかけるほどよくなる

はい。

p105 ロシア人とフランス人は、いったいどこが違うのか。答は簡単。フランス人はカエルを食べる。だからロシア人の方が明らかに優れているのだ。

これこんどフランス人話するとき使ってみたい。

p115 料理と人生、つい比較してしまう。どちらにおいても「人は生きるために食べているのであって、食べるために生きているのではない」という格言は正しい。しかし、本当のことを言うと、人は美味しく食べるために生きているのだ。 仮に、日常生活と冷めてしまったマカロニを比較してみよう。そのどちらにも意味を与えるのは刺激だと、すぐに思いいたるはず。予期せぬ恋、トマト・ソース、危険な冒険、唐辛子、宝くじ、ニンニク。

普通のひとは料理と人生を比較しないようにも思うけれど、いいこと言ってる。

p115 香辛料を好む民族は、生活も派手だ。カーネーションを売ってぼろ儲けはするし、ハイジャックはする、血で血を争う復讐には夢中になる。反対に、薄味の料理を好む民族は、無気力と絶滅の運命にある。ラトビア人やサーミ人がそうだ。

はい

p121 野菜スープは、レシピを厳密に守らなくてもよい。まるで自由詩のように自由だが、自由詩同様、趣味の良さと節度の感覚を必要とする。

いいこと言う。 たしかにレシピを厳密に記述することはできないので調理人の節度の感覚が必要だよなあ、とは思う。

ほか、料理とソ連、アメリカをネタにした評論はユーモアにあふれつつも情緒豊か、切り口鋭くて何度も読みたくなる。最後の章は涙がでてきそうになるほど。

繰り返すけれど、笑いと切なさを併せ持つ、稀有な料理本。つくるのは道具面食材面でハードルが高いのでこんど誰かロシア料理食べに行くかがんばってつくる会、やりましょう。

windows8 セットアップ記録

必要があってひさびさにWindowsマシンをセットアップした。いろいろ混乱したので記録を残しておきます。

未来の自分に向けてのメモという位置づけだけれど、あわよくば、自分のWindows環境をさらすことで、諸先輩方からイマドキなツールや設定を教えてもらえないかと期待もこっそりしています。

以前にWindowsマシンをセットアップしたのは、某社の隔離ネットワーク環境でファイルサーバに置かれたアプリをちまちま入れるとかしかなくてつらかったのでそれと比べると楽しい部分もあるけれど、不慣れなOSやツールでて時間がかかってしまった。

ちなみにPCはJoshinでめちゃめちゃ安かった展示品。展示品ということで値引き交渉しようとしたら店員のお姉さんが、展示品ですのでマケときますと言って税込50,000円ぽっきりで売ってくれた。あと付属品にドラクエXのライセンスもついててたいへん便利。 f:id:daaaaaai:20150417214931j:plain

まずは表示設定

  • エクスプローラ → 表示
    • 拡張子を表示にチェックを入れる
    • 隠しファイル・フォルダを表示にチェックを入れる
  • IME
    • スペースの入力を常に半角にする(shift + スペースで全角スペースも打てます)
    • しばらくデフォルトのMicrosoft IMEを使っているけれどいい感じ。IMEの癖に検閲するATOKはもういらないんじゃないかな

まとめてアプリをいれてくれるniniteでいろいろ入れる

Niniteというのはいろんなアプリをチェックボックスで選択してインストールできる便利サービス。若干怪しい気もしたけれど、そこそこ使われていてアドウェアいれられるとかはなさそう。

  • Chrome
    • 基本のwebブラウザ。複数Googleアカウントを切り替えられるようになって大変便利
  • Evernote
    • メモとして使っています。最近導入されたチャットはあんまりうまくつかえない
  • 7-zip
    • 安定して便利な圧縮・解凍ソフト
  • Skype
    • 個人的には全部Google Hangoutsでやりたいけれど、仕方ない
  • WinSCP
    • ちょっと使うのに便利なscp/sftp/ftpクライアント
    • GUIだけでなくスクリプトもかけて、サーバへの配布や処理を自動化できる(あまりやりたくはないけれど)
  • WinMerge
  • Dropbox
    • ファイル共有サービス使えない職場もあるけれど、ちょっとした設定ファイルを個人複数PCで共有するにはたいへん便利

コマンドラインからアプリをゲットするchocolatery

コマンドラインからいろいろアプリをインストールできる便利ソフト。かつ、レシピ的にできて便利らしい。niniteじゃなくてはじめからこっちを使えばよかった。 chocolatery

と、思いきや、けっこういれられないのがあったので手動でインストールしてしまった。次の機会があればいろいろ試したい。

手動インストールしたもの

  • sakuraエディタ
    • メモ帳が残念すぎるので・・・。かつて、インターネッツにつながらない閉鎖環境である程度の期間作業させられた時期があって、そこで唯一ファイルサーバにおいてあったテキストエディタなので多用させてもらいました
    • 使いこなせているわけではないけれどソートやマージ、矩形選択、マクロが便利
    • WinMergeWinSCPのデフォルトエディタに変更しておく
  • AutoHotKey
    • 使いこなすといろいろできて便利そうな、ショートカットとかキー操作連携をしてくれる便利ソフト
    • かっこつけて英字キーボードを使っているのだけれど(日本語キーボードよりもホームポジションがPC中心に近くて好き)、カナ変換を設定するのに使う
    • デフォルトだと、[alt]+[`]だけれど、[alt]+[space]に変更するスクリプトを書いた
    • スタートアップに登録するにはショートカットを下記ディレクトリに入れておく必要がある
    • C:\Users\${ユーザ名}\AppData\Roaming\Microsoft\Windows\Start Menu\Programs\Startup
  • Caps2ctrl
    • CapsLockをCtrlキーに変換するソフト。AHKでCtrl変換はあまりメジャーじゃないっぽい
  • MinGW
    • msysをいれてWindowsでもgnuなコマンドを使えるようにする
  • cmder
    • ConEmuというのターミナルをいい感じに設定したパッケージ。詳細後述。
    • コマンドプロンプトつらいのでタブが使えたりいろいろ設定できて便利なこのアプリをいれておく
  • VirtualBox
    • 仮想サーバ
  • Vagrant
    • 仮想環境構築ツール
    • うっかり手で入れてしまった。これがあれば端末かわっても開発環境はそこそこすぐ用意できる
  • Office
    • 省略。バンドルじゃないと高く感じる・・・

cmderの設定

  • 全角文字を正しく表示するためにsettingのMonospaceのチェックを外す
  • デフォルトのlsでは日本語ファイルが表示されないのでインストールしたディレクトトリのcmder\config\alias に以下の設定をいれておく
    • ls=ls --color --show-control-chars $*
    • ほか設定があればここに書いておく
  • ユーザディレクトリの下に.sshディレクトリをつくって鍵を入れたりする
    • エクスプローラからは「.」ではじまるファイルやディレクトリを作れないのでターミナルからつくる必要がある

chrome拡張

  • iKnow
    • マウスオーバーで英単語を翻訳してくれる便利アプリ。これなしで英語記事読めない情弱です
  • autopagerize
    • 複数ページある記事を読んでいて下部にスクロールすると自動で次のページをページ末尾につなげてくれる拡張
    • これなしではインターネッツできないほど
    • webなんだから複数ページある記事なくしてほしい
    • Google検索で同じページで2回検索すると2回目の2ページ目以降がうまく表示されない不具合はある
  • atom
    • github社謹製のいい感じらしいエディタ
    • chocoでインストール失敗したので手動インストール
    • 試行錯誤中。とりあえず初期状態でもいい感じに使えそう

この頃覚えたショートカット

以下のショートカット覚えてそこそこ便利

  • [ウィンドウズキー] + [Q]で検索バーがでてアプリを高速に選べる
  • [ウィンドウズキー] + [E]でエクスプローラ開く
  • [ウィンドウズキー] + [X]でいろいろ管理系開ける

ほかにもいろいろありそうなのでチートシートつくって覚えていく予定

Windows8 つらいところ

  • PDFファイルをダブルクリックするとデフォルトのPDFビューアがフルスクリーンで開いてしまったり、Skypeひらくとフルスクリーンになったりして閉じるボタンやタスクバーが見えなくなって困惑
    • alt + タブで切り替えればいいんだけれど、思考が途切れる。マウスカーソルを下に持ってくるとタスクバーがポップしたり、上に持っていくとナビが出るだけでも助かるのに・・
  • 再起動時にアプリを落とす必要があるのけっこうつらい
    • Macだとアプリを開いたままでも再起動できて、アプリ開いた状態まで戻してくれてたいへん便利。テキストエディタやキーノートあたりで未保存のものもそのままの状態で開いてくれるの地味にすごい
  • エクスプローラが固まりやすい気がする
    • いいエクスプローラないですか
    • chromeっぽくタブがつかえるというcloverいい感じっぽそうですが中国製で開発者像が全然見えなくて怖いです(偏見)

参考

いろいろ参考にしたんだけれどここが特に参考になった。 Windows - 開発者がSurfacePro3を買ったらまずやること - Qiita

雑感

環境設定で1日つかってしまって徒労を感じた。やっぱりMac OS Xは環境設定わかりやすいし、ターミナルではじめからbash使えてたいへん便利だ。

ただ、Windowsは開発用途でなければそこそこ使いやすいとは思う。Windowsのユーザインタフェースが優れているというより、過去のWindowsに触れているからというデファクトスタンダードの力が大きいけれど。

Windows 8自体はおしゃれなタイルがかえってわかりにくい。ショートカット知っていないとまともに使えないんじゃないだろうか。それにもかかわらず、ショートカットを覚えていく道筋がわかりにくい。Windows8からPC触るという人はタイルを自然に使いこなせたりするのか気になる。

一方のMacはいいOSだと思うけれど、MacBookはここ数年で一気に無個性・均質化の象徴になっている気がする。 6年前にみんな大学貸与のFujitsuノートを使っている中、アルミボディのMacBookを使っていたsatzz先生はすごくかっこよく感じたけれど、今や勉強会やイベント、スタバでは猫も杓子も銀色のMacBookを開いている。規格化されたiPhoneが規格化されているからこそケースで個性を出しているように、PCも外装で個性を演出するのがは流行りそう。ベタベタシールを貼るのはあんまり好きではないです。

また、設定してから気づいたけれど、上記のようにたくさんアプリを入れたにもかかわらず、有料アプリはOfficeとここに書いていなくて消し去りたい某業務用残念パッケージだけ。デスクトップアプリケーションは高品質なフリーソフトありすぎてダンピング状態だと思う。流行りのフリーミアムで稼いでいるようにもあまり見えないしシェアウェアすらない。プログラマがお金を稼ぐのは難しい。

ところで、5年後、10年後のPCはどうなっているだろう。 ハードウェアは進歩して、軽くてバッテリーも長持ち、ディスプレーもきれいになってメモリも増強されているだろうとは思うけれど、OSやインタフェースはどうなっているのか。スマートフォンタブレットが高性能化して普及しているけれど、文章を書いたりスライド作ったり絵を書いたり、写真をレタッチしたりプログラミングしたり知的生産をしていくには現状ではパーソナルコンピュータにかなわないのでPCの地位をとってかわることはなさそう。

新しいPCをつくりだそうとしても、新しくPCを使い始めるスマフォ世代も考慮しつつ、PCを使い慣れているオールドユーザも相手にして、既存のデバイスやアプリを気にするとほとんど変えられなさそう。こういうスイッチングコストが高いものが普及しきってしまうと進化の袋小路に入り込んでいるかもしれない。脳と直結して文字入力できるブレーンマシンインタフェースでも実現できれば楽しそうだけれど、まだまだなさそう。自分が思いもよらぬイノベーションがでてくることを期待します。

とりあえずマイクロソフトと日本のPCメーカーはもっとがんばってください。

読んだ本 2015年3月

ここ数年では珍しく小説を3冊も読んだ月であった。やっぱりすぐれた小説にはパワーがある。かなり心にくるものがあった。でも大衆にはなかなか届かないんだよな。

ただ、なかなかまとまった時間をとって本を読めていない。これは電車通勤でなくなったことと、引っ越して作業机がなくなったことが大きい。これまでは食卓を兼ねていたものを使っていたのだ。また、自分で豆を挽いてコーヒーを淹れるようになってからはカフェでコーヒーに数百円もかけることがだるくなったし、近くにはまともな図書館がないしでなにか考えたい。今のところ会社の始業時間前と仕事終わった後に技術書をちょっとずつ読んでいるけれど、ほんとにちょっとずつでしかない。

とりあえず、いつもどおり読んだ本を棚卸ししておく。

バイバイ、エンジェル

バイバイ、エンジェル (創元推理文庫)

バイバイ、エンジェル (創元推理文庫)

笠井潔のデビュー作。思想的な推理小説とでもいうのだろうか。70年代のパリを舞台にしており、大学生の日常の空気感が伝わるような気もする作品。フランスを舞台にすることであらゆるものが幻想的かつ現実的になっている。

探偵役、矢吹駆は現象学的アプローチで事件の把握(≠解決)を試みるという異色さ。これは、事実の積み重ねからではいくつもの恣意的な解釈が生まれうるため真実を取り出すことはできないとし、「直観」を用いるものだという。

ただ、一見オチが唐突だったし、最後の対話はもと学生運動のイデオローグで転向した作者の代弁かと思うところもあるけれど、内容的には大好物でなかなかよい。 キャラクタもいい味をだしていて例えばワトスン役で20際の学生ナディア・モガールの語りなのだけれど、その感性・主体性・プライドの描き方がほんと好ましい。これ書いたのほんとに男か、という気もするし女性が読むとどう感じるかは気になる。

わたしは少し得意な気持になりひとりでほくそえんだ。青年たちが自分を巡って競争心や嫉妬心を燃やすことほど、若い娘を面白がらせ自尊心を満足させることはない。 (バイバイ、エンジェル p174)

何冊もシリーズ出ているので読みたいけれどエネルギー使うんだよな。。

虚無への供物

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)

Wikipediaによると、小栗虫太郎黒死館殺人事件」、夢野久作ドグラ・マグラ」とともに、日本探偵小説史上の三大奇書とされているらしい。 じつは、学生時代、ドグラ・マグラがおもしろかったので続けて買ってみたけれど十数ページ読んで放置していたのを薦められたのを機に再読。

・・・なんで放置していたのか理解に苦しむほどおもしろく、いっきに666ページ読んでしまった。これはほんとすごい作品で、キャラクタと構成とメッセージ性でこれをこえるミステリーがありえるのかと不安になるほど。

1955年当時の文化に彩られつつも多数のメタメッセージが編み込まれ、現実と非現実が重ね合わさっているかのような展開。最後の二重の告発の重さがたまらない。はじめは1962年の発表だけれど、ノベルゲーム的なライトさも持ち合わせている。そしてFate / hollow ataraxiaで感じたアンチノベルゲームのメッセージに似た衝撃もある。探偵物のひとつの極致といってもよいと思う。 結末もたいへん優れているのだけれど、読み進めている途中で感じる、ドグラ・マグラとは別の方向で現実と非現実の間を行き来するような、不安感はたいへん貴重だった。

スローターハウス5

カート・ヴォネガット・ジュニアの傑作。もともとの日本語タイトルは屠殺場5号という名前だったけれど、屠殺は差別用語という誰が言い出したかもわからないセルフ抑圧がかかって改題した模様。あと、ATOKで屠殺が変換できないのほんと異常。IME差別用語を辞書登録しないのは、IMEとしての価値を毀損しすぎだと思う。誤用のサジェストみたく、差別用語を変換した際に指摘してくれるのが落としどころでは。

変換辞書をめぐるFAQ -ATOK

と、脇道にそれたけれど本書が傑作であることはかわらない。 第二次世界大戦時の連合国による虐殺、ドレスデン空襲を軸に、戦争の悲惨さを生死の無情さを滑稽にシニカルに描いている。凄惨な部分もありつつも笑える。そしてそれによって人の命の軽さが際立つ。

時間を行ったり来たり、現実にとっぴなSF世界を混合させるやり方は絵本的でもある。 同著者の長編ではタイタンの妖女(これもタイトルの翻訳微妙)が似た雰囲気もありつつもスケール大きくて好きだけれど、それと比べると人の脆弱さが浮かび上がるような文体と物語で味わい深い

流通大変動

よくある読みもの新書。百貨店の盛衰とかシアーズのイノベーションとウォルマートなど、けっこう知っている話が多くてあまり参考にはならなかったけれど、小売業の変遷とか流行のトピックを簡単に知るのにはいいかも。流通業といっても小売店にフォーカスをおきすぎていて、もっと中の、卸や物流、倉庫あたりの話が知りたいところ。

都市圏の流通の変遷だと、この資料がめちゃめちゃおもしろかった。

(PDF)商業ポテンシャルから見た東京の都心と郊外の変化

交通と商流の変化、都心と郊外の盛衰、都市のダイナミズムめっちゃおもしろい

2015/02/23 13:28

統計学が最強の学問である

統計学が最強の学問である

統計学が最強の学問である

ちょっとまえに流行った本。 統計学は授業でやったけれど、ほんと手法の使い方に終始してしまっていてあまりちゃんと勉強していない。統計学の考え方と強力さがさらっと読めてよい啓蒙書な気がする。統計リテラシー、大事です。ただ、やっぱり統計学は大人の学問なので、現場のデータがあってからはじまるものなんだと思うので目の前のデータにどう使えるか、どういった情報があれば意志決定できるのか考えていきたい・・・

絵でわかるロボットのしくみ

絵でわかるロボットのしくみ (KS絵でわかるシリーズ)

絵でわかるロボットのしくみ (KS絵でわかるシリーズ)

写真ばかりのキャッチーなロボット本ではなく行列計算だらけのガチロボット本でもなく、そのあいだ。実例の紹介も豊富にありつつ、行列計算のこともきちんと触れている。やっぱりロボット、いいよなー。大学の実験でいろいろやったのに全然活かせていない。どんどんでてくるロボット情報を消費しているだけになっている。と、悲観はさておき、このシリーズなかなかおもしろそうなので図書館とかでめくってみたい。

イベント

増井さんのUI話

未踏のときにPMやってもらった増井さんの出版記念講演会(すごい先生なんだけれど、先生と呼ばれたくないそうなのでさん付け)に行ってきた。 泥酔指数とか、コロンブス指数など興味深い指標や、UIをつくるときの機微についてお酒を飲みながら聞くことができてよかった。宿題として各自いい感じの検索システムつくろうということになったので今年度の課題。

そういえば、増井さんの記事だと、このブックマークがおもしろかったので紹介しておく。

「みんなジョブズに騙されている」増井俊之教授が進歩の止まったコンピュータのUIを問い直す【TechLIONレポ】 - エンジニアtype

さやか「あのさあ、ジョブズがそんな嘘ついて、一体何の得があるわけ?私達に妙な事吹き込んで仲間割れでもさせたいの?まさかあんたホントはあのナデラとか言う奴とグルなんじゃないでしょうね?」

2014/10/02 10:59
b.hatena.ne.jp

雑感

最近はふたたびインターネッツ依存気味。空き時間があるとついニュースアプリをひらいたりSNSをひらいてソーシャルゴシップやらネタ記事やつぶやきを見てしまって時間を浪費している。 もっと本を読んで、先のことや今のことを考えて、人と話して美味しい物を作ったり体を動かしたい、とは思うのだけれど目の前の刺激に翻弄されている。その背徳感も含めて娯楽なんだろうけれど。

パソコンを使ったことのない大学新入生のためのコンピュータの話

風変わりな機会があって、風変わりな場所で風変わりな講義をしてきました。 内容的には多くの先人が考えてきている内容だとは思うのですが、文書化するまでもないためか、公開していないかであまりネットで類例が見つからなかったので僭越ながら自分の主観をもとにつくったいい加減スライドをアップします(コメント・ご批判など大歓迎です)

テーマ

パソコンを使ったことのない大学新入生がどうパソコンを選んで、どう使うべきか

対象

対象は卒業式を終えて大学入学まで遊びまくっている高校3年生のなかでもパソコンを使ったことがなくて大学に入る時にどう買えばいいか、どう使えば悩んでいると思われる若干名

スライド

結果

  • 予想していなかったこと
    • 検索エンジンをどう使うかをあまり知らない人がいる
    • デジタルネイティブという言葉を出すまでもなく、PCやプログラミングに習熟している高校生は大勢いる一方で、PCを全然使ったことがない層も一定数いる(工学部に行く人にさえ!)
    • スマフォはバリバリかと思いきや、iPhoneでLINEと音楽アプリくらいしか使っていない人すらいる
    • 高校で情報の授業はあったはずだけれどあまり役立っていない様子。原因は不明
  • スライドに足りていないこと
    • 検索エンジンGoogleなど)の使い方
    • どうやったら速くタイピングできるようになるか
    • うそをうそと見抜く方法
  • Googleアカウントの枯渇すごい
    • 6文字の辞書に載っていないアルファベット列のあとに3桁の数字をつけただけでも取得済みばかり

感想

高校の先生はみんなLINEばっかりやっていて勉強しないという愚痴を言っていたけれど、その裏として、自制心がある生徒だけではなくコミュ障ITリテラシーの低い人が相対的によく勉強することがありえるかも。つまり、デジタルディバイドがあることでインターネットに時間を吸い取られずに大学受験成功したパターンがあるかもしれないと思えた。

ちょうど数日前にはLINEの使用が学力低下につながるというニュースがあった。

スマホで無料通信アプリを使用すると学力が低下することを明らかにしました 東北大学

ここに書かれている内容からは、相関関係はありそうでも因果関係があると言い切ってよいものかはわからないけれど、危惧されていることはわからなくはない。

もちろん、LINEばりばりやっていてもTwitterのpost数が5万を越えていても、ネトゲやプログラミングにはまっていた人もちゃんと大学合格できている人もいるけれど生存バイアスにすぎないのかもしれない。人間とのコミュニケーションはなかなか依存性のある娯楽でセルフコントロールできない部分も多々あるので注意したい。

そういえば、一部では、GoogleDriveで授業のノートを共有したりSkypeでリモート解説したりする先進的デジタルネイティブ中学生の噂を聞いたことがあったけれど、それはきわめて限られた一部だと思う。若いから新しいツールもすぐに覚えられるかと思いきや、分数のかけ算を乗り越えられない子どもがいるようにPC使えない人もいるんだろう。

PCはエンターテイメントだけでなく知的生産の道具でもある。これを使うための教育の必要性は以前から指摘されているけれど格差が大きいし、道具ではあるんだけれど、人間の主体的意思に影響を与えてしまうものなので難しい。どうしたらいいんでしょうか。

参考

dai.hateblo.jp ちょっと前に書いた記事。すこしはブクマつくかと思ったけれど全然伸びなかった。

大学新入生にすすめる本 工学部版

いつのころからか、大学新入生や新入社員にすすめするブックリストみたいなものが流行りだして、人生経験豊富な先人たちによる推薦リストはもはや毎年の春の風物詩となっている。毎年毎年、雑誌の特集やブログ記事が出ているにもかかわらず中身は定番古典名著ばかりで、情報技術な時代でもなかなか蓄積された知識は利用されないのだなあ、と思わずにはいられない。

とはいえ、別に新入生じゃなくともこういったリストを読むとおもしろいし、自分は教養が足りないと感じることもできてたいへん便利。たぶん、すすめている方々は新入生の将来への期待と、貴重な青春を受験勉強というペーパーテスト対策に費やしてきたことへの慰労とともに、若干の衒学趣味と、自分の過去に対する自負と後悔があるのではないかとにらんでいる。

まあ、前置きはさておくとして少しGoogle検索するだけでたくさんの本やサイトがひっかかる。

提案

これらのリストもおもしろいことはおもしろいんだけれど、ひとつ不満がある。ほとんどがざっくりとした「大学生」という大きすぎる属性を対象としているために軸がないようなものが多いように思うのだ。誰にでもおすすめできる無難な名著も悪くないけれど、もっとしぼった、その学問の初学者だからこそ読むべきというのもあると思う。もうちょっと細かく、たとえば自分の妹弟、あるいは息子娘・・・とまではいかなくとも、都会の工学部情報系とか、地元の医学部とかまで絞って、その個人的な選本理由をつけたものがあれば読んでみたい。本そのものだけではなく、その推薦のメッセージも気になる。

というわけで、みなさんも仮に工学部(ほかの学部でもいいですし細かい学科を指定してもありです)に入学した妹や弟、甥、姪がいると仮定して、お兄さんお姉さん親戚のおじさんおばさん他親類にでもなったつもりで入学祝いにどんな本を贈るか思考実験してみませんか。

自分の場合

この思考実験に取り組むみなさまに先入観を与えてしまうかもしれないけれど、あえて対象をかなり具体的にしぼってみる。

対象は、田舎の公立高校に在籍していて理数系がちょっと得意、あるドラマの影響でふわっと工学部某学科に行きたいと思った女子高校生。卒業までは受験勉強で貴重な青春を消耗してしまっていて*1、自分から大学レベルのことを学習したり、手を動かして実験したりものをつくったりするようなことはしていない。将来の展望もふわっとしていて、まわりが大学に行くからなにも考えずに進学を希望しているし、まわりに工学を実践?している人もいなくて大学やメディアが発行しているプロパガンダによるイメージしかない。PCはほとんど使わず、インターネットもLINEで友達と交流するくらい。なんとか第一志望の大学に合格できて同級生たちと卒業旅行に行ったり引越と新生活の準備をしているなかで大学生活に希望と漠然とした不安を抱いている。

そんななか、大学は楽しいけれど、遊ぶだけが楽しさだけではないし、就職予備校的な役割だけでもない、単位をとるために勉強するだけじゃモッタイナイよ、という程度のスタンスで、余計なお節介と承知でいくつか本をすすめてみる次第(とてもじゃないけれど、大学生かくあるべしとは言えない)。その分野に習熟しているわけではないので専門書・教科書は未掲載。 自己啓発的なイメージがこびりついた言葉で好きじゃないけれど、視野を広げて欲しいな、と思うのです。

本人にとってなにがいいのかは少なくとも十数年たたないと評価できないと思うし、大学に入ろうが入らまいが本人が好きな分野(大学の専攻に関わりなくとも)を勝手にどんどん勉強して取り組んでいくのが一番いい気はする。たとえば、高校生以前から好きで好きで仕方ない分野をもっていたり、手を動かしていたノーベル化学賞受賞のマリス博士のような人や、たまにメディアに出るハイレベルなプログラミングをしている方々にはこういう心配は不要なようには思う。

さらに前置きが長くなったけれど、こういう前提のもと、平年の女性率3-5%の工学部某学科に入学することが決まった妹にすすめてみる本を書いてみる。

技術者列伝からみるエンジニアの生き方「メタルカラーの時代」

メタルカラーの時代1 (小学館文庫)

メタルカラーの時代1 (小学館文庫)

メタルカラーとは、ホワイトカラーやブルーカラーに対比してエンジニアをさす造語。 困難な現場を担ったり、画期的な製品をつくりだしながらも日の目に当たることの少なかったエンジニアを広く取り上げたインタビュー集。古いし、それぞれの話は浅いし質問は的外れだしで物足りないんだけれど、このテーマでここまで広くとりあげていたのはほんとすごい。特に印象に残っているのは瀬戸大橋を支える技術の、あれだけ大きいのに(だからこそ)かなり精密さが求められる部分や、山奥の斜面にそびえ立つ送電塔を建てるロストテクノロジーあたりはエンジニアの苦労と自負心がにじみ出ていてあつい。(いま調べ直して気づいたけれど文庫で15巻まで出ているの知らなかった・・・) 類似本として、「建設業者 」は建設・建築系の主に職人に特化していてよかったけれど、自分の分野の先輩方のインタビュー集とかは時代錯誤もあったり先入観を持つ危険性もあるけれどお手軽にイメージつかみやすいと思う。

近未来エンターテイメントSFから広げる想像力「攻殻機動隊

2つめからマンガ。それも士郎正宗の作品。身体性と自己同一性をテーマにしたストーリーはいまでこそ陳腐かもしれないけれど、豊富なガジェットに彩られたエンターテイメントとしておもしろい。 特に、80年代末のWindows95が出る以前に脳に端末を埋め込む(電脳化)によるネットワークの発達や、義体というサイボーグ、またそれらによる犯罪。光学迷彩人工知能なども凝っている。 マンガの欄外に細かい手書き文字で書かれている作者の解説/蘊蓄もSFと侮れないほどの技術的考察と示唆があって読み応えがある。ややエロ描写があるけれど、だいじょうぶでしょう。

また、押井守神山健治によるアニメ版は傑作ではあるけれど二次創作でしかないしかなり色をつけられているとは思うのです。原作はもっとニヒリズムと自分本位さがあって、だからこその人間味がある(映画、SAC,SSSでの少佐の眩しいばかりの正義感には唖然とした)。

余談ですが自分は高校1年生の時に、友人宅で神山氏のアニメの19話「偽装網に抱かれて 」を見て攻殻を知り、台詞が英語で欄外に日本語が書いてあるバイリンガル版のマンガを買ってはまっていた次第、誤訳は多いけれど日本語も書いてあるので問題なし。ちなみに、その友人は東大理科一類に入学したあと、高校の同級生へのストーカーをしてしまったりして現在行方不明。大丈夫かなあ。 さらにちなみにですけど士郎正宗で一番好きなのは仙術超攻殻オリオン です。

ほか、マンガだとゲームクリエイターの熱狂を描く「東京トイボックス 」、狂気のSF「銃夢 」、士郎正宗の「アップルシード 」あたりとかかな。溶接工の日常と悲哀の「とろける鉄工所 」はほのぼの大好きです。

組織と技術者のカンケイ「NASAを築いた人と技術」

宇宙開発ミッションは人類の経験した中でももっとも技術的に高度で大規模なプロジェクトのひとつだと思う。政治的な制約や全世界からの注目もありプレッシャーは半端ではなかった中、その組織的・技術文化的な葛藤は組織におけるプロジェクト推進の事例としても参考になる。

本書で繰り返し現れる事象は、プロジェクトの規模拡大により職人的な技術コミュニティから近代的な、脱人格化された厳密なプロセスに移行する過程。そして過程で発生する衝突。

マネジメントと無縁でいられないエンジニアリングの側面を知ることができるかも。 そういえば2年ほど前に漫然とした読書メモ書いている。

ちなみに4000円超の高い本だけれどTwitter社に勤務している有人に貸したまま返ってきてないのでこんど返してください。

エンジニアかっこいいSF「火星の人」

火星の人

火星の人

また若干宇宙ネタがかぶるけれどこんどはエンジニアかっこいいライトSF。知識と計測、予測と計画による問題解決はほんとエンジニアっぽいロビンソン・クルーソーアメリカンユーモアもさえてる。 簡単にあらすじを言うと、火星への3度目の有人ミッションの際、主人公は事故により死亡したと思われ1人火星に取り残されてしまう。植物学者兼メカニカルエンジニアの主人公は限られた資材を工夫して生き延びていく。作業日誌文体のなか、ロビンソン・クルーソー的な創意工夫とユーモアがあってハラハラがあってよい。エンジニアかっこいい系ハリウッド感もあって、今年末には映画化されるのだとか。宇宙が舞台だけれど、ここに興味がある人だけでなく工学やっている人は誰でもおもしろいと思う。 設定も小道具もとっぴなところないので普段SF読まない人もグレッグ・イーガンとか谷甲州とか重いハードSFでつらい思いをした人にもおすすめ。

これは、妹に請われて受験直後に下宿探しを手伝いに行った際、ちょうど読み終わったので譲ったところ、翌日一日で読んでしまったとのことであった。

ちなみに、ほか、エンジニアかっこいいSFってなにがあるだろう。たくさんあるような気がするけれど、うまく思いつかないのであれば教えてください。

ビジネスの波に翻弄される技術者「イノベーションのジレンマ

多数の優秀な人材を擁してお金をかけて新製品を開発する、誰もが知っている大企業がなぜ窮地にたつのか。 近年だけでも、ソニーのテレビ事業、大赤字を出したシャープ、スマフォに粉砕された日本の携帯メーカ、救済されたビッグスリー、フィルムで一時代を築いたコダックと枚挙にいとまがない。これは、それらが大企業だったからこそイノベーションを起こせなかったと理論的に指摘している。ついつい、目の前の問題解決に没頭しがちなエンジニアもいるけれど、高度な技術はそれ自体で価値を持つのではなく、市場があってこそというのは認識しておくべきかもしれない。

ほか、やや古いけれど「フラット化する世界」では、グローバル化した時代での競争相手が急激に広がっていることが示されている。ただ技術を追求する「だけ」では勝てないということや、安定の大企業もあっというまに消滅するし、そこまでは行かずとも工場が簡単に国外に移転しうる残酷さがわかるかもしれない。企業の寿命が人生より短い中、自分のキャリアをどういう組織とともに形成するか、大学でどう学ぶかは意識しておきたいところ。

そういうキャリアのひとつのケースとして、タイトルからして有象無象の自己啓発本に紛れそうだけれど、フラッシュメモリの開発に携わった竹内健先生の「世界で勝負する仕事術 最先端ITに挑むエンジニアの激走記」がかなりおもしろい。大企業の論理に抑圧される技術者と、そこから執念で這い出して市場で勝負していく流れは劇画っぽさもあってよい。ただ、大企業をdisりすぎではあるきらいもある。とはいえ大企業に依存するキャリアのリスクを考えるきっかけにはなるかもしれない

とはいえ、なかにはジレンマを克服しつつある大企業もありそうだけれどこれからどうなるか・・・ 企業が「帝国化」する

好きなことを学ぶ「きっと、うまくいく」

きっと、うまくいく [Blu-ray]

きっと、うまくいく [Blu-ray]

  • 発売日: 2013/12/03
  • メディア: Blu-ray
本ではなくて映画。それもインド映画。将来を嘱望されてインドのエリート工科大学にやってきた若者たちが、詰め込みハード教育に翻弄されつつも、一人の風変わりな同級生に感化されて生き方を考えていくストーリー。インドの教育問題への問題提起もあったりするけれど、エンジニアがすごい職業だということと、エンジニアリングかっこいいということが伝わってくるし、自分も大学でちゃんと勉強すればよかった・・・と思ったりもした。

170分とめっちゃ長いんだけれど、適宜ミュージカルもはいるしひどすぎるコメディもあってテンション高いまま突っ走っているので飽きはない。

好きなアメリカ映画「いまを生きる」の工学部版+コメディ+ミュージカル+いろいろみたいな感じでエネルギー量すごいし豊かな気持ちになれる。誰が観てもおもしろいと思うけど特に日本のぬるまゆ工学部の学生が観たら刺さるかも。

ほか、映画だと情報系に限られるけれどソーシャル・ネットワークあたりがギーク学生のはちゃめちゃぶりがあってよいかもしれない。

その他

あまり触れなかったけれど、ハウツー本としては名著「理科系の作文技術 」や「知的複眼思考法 」。上述のように、専門書を選ぶ知識はないけれど、その分野の日刊工業新聞社の今日からモノ知りシリーズやブルーバックスでその学科に関わる分野の本くらい入学前に読んでおくといいかも。あとは科学哲学の入門書くらいは読んでおいていい気もするけれど授業で取り上げられるだろうのでパス。

あまり学問寄り、アカデミックな方面の雰囲気がわかる本は知らないのでなにかいいのがあれば教えて欲しいです。理系白書とかポスドク残酷物語的なものは思いつくのだけれど・・・。

また、工学部の一部の学科では、女性率5%以下とかになっていて、おとこう学部と揶揄されるようにいやでも性差が強化されがちになるように思う。そんな環境を切り開いてきた女性研究者、女性エンジニアの物語があれば知りたいです。

みなさまへ

みなさまもぜひあなだだけのブックリストをつくりましょう。対象の学科と推薦する理由、コメント、思い入れ、どんな大人になってほしいかなども書いていただけるとうれしいです!

おわりに

少年老い易く学は成り難し、一寸の光陰軽んずべからず (朱子

自分ももっと学を身につけなければ・・・

*1:都会の私立中高一貫高出身の余裕をもって合格している人たちは教養豊かな人が多くてちょっとうらやましい

わたしの東京生活

大学生のころ、東京行きの夜行バスに揺られて新宿で降りると、どんよりとした雲の下の街は吐瀉物の匂いが漂っているし、裸のおっさんが転がっているしでほんと恐ろしい魔の都だと感じた。しばらくのち、就職して東京駅まで新幹線でやってくると、震災の直後のためにエスカレータはどれも動いていないし照明は暗いし京葉線のホームはやたら遠いしで末法の都だと感じた。

そんな悪い先入観こそあったけれど、実際に数年住んでみると東京はいいところがたくさんある街だった。 もちろんわるいところも多いけれど、自分は東京好きなので特にいいところを3つ挙げてみようと思う。

1. 人が多い

これは最大のデメリットでもあると同時に最大のメリットでもある。 人が集まるから仕事が集まる。仕事が集まるから人が集まる。このポジティブフィードバックがぐるぐる歯止めなく回って夜行列車で金の卵がぞろぞろやってきて線路は延びてニュータウンが育って土地代が騰がってビルがにょきにょき生えている。人が多いから美人も多いし頭いい人も多いしセンスある人も多い。ついでに展示やイベントも多いし勉強会も多い。同郷同窓同好の友人も多く気楽に会いやすいしついでにテレビのチャンネル数もめちゃめちゃ多い。 東京沙漠と揶揄されることもあるけれど、人がつながっていることを感じる機会も多かった(参考画像:カイジの人間競馬シーン)

2. 図書館最高

自分が3年ほど住んでいた江東区も近隣の中央区や千代田区、港区も狭い土地ながら図書館がほんといい。雑誌の種類も多いし本もちゃんと選ばれている印象がある。座席も多く居心地が良いし企画も活発。

比較として、かつて住んでいた某府某政令指定都市の図書館をあげつらってみる。ここには区ごとに図書館があるけれど、自分が行った限りでは雑誌は置いていないし、本の数も少ないうえにセンスもいけていない(主観)。税収が違うから仕方ないのかもとは思うけれど、水族館とかハコモノはつくっているのになんだかなあ、と思ってしまう。

江東区でいえばひとつの区に11カ所もの図書館もある。駅近もあれば歩いて行けるところに3カ所もあってたいへん便利。また、公共の施設ではないけれど、某大学の図書館は区の図書館利用カードをもっていれば閲覧に使えるというのは専門書を気軽に手に取れてよかった。

そのほか、港区はどこも整備されているし本も豊富な印象。アクセスも便利。高い住民税払っているのでみんな使いましょう。 さんざ図書館持ち上げてからなんだけれど、いい本は著者の努力と研究に報いるために買うこと推奨です。ついでに図書館になければリクエストを出しましょう。 ただ、自分はいくつかリクエストだしたんだけれど、たいていの本はあるし、かなり遠くの区の図書館から調達してきたりして買ってはもらえませんでしたが。

3. 冬でもめっちゃ天気いい

これはもしかすると太平洋側なら同じかもしれないけれど、冬なのにスカっとした気持ちよい晴天ばかりでほんと爽快。雨はたまにしか降らないし雪は滅多に降らない。これはほんとすごいことで秋と冬の境目がないようにも思えてずっと秋気分でいられる。

自分の生まれ育った北陸の片田舎では冬には常に鉛色の雲が空低く立ちこめていたので、この晴天続きはかなり異常。同じ寒さでも、晴天だと身が引き締まるようなすがすがしい寒さに感じられる。

デメリットとか

都市特有の問題はあるんだけれど、それ以外の問題はラーメン/つけ麺がくどいのばかりということかな。 自分の住んでいたところに限られるけれど、交通の便はめっちゃいいのに電車は座れるし、家賃も工夫できていたし、地域コミュニティもいい距離感、街の雰囲気も心地よかった。ここらへんはまた気が向いたら書いてみたい。

新版 東京漂流 (新潮文庫)

新版 東京漂流 (新潮文庫)

以下ポエム

はじめての東京

人生ではじめて東京にやってきたのは中学校の修学旅行でした。

この田舎の公立中学校の修学旅行では、青木ヶ原樹海をハイキングして洞窟に潜ったり、カメムシだらけのペンションに泊まったり、ディズニーランドでスプラッシュマウンテンに3回くらい乗ったり、ホテルでスーパーボンバーマン2をしたりといろんなことをしたのですが、一番印象に残っているのは東京での中小企業訪問。

これは、当時始まったばかりの総合的な学習の一環かなにかで、クラス横断で各テーマに分かれて調べ物して東京でフィールドワークをするというもの。他にどんなテーマがあったかは忘れましたが、わたしは「製造」コースを選びました。友達から誘われたからなだけであったような気もしますが、他のテーマと比べると男しかいなく、人数も8人と少ないことに自由さも感じていました。

白髪で生え際が後退しつつも自信に満ち精力的な風貌の美術の教師のもと、どんな準備をしたかはほとんど覚えていません。ただ、隣のクラスのタッキーが「製造業に必要なのは、消費者のニーズを知ることだよ」と言っていて、中学生なのに大人っぽいなあと思ったことが記憶に残っています。

紆余曲折を経て、私たちはダイヤモンドカッターをつくっている会社と、アルミ加工の会社に行くことになりました。どちらかが五反田でもう片方は蒲田だったように思います。

これは学校が狙ったことか、わたしたちの人数が少なかったからか、引率の先生もつかず生徒だけでの行動です。 滅多に電車に乗らない田舎の中学生をいきなり世界で最も複雑な東京の交通網に放り込むとどうなるか。山手線はほんとにあったんだと驚愕しながらも人混みの中をおっかなびっくり乗り換えて駅にたどり着くと、迎えに来ていただいてなんとかダイヤモンドカッターをつくっている町中の小さな工場にいくことができました。エンジニアの皆様はつくっているものについてたいへん親切に、丁寧に教えてくれました。ダイヤモンドカッターでガラスを切るデモや、小さい工場だけれど、技術があるからこの小さい製品がひとつ数十万円で売れるという話は刺激的でわくわくしたのを覚えています。ついでに、おみやげにダイヤモンドカッターの無骨な包丁研ぎをもらったことはとても嬉しく感じられました。

ただ、その次の工場に向かうとき、なぜだか乗り換えに失敗してか迷ってしまったのです。高いビルと知らない街と間、いつのまにか先ほどまでの人混みのないところまで来てしまい、見たことがないほどたくさんの線路をほとんど絶え間なく走る電車の音だけが響き空恐ろしさを感じました。いま思うと乗り換えをリーダーにまかせていた自分の不明を恥じるべきところだし、街行く人に頼るべきところでした。

公衆電話から電話で迷ったことを伝えましたが土地勘のない田舎中学生でうまく説明できずもどかしさを感じたのを覚えています。そうこうしているうちに時間が過ぎて、電話口でなんとか謝って、次の全体での集合場所に向かうことになりました。

その訪れる予定だった工場からは後日、アルミ板に中学校名を掘ってくれたものを学校に送っていただきましたが、当日、たどり着けていたら名前を彫ってくれていたと伝えられ、行けなかったことへの悔しさと、準備してくれたことへの申し訳なさはいまも覚えています。

ちなみに、自分たちの無知と無力を感じながら帰ったあとの報告会にて、タッキーは「ニーズとは消費者が必要とするものだということがわかりました」と言っていて、こいつじつはアホだったのかと思えました。

のちに東京に住むことになって、このときに迷ったのは品川駅と北品川駅の間あたりのようだとわかったのですが、なぜ蒲田と五反田の間をいくのになぜこのあたりを徘徊していたのかはいまでも近くを通るたびに疑問に思えます。そして、この東京での経験が多感な中学生にどういう影響をもたらしたか考えてしまうのです。

読んだ本 2015年2月

今月は歴史系で大きな本2つを読んだ。

古代ローマカエサルの戦いと、中国の毛沢東共産党の支配の話。どちらも巨大組織で巨大事業を運営していったノンフィクション。それぞれ殺されたり、国民を大量に餓死させたりと失敗はしているんだけれど、大人物であったことは間違いない。組織の強力さと、恐ろしさが伝わるだろうし、現代日本の組織運営にも役立つかもしれない、しかし、ただエンターテイメントとして純粋におもしろい。

そんななか、ひさびさに読んだSF「火星の人」は巨大事業の先頭で意図せず孤独に戦うことになったエンジニアの話。組織の力の及ばない地で、科学と工学の強力さを思い知らされて示唆的。しかし、組織に対抗するにはどうしたらいいのだろうか・・・

ガリア戦記

ガリア戦記 (平凡社ライブラリー)

ガリア戦記 (平凡社ライブラリー)

世界史の教科書にも出てくる古典名著。古典と聞くと読むのつらいと思われるかもしれないけれど簡潔な文体で読みやすいし軍記物として展開がおもしろいしでエンタメとしても優れていると思う。

ガリア戦争自体は紀元前58年から51年までの8年間、カエサルがガリア地方(現在のフランス・ドイツ・イギリス南部あたり)を征服していった戦い。 そのなかで、執政官の任期を終えて属州総督となった40代のカエサルがいかに軍を指揮していったか、ガリア人たちがいかに戦っていったかがわかる。

毎年毎年各地で戦って、反乱を起こされたりしていて盛りだくさんなんだけれど一番の注目ポイントは、当時の戦争がかなり近代的な軍隊で、近代的な戦術で戦っていたこと。 各地にいる複数の軍団と連携をとる、平地戦では敵の油断を誘って包囲する戦術をとる、敵が逃げ出すと容赦なく追撃する、攻城戦では様々な土木工事と道具を使う。現地調達も含めて兵站を意識する。 敵であったガリア人も蛮族だったわけではなく、いかにローマ軍の補給を絶つかを工夫し、あえて自分たちの村や田畑を焼いたりもしていた。特に、ガリア戦争一番の激戦アレシアの戦いまでの連戦ではウィルキンゲトリクスがローマ軍支配下のなかで各民族をまとめあげてローマ軍とぶつかっていく様子は日本の戦国時代にもない規模。

日本と違って、文化も言葉も違うし、ガリア人は民族意識が強く、平民や婦女子も含めて総力戦になりがちなところは厳しい。

そういった戦争を、さまざまな別に命がかかっているわけではないサラリーマン兵士を率いて戦ったカエサルがすごい。 他民族も含めて、いかに部下の力を引き出すか、明示的には記述されていないけれど、勇気を出すものを賞賛する文化をつくっていたこと、武勲をあげたものを報償を与えていたことのほか、カエサルのトレードマークであった真紅の衣を見るだけで士気があがっていたことや、カエサルの不在の軍団で、軍団長がここにカエサルがいると思え、と言っていたなどカリスマ性が多分にある。

また、いかに支配した地域を安全に取り込むかでは、当時の慣習としてか人質をとるだけでなく、味方になるものを定期的に支援したり、助けてやったという恩を思い出させるよう念を押したり、会談の際に反乱しそうだと感じていても、カエサルが裏切ったととられないようにあえて見過ごして反乱をおこさせたりとかなり考えている。いったいどこで学んだんだろう。

当時のカエサルのおかれていたローマの状況を踏まえるとカエサルがただガリアを征服することに苦心していただけでなくローマでの元老院との政争にかなり影響されていたことがわかる。後顧に憂いをもったまま、ガリアで力を蓄えていると読むとカエサルの戦略性の高さが浮かんでくるし、あまりに成果を出しすぎて元老院に恐れられたのもわかる。

漢の韓信にしてもパルティアの戦いでローマ軍に勝ったスレナスにしても、ソ連のトゥハチェフスキーにしても、ナチスロンメルにしても、卓越した将軍、軍事指揮官が為政者の嫉妬の末に冷遇されたり粛清されるって歴史上よくあるよね。日本だと誰かいるだろうか。

繰り返すけれど、カエサルは指揮官としても政治家としても文筆家としてもきわめて優れていた前代未聞、不世出の天才だったとわかる。イタリアの歴史の教科書には「指導者に求められる資質は、次の五つである。知性。説得力。肉体上の耐久力。自己制御の能力。持続する意志。カエサルだけが、この全てを持っていた。」との記述があるほど。

ちなみにいくつかの翻訳が出ているけれど自分が選んだのは平凡社版。 ラテン語勉強のメーリングリストですこしずつ翻訳していって7年かけて完了したものを整形・修正したものとのこと。解説では当時のカエサルの置かれていた三頭政治の成立と瓦解、ローマでの元老院との政争などわかりやすく書かれていてよかった(本文を読む前に読んでおくべきであった)。また、要所要所に地図が載っているので助かる。

内乱記あたりも読んでみたい。

中華人民共和国史 十五講

中華人民共和国史十五講 (ちくま学芸文庫)

中華人民共和国史十五講 (ちくま学芸文庫)

700ページ近い大著なんだけれどおもしろくて一気に読めてしまう。 いい本だったので記事を書いてみました。

支配と抑圧の中華人民共和国史

火星の人

火星の人 (ハヤカワ文庫SF)

火星の人 (ハヤカワ文庫SF)

ひさびさにフィクション読んだら2日で600ページ一気読みしてしまった。

簡単にあらすじを言うと、火星への3度目の有人ミッションの際、主人公は事故により死亡したと思われ1人火星に取り残されてしまう。植物学者兼メカニカルエンジニアの主人公は限られた資材を工夫して生き延びていく。作業日誌文体のなか、ロビンソン・クルーソー的な創意工夫とユーモアがあってハラハラがあってよい。エンジニアかっこいい系ハリウッド感もあって、今年末には映画化されるのだとか。

ジャンル的にはライト・ハードSFで、設定も小道具もとっぴなところないので普段SF読まない人もグレッグ・イーガンとか谷甲州とか重いハードSFでつらい思いをした人も気軽に読めると思う。

計算して計画を立てて実験してフィードバックを受けて実行するという工学的なプロセスは、工学部に入った新入生とか読むともしかすると勉強の励みになるかも。自分も物理・化学勉強したくなった。こういう系のSF、ほかにどんなのがあるんだろう。

ちなみに著者のAndy Weirは15歳でプログラマーになって、いろんな仕事をしてきたけれどBlizzard社でWarcraft 2つくったりとかしていたらしい。

筒井康隆 創作の極意と掟

創作の極意と掟

創作の極意と掟

筒井康隆の創作についてのエッセイ。自分は別に創作しているわけではないんだけれど、巨匠筒井康隆がどう考えて、なにを参考にして、どう試行錯誤してきたかがわかっておもしろい。本を読むときに、文章や構成の背景が見えておもしろいかも。

気になったこと - 作家は自身が色気を持つべき。誰かに恋し続ければ文句ないし、その背後に死が感じられるならなおよし。 - 創作において迫力を生む題材は、対立。最大の迫力を生むのは、「死」。

あと涼宮ハルヒを絶賛してた。ビアンカ・オーバースタディも読んでみようかな。

ちなみにそんなに読んでいるわけではないけれど、筒井康隆では七瀬三部作と旅のラゴスは間違いない。あとパロディ系もまあおもしろかった気がする。あと3,4冊読んだ気がするけれど忘れたな・・・。読みかけ放置もままある。

イベント

尊敬する先生の最終講義

この先生は研究活動も尊敬に値するのだけれど、該博な知識と人間観を応用してペンネームでSF小説を書いていることで注目していた。 きっかけはその先生の研究室の学生に薦められて数年前に著作を読んだことなのだけれど、その先生がいよいよ退官するということで誘われていってきた。 最終講義はなかなか難解だったけれどユーモアと示唆に満ちていておもしろい。いい質問を思いついたけれどしそこねる。また、なぜか誘われて懇親会に行くと、いろんな方とお話しできてたいへん有意義であった。 話題は、カンボジア、メディア、農村、ドルイドUMAコンサルタント笠井潔現象学などなど・・・。 ちなみに、そのSFはあまり世間的に評価されていなくて残念。こんど、もっと評価されるべきSFとして記事書いてみるかも。

また、最終講義前に先生がよく利用していたという安いカフェにいってみると、はたして先生も奥様といらっしゃったのでサインしてもらえましたので自慢しておきます

3月の抱負

2月は節目ではあったのだけれど思っていたほどには生産的に動けていない。 書きたいブログもあったけれどすこし書いて放置している。28日しかなかったし寒かったから仕方ない、としたいところだけれどそういうわけにもいかない。。

3月は春。春は書をもって外に出よう。

関連記事

支配と抑圧の中華人民共和国史

今日は中国の正月である春節らしいですね。
最近読んだ中国現代史の本がめっちゃおもしろかったのでということもあって読書メモを公開してみます。


まず、中国という国にどんな印象を持っているだろう。
世界で最も人口の多い国、4000年の歴史、急成長する超大国、自己中心的中華思想、眠れる龍、共産主義国家、漢字文化圏毛沢東、漢文、世界の工場、烈海王三国志、遣隋使、孔子日清戦争満州事変と日中戦争反日デモ北京オリンピック尖閣諸島問題、etc・・・きりがない。



ソ連はとっくに崩壊したにもかかわらず中国では共産党政権がまだまだ続き、かつ経済的にも恐ろしいほどの成長を続けている。また、軍事大国でもあり周辺地域と軋轢を生んでいる。



そんなお隣の国なのに1949年に建国されて現在まで続く中華人民共和国の内部の話は断片的にしか知らなかったと思いこの「中華人民共和国史十五講」という文庫本なのに2000円もする本を読んだ。著者は天安門事件での学生側リーダー王丹。当局に収監された後、アメリカに亡命しハーバード大学で歴史を専攻して博士号をとって現在は台湾精華大学で教えているという。その講義をもとにした現代史なのだけれどかなり肉薄感がある。厚みと臨場感のある抑圧の歴史。



中国現代史は非公開情報や左右からのプロパガンダも多くてなかなか闇だし、手軽に読めるわかりやすいものがすくないので貴重だと思う。目次はこんな感じ。

1. 中華人民共和国の成立
2. 軍事/朝鮮戦争
3. 都市/「三反」・「五反」運動
4. 農村/「土地改革」から人民公社
5. 知識分子/思想改造から胡風事件、「反右派」運動へ
6. 党内/盧山会議
7. 外交/中ソ関係の破綻と中米合作
8. 「文化大革命」の発動と展開
9. 文化大革命の終焉―林彪事件から四・五天安門事件
10. 鄧小平時代の開幕
11. 八〇年代の改革開放―胡耀邦から趙紫陽
12. 六・四天安門事件
13. 経済と文化
14. 公民社会の成長
15. 六〇年の回顧

中華人民共和国史十五講 (ちくま学芸文庫)

中華人民共和国史十五講 (ちくま学芸文庫)



特に気になったところをピックアップしてみる。


毛沢東による支配

読む前の毛沢東のイメージはカリスマゲリラ指導者であり個人崇拝を強いた独裁者。国民党を倒した後は大躍進と文化大革命の失政のイメージなかったんだけれど、大衆のコントロールと猜疑心の強さによる深謀遠慮を感じられた。支配の天才と言ってもいい。それが善政かどうかはさておき。


彼の支配のやり方はこう。民主派なり党内右派、富農・ブルジョア階級などの思想的であったり政治的に対立する階層・グループを駆逐するために、大衆を焚きつけて、最下層の民衆や一般党員にその敵対グループと対峙するように仕向ける。これを数年おきに対象をかえて実施している。また、興味深いのはこの政治闘争によって、党内の訓練、選抜、規律の維持を兼ねて組織を強化し集権化をすすめていたということ。ここで確立した体制はいまだに生きているように思える。


対立グループを駆逐していく闘争のなかで特筆すべき事案をひとつ紹介しておく。1957年に毛沢東は、共産党員でないものであっても中央に問題のあるところをどんどん指摘・提案して欲しい、と呼びかけた。この一見、謙虚な姿勢に思える呼び声に応じて、建国時には民主制にするとの約束が達成されないことや各抑圧への不満のたまっていた民主派や知識分子が声をあげていくと、毛沢東は一転これは反体制運動だと指摘し、手のひらを返して反右派運動として大衆に弾圧させていく。これだけ堂々となされた政治的欺瞞はかつてなかったんじゃないかと思う。これに限らず、各手法のことを毛沢東自身の言葉では陰謀に比して陽謀といっていたという。


ほか、古典を読み込んでいた毛沢東は、広い中国では各地の有力者が力を蓄えると反乱することを知っており、中央に呼び寄せたり、右派なり反体制なり修正主義なり難癖をつけて上記のとおり大衆に運動をおこさせて失脚させたりと巧みに力を奪っていったことも共産党の安定につながっているようだ。


ほか、ちょっとだけ気になった毛沢東の言葉を孫引きしてみる。

小説を利用して反党活動を進めるのは、一大発明だ。およそ一つの政権を打倒するには、つねにまず輿論をつくりださねばならず、イデオロギー方面の工作をやらねばならないからね。革命的階級の常道だし、反革命的階級だって同じことだ。

中共第八期中央委員会第10回総会での毛沢東の講話より。中華人民共和国史十五講 247ページ

これは反体制的小説を弾圧するときの言葉だけれど、毛沢東が世論を味方につける重要性と方法を知悉していたことがわかる。


物事には反作用がつきものだ。高く吹き上がれば上がるほど、ひどい転び方をするものだからね。転んで粉々になるほうを選ぶとするさ・・・。それも大した問題ではあるまい。物質は不滅であって、ただ粉々になるだけなのだから。

毛沢東から江青への手紙より。同302ページ

マジック・ザ・ギャザリングフレーバーテキストに使われていてもおかしくない。


抑圧と安定

話はその後の大躍進に移っていくけれど、それそのものではなく、なぜ、大躍進によって一説に4000万人という空前絶後の餓死者を出したにもかかわらず反乱もおきず、中共の政権は安定していたのかを考えてみる。


読んでいくと、分散的で自主的な情報の統制があったからのように思える。まず、大躍進政策の趣旨としての農業生産性の向上では、各地区が同調圧力から自主的に過剰に申告して、中央はそれに応じて徴収することとなった。そして、飢饉が発生するも、各地区では生産量をコミットしているがために失敗を中央に伝えない。または伝えても途中で握りつぶされる。こうして、中央は各地の悲惨な状況を知ることはなく、各地区でも飢饉にあっているのは自分たちの地域だけだと思っていたそうだ。


この分散的・自律的な統制は悲惨の一言だけれど、ブラック企業的抑圧やDVと通ずるものはあるかもしれない。



これはプロパガンダかと思われるけれど、1966年の文革開始後に、ある養豚場の飼育員が新聞に寄せたという投書を引用する。

以前、わたしは豚に餌をやることと革命とを切り離していました。革命のために豚を飼うわけではありませんでした。だから、仕事に対する責任感をまったくもたず、豚の飼料が不足すれば、指導部に申し出て手に入れました。自分の頭を使って考えたり、手を動かして問題を解決しようとは思わなかったのです。
毛主席の著作を学習し、思想的覚悟を高めました。すると、すべての工作が革命のためであり、養豚もその一部として、革命精神で対処する必要があることがはっきりしました。飼料不足には自力更生を旨とし、自己の主観的能動性を発揮しようと決意したのです。飼料不足の問題が解決すると、精神が物質に変わりました。こうして、果敢に闘争し、果敢に勝利する思想品質と、確固とした作風を培いました。そのとき、物質はまた精神に変わったのです。

意識高い系やりがい搾取カルト資本主義ブラック企業とだぶってみえる。



ナチズムやスターリニズムトップダウン全体主義だとしたら、マオイズムは個人崇拝は同じだけれど、ボトムアップ(であるように見える)全体主義なのではないかと感じた。

ここあたりはもっとも精緻なディストピアSFにおける独裁国家建設の過程を見ているような気分になってくるけれど、これが現実に隣の国で起きてたんだよな。。


ちなみに、農業政策としては、人民公社による集団化農業の失敗が大きい。林毅夫(りんきふ)によれば、生産性向上のためには農民の自己統制に頼る必要があるけれど人民公社には脱会の権利がないために集団内部の能動性のメカニズムが働かなかったという。よくある社会主義への批判ですね。誰も自分のものじゃないものを大事にしない。


そして改革開放

その後、例の文化大革命での内乱状態が毛沢東の死とともに終わった70年代末から中国は改革開放の時代だった。
ただ、主要な成果である制度変革は国家の力によりもたらされたものではなく民間が自発的に始めたものが多い。国家の役割は追認と普及。これができる民の強さといったん動き出した後の独裁的な強さはいいと思う。
地方分権経済特区をつくって生み出された成功が、日本での道州制地方分権のモデルとして挙げられるかもしれないけれど、どうなんでしょう。
当時の中国にあって、日本にないものはなんだと思いますか。


天安門事件

改革開放は進んで民主制を求める動きもでてきたとはいえ、政治的にはまだまだ一党独裁。そこへの不満を持つ右派(民主派をこう表現している)と、それに危機感を覚える元老たち左派。

そんななか、開明的であったが失脚し失意のまま病死した胡耀邦の再評価と人民日報の学生のデモを反国家だと厳しく糾弾する社説の撤回をもとめた学生デモの結果、発生した天安門事件
ここは著者の王丹が当事者なだけあって読んでいるだけで冷や汗をかきそうな迫力がある。

そこは読んでもらうとして、王丹による天安門事件での学生側からの総括が単純だけれど興味深い。

どう見ても指導思想の欠落に有り、意見の表明がいつの間にか民主化運動に転化し、政治的目標を達成しなければおさまりがつかないところまでいっていたが、学生指導層はその違いを認識できていなかった。そして外部の期待をいいことに民主化運動の戦術まで決定してしまったが、政治闘争の技術としての妥協の重要性を理解できず、社会の各種勢力と連合する必要性も認識することができなかった。

これほどのまともな総括を60年代の日本の学生運動の指導者たちはしていただろうか。一時の熱狂に陶酔していた日本の学生運動と違い、直接抑圧されていた分、重みがあるように思える。


中華人民共和国はどこに向かうのか

経済は昇り龍のように発達しているけれど、共産党の統治はますます強固にかつ官僚的になっている。毛沢東時代は、非党員が党員を非難することは許容されているけれど、いまはそうなっていない。

また、共産党による度重なる政治闘争と相互批判によって信頼関係などの社会資本が失われてしまったことも現在中国の特筆すべき点かもしれない。先富論と党員による職権乱用、それによる国有資本の恣意的な分割やによるブルジョアの増加はかなり巨大な格差を生み出している。

ネットにあった言葉でこういうものもある。

共産党によって30年で命が失われ、20年で魂が失われ、20年で銭が失われる

格差と腐敗はどこかで民主主義的社会主義革命を生み出すかもしれない・・・。そのまえに中国バブル崩壊で世界がどうなるのか不安すぎるけれど。

おまけ:中国ネットスラングについて

いい感じにまとめようと思ったのだけれど、中国インターネット事情(ネットスラング系)で自分の知らないおもしろ話がいくつかあったので脱線して共有しておきます。

緑bar娘とは (リュイバーニャンとは) [単語記事] - ニコニコ大百科


緑bar娘(りゅーばーにゃん)とは、中華人民共和国で開発されたネット検閲ソフト「緑壩・花季護航」の萌え擬人化したキャラクター。ネット検閲ソフトを萌えキャラ化するという風刺っぷりは日本にはあまりないよね・・・。工業情報化部がこのソフトに4170万元もの大金を投入したことから、身の代金4000万のお嬢様と呼ばれているんだとか。


ja.wikipedia.org



2009年に始まった、政府機関がネット上から低俗な言葉を一掃しようとした運動に対し、ネット検閲で削除されてしまう言葉に同音の漢字を当てはめて、架空の珍獣の名前を作り上げ、その生態を書いたもの。草泥馬という、中国語でのfuck your motherにあてはまる言葉をあてはめたアルパカからはじまって四大神獣、十大神獣と広がっている。なんだけれど、いろいろひどい。


この本に書いてあるのは、わりと風刺が多めなんだけれどWikipediaでは下ネタばかりすぎるしかぶっていない。なんでだろう。


とりあえずWikipediaで一番ひどかったものを引用する。

雅蠛蝶(ヤーミエーディエ、yǎmièdié) - 小さく可憐な蝶。日本製のアダルトビデオ(AV)などで出てくる日本語の「止めて」の発音から。





乾燥

さて、最後に脱線したけれどこの本は読みやすいしおもしろいし中国か歴史か共産主義か支配に興味があるなら読むとおもしろいとおもう。

ただ、どちらかというと中国共産党の戦後内紛史といってもいいかもしれない。
少数民族の問題はあまり書かれていないし、外交については米ソを除いてほぼ書かれていない(重要ではないといえばそうだけれど)。チベットの問題やベトナム出兵あたりもちゃんと調べたい。


ただ、共産党史をたどるのであればアヘン戦争からさかのぼっていく1919年の抗日運動(五四運動)までさかのぼる必要があるし、中国人の考え方の中心に近いところにある革命という概念をとらえるならアヘン戦争から考える必要があるんじゃないかと思ったりしている。

そこらへんを知るのに体系的にまとまっていてかつ読みやすい本はあまりわからないんだけれど建国にいたるまでの国民党や日本、アメリカとの駆け引きについてはこのビデオがおもしろかった。


これから大陸はどうなっていくでしょうか。

読んだ本 2015年1月

いつのまにか2015年になっている。高校生のころに思っていたよりは世界はそう変わっていない気がする。自分の感性が鈍っただけかもしれないけれど。


感性を磨くためにどうしたらいいのだろう。もし感性、センスのようなものが先天的なものだけではないとすると、感動する経験、いいもの、サービス、体験、出会いがいいのではないか、と勝手に思っている。


具体的にはなにがいいだろうかと友人に聞くと、旅をすればいいよ、とか最高のセックスがいいんだよ、と答えてくれたりもした。
けれど、自分は旅をしてもお仕着せのものしかできなさそうだし、NHKが最高のロケーションで最高の機材で撮っているものより感動するものが得られるかよくわからないし、なによりケチいので厳しい。複数人で行くのは楽しそうで安心もあるのでよいですが。セックスについてはセックスの概念が違うんじゃないかとしか思えない。


というわけで、感性を磨くために、というよりも本当は娯楽のためにいろいろ本を読むことにしている。いろんなことがらを擬似的に追体験できたり知ることができてたまに感性が揺さぶられることもある。あと安い。


このブログもここのところ半分以上は読書メモになっているしこのまま今年も読書メモを続けていこうと思う。2013年は2ヶ月ごと、2014年は3ヶ月ごとに本を読んだ感想をブログに書いたりしているけれど2015年の1月はわりと本を読んだのでちょっと早めに書いてみる。
貸せるものもあるので読みたい人はお声かけください。



IT起業家 10人の10年

IT起業家10人の10年

IT起業家10人の10年

IT起業家についてはさまざまなメディアで語られている。ベンチャーの旗手、イノベーションの体現者であるとか、若くして分不相応に大金を手にした金の亡者など毀誉褒貶はなはだしい。

こういった尋常でない成功を手にした人間の本は、自伝でも伝記でもハウツーでも英雄譚のようにわくわくするし、下手をすると自分もできるんじゃないかと錯覚すらしかねない。そういう意味ではポルノ的(似たものでは、実話系雑誌の極道記事とか)。
当然、生存バイアスがあって、その足元には死屍累々なんだけれど、そういった失敗者・栄枯盛衰話はなかなか焦点が当たることはなくて知りたいな、と思っていた。

この本は、90年代末、ITバブルな時代の起業家たちにインタビューし「電脳のサムライたち」として連載していた著者が、2012年から2013年にかけてその後の姿をインタビューしたという珍しい本。
もしかしたら栄枯盛衰が描かれているんじゃないかと思い読んでみた。

取り上げられているのは次の方々。半分ほどしか知っている人がいない。

藤田晋 浅田一憲 大川弘一 南場智子 堀江貴文 孫泰蔵 尾崎憲一 本間毅 江端浩人 川邊健太郎。

学生で起業した人、エリートサラリーマンを辞して起業した人などの溌剌とした20世紀末の話から、10数年後には事業をピボットして成功している人、大企業の役員になっている人、逮捕された人、ITバブルがはじけて会社を清算した人、クーデターを起こされて借金を背負った人などなど。どの話も、波瀾万丈感があっておもしろい。

成功したのはなぜかというと、先見の明があったこと、リスクととったことと運が良かったことのようである。
先見の明は何によってもたらされているかというと、堀江氏や孫泰蔵氏、川邊氏のように早い時期からコンピュータに慣れ親しんでいたこと、また南場氏、江端氏のように米国でインターネット環境を触る機会があったことがある様子。今だと何だろう。oculas?3Dプリンタ

あとは、もっとガチ失敗した人にフォーカスしたインタビューも読んでみたい。


建築業者

建設業者

建設業者

鳶や電気設備工からクレーンオペレータ、非破壊検査なんやから林業から伝統工まで37人の多様な職人さんへのインタビュー集。どれも知らない世界で興味深い。自分が携わっているITシステムの構築は、建築に例えられることもあるけれど全然違う。ITシステムの構築も難しさを軽視されているけれど、建築も軽視されているようである。

おもしろいのは、日米で働いていた職人さんが、アメリカは現場監督がかなり厳格にスケジュールをコントロールしていて契約通りの日に職人が仕事できるようになっているけれど、日本では遅れることがままあるということ。伝聞での少数のサンプルでしかないけれど、こういう、残業して全体の納期は帳尻合わせるけれどその中では現場が地獄を見るのはIT業界だけでないんだなあ。マネジメント、むずかしいです。

ある程度の技を身につけるのに数年単位で修行しないと行けないのはITと違うかも、と思ってしまったけれどほんとはITでもそうやって時間かけて身につけていくものだよね。ただ、最近は若手にいい経験をさせられる現場が少ないし稼げる仕事も少ないと指摘する職人さんが目立っている。これは昨年に読んだ聞き書き ニッポンの漁師を同じ構造があるかも。職人の方々、尊敬します。


チベット旅行記

チベット旅行記〈上〉 (白水uブックス)

チベット旅行記〈上〉 (白水uブックス)

1897年、仏教の原典を求め、日本人としてはじめて鎖国状態チベットに単身渡った河口慧海師の旅行記。ほんとリアル三蔵法師
ネパールからチベットへは、検問を避けるために大きく迂回して厳しい荒野を進んでおり、かなりの苦難の道だったようである。ただ多くの縁や、彼の人的魅力からか無事、4年をかけてラサに到着している。その過程は冒険譚としてもたいへん素晴らしいし、実に読ませるのだけれど、特筆すべきはその視点。現地の文化を丹念に描写しており、民俗学的にも一級の資料となっているようだ。抄訳版(といっても2分冊)の本書には川喜田二郎先生が序文を書いていたりもするほど。
自分も旅するなかでこれほど詳細に書けるものだろうか。自分は日常のことちゃんと観察できていないな・・・。


10年後の日本

10年後の日本 (文春新書)

10年後の日本 (文春新書)

10年前に書かれた、10年後についての本
別途感想書いてみた


ゲーデルエッシャー・バッハ 20周年記念版

ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環 20周年記念版

ゲーデル、エッシャー、バッハ―あるいは不思議の環 20周年記念版

鈍器にして自己言及と創発(ぱっと見、創発という言葉は使われていないけれど)についての名著。読了したわけではなくて、カフェにおいてあったので30分くらいかけて長い序文と、目次前についている概要、訳者解説を読んだだけです。
それだけでも、自己言及性がシステムにどういう影響を与えているかの示唆があってなかなか深そうではあるのだけれど、衒学的な印象もある。
人工知能についての記述は古いけれど、発想はモダンっぽそう(印象論)。ゲーデル不完全性定理はおもしろいのであまり知らない方は結城浩先生、「数学ガール ゲーデル不完全性定理」から読んでみるといいんじゃないでしょうか。


マリス博士の奇想天外な人生

マリス博士の奇想天外な人生 (ハヤカワ文庫 NF)

マリス博士の奇想天外な人生 (ハヤカワ文庫 NF)

バイオ系科学系なら授業で習うPCRを開発して若くしてノーベル化学賞を受賞した博士の自伝やらエッセイやらを集めた脈絡のない本なんだけれど、それがこのとんがったおもしろ人を表しているかも。
高名な大学などアカデミックな世界にほとんど在籍せずにノーベル賞をとった人で、受賞時にサーフィンにでかけたりしていた話もある。ほかLSDが合法だったころにキめた様子の描写はかなり詳細で最高。4回も結婚していたり自由な様子が窺える。一方でHIVエイズの関係に科学的な証拠がないということにはかなり厳しくあたっている科学者としての倫理観や、少年時代に、合成が難しい薬品をつくって稼いでいたという話はノーベル賞受賞者さすがであるとしか言いようがない。科学者の自伝/伝記はかたいのが多いので新鮮だった。
ほかにもマッドサイエンティストな人の自伝/伝記読んでみたい。
ちょっと古い人物だけれど、「解剖医ジョン・ハンターの数奇な生涯」という伝記はなかなかよかった


なぜ国家は衰亡するのか

なぜ国家は衰亡するのか (PHP新書)

なぜ国家は衰亡するのか (PHP新書)

中西輝政氏の文明論。トインビーやギボンをひいて描いている過去の国家衰亡はわりとおもしろい。
各文明で絶頂期に至る前までは国家衰亡論が盛んに議論されるけれど、衰退期に入ってからは議論も下火になるという。これは衰退期には、それを認めたくないために議論が封じられるのだとか。いまの失われて20年にもなる日本ではどうだったんだろうか。もはや盛者必衰の運命論、必然論で受け入れてしまっている?
ほか、気になったこと。ローマ衰亡でよく語られるパンとサーカス、これと似たようなことが大英帝国崩壊の際も見られたのだという。崩壊の序章である1901年から1910年までのエドワード朝では急にイベントや娯楽に若者が並びだして、グルメブームも起きて老齢者が疑問に思ったり。これは中産階級が増えたこと、豊かになったことの必然でもある気がするけれどどうでしょう。
そんななか、英国も英国病を、アメリカも70年代の衰退を克服している。これはサッチャーレーガンの改革があって、国民も、議論もありつつそれを認めたからという話で、日本では中曽根首相らの改革はあったけれど、国民は他人事だったというふう。これにはちょっと疑問もある。
また、ローマの崩壊はカルタゴ征服のときにはすでにはじまっていて、征服地たるギリシャ文明をありがたがったり、アイデンティティを失い、創造性を失っていったことからはじまっているという。それを警告していた、カルタゴを滅ぼした将軍であり元老にもなった大カトーの話ははじめて知った。

ここで触れられている、ある文化において効率性と創造性はトレードオフがあるというのは、実証は難しそうだけれどたしかにそれっぽそうだし着眼点としておもしろい。そうであるなら、高度経済成長後に効率性をひた上昇させてきた大企業は創造性が欠けるということの説明にもなる。

そのほか、西ローマがキリスト教の取り込みに失敗して崩壊した一方で、ビザンツ帝国はうまく取り込んで史上稀な1000年続く国家を築いたという話や、江戸時代の周期的なバブルとお蔭参り、そして改革のサイクルがあったというのは読ませる。

ただ、未来についての話は、国家の目的を確立することが必要という若干観念的なところでとまっている気がする。
間違ってはいないけれど、価値観が多様化しているなかでそれを確立するプロセスを穏健にとっていく方法はないと思う。つまり、国民が短期的利益を求め、政治が迎合してなにも決められないという典型的衰亡プロセスを辿るしかないんじゃないかと・・・。うーん。

もうちょっと、過去の衰亡を客観的にまとめたほうがいい本になったと思うし、そういうの読んでみたい。各論をあたるしかないかな。


山の仕事、山の暮らし

山の仕事、山の暮らし (ヤマケイ文庫)

山の仕事、山の暮らし (ヤマケイ文庫)

山ライター(?)の高桑さんによる、山で仕事をしているゼンマイどりや猟師、蜂飼、ワカン作り、山岳救助隊などなど山で仕事をしている19人へのインタビュー集。
みな独特の仕事をやっていてそれもおもしろんだけれど、なにがしかを極めたプロフェッショナルの雰囲気が出ているのがよい。ただ、厳しい仕事で後継者がいなかったり、稼げなくなってきたりで、めっちゃたいへんそうなんだけれど、みなそれぞれ山が大好きな感じもある。
林業なりキノコ、山菜、猟など山にはまだまだ資源があるしうまく活用できるといいと思うんだけど、ノウハウももう途絶えているかも。

類書としては聞き書きニッポンの漁師、建築業者、メタルカラーの時代とかかな。こういうプロへのインタビューはどうしても浅いのしかないけれどおもしろい。SEのあったら読みたいし機会があればつくりたいけれど、内容的に難しそう。匿名でPJをうまくぼかせばありかな。


決済サービスのイノベーション

決済サービスのイノベーション―資金決済法で変わるビジネス・生まれるビジネス

決済サービスのイノベーション―資金決済法で変わるビジネス・生まれるビジネス

資金決済法の改正にともなって、事業がどうなるか。法律解釈の読みものとしてはいいけれど既存のサービスの枠組みに囚われすぎな感じはある。

ちなみに法律については金融庁のパンフレットがわかりやすかった。
(PDF注意)

ケータイ口座なり電子マネーについて、なぜ使っているかというアンケート結果とその分析も載っているけれど、どうしても後付け感があり表面的なもの(ユーザの真の欲求でない場合が多い)になるので難しい。

この本の結論の一つである資金移動サービス単体では利益をあげることは難しく、別の事業との連携が不可欠である、という話はわりと考えさせるものがある。買い手にとっては便利だけれど、手間をかけて導入してもらえるかは別だし、売り手にとってもメリットが直接的ではないし、しばらくは現金強い感じ。金融まわりのサービスはFinTechというバズワードも生み出されて人気で自分も考えるところがあるのでこんどまとめてみたい。


間違いだらけのソフトウェア・アーキテクチャ

間違いだらけのソフトウェア・アーキテクチャ―非機能要件の開発と評価 (Software Design plus)

間違いだらけのソフトウェア・アーキテクチャ―非機能要件の開発と評価 (Software Design plus)

この本はソフトウェアのアーキテクチャとその作り方を解説しているんだけれど、業務システム開発によくある誤解、例えば製造業との比喩であったりをわかりやすくユーモラスに説明している。システムを作る側も作らせる側も読む価値あると思う。

アーキテクチャの評価項目はチェックリストとしてわりと参考になりそう。


あと、この本の最初の図をTwitterに投稿したら300以上RTされてびっくり。


それだけ共感する人が多いということでしょうか。


強欲資本主義 ウォール街の崩壊

強欲資本主義 ウォール街の自爆 (文春新書)

強欲資本主義 ウォール街の自爆 (文春新書)

煽りっぽいタイトルだし2008年出版とやや古い新書だけれど、ウォールストリートで長く銀行家をやっている神谷秀樹さんなだけあって業界ゴシップが豊富でかつ、未来への展望も触れられていておもしろかった。
あまりファイナンス詳しくないんだけれど、ウォール街の人事や欲深い話、裏切り、顧客をカモにする話、利益相反している話などよい。日本の実話誌が暴力団について書いているのが人気を博すのと似ているかも。

また、筆者はすぐに株式公開を狙うインターネット企業に批判的で、近年、徐々に株式の公開基準が下がっていることを指摘している。アメリカではSOX法によるコーポレートガバナンスとそれにかかるコストのために通常の事業会社だと売上が3億ドルはないと公開するメリットはないという。日本だとここ最近売上数億円規模のベンチャーの上場が続いているけれど実体はどれほどともなっているんでしょうか。

興味深い話はいくつもあったのだけど2,3メモしておく。

  • 投資銀行出身者が国家機関に採用されるときに狙っているのは、所有株を課税なしに売却できるタックスホリデーだとか。そうして利益相反な状況がつくられていく。
  • 企業を買収したいときにアドバイザーとどう契約しておくか。インセンティブを設計しておく必要がある
  • キャピタルゲインや運用手数料を利益としており、かつ「今日の儲けは僕のもの。明日の損は君のもの」という無責任状態では短期的な利益を目指すことが最善手となる。どう制度設計するといいんでしょう。
  • 所得倍増計画のブレーンだった下村治博士が、オイルショックをみてゼロ成長に耐えられる体制にすることを主張していたそうだ。すべての論点に賛成なわけではないけれど今になってみると慧眼である。

下村治博士の20年前の警告を見つめよ:日経ビジネスオンライン


フリーエージェント社会の到来

フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか

フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか

13年も前に出たエポックメイキングな本。フリーエージェントという存在が社会で存在感を増しているということを多数のインタビュ−、フィールドワークから明らかにした本。フリーエージェントとは、「インターネットを使って、組織の庇護を受けることなく自分の知恵だけを頼りに、独立していると同時に社会とつながっているビジネスを築き上げた」という存在で、フリーターよりは知的労働、フリーランスと違うのは受託に限らない。

特に日本では正社員という「正しい」社員が念頭に置かれている文化があるくらいで、なかなかフリーエージェントが活かせていないように思える。非正規労働が増えていく流れと合わせて、大企業は抱えた正社員だけでなく、高技能な非正規労働者を活かしていく必要があるかもしれない。

内容としては、社会、特に税制などは増えているフリーエージェントに対応していないという苦言はあるけれどほとんどは実例をベースにした状況説明で、どうやったらフリーエージェントとして生計をたてていくかは書いていないので注意。


新・民族の世界地図

新・民族の世界地図 (文春新書)

新・民族の世界地図 (文春新書)

言語・宗教・民族の移動・先住民族少数民族について概説し、世界で発生している民族対立や紛争について経緯と概要を簡潔に説明している。新聞をよく読む人にとっては常識かもしれないけれど、高校世界史で触れられていないものは知らないものも多かった。
特に、中東とアラブの各宗派・民族のいざこざの話に章をひとつ割かれており、昨今のISIS国の話に関わる文脈がすこしわかる。
また、最終章のエネルギー争奪戦では、エネルギー輸入国日本にとって切実。中東からの輸入にこれまでどういった問題があるのか、ロシアに振り回されるサハリンIIはどうなるのかは気が重くなる。

知らないことが多くて整理しにくいのだけれど、特に記憶に残っているものリスト


単一民族と錯覚するほど一つの民族が大多数を占め、ほとんど征服を経験していない島国である日本に住んでいると、全然感覚がわからないけれど世界の多くでは故郷や民族といった概念の意味がより切実。

いやおうなしにグローバル化する社会で生きていくための必須知識を得るために手頃な一冊だと思う。


あと、現代の紛争の多くは欧米、特にイギリスに原因があってげんなり。やっぱり紳士様の国は違うぜ。

ところで、一つ前の「民族の世界地図」は、高校の世界史の授業の副読本としてF先生から薦められて読んだのだった。
F先生は世界史大好きで教え方にも愛があってよかったなあ。理系で世界史とっていたのは学年で25人ほどと少なかったけれどみんな目をきらきらさせて授業を受けていたようにも思う(若干、記憶の改竄あるかも)。



倫敦から来た近代スポーツの伝道師

たしか一昨年のお台場レガッタで参加賞にもらった新書。
明治時代に多数来たお雇い外国人のなかでもスポーツの普及に尽力し、日本人の信頼も厚かったがよく知られていなかったF.W.ストレンジについて紹介している。当時の大学文化や、英国留学生の雰囲気もわかってまあおもしろい。英国の大学の在籍記録を調べたり、新資料を掘り起こしたりと丹念に資料を調べていて、定年退職したビジネスマンがアマチュア研究者になる文化よいと思う。


COURRIER 2月号

昔は購読していたんだけどここ1,2年は内容が自己啓発に傾きすぎているように思えて読まなくなっていた本書。同居人が買ってきてくれたので読んでみたという次第です。
「世界の人はこんな本を読んでいる」という特集では、未訳の本も多数紹介されていて興味深かったし、ジャレド・ダイアモンド、ピケティ、カズオ・イシグロのインタビューはあまり見る機会がなく人柄が見えておもしろい。
あと編集部が選ぶ2014年の翻訳書ベスト10のワンポイント解説は皮肉効いてて便利。日本で働く外国人社員の話はたいへん参考になったけれどたいていの日本企業はもうどうしようもないんじゃないかと思えた(小並感)




人を動かす情報術

人を動かす情報術 (ちくま新書)

人を動かす情報術 (ちくま新書)

もらいものだけど、ライフハックっぽいタイトルで読む気も起きずに放置していたけれど棄てる前にめくってみるかと読んでみた。
タイトルは、人を動かす(ための)情報術ではなく、人を動かしている情報、が適切な気がする。語呂は悪いけれど。
本書では触れられていないもののここでの情報はintelligenceではなくinformationという意味。近年のスキャンダルを取り上げていて、情報とメディアってなんなんだというのをいろいろ引用して解説して、ちょっとはおもしろい。ただ、賢しらな表現が多いわりに情報がどう人に伝達されて受け止められるかというところが浅くて参考にはならないように思えた。
情報科学の父であるクロード・シャノンも情報という言葉を定義はしていないしおれおれ情報論みたいな本も多いしで難しいですよね。


マンガ

東京喰種 トーキョーグール

東京喰種 1―トーキョーグール (ヤングジャンプコミックス)

東京喰種 1―トーキョーグール (ヤングジャンプコミックス)

同居人から勧められ彼がkindleで購入したものを彼のiPadでひとまずのシリーズ完結までと新シリーズ1巻を読んだ。
人と同じ姿をして人と暮らしているが、人しか食べない種族、喰種(グール)。そして主人公は喰種に襲われ大けがをするが、すんでのところで事故に巻き込まれ喰種が死ぬ。そして入院している間に、死んだ喰種から臓器移植を受けてしまい、主人公は喰種になってしまう・・・。2つの種族の間で主人公はどうなっていくか。
という話。

ゾンビものというよりは吸血鬼もので設定は好みなんだけれど、伏線広げすぎていてちょっとつらい。おもしろいんだけれど短期的な盛り上がりを狙って全体の章立てがあまり練られていない感もある。

マンガにしろ小説にしろ、長期連載で話にまとまりをつけるのほんと難しいと思う。計画は実行していくたびに情報が増えて変わっていくし、どーするべきなんだろ。


ダンジョン飯

九井諒子さんの新作。D&Dの古典から脈々と語られるモチーフであるダンジョン。ここを探索する冒険者たちが、現地調達で自給自足していく中で、モンスターの生態に肉薄していくという、架空博物学誌的側面もあってめちゃめちゃおもしろい。これは、SFです。
九井諒子さんの作品どれも豊かな気持ちになれるよい話多いのでみなさま読みましょう。


学習漫画 世界の歴史 1-7

漫画版 世界の歴史 全10巻セット (漫画版 世界の歴史) (集英社文庫)

漫画版 世界の歴史 全10巻セット (漫画版 世界の歴史) (集英社文庫)

まあまあおもしろかった。世界史の授業でやって一度覚えていたこともけっこう忘れているなあと思った。
やっぱり世界史はおもしろいし、ためになる(気がする)。ちゃんと勉強しよ。



アニメ

ガン×ソード

ガン×ソード VOL.1 [DVD]

ガン×ソード VOL.1 [DVD]

同居人が借りてきて、ついつい一緒に観ているうちに引き込まれてしまった。
もう10年前のテレビアニメなんだけれどめっちゃいい作品で、これからは好きなアニメを問われたら間違いなくこれを答えると思う。

最初は、西部劇っぽいスタイリッシュなアニメかと思って期待せずに横目で見ていたんだけれど、1話の後半でなぜか巨大ロボットで戦う展開になって困惑。キャッチコピーは「痛快娯楽復讐劇」なんだという。ジャンル的にはよくわからない。


あらすじを簡単に書いてみる。
宇宙の吹きだまりの星の、ある少女が暮らす街は強盗団に占拠されているなか、通りがかった旅の男によって強盗団は退治される。それは最愛の妻を結婚式中に殺され、その復讐相手である鉤爪の男を探して旅する男、ヴァン。鉤爪の男に兄を誘拐された少女も彼とともに旅をはじめる。その鉤爪の男を追う旅の行く先々でトラブルに巻き込まれ、徐々に明らかになる鉤爪の男とその思想はいったい・・・。


コメディタッチな明るい部分がありつつ、ドラマをよくつくっていて、説教臭くなく、敵方のキャラの考え方が尖がりすぎなことがよい。あとキャラがたっていて、かつ(特に女性)キャラの服装がよく替わるのもよくできている。
ストーリーは探求と復讐の旅、英雄的で神話的ですらある。


あんまりアニメ詳しくないけれど、友人によればカウボーイビバップスクライドスタードライバーを足して混ぜたような作品。どれかひとつでも好きなら刺さると思うとのこと。

小説や実写だとこういう雰囲気、ストーリーをつくるの難しそうだしこういうのにアニメ強い気がする。


楽園追放

最近まで映画をやってた劇場アニメ。よくうちにくる友人がblu-ray discを買ってきてくれた(Amazonでうち宛に送ってきた)のでみんなでこたつにはいって観た。ストーリーは元気ガールとロボットアクションエンターテイメントでそこそこ楽しめた。ただ、主人公の服装がボディコンシャスで露出度高めで若干気になるところではあるのでご注意を。

あんまりネタバレは避けておくけれどSFな世界観は銃夢っぽい感じで共通のモチーフも多い。ああいう、荒野系SF好きだと想像が膨らんで楽しいかもしれない。ツッコミどころはあるけれど許容範囲内。


きっと、うまくいく

きっと、うまくいく [Blu-ray]

きっと、うまくいく [Blu-ray]

後輩のkawaiiガールからもらった(自慢)
めちゃくちゃおもしろくて最高のインド映画。インドのエリート工科大学を舞台にどたばたしていくだけかと思いきや、生きることと愛(博愛・家族愛含む)に真っ向からぶつかってる。170分とめっちゃ長いんだけれど、適宜ミュージカルもはいるしひどすぎるコメディもあってテンション高いまま突っ走っているので飽きはない。

好きな作品「いまを生きる」の工学部版+コメディ+ミュージカル+いろいろみたいな感じでエネルギー量すごいし豊かな気持ちになれる。誰が観てもおもしろいと思うけど工学部の学生が観たら刺さるかも。

あと、DVDによくついているスペシャル項目にはトレーラーとかだけでなくミュージカルシーンの抜粋もあるし、ヒンドゥー語とカタカナの字幕がついていてたいへん便利。


ミュージアム系

東京国立近代美術館 工芸館

機会があって東京国立近代美術館の工芸館にいってきた。
明治洋風レンガ建築の近衛師団司令部庁舎を利用しているそうで建物の雰囲気はとてもよい。
赤レンガの建物ってそれだけで雰囲気良くて、東大本郷キャンパスとか京大吉田キャンパスにあるような無骨な建物もいいし、東京駅丸の内側や軽井沢三笠ホテルの壮麗な感じもあざとい。

で、工芸というのは「Craft」ということで、職人による手作業での伝統品みたいな意味合いがあるみたい。
そのため、使用者を想定しない、観るための「置物」、「花器」、「着物」などが多かった。美術としてはすごく手間がかかっていて洗練されているんだけれど、インダストリアルデザインみたいなものを期待していたのですこし残念(よく調べておけば良かったん)。
海外にはよくあるみたいだけれど、日本だとあまりそういったものが無い気がする。そういう展示があったら行ってみたいので教えてください。


入館210円で30分くらいでまわれるしまあまあおもしろかった。北の丸公園から千鳥ヶ淵あたりは散歩しても楽しいと思うのでおすすめです(美術館・博物館の評価サイトあったら便利とおもうけど特設展もあるし見物者のリテラシーもあるしでなかなか難しいかな)
東京国立近代美術館-工芸館


ちなみにここの建物はポータルで、じつは千代田区内にもかかわらず15日ほどキープできていて、ガーディアンゴールドいけるか?と期待してしまっていたんだけれどあえなく破壊されてしまって悲しい。


自分の話

じつはこの年末年始で大きく環境が変わった。今年は挑戦の年です。
詳細はまたブログにでも書きますが、しばらく京都にいるのでもしお立ち寄りの際はご連絡ください。ご飯でも食べましょう。


参考

2013年のまとめ

2014年のまとめ

2005年、2015年、未来予想

未来を予想するにはどうしたらいいだろう。


適当に調べてみるとこんな考え方があるようだ。

  • 現状を知り、過去に似たパターンがないか当てはめてみれば未来もわかるよ派(歴史は繰り返すよ派)
  • いろんなシナリオ考えてみればどれかは当たるし対策たてやすいよ派(システムズシンキング右派)
  • 未来は自分でつくるもんだよ派(アラン・ケイ流)
  • どんな未来もありうるよ派(予想放棄派もしくは平行宇宙論者)
  • 全部聖書に書いてあるよ派(運命論者)
  • どちらにせよ人類滅ぶから関係ないよ派(終末期待論者)
  • でも56億7千万年後には救済されるよ派(弥勒期待論者、上生派)

まともなのはうえ2つだけれど、どちらも歴史の広い知識、また現代の状況と事象への深い理解と発想が必要で常人にはなかなかできないし、それでなされた予想が正しいかどうかの検証には時間がかかるし再現性確認もできない。

逆に考えれば、未来を予想する方法を検証するためには、過去になされた予想の正しさを検証するという方法がある。
ある予想がどれくらい正しかったか、誤った場合はどういった原因だったのか、を分析していけば未来予想の精度もあがるかもしれない。


というわけで家で発掘された「10年後の日本」という「日本の論点」編集部が10年前に出した新書を読んでみた。

10年後の日本 (文春新書)

10年後の日本 (文春新書)


わりと煽り系だし新書ということで根拠は詳細には書いていないけれどちょっとは示唆もある。


何点か気になった予想について現在との違いを書いてみる。

治安について

団塊の世代のベテラン警官大量退職による検挙率低下で治安は悪くなる、という予想はあったけれど、検挙率については2005年以降は少し回復して横ばい。
日本の犯罪と治安 - Wikipedia


治安の目安となる各犯罪の推移も、発生率の少なかった1980年代と比べると強盗・傷害は若干増えているけれど、殺人や強姦は減少している。
日本の犯罪と治安 - Wikipedia


もちろん、昨今の特殊詐欺は目立っているし、認知されていない犯罪もあるだろうから一概には言えないものの、治安が悪化している数字はなさそう。ただ、景気は相変わらず悪くなって若年層で不安定な非正規雇用も増えているし、なにかのきっかけで治安が悪化してもおかしくないとは思う(それこそ虐殺器官のようなきっかけがあれば)。
スラムの形成も、日雇いの仕事が少なくなったドヤ街に近いものがあるという向きはあるけれど、明確な塀で囲まれたゲーテッドシティみたいなものは日本ではまだなさそうと思うのですがどうでしょう。

予想が外れたのは、思ったよりも日本にモラル、あるいは自己制約する文化があったから?


格差の拡大

正社員率が減って格差がますます拡大するだろうという予測がある。
たしかに非正規雇用率は増えている。けれど2010年までのジニ係数の推移を見る限りは格差の拡大はみてとれないようだ。ただ、ジニ係数では所得の格差しか分からないため、節税対策きっちりしている資産家と労働者の差は出ないので注意。
ピケティ的には、資本収益率が経済成長率より高いと格差が拡大するそうなので、今後も広がっていく見込み。また、資産家と貧困層はかなり固定化されているように思われる。

この格差が増えると社会にはどういった影響が出てくるだろうか。モラルの退廃、教育レベルの低下・社会福祉費の増加・・・とかあるかもしれないけれどどれも富裕層にとっても好ましくないと思うので累進課税or資産への課税にご協力していただきたく。


ただ、なんでジニ係数は維持しているんだろう。非正規が多数派になって(全体が地盤沈下)して格差がへった、なんてことはないか・・・。

図録▽所得格差の長期推移及び先進国間国際比較

日本の富裕層は101万世帯、純金融資産総額は241兆円 | 野村総合研究所(NRI)


都心不動産暴落

オフィスは供給過剰で暴落するのではとの懸念が記述されていた。これは、人口の減少と会社の統廃合、団塊の世代の大量退職やリモートワークの普及でオフィス需要が2010年以降減っていくのではという話。

たしかに2012年時点で2008年から平均募集賃料は20%ほど下落しているし空室率も高いままだけれど、暴落というほどではないし建設もまだ続いている。

オリンピック景気もあるだろうけれど、やはり都市集約のメリットが思われていたよりも大きいからだと思う。一極集中に正のフィードバックがかかっている。ただ、災害リスクや通勤コストなど高まっているのでよくないなあとは思う。

あと、リモートワークがもっとすすんで賃料安くなって欲しい。


朝鮮半島統一

金正日の硬軟織り交ぜた巧みな外交と民族融和を訴える声で、38度線は解消するかもと思われていたけれど、金正恩にかわって相変わらず対立は続いているし交渉はうまくすすんでいない。
これがどこまで持つかは東アジアのパワーバランス上重要で、クーデターなどあって空白地帯が生まれると中国と韓国の綱引きになりかねない。また、無事に統一されると韓国に駐在している米軍の存在意義はなくなって撤退し、中国への牽制も効きにくくなるかもしれない(素人判断)。

独裁政権の末期はいろんな終わり方があるけれど、北朝鮮は国民の統制が強いし、一方で体制には腐敗がありすぎて、金家だけを放逐しても変わらなくなりそうではある。まだまだ独裁政権は温存されるのではないか。
どう着陸するにしても、そのとき韓国経済はどうなるだろう


その他、ちょっと違うかもと思ったこと

細かいので箇条書きで。

  • 団塊の世代問題
    • 大量退職は、定年延長などによって問題は噴出はしていない?現場レベルだとたいへんなところはたくさんあるだろうけれど・・・
    • 企業年金・退職金がもらえなくて問題になる可能性がある、との予測はあったけれど、そう問題にはならなかった?
  • ロボットが少子高齢化の救世主になる
    • アッハイ
    • つくっている人によるプラス面の喧伝にあてられていたからだろうか。技術的にはまだこれから。
  • 弁護士大量供給による訴訟社会の到来
  • BRICSの台頭。中国以外は、期待されていたほど存在感は増えていない?
    • 金融危機資金が引き揚げられたの影響もあったかも。アメリカが予想大にしぶとい。

そのまま解決もされずに続いている問題

  • 財政悪化
    • 順調に積み上がってます
  • 地方分権
    • 平成の大合併はあったけれど、財源移譲はあまりうまく進んでいない、ように見える・・・
  • インフラ老朽化
    • これも光が見えない・・・。北陸新幹線つくっている場合なんだろうか・・・
  • 少子高齢化
  • 医療費/介護料高騰
    • はい・・・
  • 年金崩壊
    • はい・・・。どっかでリセットして欲しい。

まだこれから起きるかも系

その他、いくつか論点があってまあおもしろかった。
この本では触れられていない大きな話としてリーマンショックのような金融リスク、イスラム国の台頭、EU,ロシア間の緊張関係がある。
ウクライナ関係以外はあまり予兆もなかったんだろうか。


また、一番怖いのは、10年前時点で「首都直下地震が30年内に発生する確率は70%」と2005年に言っていること。とりあえず、自然災害は来るので備蓄など対策しておきましょう。


これからのこと

さて、本書のような過去の延長線上の未来予測だとイベントを予測することはできなくて、傾向とそれの影響を検討するくらいしかできない。けれど、財政悪化や少子高齢化はすこしずつ数字が悪くなっても社会への影響はなかなか見えない。どこか一定のレベルを越えたら一気に相転移するのかもしれないけれどそれがどの時点で、どんなことが起こるかは何も言えない。社会は複雑すぎる。なんとか平和的に続いていって欲しいものです。


とりあえず、イベントの予測に近いけれど、社会への影響の大きそうなキーになる技術の登場だけ予想しておくか。技術決定論ではないです為念

  • 再生医療の普及
    • 間違いなく一般化する。そのときどんな発生して倫理的な問題が生まれるだろうか
  • 遺伝子操作ベビーの普及
    • そして格差はますます固定化される
  • 動植物の遺伝子操作の一般化
    • すでにやられているけれど、これまで消極的だった地域でも食糧危機などのきっかけは期待。
  • 自動車やドローンの自動操縦の開発
    • インフラや法制度が障害だけれど、特定のフィールドでは実用される
  • 特定分野で人間と遜色のない対人作業のできる人工知能の開発
    • 産業用
  • バッテリーの超軽量化
  • 仮想現実没入機器の普及
    • まずはエンターテイメントから。
  • 分散仮想通貨の普及
    • bitcoinそのものかどうかはわからないけれど、国家が管理できない通貨は普及すると思


量子コンピュータとか核融合、圧倒的な再生可能エネルギーは悲観的。あとやっぱり、国家や民族が消えてなくなるほど情報化はされないとは思う。


これらの技術と文化が相互に影響し合って社会は少しずつ変わっていくかな*1

やっぱりわからなさすぎるので未来をつくるには自分でつくるのが一番か(投げやり)

いい未来予想本・メソッドがあれば教えてください。

2052 今後40年のグローバル予測

2052 今後40年のグローバル予測

*1:技術決定論と文化決定論どっちやねんという論争もあるけれど、技術と社会は相互にフィードバックを与えている複雑系なのでどっちかだけでは決定できない

スージョと大相撲の話

友人に誘われて両国の国技館まで大相撲初場所を見物にいってきたんだけれど思ってたのと違ってけっこうおもしろかった。




まず、女性のファンがかなり多い。すごい多い。
自分たちがいた一番安いC席(3800円)の周囲では7割は女性であとは観光客と思しき西洋人、おじいちゃん好角家、家族連れな感じで女性が圧倒的。土俵に近い枡席や溜まりは年季の入った男性好角家が多いし全体ではどうかわからないけれど、自分たちのいた一角はアイドルコンサートに紛れてしまったかというくらい。


四股名を叫ぶ、自作の応援うちわ、贔屓の力士が勝った時にあげる歓声と、すごい元気。
女性ファンは年齢もタイプもばらばら。中高年層が多い印象はあるけれど、20代前半から60代も目立って層が厚そう。伝統芸能強い。


隣の席の40代後半と思しき女性2人とお話しすると、贔屓の力士の取組を観るために何ヶ月も前から計画していて飛行機でやってきて、その日のうちに飛行機で帰ると言っていた。その力士はしばらく負けていたけれど、この日はすぐに勝負がつかないいい取組を制していたのでほんと嬉しそうだった。泣き出さんばかり。



ほか、20代前半で髪も明るい茶色でマスカラもきっちり濃いめの(ギャル風の)若い女性が黄色い歓声をあげまくっていて近くの西洋人のお兄ちゃんが二度見していた。その女性は後に隣の席の60代の女性と相撲談義でかなり会話が弾んでいた様子であった。ほかにも、各力士にたいへん詳しい感じで過去の取組の状況や各力士の状態についていろいろしゃべっていたインテリ風な若い女性2人組もいた。


声援を集めていた力士は遠藤が圧倒的で白鳳、勢、琴奨菊荒鷲旭天鵬が続いていた印象。荒鷲はモンゴル人力士で2番目にイケメンという会話が耳にはいってきたのを覚えてる。



調べてみると、こういった相撲ファンの女性をターゲットとした相撲雑誌が今月創刊されている。この「相撲愛を深めるstyle&lifeブック」であると称する雑誌「相撲ファン」では女性相撲ファンの呼び名を「スージョ」とすることを提案している。
参考)「カープ女子」「セレ女」につづく新勢力「スージョ」が誕生 - ライブドアニュース


この名称はさておき、週刊少年ジャンプでは火の丸相撲という相撲マンガが連載されているし、関取にお姫様だっこしてもらえる企画があったりするくらい人気。これは定員6人のところに7601人もの応募があったみたい(TwitterのRT数だけれど)。すごい。

参考)http://getnews.jp/archives/701109


2014年の九州場所では17年ぶりとなる7日間の大入りを記録したそうで、今回も満員御礼だし、人気復活している様子。昔の若貴ブームのころもこんな感じだったのかな。


元々伝統という強みがあるし、格闘技要素もあってコンテンツ性高いけれど、なんでここまでブームが起きているんだろう。
ドワンゴが公式アプリをつくっていたりいろいろ企画をしたりと、相撲協会マーケティングにかなり力を入れていることは間違いなさそうだけれどそれだけじゃない気がする。

イケメン力士を応援するという、アイドル的部分もあるだろうけれど勝敗のつくエンタメ性はカープ女子とかセレ女と似ているかな。勝敗があって応援甲斐があるかもしれない。穿った見方をすれば、強い男に憧れているのかも。近年のプロレスブーム・戦国武将ブームも同じ?

siri



国技館相撲見学

話は変わるんだけれど、国技館はなかなか良観光スポット。
けっこうおもしろかったので少し共有しておく。この記事が詳しく書いているので興味があればぜひ行く前によんでおくといいと思う。
「大相撲に一度行ってみたいな」と思っている人の背中を押しつつ、オススメの行動スケジュールをご紹介するの巻。 : スポーツ見るもの語る者〜フモフモコラム


日中は西洋人観光客が大勢目立つし国際的観光スポットかもしれない。ただ、外国人観光客向けに英語パンフレットなども置いてあるけれど、ずっといる人はちょっと退屈そうにも見えた。



あと、この時期はけっこう寒いので注意。プレモル売っているミニスカのおねえちゃんはいたけれどあんまり売れてない様子。熱いコーヒー売ってくれてたら買うところだった。

やっぱりテレビは楽。ただ、テレビではわからない、懸賞取組やスポンサーのことがわかったのはおもしろかった。
特に、スポンサーの宣伝文を読むところで「イエスエス高須クリニック、イエスエス高須クリニック、イエスエス高須クリニック」と3回読んでいたのがツボ。




その他雑感

おもしろいのは、席は8時開場で8時50分から取組は開始しているんだけれど16時前の中入(幕内土俵入り、横綱土俵入り)から観るようでどんどん人が増えていくこと。この、ずっと本番をやっているなかで、2時間いても10時間いても同じ値段、その一番美味しいところだけ観に来るお客さんが多いというのはほかにあんまりなさそう。ディズニーでも一日券つかってパレードだけ観にはいるひとはそういないよね。

待ち行列




贔屓の力士がいると相撲観戦は楽しいと思う。はじめてだったので好奇心は刺激されておもしろんだけれど、相撲自体には様式美を楽しむふりをするくらいしかできなかった。ずっと座っているのしんどいし、もうしばらくはいかないかな。






と、ここまで大相撲について書いてみたけれど、やっぱり観るだけでなくて相撲はとったほうが楽しいと思う。

いい大人が気軽に相撲できるいい場所があれば教えてください。
いまのところお台場の砂浜は春から秋にかけて最適という知見があります。



相撲というよりはモンゴル相撲な感じだけれど、線も書けて準備不要だし転がされても痛くないし足元も気持ちよかった。

子どもの名付けで気をつけたい5つの観点

※ 本稿は、人の名前についての文章です。誰かの名前を揶揄したり批判するものではなく、名付けの際になにを気をつけるべきかを考えたものですのでご留意ください。

※ 2015/1/13 22:00 2項目追加しました。タイトルは変えてません。


年末年始、子供につける名前に悩んでいる友人と話す機会があった。

当然だけれど、名前はほんと大事。アイデンティティの記号として一生使われ続ける。けっして書類上のものだけでなく、名前があることでそのものは認知されて存在する。それなのに自分ではほぼ変えることはできず、たいていの場合は親が勝手に決めてしまう。親というのはすごい権力を持っている、とかなんとかかんとか。


これまで生きてきた人間の数だけその命名が行われているということで少なくとも数百億の知見が貯まっているはずだし、書籍もたくさんあるから命名なんて簡単だ、と思いきやそうではなさそう。知見は共有されていなかったり、変な本やサイトもあるし流行廃りがあって難しい。


たとえば「子ども 名前 付け方」でGoogle検索して一番上に出てくるこのサイト。

  • 子供の将来を考えて名前を付ける
  • あえてひらがなにする
  • 姓名判断で良い名前を見つける
  • 子供の名前ランキングを参考に
  • 夫婦の名前から
子供の名前付けで大事にすべき5つの基本の考え方|Wedding Parkマガジン for新婚生活

「5つの基本の考え方」と銘打っていることで期待したんだけれど見出しからしてコレジャナイ感がある・・・。将来を考えた名前の条件を細かくして欲しい。あえてひらがなにするって基本的な考え方なのか。。



名前を付けることはそれだけ難しいということなのだろう。
それに名前を決めるのは常用漢字表人名用漢字表に載っていさえすれば親の自由でもある。イメージなり、願いなり、好きなキャラなりなんでもよい。ただ、そんな中でも苦労する名前と苦労しない名前はあると思っていて、いい音・字面が思い浮かんだ後にでも注意すべき観点がいくつかあるように思う。


図書館で命名の本をさらっと見た感じ、ここらへんの注意点は体系化されていないようだったので僭越ながら書いてみました。
多くの方々はすでに考えていることばかりでしょうのでご笑覧の上、補足・注意点などあれば共有していただければ幸いです。



1.可読性

漢字の名前があったときに正しく読めるかどうか。18歳以上の人のうち、どれくらいが読めるだろうか。単純に読めないと時間もとるし訂正も必要だし、トラブルのタネにもなる。名前を正しく読まれず毎回訂正するのは本人にとっても周囲の人にもストレスだろう。

例えば2014年の男の子の名前ランキング、ここ数年人気でこの年も2位の「大翔」くん。これはなんて読みますか?

明治安田生命 | 名前ランキング2014 - 名前ベスト100 - 男の子*1

読み方をみると「ひろと」、「はると」、「そら」、「やまと」、「たいが」、「たいと」と6パターンもあってくらくらする。教室で名前を呼ぶ先生やお役所の人が苦労するし本人も訂正がたいへんだろう。

対処としては、当て字や無茶な読みをさせないこと、また教養深すぎて読み手を選ぶものも考えものかもしれない。せめて漢字辞典の名乗りに載っているか慣用であるべき。

ただ、あえて変わった名前とすることで名前をネタに会話が広がってよいという説を聞いたことがあるけれど、人に会うたびに同じことを聞かれる本人はつらそう。身を削る営業マンならありかもしれない。


2.伝達性

公共サービスの登録・名義変更やビジネスではいまだに電話を使う場合も多い。このとき、名前を口で説明しやすいかどうかが伝達性。

たとえば、「たくや」という名前はたくさんあるけれど、「開拓のたく」に「なり」です、と伝えたり、「キムタク」と同じですと伝えて分かってもらうためには多少のリテラシーが必要だ。時代時代で変わるもので難しいけれど、あまりに伝えにくいものは避けた方がよいだろう。

ベストは同音異句がないこと。耳で聞いて、この音ならこの字しかないと分かるとスムーズ。


3.画数

これは漢字文化圏古来からある姓名判断の大きな要素だし、苗字と合わせてのバランスもあるもので意識している人は多いと思う。
それだけでなく、まだまだ手書きが必要な場面は多いため、自分の名前の書きやすさという効率性にも影響がある。

ちなみに、これまで出会った中で苗字を合わせて一番画数が少ないのは10画、最大60画*2。たぶん書くのに10数秒程度差があると思う。また、画数が10画とかなり少ないと、たくさんの名前が並ぶ名簿でも目立つので有利のようだ。


4.かな漢字変換

これはワープロ普及後のここ20年で急速に必要になっている指標。可読性や伝達性とも関わっているけれど、Microsoft IMEなど主要な日本語入力システムで変換にどれくらいキーを押す必要があるかというもの。自分だけなら自分のPCに覚えさせればいいけれど、周りのひとへの影響が大きい。

たとえば、ジョジョの奇妙な冒険第3部の主人公「空条承太郎(くうじょうじょうたろう)」、「承」は「じょう」とは普通読まないのでサラのIMEだと変換のためには、「しょうたろう」か「うけたまわるたろう」とする必要があってなかなか手間である。この時代、一発変換できることを狙う必要がある。


5.検索性(ググラビリティ)

これも近年急速に浮上してきた観点で、名前をGoogleやBingで検索したときに本人の情報が上位に出るかどうかというもの。

まず避けたいのは、犯罪者や有名なキャラクター、また芸能人(作家・役者、特にポルノ俳優など含む)と同じ名前となること。もちろん子どもが大きくなる数十年で情勢は変化するけれど、わかるだけでも避けておくべき。そして次に考えるのは、その名前が複数ヒットするか、まったくヒットしないか。
ヒットしない、つまりユニークな名前の場合は、政治家でも目指すのならSEO度高くてよいけれど、もし炎上沙汰をおこしてしまえば一生その呪縛から逃れられないだろう。逆に多数ヒットする場合は、そこそこ一般的でありふれた名前ではあるということだけれど、炎上・ネットストーキング耐性は高いかもしれない。




書き損ねていた観点を思いついたので追記します。5つどころじゃないですね。

(追記1)発音容易性

名前の発音が容易かどうか。日本人にとって口に出しやすいかどうかはほとんどの方が気にするだろうけれど、英語話者が話しやすいかは気にした方がよい。アメリカ人になったつもりで口に出してみるといいんじゃないだろうか。
たとえば「つ」、「っ」、「ラ行」は発音しにくいとされている。

参考)
英語圏の人にとって発音しにくい日本語 | 英語 with Luke


(追記2)多言語での意味

外国人をおもねる必要はないけれど、このグローバル化が避けられない時代、子どもがどういう人生を送るかわからないため、メジャー言語圏において名前で誤解/軽蔑されるものは避けた方がよい。名前の読みを検索するといいだろう。
福井出身というだけで笑うアメリカ野郎もいるくらいなので例えば、福美さん(仮称)はお察し・・・。

参考)
このNAVERまとめがいろんなQAサイトなどから情報を集めている様子。

まとめ

これらの観点は命名で必須のものでもないし、これらの条件がよければいい名前というわけでもない。けれど、これらの条件がわるい名前はそれだけ面倒ごとが増える可能性を持っている。いったん思い浮かんだいい名前を変えるのは難しいかもしれないけれど、いったん考えておくとみんなすこしだけハッピーになれるかもしれない。また、名前を付ける時にはそれがその子の将来にどういう影響をもつか考えると、その名前を持った人間がどう大きくなっていくか想像できて楽しいと思う。

もちろんどの観点も苗字の影響を強く受けるもので、名前だけでどうにもならない場合もあるのでそのときは甘受するしかない。ただ、難読の、珍しい苗字は、奇抜な名前よりもはるかに格好いい(無責任)。



あとがき

そういえば、幼いころ「ある人のものなんだけれど、それを使うのは他人ばかりで本人は使わないものなーんだ」というなぞなぞがあったことを思い出した。答えはこの記事の主題である「名前」で、今思うと本人もたくさん使うんだけれど、当時はなるほどと思ったのを覚えている。自分のものだけれど人がよく使うという意味で、使いやすさは気をつかってもよいと思うのです。

*1:毎年URLを使い回すの辞めて欲しい。

*2:特定されそうだけれどもし特定してもインターネッツには書かないでね!

おもしろノンフィクション2014年

いつのまにか終わりそうな2014年も思い返すといろんなことがあった。
イスラム国の樹立とアメリカによる空爆、ロシアのクリミア編入と世界地図にも影響を与えかねないものもあり、スコットランド独立の住民投票と香港のデモなど民主主義の新しい波もあった。一方でエボラ出血熱が猛威をふるったニュースは近代社会に恐怖を与えている。

国内では集団的自衛権の行使容認、衆院選での自公3分の2確保といった路線のなかで景気回復の兆しがありつつも、それが表面的なだけではないかという観測もある。そして、STAP細胞や佐村河内ゴーストライター、PC遠隔操作などの自己愛こじらせたような犯罪が目立ったのも特筆に値すべきだと思う。


Google unofficial - Year in Search: 検索で振り返る 2014 - YouTube



やっぱり現実はおもしろい。
小説もおもしろいけれど、現実はもっとおもしろい。

その現実のおもしろさの結晶たるノンフィクションはたいていのフィクションよりもよっぽどおもしろい、と思っている。


というわけで今年もいろんなノンフィクションを読んだので振り返ってみる。


※ノンフィクションと銘打っているけれど末尾にはノンフィクション以外のものも触れてみます。あと2014年とタイトルについているけれど2014年に読んだという意味です為念


去年の記事

2013年最高におもしろかったノンフィクション13冊 - うんこめも




マッカーサー大戦回顧録

エンタメ度:★★
登場人物の精神的質量:★★
自伝がノンフィクションかどうかはさておきマッカーサーの自伝はエンタメとしてもレベル高い。今年になって出た抄訳版では自伝特有の冗長さを省いて読めるのでたいへん便利。
彼は日本で一番有名なアメリカ軍人にして日本に最も影響を与えたアメリカ人だと思う。連合国軍司令官という役職によるものだけでなく、彼の人格や考え方が制度や人事となって後の日本に広範い影響を与えている。


本書ではフィリピンでの日本軍からの敗走と立て直し、飛び石戦略での連勝。そして日本統治までの間をまとめている。戦略や組織掌握、本国との交渉など軍記としてもおもしろいのだけれど、ヒロイズムに溢れた性格と実力を兼ね備えたマッカーサーの人物像が透けてみえるのが興味深い。


第二次大戦ものにはほかにもたくさん読ませる文章があるので興味があれば読んでみるといいと思う。ヨーロッパ戦線だと、マンシュタイン回想録とチャーチル第二次世界大戦(未読了)。太平洋戦争だと失敗の本質とか山岡荘八の小説太平洋戦争とかかな。エンタメとしては陸軍中野学校とか満州とか調べると楽しい。

戦争が科学工業を進歩させるというのはよく言われるけれど、それだけでなく傑物を世に出し、名文を残すという機能もありそう。これはもしかすると室町時代みたいな感じかもしれない。



山・動く 湾岸戦争に学ぶ経営戦略

山・動く―湾岸戦争に学ぶ経営戦略

山・動く―湾岸戦争に学ぶ経営戦略

ビジネスに役立つ度:★★
大企業病度:★
装丁のかっこよさ:★★★

例の女子高生も学んだという経営学者のピーター・ドラッカー先生がこんなことを書いていたという。

物流はコスト削減の最後の辺境だ。われわれは物流について、ナポレオンの同時代人がアフリカ大陸の内部について知っていた程度にしかわかっていない。そこに問題があって、大きな問題であることは知っているが、ただそれだけのことだ


いきなり米軍人の自伝が続いてあれだけど、湾岸戦争において軍の後方支援・ロジスティクスの責任者であったガス・パゴニス中将の自伝でもあり湾岸戦争の裏方解説本でもあるこの本を紹介する。サブタイトルは「湾岸戦争に学ぶ経営戦略」とついていてビジネス書っぽい感じもある。

100時間戦争と言われる湾岸戦争は、米軍が一気に戦力を投影して短期決戦で終わったという先入観があったけれど、かなり泥臭いものだった。なにせ40万人もの人間と700万トンもの物資を基地の近くにないサウジアラビアに配備するのだ。手前味噌感はあるけれど、そういった兵站/ロジスティクスの苦労を記述しており興味深い。



甘粕大尉

甘粕大尉 ――増補改訂 (ちくま文庫)

甘粕大尉 ――増補改訂 (ちくま文庫)

登場人物の精神的質量:★★
大陸浪人度:★★
また軍人で恐縮だけれどこれもなかなかの人物。本書で紹介されている甘粕正彦は日本軍関係の特務機関のうち、もっとも引きつけるものがある人物だと思う。
まず、アナーキストの首魁大杉栄を虐殺したとされ禁固10年の判決を受けたところから表舞台に名前が出てくる。しかし、これは陸軍の上層部の命令の泥を被ったという説もありいまだによくわかっていない。2年後に出獄し軍のお金で2年間フランスに留学し、その後に軍を離れて満州に渡り調査・謀略にかかわり偽装テロ事件や皇帝溥儀を極秘裏に移送し満州国樹立に関係する。建国後は民間人ながら警務司長や満州の唯一の政党である協和会の総務部長などを経て大陸での映画の配給や制作を担当する満洲映画協会の理事長になる。

謀略に関わっていながら本気で満州の文化を振興しようとし、現地民からも信頼され、ときに軍と対立しても筋を通す硬骨漢ぶりはおもしろくもあり、キワモノ揃いの日本軍関係者の中でも異様に浮いている。

特務機関、謀略関係では、謀略の昭和裏面史が幅広い話題を紹介していて導入としてはよいと思う。



謎の独立国家 ソマリランド

謎の独立国家ソマリランド

謎の独立国家ソマリランド

未知の世界度:★★★
エンタメ度:★★★
高野秀行による探検録。内戦の続くソマリアの一角に、一地域だけずっと平和を保っている民主国家、ソマリランドがあるらしい。国連にも認められずほとんど情報のないこの国を、現地での取材を重ねて現状や歴史がたいへんわかりやすく描かれている。

ソマリアはいま、首都モガディシュを中心に筆者の言うリアル北斗の拳状態となっている南部ソマリア(ここの首都、モガディシュは米兵が19名戦死したブラックホークダウンの舞台だ)と、ソマリアの海賊の拠点になっているプントランド、そしてソマリランド、その他細かい勢力に別れている。

このソマリランドでは、選挙による民主的な手続きで政権交代も起きているというアフリカでも珍しいほどの民主主義国家。複数政党による民主主義が成立しているというだけでもすごい。その秘密や成り立ちにも触れられていて社会の成り立ちについて考えることもできそうで、ガリバー旅行記くらい現代社会への風刺を感じた。エンタメとしてふつうにおもしろい。



山谷ブルース

山谷ブルース (新潮OH!文庫)

山谷ブルース (新潮OH!文庫)

未知の世界度:★★
暗澹たる気持ち度:★★
他人事じゃない度:★★
東京に来るまで日雇い労働者の街、山谷のことはなにも知らなかった。
アメリカ人の文化人類学者が山谷へ入っていって日雇いの仕事もやりながら山谷のことを観察・記録しているこの本は数ある山谷本のなかでも異色。

山谷の労働者、そこに住む人、支援する人たちへのインタビューは現実の重さを突きつけられる。戦災で家族と住む場所を失って以来山谷にいる人、事故で仕事が続けられなくなった人、裕福な家庭を持っていたけれど不義で出て行かざるを得なかった人などなど・・・。人情的なところと無慈悲さが同居する街という印象もありまだまだ興味は尽きない。政治家・官僚の方にはこの問題は知っていて欲しい感じはある。

詳しくはほかの山谷本と合わせてエントリを書いている。

ドヤ街、山谷についてのメモ - うんこめも



カニは横に歩く 自立障害者たちの半世紀

カニは横に歩く 自立障害者たちの半世紀

カニは横に歩く 自立障害者たちの半世紀

文庫本にして欲しい度:★★
暗澹たる気持ち度:★★
他人事じゃない度:★★

日本でもっとも戦闘的なポリシーを掲げる集団がある。

一、我らは、自らが脳性マヒ者であることを自覚する。
一、我らは、強烈な自己主張を行なう。
一、我らは、愛と正義を否定する。
一、我らは、健全者文明を否定する。
一、我らは、問題解決の路を選ばない。

全国青い芝の会 新行動綱領説明文

この読むだけで鳥肌が立つポリシーを書いたのは脳性マヒ(CP)者たちによる青い芝の会だ。CP者たちの権利獲得までの闘いの歴史は異世界すぎて暗澹たる気持ちになる部分もあるのだけれど非常に読ませる。病気や介護といった話題に興味はなくとも読むべき。また、組織形成とコミュニティ形成に興味があれば読んで得るところは大いにもあると思う。60年代に流行った新左翼系組織よりも切実さが桁違い(これらでは実際に人が殺されたけれど、それは切実さが足りなくて現実感がなかったからだと思う)。


機会があれば、東京ではたまに上映会やっている映画、「山谷 ー やられたらやりかえせ」を見るとよいと思う。これは撮影中と撮影後に監督2人が殺されたという血なまぐさい映画。

この本も詳細は記事を書いている。

障害者による過激な組織「カニは横に歩く」 - うんこめも



世界屠畜紀行

世界屠畜紀行

世界屠畜紀行

未知の世界度:★★
エンタメ度:★
食欲度:★★

本書は韓国、エジプト、バリ島、インド、チェコ、沖縄、東京、アメリカと世界各地の屠畜場を取材して回って屠畜について考えてきた記録。

屠畜を残酷だと思う人がいるのはなぜか、日本ではなぜ屠畜に従事する人が差別されるのか、世界ではどうか?といったことをインタビューをもとに考えている様子が良い。イスラム圏での肉屋は稼いでいるから偉いという合理主義、生きるに必死なモンゴルでの羊と命を共有するように屠畜する文化、社会主義時代のチェコでは肉屋が偉い人にいい肉を流して稼いでいたと文化がさまざま。
肉が好きな人ほど。



聞き書き ニッポンの漁師

聞き書き にっぽんの漁師 (ちくま文庫)

聞き書き にっぽんの漁師 (ちくま文庫)

登場人物の精神的質量:★★
エンタメ度:★★
沖縄から北海道までの日本各地のベテラン漁師13人からの聞き取りを書き起こした本。それぞれ捕る魚も規模も違うけれどみなプロフェッショナルでその考え方は何十年もの経験からのみ得られる重みを感じる。やっぱ、漁というのは自然を相手にした博打という性格をもつものもあってわくわくしてしまう。名インタビューだと思う。

プロフェッショナルの話ってなんでこうおもしろいんだろう。
ホットな話から漁業への後ろ向きな話もあって魚好きならぜひ読むべきだと思う。市場とか寿司職人のプロの話も読んでみたい。






おまけ

あとはノンフィクションじゃないけれどみんなに読んで欲しいよかった本を挙げてみる。

世界が生まれた朝に

世界が生まれた朝に

世界が生まれた朝に

文庫化して欲しい度:★★★
神話度:★★
すごい本。神話といってもいい。今年ナンバーワン小説。

アフリカに生まれたひとりの男の一生が語られている本書。すさまじいのはその一生がアフリカの歴史・悲劇とリンクしていること。文字も年代という概念もなく祖先の霊や呪術、自然が支配する伝統社会に生まれ育つ青年期。そして白人たちの到来と征服を受け、彼らの力に驚く植民地時代。都市で仕事を得、世界大戦での退廃を経験。独立闘争と急激な近代化を見ていく老年期までを描いている。

一生にこれだけの激変を経験した国はコンゴ以外にあるのだろうか。創世記をなぞるようなスケールだ。


もうひとつの魅力は、知と力の追求。主人公は伝統社会での知を身につけつつも自然を観察し伝統社会での祖先の力や呪術を疑い世界の裏にある知を追求する。そして白人の力に圧倒されつつもそれをさぐっていく。終盤、彼らの近代科学の到達した遠く宇宙の事象や科学にとてつもなさを感じる一方で機械主義的な考え方は意味を与えないことに気付き、アフリカの全体的で物事の意味を問う考え方の価値が示唆される流れははっとさせられる。


著者のエマニュエル・ドンガラ氏はコンゴ生まれでアメリカに留学し、いまもマサチューセッツの大学で化学の教授をしている。彼の弟が東大に留学していたり、本書の一部は浅草のホテルで書かれたりなどなにかと日本に縁があるようだ。

訳もたいへん読みやすく緩急のある幻想的な空気をよく伝えていると思う。アフリカ版「百年の孤独」と評され、著者もその影響を語っている。けれど「百年の孤独」と比べてメリハリがついていて読むのに使うエネルギーは5分の1くらいな気がする。登場人物の数が10分の1くらいなのもあるかもしれない・・・。
訳者の高野さんのうまさもある。ドンガラさんに絡む話は、高野さんの「異国トーキョー滞在記」という本で触れられておりたいへんおもしろいのでぜひ。文庫化して欲しい作品。



靴ずれ戦線

靴ずれ戦線 1 (リュウコミックス)

靴ずれ戦線 1 (リュウコミックス)

赤軍度:★
ユーモア:★★
萌え度:★
これもフィクションなんだけれど今年ベストマンガのひとつ。
凄惨な独ソ戦スターリンのいうところの大祖国戦争をコミカルなタッチで描いていてたいへんおもしろい。魔女という共産主義的にはありえないもの(むしろナチスの領分だ)を赤軍が雇って対独戦線にあてるというメルヘンでミリタリーなストーリー。とはいえ最近流行の萌え×ミリタリーではなく戦争の過酷さや死からも目をそらしていない。

話は、NKVD(内務人民委員部)の少尉ナディア(ナージャ)とベルリンを目指す関西弁ばりばりの魔女の娘ワーシェンカとがベルリンを目指して行軍するというもの。そして行く先々の戦線でスラブの伝承や民話に出てくる妖怪みたいなものと遭遇してなんとかするという流れ。それぞれのエピソードは切ないものから笑えるものまでよくできている。

あと、ナチ側魔女(親衛隊の高級中隊指揮官少佐)がたいへんかわいらしくてよい。出てくるたびにワーシェンカにやられて、眼帯になったり左手を鉤爪義手になっていたりと・・・
著者の速水螺旋人さんがいま連載中の大砲とスタンプも要チェック。これは兵站をあつかった紙の兵隊さんのどたばたコメディ。舞台と思しき場所が現在きな臭くなっている・・・。(12月のサイン会行きたかった)


サルでも描けるまんが教室

ユーモア:★★★
神話度:★
装丁凝っている度:★★

実用書の仮面を被ったドフィクションなんだけれど今年ベストマンガのひとつ。
まず表紙をめくってすぐの、マンガができるまでカラーコラムが異常。
インドネシアの木材業者のインタビューからはじまってパルプや紙の加工を学研マンガかってくらい解説してから、険しい顔をした漫画家が真剣にエロ漫画を描いて、これまた真剣な編集者から「もっと食い込みを強調して!」と鋭い指摘を受ける。そして写植屋さんがインタビューを受けながら、ひわいなセリフを打ち込む写真。それが製版され、ふたたび編集部で校了し、厳しい顔をした印刷会社の職人さんのまえをエロ漫画が流れていく様の写真とインタビューがある。そして、それを読む若者。それは読み終わった後、断裁されパルプになり、再生紙へ。そしてトイレットペーパーとしてさらにエロ漫画を読む若者の右手に置かれる。死と再生の雄大な仏教的景観・・・。
ひどすぎる。


はじめは漫画の書き方を項目ごとに4-8ページずつ書いて、ジャンルごとに攻略法がのっていてるんだけれどパロディ・諷刺だらけでいちいちおもしろい。
枠線の項では「陰毛」をつかって枠線をつくってみたり(なに言っているかわからないと思うが本当だ)、ポーズの項では竹熊センセのあられもない姿が描かれていたりいろいろひどいんだけれど、少年漫画で大事なのはメガネくんだと喝破したり、少女漫画と相撲の関連性について洞察していたりとするどい。

後半、彼ら自身が持ち込みして連載がはじまる部分のマンガがおもしろすぎる。苦心と努力?の末に大人気漫画となってアニメ化・グッズ化して絶頂をむかえ、そして人気低迷からどん底まで落ちてホームレスになるところまでを漫画家視点で描かれている、まるで創世と終末を描いた神話のようでもある。
間違いなく傑作。



その他の本

ポピュラーサイエンスでは、錯覚の科学、良心を持たない人々あたりがおもしろかったかな。サイエンスエッセイではカオスの紡ぐ夢の中で。これは後半に収められている小説 進物史観がだいぶよい。SFではすばらしい新世界が古いながらも楽しめた。マンガでは子供はわかってあげない、マスターキートンReマスターがよかったかな。ビジネス書ではリエンジニアリング革命。これはもっと考えたい話題。

映画ではウルフオブウォールストリートが最高すぎてほかはあまり覚えていない。
あとはぼちぼち。


読んで記録に残した本の数

マンガは除いています。
1-3月:16冊
4-6月:17冊
7-9月:14冊
10-12月:23冊
計70冊


2015年に読みたい本も山積みだけれど、もっと専門書を読もう


過去記事

タイトルの統一感のなさといったら・・・



批評ってなんだ

「批評」という言葉にはマイナスなイメージを持つ人も多いと思う。
大学入試の国語の難解な問題であったり、なにも創っていない外野が無責任に作品をあげつらったり。
ただし、ときには鋭い視点にはっとさせられたり、自分が信じていたことに疑いの目を向けるきっかけを与えてくれたり、その批評された作品を深く味わう材料をくれたりもする。

そうした批評のプラスの面を知りたくて、また自分もそういった批評をしてみたいと思い「高校生のための批評入門」という本を手に取ってみた。

高校生のための批評入門

高校生のための批評入門



これは1ページから8ページ程度の古今東西、種々の文章が51編入っている批評集。ところどころ「批評」についてもコラムもあり、これもたいへんおもしろい。



本書の冒頭の言葉によれば、批評というのは評論を読んだり論説文を書くことではなく、もちろん他人の欠点をあげつらうことでも知性を示して利口ぶることでもない。

それは違和感から出発するものだという。他人に対して、物事のあり方に対して、あるいは自分自身の言動に対してふとつまづくようにある抵抗の正体を追求していくことが必然的に鋭い批評になり、ひいては「私の流儀」を確立することになる。

高校生のための、というタイトルではあるが大学受験に出てくる難解な評論を解くためのものではなく、先人の考え方を読むことで自己を確立するためのヒントやきっかけとすることを狙っているとのことだ。


批評家が書いたものだけというわけでない。有名どころでは、藤原新也森毅チャップリン安部公房中上健次水木しげるボーヴォワール手塚治虫黒澤明澁澤龍彦岩井克人、阿部謹也、カフカサン=テグジュペリなども書いている。これだけ羅列するだけで作者買いしたくなってくる。もちろん名前だけではない。さらっと書いてあるのに、これまでの常識をなにかしら揺さぶられる文章ばかり。


ひとつ印象に残っている言語と文化についての文章を簡単に紹介する。
brotherという英語は日本語では兄か弟か区別されない。これは日本文化では長幼の別に気を遣っているということを示している。一方で、日本語で女性を呼ぶときには「だれだれさん」で済ます一方で英語圏ではMissとMrsで既婚かどうかを識別する文化になっている(現在はMsという言葉が人為的につくられて流通している)。これらの例から言語と文化が不可分であることがわかると思う。そして、差別用語でも差別する側に立つ人は無意識に、悪意なくその言葉を使ってしまう。つまり一般化している言語/思考のパターンに身をまかせていると自分の誤りが見えなくなることがあるという。この結論は当たり前ではあるんだけれど、言語が自分の考え方を縛っている具体例を簡潔に指摘していて考えるヒントになった。


また、本書は1987年出版ではあるが、51編中一番最後にチェルノブイリ事故が起きた後の原子力発電のリスクについて触れたものを置いているのには、なにか震撼させられる。特に、脚注のチェルノブイリ原発事故の項では事故の概要について説明したあとに「わが国の原子力産業界は、事故が発生した直後、原因についての情報はないまま、タイプの違いを理由に『日本ではあり得ない事故』と強調した」と締めくくられているところにぞっとする寒気を覚える。

思考停止に気付き、違和感を掘り下げて言語化することができるということの大切さと、その難しさを本書とは別に現実が教えてくれていて暗澹たる気持ちになる。



これきっかけで読んだ藤原新也の「東京漂流」もよい。

新版 東京漂流 (新潮文庫)

新版 東京漂流 (新潮文庫)